【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

56 / 173
どうして…

 

 

 

 

中村の車は、病院の正面入口を通過した。

 

「あれ?」

沙紀が首を傾げる。

 

「マスコミが『わんさか』いるところに、わざわざ突っ込む必要はない」

 

「あっ…なるほど」

沙紀はその意味を理解した。

 

 

 

中村は車を、裏側にある夜間通用口へと回した。

 

沙紀が車を降りる。

 

だが、つばさは出てこない。

 

見ると、手に力が入らないのか、シートベルトを外すのに手間取っている。

 

「もう、しっかりしてよ!」

 

「…ごめん…」

 

沙紀が手伝い、車から降ろす。

 

まだ、つばさの動揺は収まっていない。

 

 

 

…頑張って!つばさ!…

 

 

 

沙紀は心の中で叫んだ。

 

だが、弱っている人間にその言葉を掛けるのは、あまり良くないと聴いたことがある。

 

 

 

「行くわよ!」

 

他に思い付く言葉もなく、沙紀はつばさの背中を押すようにして歩き始める。

 

 

 

 

3人は夜間受付の前に来た。

 

「どうなさいましたか?」

 

「『サッカー関係者』だ!急いでる!」

中村は病院の受付担当者にそう答えると、半ば強引にそこを突破した。

 

「以下、同文です!!」

沙紀もつばさの手を引っ張り、あとに続く。

 

 

 

時刻は、夜の11時半過ぎ。

 

事故が発生してから、2時間半…一報が入ってからは一時間半が経過していた。

 

院内の廊下は既に暗く、ところどころ、常夜灯だけが光っている。

 

少し進むとロビー(待合室)が現れた。

 

ここも受付カウンター内の照明だけが灯されており、薄暗い。

 

よく見ると、そこには何人かの人影があった。

 

 

 

バタバタとやって来た3人に、その人影たちが一斉に顔を向ける。

 

 

 

「誰だ?」

その内のひとりが訊いた。

 

 

 

「『大和シルフィード』の『緑川 沙紀』と『夢野つばさ』です」

沙紀はつばさの身体を引き寄せると、カウンターの前に立ち、顔を晒した。

 

だが逆光で、実はあまりハッキリ見えていない。

 

「…と、その『保護者』でトレーナーの『中村』です』

 

 

 

「シルフィードの?どうしてここに?」

 

 

 

「同じオリンピック代表ですから…とにかく居ても立ってもいられなくて…」

沙紀が答える。

 

「あぁ、そうか…ご苦労」

 

あっさり、そんな言い訳が通った。

 

 

 

『そうは言っても』冷静に考えれば、簡単には納得出来ない理由である。

 

いくら同じ代表とはいえ、身内でもなければ、これだけ素早く駆けつけることはない。

 

しかも、女子だ。

 

 

 

だが、この状況下で『下衆な勘繰り』をする者はいなかった。

 

沙紀と『保護者』の中村の存在が、いいカモフラージュになっている。

 

 

 

「状況はどうですか?」

中村が、誰とは言わず問いかけてみる。

 

「…いや…なんとも…。我々もここで待機だ。…まぁ、立ってても仕方がない…その辺に座りなさい」

 

誰かが答えた。

 

よく見ると、それはサッカー協会の副会長だった。

 

 

 

確かに、待機を命ぜられているなら、どうしようもない。

 

3人は空いているイスに腰を下ろした。

 

 

 

時間が経つにつれ、ロビーにいる面子が判明する。

 

日本サッカー協会の副会長、男子オリンピック代表監督、マリノスのコーチ…それから代表とマリノスのチームメイトが数人。

 

全部で10名ほどがいた。

 

 

 

「君たちはどうやって、中に?」

副会長が中村に問う。

 

「向こうから強行突破しました」

中村は、入ってきた夜間受付の方向を指差した。

 

「なるほど…賢明な判断だ。正面から入ってくれば、マスコミの餌食になっていた…」

 

「はい」

 

 

 

中村が運転中に想像したとおり、どうやら正面入口にはマスコミが『わんさか』詰めかけているらしい。

 

だが、ここは病院。

 

一般人も入院している為、病院側が立ち入りを規制しているようだった。

 

ましてや、今は夜。

 

院内で大騒ぎされる訳にはいかない。

 

