【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

47 / 173
Winning wings ~距離感~

 

 

 

 

 

「どうです?サッカーの方は?」

 

『水野めぐみ』こと、阿部かのんに質問されたのは『夢野つばさ』こと、藤綾乃。

 

「うん、まぁ…頑張ってるよ。でも、ゲームに出られるからどうかは…」

 

「今週末ですもんね…頑張ってください」

 

「ありがとう!」

 

『星野はるか』こと、鈴木萌絵の激励に、綾乃は笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

ここはゲー高のカフェテラス。

 

春休みが終わり、新学期になった。

 

 

 

かのんと萌絵は、高校の入学式を終えて、綾乃と合流。

 

夢野つばさが音楽活動を休止した為、シルフィードの3人が集まるのは、久々のことだった。

 

 

 

 

 

今週末、夢野つばさが所属するサッカーチーム『大和シルフィード』は、地域リーグの開幕戦を、ホームで迎える。

 

 

 

最初は、つばさの挑戦を冷ややかに見ていたチームメイトも、彼女が真剣に練習する姿に、考えを改めるようになっていた。

 

そして、日が経つにつれて、つばさのサッカーに関する才能が開花していく様子に、驚きを隠せなくなる。

 

 

 

…うかうかすると、レギュラー獲られるかも…

 

 

 

そう思わせるほどの実力。

 

周りがショボいのではない。

 

つばさが異常なのだ。

 

 

 

チームメイトの見る目が変わる。

 

そのつばさの存在が『いい緊張感』をもらたし、レギュラー争いは激化。

 

結果、短期間でチームの総合力がアップした。

 

 

 

 

 

つばさの才能にいち早く気付いたのは、キャプテンを務める『羽山優子』だ。

 

 

 

あの左足の破壊力は、誰しもが認めるところだが…

 

それ以上に驚いたのが、パスの正確さと視野の広さだった。

 

 

 

つばさは、バレーボールのセッターをやっていたお陰で、ボールの回転、スピードが把握できるという『特殊能力』を持っている。

 

だから、ダイレクトでボールを捌くときも…それを見極め、どのくらいの力加減で、どこを蹴ればいいのか…が、感覚的にわかるのだという。

 

 

 

加えて…

 

 

 

セッターはレシーブが乱れてポジションを動かされても、アタッカーの打ちやすいところへ、きちっとトスを上げるのが役目。

 

どこからでも、決められた位置にトスアップしなければならない。

 

 

 

サッカーのパスも同じ。

 

 

 

相手の欲しいところに、ボールを出す。

 

つばさに言わせれば「まったく一緒」らしい。

 

 

 

さらに言えば、セッターは相手の陣形を常に見て、どのように攻撃すればいいのかを考えるポジション。

 

敵チームの『穴』を探している。

 

その観察眼…戦術眼とも言えるかもしれない…が、サッカーにおいても活かされている。

 

つばさは敵味方の位置を、瞬時に把握する能力に長けていた。

 

だから、どこの誰にパスを出すのが効果的か…あるいはドリブルで仕掛けた方がいいのか…言葉は妥当ではないかもしれないが『セッター目線』でピッチに立っていた。

 

視野が広いとは、故にそのことを差す。

 

 

 

羽山は、正確無比なパスを武器に、フランスでアシスト王寸前まで登り積めた自分と、同じ『匂い』を、つばさに感じていた。

 

 

 

…この娘は、絶対に中盤の方が活きるわ…

 

 

 

ミドル…いやロングシュートが撃てるのも魅力的だった。

 

 

 

羽山は徹底的に自分の知識、テクニックを叩きこんだ。

 

チームを勝利に導くには、それを出し惜しみしている場合ではなかった。

 

自分の負担を軽くする…マークを分散させる為にも、絶対に必要なことだった。

 

 

 

つばさは、こうしてアタッカーだけでなく、ゲームメイカーというオプションを手にしたのである。

 

 

 

しかし、レギュラーを奪うのには、圧倒的な足りないものがあった。

 

それは一朝一夕ではどうにもならないもの。

 

 

 

持久力だ。

 

 

 

トレーナーの中村と二人三脚で、スタミナアップに励んできたものの、まだ、90分戦えるだけの体力は持ち合わせていない。

 

これは、未だ、克服できていない。

 

現状ではスーパーサブという役割が濃厚。

 

あとは…つばさが、緒戦にベンチ入りできるかどうかは、監督の田北の腹積もりひとつだった。

 

 

 

 

 

「そっちはどう?緊張してない?ちゃんと盛り上げてね!」

 

開幕戦のイベントとして、めぐみとはるかは、試合前にサポーターズソングを披露することになっている。

 

生で歌うのは、年末の紅白歌合戦以来だった。

 

 

 

「任せてください!」

 

「はい、それは、何の心配もいりませんよ」

 

ふたりは、顔の横でVサインを作った。

 

 

 

「ソロのレコーディングは順調?」

 

「お陰さまで」

かのんはにこやかに答えた。

 

「私は、ちょっと遅れてます。どうしても、感情が上手く込められなくて…」

と萌絵。

 

「珍しいわね、スランプ?」

 

「…っていうか、プレッシャーですかね…。これまで3人で歌ってきたから」

 

「でもデビュー前は、ひとりでずっと歌ってたんじゃない?」

 

