【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
季節は飛んで…10月…。
水野めぐみと星野はるかは、それぞれ春、夏と1曲づつリリース。
チャートの1位を交互に分けあった。
そして今は『アクアスター』名義で、デュオ曲を発売中。
こちらの売れ行きも好調だ。
また、これまで、露出過多を避けるため断ってきたTVは、音楽番組のみ出演を解禁。
これまでベールに包まれていた、2人の個性が明らかにつれて、より人気が高まっている。
当面、この勢いは止まりそうにない。
浅倉さくらも同様。
女優デビューからの7クールで、5本のドラマ出演。
現在放送中のCMは6本を数え『元カリスマモデル』ではなく、すっかり『若手女優』と呼ばれるようになっていた。
年末には、初の主演映画が公開されるということで、今はその撮影の大詰め…多忙を極めている。
こちらも怖いくらいに順調。
そして夢野つばさは…
大和シルフィードの、スーパーサブとして活躍していた。
徐々に出場時間も増え…
時には前線でポスト役をこなし…
時にはスピードを活かしたドリブルでかき回し…
時にはミドルシュートで相手チームを脅威にさらし…
12試合で2ゴール3アシスト…と、数字的にはもの足りないものの、ゲームでの貢献度は高く、チームには欠かせない存在となっていた。
全10チームで争われている地域リーグ。
ホーム&アウェイ方式で、計18試合が行われる。
大和シルフィードはここまでで、8勝2敗2分で首位。
残り6試合。
下位チームに取りこぼしをしなければ、優勝…というところが見えてきた状況。
しかし、ここからが正念場。
疲労が蓄積され、怪我人も増える。
累積による出場停止選手も出てくる。
だからこそ、つばさや沙紀のようなバックアップメンバーの力が必要とされるのだ。
所属チームがアマチュアということもあり、めぐみ、はるか、さくらほどの派手さもなく、注目度も低くなっているが、つばさはつばさで地味に頑張っていた。
「『ラブライブ』…どっち勝つと思う?」
なんとなく街が、ハロウィーンのカボチャに占拠され始めた頃、さくらが綾乃に訊いてきた。
多忙であるとはいえ、2人ともまだ学生。
学校では顔を会わす。
今は昼休み。
普段はここに、かのんと萌絵が加わるが、今日は向こうのテーブルでクラスメイトと食事をしている。
「どっちが?」
「『A-RISE』か『μ's』か…」
「二択なんだ?」
「他に選択肢がある?」
「う~ん…『一応』4チーム残ってるから…」
「『一応』…でしょ?」
「あはは…言葉の綾…。綾乃の言葉の綾」
「ややこしいから!」
2人は顔を見合わせて笑った。
『ラブライブ』とは全国のスクールアイドルが、そのパフォーマンスを競う大会。
今は第3回大会(※あとがき参照)の最中で、東京からは『A-RISE』『μ's』ほか2チーム…の計4チームが勝ち残り、年末に行われる最終予選に向けて、その時を待っている。
第1回大会は…昨年末、日本が『シルフィード狂想曲』に浮かされてる中、ひっそりと開催された。
その時の覇者がA-RISE。
彼女たちの素人離れした完璧なパフォーマンスは、一躍、芸能関係者の目を引くことになる。
この時点で、早くも何社かスカウトが動いた…という噂があったほどだ。
そのA-RISEの出現により、ラブライブは『アイドルの原石の宝庫』と呼ばれ、今や芸能事務所が、出場チームを隅から隅までチェックするまでの大会となった。
A-RISEは夏に行われた第2回大会も優勝し、2連覇。
絶対的王者…3連覇間違いなし!という立場で迎えた今大会。
ところが、思わぬ伏兵が現れる。
それも同じ地区から。
それこそが、彗星のように現れた…音ノ木坂のμ's…だった。
