【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

45 / 173
Winning wings ~Love Like(ラブライク)~

 

 

 

 

 

「どの話のことだ?」

 

 

 

「もしかしたら」…と淡い期待を寄せつつ…「いやいや、そんなばかな」…と直ぐに打ち消す。

 

世の中そんなに甘くない。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「高野くんのことを…ちょっといいかな…って思ってること…」

 

 

 

…おっ?…

 

 

 

「…ま、まぁ…ちょっとだろ、ちょっと…たまにはそう思うこともあるだろ…相手がオレだし…」

 

「ううん、違うの…そうじゃなくて…」

 

「そうじゃなくて?」

 

 

 

 

 

「好きなの…本当は…」

 

 

 

 

 

「…マ…ジ…?…」

 

 

 

…淡い期待が…

 

…『気体』じゃなくて『固体』になった…

 

…目に見えなかったものが、形となって現れたよ…

 

 

 

…でも…

 

 

 

「『ドッキリ』ってヤツだろ?どこかにカメラあるんじゃない?いやぁ、参ったなあ…」

 

オレは『放送されることも考えて』大袈裟な仕草で、困ったフリをした。

 

100%ないと思うが、真面目に受け取って、騙された様子が流されるとなると、その後のオレの『沽券』に関わる。

 

一生バカにされる。

 

ここは用心するに越したことはない。

 

オレは振り返り、部屋を見回す。

 

 

 

…どこかにカメラがあるんじゃないか?…

 

 

 

オレは窓際に近づくと、並んでいるぬいぐるみをマジマジと見た。

 

 

 

「何してるの?」

 

「この辺にカメラが…」

 

「無いわよ…」

 

「じゃあ、この机のどこかに…」

 

「無いって…」

 

「この収納ケースか…」

 

「それはダメ!!」

 

ヤツの声が、一際大きくなった。

 

「おお!これか!やっぱり…」

 

 

 

…見つけた!…

 

 

 

引き出しに手を描けようとした瞬間、ヤツは言った。

 

 

 

「…そこは下着が…」

 

 

 

「あ…そりゃ、ダメだな…いや、逆に余計確認したくなったかも…」

 

2割冗談、8割本気。

 

 

 

「…バカ…」

 

ヤツの顔が真っ赤になった。

 

 

 

それは、オレが初めて見た、ヤツの恥じらいの表情だった…。

 

 

 

「あ…えっと…その…なんだ…」

 

動揺して言葉が出ない。

 

オレが向き直ると、ヤツはオレの目を見て言った。

 

 

 

「私ね…高野くんのことが好きだって気付いたの…」

 

ヤツの瞳は、みるみるうちに潤んでいく…。

 

 

 

…惚れてまうやろう!!…

 

 

 

心の中で叫ぶオレ。

 

 

 

「な、なんて顔してるんだよ…」

 

「ついに言っちゃったな…って思ったら…急に…」

 

ヤツは一瞬オレに背を向けると、シャツの袖を自分の目元に押し当てた。

 

「ふぅ…セーフ!危なく、目から汗が流れるところだった…」

 

 

 

…セーフじゃねぇよ、バ~カ…

 

…あんな顔見せられたら、抱き締めたくなっちまうだろうが…

 

 

 

「少し、冷静になれ…。たぶん、あれだ…とりあえず紅白戦まで終わって、少し張り詰めてた気持ちが緩んだんだろ…。今の言葉は聴かなかったことにするから…」

 

オレは再び部屋を出ようと、ドアへと向かった。

 

 

 

だが…

 

 

 

「お願い…ちゃんと話を聴いて…」

 

 

 

ヤツがオレの手首を掴む。

 

 

 

「わ、わかった…」

 

 

 

…冷静になれ…

 

 

 

今度は自分に、その言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「私ね…気付いたの。高野くんが好きだってことに…」

 

「あ、あぁ…ありがとう…なのかな、こういう場合…」

 

「きっと、小学生のころから、好きだったんだと思う」

 

「えっ?」

 

「その時はよくわからなかったけど…」

 

「はぁ…」

 

「ほら、私、大きかったから、男子に怖がられてたし…」

 

「その筆頭がオレだけど…」

 

「確かに『チョモ』とか、変なあだ名つけられるし、それは嫌だったけど…不思議と高野くんには、嫌いになれなかったの…」

 

「へぇ…何でかね?」

 

「たぶん、いつも一所懸命だっからじゃないかな…結果はどうあれ、手を抜かないで、まっすぐだったから…」

「それは…さっきも言ったけど…お前には負けたくなかったっていうか…なんていうか…」

 

「あとね…私、友達もいなくて…」

 

「女子人気、高かったじゃん」

 

「…なのかな…。でもバレーボール中心だったから、あんまりみんなと遊んだこともないし、変に正義感が強かったから、クラスでも、ちょっと浮いた存在だったでしょ?」

 

「浮いた…っていうより、なにもかも、突出してたよ…。スポーツ万能で、勉強もできて、明るくて、スタイル良くて…非の打ち所がないって、こういうことじゃん」

 

「でもね…よく思ってない女子もいたじゃない?」

 

「…いたな…」

 

 

 

チョモは、結構な嫌がらせを受けていた。

 

上履きや笛などが『行方不明』になることは、日常茶飯事だった。

 

