【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「どの話のことだ?」
「もしかしたら」…と淡い期待を寄せつつ…「いやいや、そんなばかな」…と直ぐに打ち消す。
世の中そんなに甘くない。
しかし…
「高野くんのことを…ちょっといいかな…って思ってること…」
…おっ?…
「…ま、まぁ…ちょっとだろ、ちょっと…たまにはそう思うこともあるだろ…相手がオレだし…」
「ううん、違うの…そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて?」
「好きなの…本当は…」
「…マ…ジ…?…」
…淡い期待が…
…『気体』じゃなくて『固体』になった…
…目に見えなかったものが、形となって現れたよ…
…でも…
「『ドッキリ』ってヤツだろ?どこかにカメラあるんじゃない?いやぁ、参ったなあ…」
オレは『放送されることも考えて』大袈裟な仕草で、困ったフリをした。
100%ないと思うが、真面目に受け取って、騙された様子が流されるとなると、その後のオレの『沽券』に関わる。
一生バカにされる。
ここは用心するに越したことはない。
オレは振り返り、部屋を見回す。
…どこかにカメラがあるんじゃないか?…
オレは窓際に近づくと、並んでいるぬいぐるみをマジマジと見た。
「何してるの?」
「この辺にカメラが…」
「無いわよ…」
「じゃあ、この机のどこかに…」
「無いって…」
「この収納ケースか…」
「それはダメ!!」
ヤツの声が、一際大きくなった。
「おお!これか!やっぱり…」
…見つけた!…
引き出しに手を描けようとした瞬間、ヤツは言った。
「…そこは下着が…」
「あ…そりゃ、ダメだな…いや、逆に余計確認したくなったかも…」
2割冗談、8割本気。
「…バカ…」
ヤツの顔が真っ赤になった。
それは、オレが初めて見た、ヤツの恥じらいの表情だった…。
「あ…えっと…その…なんだ…」
動揺して言葉が出ない。
オレが向き直ると、ヤツはオレの目を見て言った。
「私ね…高野くんのことが好きだって気付いたの…」
ヤツの瞳は、みるみるうちに潤んでいく…。
…惚れてまうやろう!!…
心の中で叫ぶオレ。
「な、なんて顔してるんだよ…」
「ついに言っちゃったな…って思ったら…急に…」
ヤツは一瞬オレに背を向けると、シャツの袖を自分の目元に押し当てた。
「ふぅ…セーフ!危なく、目から汗が流れるところだった…」
…セーフじゃねぇよ、バ~カ…
…あんな顔見せられたら、抱き締めたくなっちまうだろうが…
「少し、冷静になれ…。たぶん、あれだ…とりあえず紅白戦まで終わって、少し張り詰めてた気持ちが緩んだんだろ…。今の言葉は聴かなかったことにするから…」
オレは再び部屋を出ようと、ドアへと向かった。
だが…
「お願い…ちゃんと話を聴いて…」
ヤツがオレの手首を掴む。
「わ、わかった…」
…冷静になれ…
今度は自分に、その言葉を投げ掛けた。
「私ね…気付いたの。高野くんが好きだってことに…」
「あ、あぁ…ありがとう…なのかな、こういう場合…」
「きっと、小学生のころから、好きだったんだと思う」
「えっ?」
「その時はよくわからなかったけど…」
「はぁ…」
「ほら、私、大きかったから、男子に怖がられてたし…」
「その筆頭がオレだけど…」
「確かに『チョモ』とか、変なあだ名つけられるし、それは嫌だったけど…不思議と高野くんには、嫌いになれなかったの…」
「へぇ…何でかね?」
「たぶん、いつも一所懸命だっからじゃないかな…結果はどうあれ、手を抜かないで、まっすぐだったから…」
「それは…さっきも言ったけど…お前には負けたくなかったっていうか…なんていうか…」
「あとね…私、友達もいなくて…」
「女子人気、高かったじゃん」
「…なのかな…。でもバレーボール中心だったから、あんまりみんなと遊んだこともないし、変に正義感が強かったから、クラスでも、ちょっと浮いた存在だったでしょ?」
「浮いた…っていうより、なにもかも、突出してたよ…。スポーツ万能で、勉強もできて、明るくて、スタイル良くて…非の打ち所がないって、こういうことじゃん」
「でもね…よく思ってない女子もいたじゃない?」
「…いたな…」
チョモは、結構な嫌がらせを受けていた。
上履きや笛などが『行方不明』になることは、日常茶飯事だった。
ノートがビリビリに破かれていたり、黒板に悪口を書かれていたこともあった。