ごくごく当然のこと。

 

それでも、中の様子を見ようと、カメラがこっちを狙っている。

 

 

 

つばさも沙紀も、顔見知りの男子選手はいたが、軽く会釈をした程度で、それ以上は誰も口を開かない。

 

彼らは一様にスマホを眺めている。

 

もちろん、ゲームをしている訳ではない。

 

SNSやツイッターに入ってくる情報をチェックしていた。

 

「あぁ『3人にも』伝えておく。こちらがOKを出すまで、この件に関するコメントは差し控えるように」

副会長はそう『命令』した。

 

コメントとは、つまり『そういった類い』のことも含めてを指す。

 

 

 

つばさは目を瞑っている。

 

強く握りこんでいる拳が、必死に何かと闘っているように見えた。

 

今は、掛ける言葉がない。

 

 

 

沙紀はそう思い、立ち上がると、少し離れたところに歩いていき、そこで自分のスマホを見た。

 

 

 

その後、事故について、どのような報道されているのか…あまり深くは考えずに、検索をかけた。

 

 

 

そして、沙紀は絶句した…。

 

 

 

…嘘でしょ?…

 

 

 

この事故はどのニュースサイトでもトップニュースで扱われているが…『高野 梨里が意識不明の重体』…という状況は更進されていない。

 

追加情報として、彼のこれまでの生い立ちや、成績などがアップされているくらいだ。

 

 

 

関係者とされる…それこそ『ここにいる面々』の

 

》詳しいことがわからないので、なんとも言えない

 

》無事であることを祈るしかない

 

…などというコメントは載っている。

 

院内に入る前に、マイクを突きつけられたのだろう。

 

 

 

そこまでは理解できた。

 

 

 

しかし、そのあと続く関連ワードは…

 

『死亡』『五輪絶望』『終わった』『ご臨終』『五輪終』『役立たず』『韓国』『暗殺』『女』『μ's』『園田 海未』『誰得』『本間 洋平』

 

…等々が羅列されていた。

 

 

 

思わずゾッとする、沙紀。

 

 

 

…ちょっと、なんなのよ…これ…

 

 

 

恐る恐る、それらのワードが書かれた内容を覗いてみた。

 

 

 

……

 

》重体とか言ってるけど、既に死んでんだろ?

 

》おい、おい、勝手に殺すな

 

》現場にいたけど、即死だったぜ

 

》生きてても、オリンピックは絶望的だな

 

》五輪終わったな

 

》これがホントの『ご臨終(五輪終)』ってか

 

》↑草生えた

 

》喜ぶな!

 

》肝心な時にいないなんで、なんて役立たず

 

》役立たず言うな!

 

》高野なんて、いてもいなくても同じ

 

》同じじゃねーよ

 

》冗談抜きで、高野がいないのは痛い

 

》りさと…

 

》韓国人に暗殺されたんじゃね?

 

》それはない!

 

》なんでもアッチと結びつけるなよ

 

》自作自演、乙

 

》テロか?

 

》女と歩いてたって噂

 

》マジか!オリンピック前にイチャついてるんじゃねーよ、バーカ!

 

》なお、元μ'sの園田 海未の模様

 

》特定早っ!

 

》嘘だろ?海未ちゃんかよ!

 

》だったらいいよ、死んで!

 

》海未ちゃんは無事か

 

》一緒に運ばれた

 

》高野、殺す!

 

》だから、死んでるってw

 

》死んでねーよ!

 

》高野が死んだら誰得よ?

 

》本間 洋平じゃね?同じポジションだし

 

》じゃあ、犯人はヨーヘーだな

 

》傭兵でも雇ったか…

 

……

 

 

 

…見なきゃよかった…

 

 

 

…なによ…これ…

 

…狂ってるわ…

 

…酷すぎる…

 

 

突然、沙紀の目から涙が溢れ落ちた。

 

 

 

…怒り?…

 

…哀しみ?…

 

…哀れみ?…

 

 

 

…わからない…

 

 

 

…でも、ここで私が感情的になっちゃいけない!…

 

…そんなことになったら、つばさが…

 

 

 

沙紀は爆発しそうな気持ちと、得も言われぬ吐き気を堪(こら)えて、口元を押さえながらトイレへと駆け込んだ…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。