【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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第二部
第一報


 

 

 

 

 

「…心配なニュースが飛び込んできました…。男子サッカーのオリンピック代表で『ジョホールバルの再来』のゴールを決めた『高野 梨里』選手、20歳が…交通事故に巻き込まれ意識不明の重体です…」

 

 

 

アナウンサーが悲痛な顔で原稿を読み上げると、思わずスタジオにいたスタッフから

「えっ!?…」

という声が出た。

 

おそらく、その一報を知った誰もが、同じ反応をしたであろう。

 

 

 

 

 

『夢野つばさ』こと『藤 綾乃』もそのひとりだった…。

 

 

 

 

 

オリンピックの合宿を目前に控え、明日から7日間『リフレッシュ休暇』に入る。

 

その為、つばさは今日の練習を最後に、一旦チームを離脱する。

 

所属する『大和シルフィード』からは、同い年の『みさき』こと『緑川 沙紀』も代表に選出されていた。

 

今や『なでしこのゴールデンコンビ』と称される『つばさ』と『みさき』。

 

2人の息の合ったプレーを、日本中が期待をしている。

 

 

 

練習終わりにはチームメイトから花束が渡され、簡単な壮行会が開かれた。

 

意外なことに、監督の田北の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 

手塩に掛けて育てた可愛い娘を、嫁に出す…あるいはそんなシーンを思い浮かべたのだろうか。

 

それを選手が見つけ、冷やかした。

 

「そんなわけないだろ!目にゴミが入ったんだ!」

と、お決まりの言い訳をしながら、その場から立ち去る田北。

 

その慌てふためく様子がおかしくて、みんなが笑い、和やかな雰囲気のまま、壮行会は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

状況が一変したのは、各人がシャワーを浴びたあとのこと。

 

 

 

 

 

 

「えっ!?嘘でしょ?」

 

「なにこれ…本当なの?」

 

「なんで…」

 

着替えを終わった選手が、スマホに入ってきたニュースメールを眺め、口々に呟いた。

 

「なに?なに?…」

 

まだ、それを見ていないチームメイトが、興味深そうに訊く。

 

そこまで、深刻な話だと思ってない。

 

 

 

だが、彼女たちの言葉を聴いて、全員の血の気が引いた…。

 

 

 

 

 

「『高野くん』が、意識不明の重体だって…」

 

 

 

「高野くん…って…マリノスの?」

 

 

 

「…うん…」

 

 

 

「まさか…」

 

「信じられない…」

 

「どうして…】

 

 

 

「交通事故に巻き込まれたって…」

 

 

 

「!!」

 

 

 

つばさが「ハッ」と息を飲む、

 

 

 

「『りさと』が!?」

思わず下の名前を呼んだ。

 

 

 

「そうみたい…高野 梨里…」

 

 

 

 

 

つばさは、慌てて自分のスマホを手に取ると、電話を掛けた。

 

 

 

《お掛けになった番号は電波の届かないところにいるか…》

 

 

 

…出て!…

 

…無事って言って…

 

 

 

だが、無情にも不通を告げるアナウンスが終わり、ツー…ツー…という音に切り替わった。

 

 

 

…そうだよ、今は出れないだけなんだ…

 

 

 

つばさは必死に自分に言い聞かせた。

 

 

 

だが…

 

 

 

「…目撃者の話によると、衝突した車が、はずみで歩道に突っ込み…」

誰かがニュースを読み上げる。

 

「男性は車に跳ねられたあと、頭から落ちたとのことで…」

 

「この男性は所持品などから、男子サッカーオリンピック代表の高野 梨里選手と見られ…」

 

 

 

 

 

その瞬間…

 

 

 

 

ゴトッ…

 

 

 

つばさの手からスマホが落ちた…。

 

 

 

 

「イヤぁ~~~っ!!」

 

 

 

 

 

突然大きな声で叫ぶと、つばさは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

「つ、つばさ!?」

 

「大丈夫!?」

 

「どうしたの!」

 

 

 

「り、りさとが…はぁ…はぁ…いやっ…そんな…はぁ…うそ…」

正座の姿勢で前のめりのつばさは、まるで今、走り終わったかのように呼吸が荒い。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、つばさ?」

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

 

つばさの呼吸はますます荒く、そして早くなっていく。

 

いつの間にか、着替えたばかりのシャツが、ビッショリだ。

 

尋常じゃない汗の吹き出し方。

 

明らかに、熱を持っているのがわかった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

 

「誰か『中村さん』を呼んできて!!」

沙紀が叫ぶ。

 

 

 

ほどなくして、トレーナーの中村が、走ってドレッシングルームに飛び込んできた。

 

「つばさ!大丈夫か!」

 

「はぁ…はぁ…わから…ない…はあ…はあ…身体が…はぁ…動かない…はぁ…はぁ…」

 

「わかった!大丈夫だ、意識はある…誰か、水とバスタオルを持ってきてくれ!医務室に運ぶ!」

 

「中村さん!?」

 

「大丈夫、おそらく過呼吸だ」

 

「過呼吸?」

 

「落ち着けば、収まる。ちょっとベッドで休まそう」

 