ノートがビリビリに破かれていたり、黒板に悪口を書かれていたこともあった。

 

だが、ヤツは学校では、いつも明るく振る舞い、泣いた顔を見せなかった。

 

 

 

やがて相手方は『効果なし』と見たのか、嫌がらせは『鎮静化』していった…と聴いていた。

 

 

 

「あれね、高野くんのお陰なんだよ…」

 

「えっ?」

 

「私には内緒で、いつも探してくれてたでしょ?」

 

 

 

「…記憶にない…」

 

 

 

「ちゃんと覚えてるもん!」

 

「そうだっけか…」

 

「無くなった筆箱を公園で見つけて、家に届けに来てくれたこともあるし…」

 

「忘れた…」

 

「その時に、ね…言ったんだよ…『チョモはなにひとつ、悪くない。だから、絶対に泣くな』…って」

 

「何かの間違いだ」

 

「『だけど、怪我したとか、命に関わるようなことなら話は別だ。何かあったら相談に乗るから』って」

 

「オレが?そんな恥ずかしいことを?小学生で?」

 

「うん…」

 

「『何様だよ』…って感じだな…」

 

「ううん…嬉しかった。あぁ、私にもちゃんと心配してくれてる人がいるんだって…」

 

「…役に立ったんなら、何よりだ…」

 

「その時は、その感情を上手く表現できなかったけど…だから、本当に感謝してるの。そうじゃなければ…命を絶ってたかも知れない…」

 

「おいおい、物騒な…」

 

「そのくらい辛かった…ってこと」

 

「そっか…そこまで追い詰められてたとは知らなかった…」

 

「お父さんにね…『まだ、早い!』って夢の中で追い返されたのもあるんだけど…」

 

 

 

「あ…」

 

 

 

ヤツの親父さんは、6年ほど前に他界していた。

 

それも交通事故という不幸な形で…。

 

オレはまだこの歳まで、人の死というものに直面したことはない。

 

じいさんも、ばあさんも健在だ。

 

 

 

だが、ヤツは…小4で最愛の人を亡くしている。

 

 

 

それだけに死というものがどういうことなのか、よくわかっているのだろう。

 

自ら命を経とう…などとできるハズがなかった。

 

 

 

でも、強い…。

 

 

 

オレは確かに、イジメとか許せなかった。

 

だいたい犯人グループは目星が付いていたし、間接的にやめるよう働きかけもした。

 

 

 

だけど…

 

 

 

仮にオレがそんなことを言ったとしても、実際に泣き言も言わず、耐えてきたヤツの精神力…。

 

 

 

「やっぱり、お前はスゲーわ…」

 

「えっ?」

 

「なにもかも、手の届かない存在だよ…」

 

「手の届かない存在?」

 

「いや、なんでもない…あ、あとで親父さんに線香上げさせてくれるかな…何回か来てるけど、一度もしたことないから…」

 

「うん、ありがとう」

 

ヤツは大きく頷いた。

 

 

 

 

 

「それでね…」

 

「まだ、続きがあるんだ?」

 

「うん…。その時はまだ、子供だったし…付き合うとか、付き合わないとか…そんなのってよくわからなかったでしょ」

 

「あぁ…」

 

「だけど、あの日…私がバレーボールを辞めるか辞めないかで悩んでた時…偶然、公園で高野くんに会った」

 

「…会ったな…。あれから3年か…」

 

「その時も、あの時とおんなじ言葉を掛けてくれたんだよ」

 

「なんか言ったっけ?」

 

「『何かあったら相談にのるよ!』って…」

 

「社交辞令だよ」

 

「かもね。それでも嬉しかった」

 

「単純だな」

 

「でも、高野くんが、言葉だけじゃないこと知ってるから…」

 

「あの時だって『サッカーの日本代表になる』って宣言して、それ通りになってるし」

 

「まだ、代表ではない。ユース代表だ」

 

「一緒だよ。私は…結局なにもかもが中途半端で…周りの人に助けられて、今、こうしていられるけど、自分の実力で、そうやって登り詰めたんだもん…私にとって尊敬すべき存在」

 

「オレが?」

 

「だから、私がサッカーをやる!って決めたときも、真っ先に聴いてほしかったし…コーチもしてほしかったの」

 

「持ち上げすぎだな…。また『な~んてね…』とか言わねぇだろうな」

 

 

 

「嘘付いてるように思う?」

 

 

 

「…あ、いや…」

 

 

 

「それで、今更ながら、気付いたの…。『私、高野くんが好きなんだ…』って…」

 

「でも、それって『like』だろ?『love』ではないんじゃ…」

 

「うん。愛してるとか、それとは違うかも。でも限りなくloveに近いlike…かな」

 

 

 

…そうか…

 

…そうなのか…

 

…チョモがオレのことを、そんな風に見てたなんて…

 

 

 

 

「あ、いや、でも、何で今?このタイミングは…」

 

「だって、コーチ、辞めちゃうって言うから…」

 

「それは…ほら…」

 

「今、言わないと…もう言えない気がしたから…」

 

「そんな『永遠に会えない』みたいな言い方しなくても…」

 

 

 

…どうする?…

 

 

 

格好つけた方がいいのか。

 

自分の気持ちに素直になった方がいいのか。

 

 

 

 

 

迷った末に出した結論…。

 

 

 

 

 

それは…

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。