だが、ヤツは学校では、いつも明るく振る舞い、泣いた顔を見せなかった。
やがて相手方は『効果なし』と見たのか、嫌がらせは『鎮静化』していった…と聴いていた。
「あれね、高野くんのお陰なんだよ…」
「えっ?」
「私には内緒で、いつも探してくれてたでしょ?」
「…記憶にない…」
「ちゃんと覚えてるもん!」
「そうだっけか…」
「無くなった筆箱を公園で見つけて、家に届けに来てくれたこともあるし…」
「忘れた…」
「その時に、ね…言ったんだよ…『チョモはなにひとつ、悪くない。だから、絶対に泣くな』…って」
「何かの間違いだ」
「『だけど、怪我したとか、命に関わるようなことなら話は別だ。何かあったら相談に乗るから』って」
「オレが?そんな恥ずかしいことを?小学生で?」
「うん…」
「『何様だよ』…って感じだな…」
「ううん…嬉しかった。あぁ、私にもちゃんと心配してくれてる人がいるんだって…」
「…役に立ったんなら、何よりだ…」
「その時は、その感情を上手く表現できなかったけど…だから、本当に感謝してるの。そうじゃなければ…命を絶ってたかも知れない…」
「おいおい、物騒な…」
「そのくらい辛かった…ってこと」
「そっか…そこまで追い詰められてたとは知らなかった…」
「お父さんにね…『まだ、早い!』って夢の中で追い返されたのもあるんだけど…」
「あ…」
ヤツの親父さんは、6年ほど前に他界していた。
それも交通事故という不幸な形で…。
オレはまだこの歳まで、人の死というものに直面したことはない。
じいさんも、ばあさんも健在だ。
だが、ヤツは…小4で最愛の人を亡くしている。
それだけに死というものがどういうことなのか、よくわかっているのだろう。
自ら命を経とう…などとできるハズがなかった。
でも、強い…。
オレは確かに、イジメとか許せなかった。
だいたい犯人グループは目星が付いていたし、間接的にやめるよう働きかけもした。
だけど…
仮にオレがそんなことを言ったとしても、実際に泣き言も言わず、耐えてきたヤツの精神力…。
「やっぱり、お前はスゲーわ…」
「えっ?」
「なにもかも、手の届かない存在だよ…」
「手の届かない存在?」
「いや、なんでもない…あ、あとで親父さんに線香上げさせてくれるかな…何回か来てるけど、一度もしたことないから…」
「うん、ありがとう」
ヤツは大きく頷いた。
「それでね…」
「まだ、続きがあるんだ?」
「うん…。その時はまだ、子供だったし…付き合うとか、付き合わないとか…そんなのってよくわからなかったでしょ」
「あぁ…」
「だけど、あの日…私がバレーボールを辞めるか辞めないかで悩んでた時…偶然、公園で高野くんに会った」
「…会ったな…。あれから3年か…」
「その時も、あの時とおんなじ言葉を掛けてくれたんだよ」
「なんか言ったっけ?」
「『何かあったら相談にのるよ!』って…」
「社交辞令だよ」
「かもね。それでも嬉しかった」
「単純だな」
「でも、高野くんが、言葉だけじゃないこと知ってるから…」
「あの時だって『サッカーの日本代表になる』って宣言して、それ通りになってるし」
「まだ、代表ではない。ユース代表だ」
「一緒だよ。私は…結局なにもかもが中途半端で…周りの人に助けられて、今、こうしていられるけど、自分の実力で、そうやって登り詰めたんだもん…私にとって尊敬すべき存在」
「オレが?」
「だから、私がサッカーをやる!って決めたときも、真っ先に聴いてほしかったし…コーチもしてほしかったの」
「持ち上げすぎだな…。また『な~んてね…』とか言わねぇだろうな」
「嘘付いてるように思う?」
「…あ、いや…」
「それで、今更ながら、気付いたの…。『私、高野くんが好きなんだ…』って…」
「でも、それって『like』だろ?『love』ではないんじゃ…」
「うん。愛してるとか、それとは違うかも。でも限りなくloveに近いlike…かな」
…そうか…
…そうなのか…
…チョモがオレのことを、そんな風に見てたなんて…
「あ、いや、でも、何で今?このタイミングは…」
「だって、コーチ、辞めちゃうって言うから…」
「それは…ほら…」
「今、言わないと…もう言えない気がしたから…」
「そんな『永遠に会えない』みたいな言い方しなくても…」
…どうする?…
格好つけた方がいいのか。
自分の気持ちに素直になった方がいいのか。
迷った末に出した結論…。
それは…
~つづく~