「でも、どうして急に…」

 

「わからん。喘息でもなきゃ、精神的なものかもしれないが…それより、今は運ぶのが先だ」

 

「あ、はい…」

 

中村はつばさを抱き起こすと、おぶって医務室へと連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、具合は?…少し眠って落ち着いたか?…」

ベッドに横たわるつばさが目を覚ましたのに気付くと、中村は静かに声を掛けた。

 

「…寝てたんですか…」

 

「少しだけ。…鎮静剤を射った…」

 

「そうですか…」

 

「危ないクスリとか、使ってないでしょうね」

中村の後ろから、沙紀の声。

 

「…ごめん…心配掛けて…」

 

「別に大事に至らなきゃいいけどさ…」

 

「…うん…」

 

「でも、相当うなされてたよ」

 

「…そうなんだ…ごめん…」

 

「何かあった?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「まぁ、なんにもなくて『ああ』はならないな」

中村が口を挟む。

 

「すみません…」

 

「いい精神科医を紹介しようか?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「そう難しい顔をするなって…。なんでもないなら、別にいい」

 

「困るのよ、しっかりしてくれないと。『岬くん』の相方は『翼』しかいないんだから…」

沙紀なりの激励。

 

 

 

「…うん…そうだね…」

 

つばさには、その優しさが十分伝わった。

 

「ありがとう…」

 

 

 

「いいわよ…お礼なんて…」

沙紀はそう言って、うしろを向いた。

 

だが、すぐに向き直り

「ねぇ…」

と、つばさに声を掛ける。

 

「ひょっとして…高野 梨里って…つばさの…コレ?」

沙紀は親指を立てた。

 

 

 

 

「えっ!?…なんで…」

 

 

 

「そりゃあ…何度も名前…呼んでた もん…」

 

 

 

「!」

 

 

 

「隠さなくったっていいわよ…つばさに彼氏のひとりふたりいたって、別に驚かないから…」

 

 

 

「彼氏かどうかはわからないけど…大切な人…」

 

 

 

「なるほど…。つまり、この事故の話が過呼吸の引き金か…」

中村が呟く。

 

「行くんでしょ?病院」

 

「えっ…」

 

「お見舞い…」

 

「あっ!…でも、どこに運ばれたか…」

 

「そんなの協会に訊けばわかるわよ!」

 

「いや、そんな手間掛けなくてもわかる」

と中村。

 

「えっ?」

 

「ツイッターに出てる」

 

「嘘でしょ?」

 

「救急車のあとを追っかけたバカがいる…」

 

「信じられない…」

 

「その通りだな…不謹慎極まりない」

 

「まったく、なに考えてるのかしら…ほら、つばさ、行くわよ!」

 

「えっ!?」

 

「えっ…じゃないわよ。それがいいか、悪いかは別にして、取り敢えず病院がわかったんだから、行くわよ!」

 

「ヴェル…」

 

「私も付き合うわよ」

 

「だけど…」

 

「なにグズグスしてるのよ!大切は人が生きるか死ぬかって瀬戸際なんでしょ!行かなくてどうす…」

 

 

 

「いい加減ことを言わないで!」

 

沙紀の言葉を遮るように、つばさが叫んだ。

 

 

 

「いい加減なことって…」

 

予期せぬ反応に、たじろぐ沙紀。

 

「死なないんだよ…梨里は。死ぬなんてあり得ない…死んじゃいなけないんだよ」

 

「つばさ…」

 

「死ぬなんて言葉…軽々しく使わないで」

 

「つばさ…」

 

「…どうして…『また』…交通事故なのよ…』

 

 

 

「!」

 

 

 

…そういうことか…

 

 

 

沙紀は以前、つばさの父が事故死しているという話を、聴いたことがあった。

 

 

 

…だとしても…

 

 

 

「つばさ…私はあなたじゃないから、あなたの気持ちはわからない。その人がどれほど大切な人なのかもわからない」

 

「…」

 

「だけど、私なら行く。何がなんでも行く。あとで後悔したくないもの」

 

「…」

 

「彼、闘ってるよ!頑張ってるよ!そばに言って、応援してあげなきゃ!」

 

「ヴェル…」

 

「大丈夫!大丈夫だから…」

 

その言葉に、なにひとつ根拠がないことはわかっていた。

 

だが、今はそれしか言えない。

 

 

 

 

「車…出そうか?」

 

「中村さん!?」

 

「この病院だと…電車なら新宿から廻っても、横浜から廻っても、1時間チョイは掛かる。車なら東名使って上っていけば、半分で着く」

 

「でも…」

 

「デモもストもない。つばさも『みさき』も、有名人だ。公共の交通機関の利用は避けたほうがいい…。こんな状況でサインを求められても、対応できないだろ?」

 

「中村さん…」

 

「意識不明が本当なら、面会はできないかもしれないが、それも『込み』で確認しに行った方がいい。ここにいてもラチが開かない」

 

「中村さん…」

 

「乗り掛かった舟だ…構わん。よし、行くぞ!準備しろ」

 

「すみません…」

 

つばさは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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