【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「どうだ?」
「予想通りでもあり、予想以上でもあり…ですね」
田北に訊かれたチームのトレーナー…中村はそう答えた。
つばさが練習に参加してから3日後。
チーム全体で体力測定が行われた。
田北が気にして訊いたのは、やはり、つばさの結果であった。
「予想通りでもあり、予想以上でもあり?」
「はい」
「…というと?」
「小学生時代、バレーボールをやっていて、特待生として中学に進んだ…と聴いていましたし、フットサルでの実績もありますからね…瞬発力系はそこそこで、反対に持久力系は厳しいだろうな…というのが、測定前の予想でした」
「それで?」
「ははは…100m走と垂直跳びが…異常でした」
と中村は、大笑いする。
「ほほう…そんなにか?」
「はい。まず100mですが…12秒5で走りました」
「12秒5?」
「女子の日本記録が11秒21…10位で11秒45ですからね…素人としては『異常』でしょう」
「なるほど」
「ちなみに、うちのチームでは緑川沙紀の12秒フラットに続いて、2位のタイムです」
「快速ツートップか…」
田北はボソッと呟いた。
「続いて、垂直跳びですが…まぁ、これは計測方法によって差が出るので、参考記録程度に聞いてほしいのですが…女子の高校生平均が40cm程度とすると、彼女は60cm跳んでます」
「60cm?」
「男子高校生並みです。つばさは身長が170cm近くあるので、高さなら『馬場 聖子』にもひけをとりませんね」
「『くさび』もいけるのか…」
「あくまで、データだけなら…ですが…実戦で活かされるか、どうかは話が別です」
中村は注釈を付けた。
「…だろうな…」
「速さも高さも、ボールがあって、相手がいて、その時にその力が発揮できるか…ってことですからね」
「ふむ…」
「それとスタミナ系のデータはやはり悪いですね。いえ、それでもチームの平均をやや下回る…という程度ですが…まぁ、90分戦うには、まだまだってとこですね」
「なるほど…」
「今のデータだけを考慮して、ゲームに出場させるならば、ラスト5~10分。相手のスタミナが切れたところで投入…ぐらいがベストでしょうね」
「あとは高さを活かしたパワープレーか…」
「対人プレーがどうかというとこですかね。とりあえずこれで、強化すべところ、伸ばすべきところがわかりました」
「あとはあの左足をどう活かすか…か」
「そこは…監督の腕の見せどころじゃないですか?」
中村が挑発するように言った。
「…そうだな…」
田北をそう呟くと、ニヤリと笑って中村の顔を見た。
「失礼します」
田北と中村のいるミーティングルームに入ってきたのは『チーム唯一のプロ契約選手』…『羽山 優子』だった。
羽山は、中学生までこのチームに所属していたOGで、その後、大学生の時に、なでしこジャパン入りした名MFだ。
日本で5年プレーしたあと、フランスに渡る。
しかし、アシスト王も狙えるかというほど、好調だった3シーズン目…相手DFの厳しいタックルを受け、選手生命が危ぶまれるほどの大ケガをしてしまう。
チームは表向きは慰留に努めたが、復帰には1年以上が掛かる見込みだと知ると、日本に戻りリハビリに専念するよう迫られた。
実質的には解雇あった。
引退も考えた…。
そんな時、声を掛けたのが『古巣』大和シルフィードの社長だった。
なでしこリーグ入りを目指すチームにとって、世界のレベルを知るトップ選手の力は必要不可欠だった。
「リハビリ期間中は、コーチとして面倒を見てくれないか?そして、うちのチームで復帰してほしい。その後、万全な状態に戻ったら、海外でもどこでも挑戦すればいい。とにかく、我々は君のプレー、経験、そしてプロ選手としてのメンタルを必要としているのだ…」
羽山は悩みに悩んだ末、そのオファーを承諾する。
ひとつは、古巣への恩返し。
そして、ひとつは…代表への復帰。
自分のサッカー人生を、怪我のせいで終わらせるのは、やはり納得がいかなかった。
…もうひと華咲かせるわ…
ここから1年、辛いリハビリ生活が始まった。
その合間を見てはチームを訪れ、コーチとしての指導も行ってきた。
そして…
今シーズン、選手として、ピッチに戻ることとなった。
「どうだ、調子は?」
部屋に入ってきた羽山に、田北が訊く。
「どうでしょう…60~70%ってとこですかね…。ボールを蹴るのに、違和感はなくなりましたが、知らないうちに庇ってることがあって…」
「自分自身が、どれくらいできるのか…ってことは、正直言ってワシには判断がつかん。だからお前の場合は『自己申告制』にするからな」
「はい、わかりました」
「無理するなよ」
「ありがとうございます」
「それから体力測定の結果が出た。中村くんと数値をよく見て、1ヶ月後に開幕に合わせて、上手く調整してくれ」
「はい」
「中村くん、よろしく頼むぞ」
「任せてください」
「それと、もうひとつ…3日後に主力組と控え組にわけて紅白戦をやる」
「はい」
「そこで…お前は控え組に入ってほしいんだが…」
「仕方ないです…」
「指揮を執れ」
「えっ?」
「不満か?」
「いえ…」
「どちらかと言えば、控え組の特徴はお前の方が心得てるだろう?適任だと思うが」
「はぁ…」
「そして…夢野つばさも、そこでテストする」
「つばさ…ですか…」
「どうした?」
「私も、あの娘には興味ありますので。…3日後ですか?」
「うむ」
「では、今日から主力組と控え組と分けて練習させてくれないですか」
「ん?」
「例え紅白戦でも、負けるつもりはありませんので」
羽山はニコリと笑ったが、田北も中村も、それを見てゾクリとした。
笑顔の奥に秘められた、決意のようなものを感じたからだ。
「あぁ、わかった…」
田北は、やっとのことで、そう返事した…。
~つづく~