9人の大所帯ながら、その個性を活かした歌とダンスで、A-RISEを脅かす存在として評価されており、この地区最終予選は、事実上『全国大会(本戦)の決勝戦』だとも言われている。
ゲー校にスクールアイドルはいないが、前述した通り、ラブライブ出場チームから芸能界入りする可能性がある為、生徒たちも結構注目しているようだった。
幸い、さくらと綾乃はジャンルが違う為、それほど仕事に影響がないと思っているが(…というより、まったく気にしていないが…)同じアイドルとして活動している生徒にしてみれば『明日はライバル』である。
嫌が応にも、意識せざるを得ない…というのが、実情だ。
「A-RISEとμ'sかぁ…」
綾乃もラブライブのことは知っている。
両者のパフォーマンスも見ていた。
「単純には較べられないなぁ…。同じ曲を歌って優劣をつけるならわかるけど、どっちも個性が違うし…」
…あれ?…
…何ヵ月か前に、似たようなことを萌絵ちゃんに言ったっけ?…
…正直、どっちがいいとか、悪いとか…そんなのわからないよ…
「最終予選に、どんな曲を持ってきて、どんなパフォーマンスをするか…そのデキがどうだったか…それで決まると思うけど…あとは好みの問題じゃない?」
「なるほど…。じゃあ、アーティスト『夢野つばさ』から見て、両チームの評価は?」
「アーティストって…」
綾乃は自分をアーティストだと思ったことはない。
さくらはそれを知ってて、敢えてそう言った。
「そうねぇ…うまく言えないけど『盾』と『矛』かしら?」
「盾と矛?矛盾?」
「A-RISEは2連覇してるし…パフォーマンスひとつひとつは、とてもクオリティが高いと思う。でも、どこか『できあがった感』があるのよね。そういう意味で、守りに入っている…っていうか。無理はしない感じ…」
「さすがに鋭いわね…。確かにA-RISEは洗練され過ぎてるかな」
「その点μ'sは攻撃的というか、勢いがあるというか…もちろん挑戦者だから、当然と言えば当然なんだけど」
「だから、矛なのね?」
「イメージだよ、イメージ…」
「わかる気がする…。そっかぁ…面白いわね。盾が攻撃を受けきれるか、矛は突き破ることができるか…か…」
「個人的にはμ'sに頑張ってほしいけど」
「どうして?なんとなくシルフィードとA-RISEってキャラが似てるから?」
「違うわよ!よくわからないけど、彼女たちを見てると、心を突き動かされるものがあるのよね…」
「わかるかも。一生懸命さが伝わってくる感じ?」
「うん。なんだかわからないけど『頑張れ!』って後押ししたくなるような…それでいて、彼女たちからパワーをもらえるような…」
「なるほど、なるほど」
さくらは大きく頷いたあと、言葉を続けた。
「私もμ's推しなんだ」
「さくらも?」
「実は…この中の『南ことり』って、私の遠い親戚なんだって」
「えっ!そうなの?」
「私もつい昨日知ったんだけど…父方の遠縁って言ってたかな。家で、なんかの拍子にμ'sの話題になって、そこから音ノ坂の話になって、そうしたら『そこの理事長はお父さんの親戚だぞ』とか言うから『えっ!』ってなって…」
「そっか、ことりちゃんって、理事長の娘なんだっけ?」
「だから『じゃあ、私、この人と親戚関係にあたるんだね?』って」
「なるほど、それは応援しちゃうよね」
「でしょ?あっ、あとね、余談だけど…」
「うん」
「この『絢瀬絵里』っていう人、ウチの事務所、狙ってるらしいよ」
「すごく綺麗だもんね」
「まぁ、ウチが動くなら、他も動くだろうけど」
「もしかした、この中から一緒に仕事する人がいるかもなんだね…」
そんな話を聴いたとたん、綾乃は、このμ'sというグループに、俄然、興味が沸いてきたのだった…。
~つづく~
ラブライブの開催数は独自の設定です。
ご了承願います。
※本作の第39話『A-RISE出現』で、第1回が行われたことにしています(従って第2回は、穂乃果が倒れてエントリーを辞退した大会)。