「それはそうですけど…初めてのソロシングルとなると、別問題です…。それに…」

 

「それに?」

 

「かのんとはライバルになるわけですから、そう思うと、変に意識しちゃって…」

 

「繊細なんだねぇ…」

 

「はい。そうなんですよ、こう見えても萌絵はナイーブなんです」

 

かのんが『代わりに』答えると、萌絵は「えへへ…」と笑って頭を掻いた。

 

 

 

綾乃は2人より、学年がひとつ上だ。

 

初めて会ってから2年が過ぎたが…かのんと萌絵は、綾乃にも…ともに教育係を任された浅倉さくらにも…完全に心を開くことはなかった。

 

当時の彼女たちは、人気絶頂のモデル。

 

だから、どこか気後れや遠慮があったのかもしれない。

 

また、慣れない東京の生活と、デビューに向けて必死だったこともあるのだろう。

 

本人たちに悪気はなかったが、どうしても『先輩・後輩』という立場から離れることが、できないでいた。

 

 

 

いや、上下関係は大事だ。

 

 

 

礼儀作法にうるさい事務所の社長は、言葉遣いも含め、そこは厳しく指導している。

 

 

 

しかし、同じユニットを組んで活動する以上、もう少しフランクに付き合っても良いのでは…と感じながら、ここまできた。

 

綾乃は(学年が違うこともあり)2人の話題に入っていけず…時おり疎外感のようなものさえ感じることもあった。

 

 

 

さくらにそのことを相談すると

「気にすることはないんじゃない?いつかは、慣れるわよ。それでも親密になりたいって言うなら、一週間くらい、合宿でもしてみれば?そうすれば、色々わかるんじゃないかしら」

と言われた。

 

 

 

確かに…考えてみれば、綾乃にも心を許せる『親友』と呼べる人間は、さくらしかいない。

 

のちに『ゴールデンコンビ』とまで呼ばれるチームメイトの緑川沙紀とは…同じ学年である為、仲良くはしているが、まだ『この時点では』プライベートで遊びに行くほどの、関係ではなかった。

 

 

 

…山下弘美…

 

…彼女となら、意外と上手くやっていけたかも…

 

 

 

綾乃はかつての目標であり、ライバルの存在を、ふと思い出した。

 

 

 

…元気にしてるかな?

 

 

 

一瞬、遠い目をした綾乃。

 

 

 

「…綾乃さん?」

 

「どうかしました?」

 

「ううん、なんでもない。大丈夫だよ、萌絵ちゃん。自信持っていこう!かのんちゃんと同じ曲を歌うわけじゃないんだから、比較するとかしないとか、そんなの関係ないよ!」

 

「綾乃さんは、いつもポジティブですよね」

 

「そうかな?それって私が能天気ってこと?」

 

「はい!」

 

 

 

「はい!?」

 

 

 

「ウソで~す」

 

萌絵は笑って、ペロッと舌を出した。

 

「先輩を…からかうんじゃ…ないの!」

 

綾乃は利き手の左で、彼女の額にデコピンをする…フリをした。

 

「痛っ!」

 

「当たってないから」

 

「ですね…」

 

再び萌絵は舌を出して、ケラケラと笑う。

 

つられて、綾乃とかのんも笑った。

 

 

 

鈴木萌絵は普段から、こんなキャラだ。

 

いつも明るい。

 

ムードメーカー。

 

だけど、時おりナーバスになる。

 

特に思い通りのパフォーマンスができなかった時…彼女の場合、それは歌と演奏なのだが…それが練習であっても、激しく落ち込む。

 

しかし、人前でそれを見せることはない。

 

ひとり、その場を離れ、気分を落ち着かせてから戻ってくる。

 

だから、さっきのように「プレッシャー」だと言って悩む姿など、綾乃は見たことがなかった。

 

 

 

逆に言えば、それは『少し心を開いた証し』とも言えなくもない。

 

 

 

彼女たちが、同じ高校生になったこともあるのだろう。

 

皮肉なことに、3人でいた時よりも、今の方が距離が近い気がした。

 

 

 

「綾乃さん、なにかいいことありました?」

 

「えっ!かのんちゃん、どうして?」

 

「だって、今日は会った時から、ずっと笑顔ですよ」

 

「いつも、そんなに怖い顔してる?」

 

「いえ、そうじゃなくて…なんていうのかな…『幸せオーラ全開!』みたいな」

 

 

 

思い当たる節はある。

 

だが、彼女たちにそのことを話す訳にはいかない。

 

 

 

「そ、そうかな?あ、あれじゃない?久々にあなたたちと会えたから…」

 

「とか言って、好きな人でもできたんじゃないですか?」

 

「あ、わかる?」

と、ここはワザとノッてみる。

 

「いいなぁ…私にも誰か紹介してください…」

 

かのんはそう、うそぶいた。

 

 

 

阿部かのんは、おっとりしているように見られがちだが、実は決して弱音を吐かない、芯の強い少女だ。

 

ほんわかとした外見とは裏腹に、とてもストイック。

 

そして誰よりも冷静で、どこか冷めている…そんなイメージ…。

 

 

 

だが、彼女もまた、少し余裕が出てきたのだろうか…綾乃に対して軽口を叩けるようになっていた。

 

 

 

 

綾乃は、初めてふたりと打ち解けたように感じたのだった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。