【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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お客様は神様です

 

 

 

 

 

薬の影響もあるのだろう。

 

少し喋り疲れて、オレは知らない間にウトウトしていた。

 

 

 

夢見が悪く、ハッとして目を覚ます。

 

首が動かせないので、周囲の様子がわからない。

 

 

 

「…チョモ?…」

 

「ここにいるわよ…」

 

「あ、いるのか…」

 

「どうかした?」

 

「えっ…いや、別に不安になった!…とかじゃないから…」

 

「ふふふ…強がっちゃって。…やっぱり悔しいんじゃない?」

 

 

 

…しまった!…余計なことを言ったかな…

 

 

 

「…寝てていいわよ…」

 

「いや、それじゃ、お前がヒマだろ?」

 

「大丈夫よ、読書してるし…。ここ、静かだから、すごく集中できるの」

 

「時間…平気か?」

 

「今日は一日空けてあるから」

 

「…悪いな…」

 

「今さら…」

 

 

 

そんな会話をしている最中…

 

病室のドアがノックされた。

 

 

 

オレの代わりに、チョモが返事をすると

「高野さんに、面会希望の方がいらしてますけど…」

と担当の看護師が告げた。

 

 

 

「どなたです?」

 

 

 

事故後、面会したのは…両親、警察、サッカー関係者…そしてチョモ。

 

まだ、チームメイトや友人の見舞いは断っている。

 

『男しかいない』日常を送ってるんだ。

 

病室まで男に取り囲まれても、嬉しくも何ともない。

 

それに「頑張れよ」と励まされたところで、治りが早くなるわけでもないし、オレも相手も…どちらにしても気不味くなるだけ…。

 

せめて、車椅子に乗れるくらいになるまでは…ってとこだ。

 

 

 

そんな理由で、相手次第では、断るつもりでいた。

 

 

 

しかし、看護師は

「『園田さん』とおっしゃる…女性の方です…」

と言った。

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

オレとチョモが同時に声をあげる。

 

 

 

…噂の彼女…

 

 

 

「どうするの?」

 

「どうも、こうも…そりゃあ、追い返せないでしょ…」

 

「じゃあ、OKするわよ」

 

「あぁ…」

 

 

 

「どうぞ…」

 

チョモが答える。

 

 

 

「失礼します…」

 

とても落ち着いた声が聴こえた。

 

そして、そのあとに続く言葉は

「えっ!?…あ…『つばささん?』…」

だった。

 

 

 

チョモには、3つの名前がある。

 

本名と…モデル時代の名前と…今の名前。

 

彼女が呼んだのは、その最後。

 

 

 

ちなみにチョモという呼び名は、このどれにも入らない。

 

恐らく、全世界でそう呼んでいるのはオレだけ。

 

まぁ、それはまたどこかで、機会があれば話すとしよう…。

 

 

 

「あっ!私のことは、気にしないでください。この人の『身内』みたいな者ですから…」

 

『チョモ』こと『つばさ』…は『園田さん』にそう告げた。

 

「は、はい…」

 

「どうぞ、こちらへ。まだ首が動かなくて、横から覗きこまなきゃ、顔が見えないみたいなの」

 

チョモが状況を説明すると、彼女は静かに、オレのそばに来た。

 

「改めまして『園田 海未』と申します…。頭上から、失礼いたします。この度は助けて頂き…誠にありがとうございました…」

 

彼女が深々と頭を下げる。

 

 

 

思った通り、綺麗な人だった。

 

だが、見惚れてる場合じゃない。

 

 

 

…この距離はヤバイ…

 

 

 

「…顔、近いです…」

 

オレのベッドの真横に立ち、身体をくの字に折り曲げれば、当然そうなる。

 

「…!…す、すみません!」

 

彼女は顔を真っ赤にして、直立不動になった。

 

 

 

「そのまま、チューされちゃうのかと…」

 

 

 

「!…ちゅ…ちゅ…ちゅう…です…か?…」

 

彼女はビックリした顔でオレを見る。

 

 

 

「こらっ!りさと!初対面の人にそんなこと言わない!」

 

「あっ…すみません…つい、癖で…」

 

「は、はぁ…」

 

 

 

…おい、おい…どんな癖だよ!…

 

 

 

「園田さん…でしたっけ?」

 

「は、はい…」

 

「ごめんない…突然、突き飛ばしたりして」

 

「えっ?そんな、こちらこそ…」

 

「かすり傷って聴いたですけど、どこを怪我したんですか?」

 

「はい?…あ、膝と肘を…でも、もう治りました」

 

「そうですか…あ、いや、顔じゃなくてよかったです…」

 

「えっ…」

 

「その綺麗な顔に傷付けたとあっちゃ、あなたのファンに刺されかねないですからね…」

 

 

 

これは本心だ…。

 

 

 

サッカーでもよくあること。

 

例えば、試合中、接触プレーで相手が重症を負ってしまったとする。

 

そうすると、故意でなくても、怪我を負わせてしまった選手は、一生ファン…サポーターから恨まれることになる。

 

ファンやサポーターあってのオレたち。

 

気持ちはわかるけど…何事も節度は大事だ。

 

 

 

恨む、恨まない。

 

許す、許さない。

 

 

 

それは当人同士が、決めること。

 

 

 

その昔『お客様は神様です』なんて言葉があったらしいが、オレから言わせれば、ルールやマナーが守れないヤツは客でもなんでもない。

 

こういうヤツらを野放しにするから、クレーマーが増えるんだよ…。

 

 

 

…と、話がまた逸れた。

 

すぐ脱線するのはオレの悪いクセだ。

 

 

 

「まぁ、なんにせよ、無事でよかったです」

 

「その節はなんと申し上げてよいやら…。高野さんは、充分に逃げられたのに…私のせいでこんなことに…。私の反応が早ければ…」

 

「あぁ、それは違います。あの状況で、瞬時に動ける人はいないですよ」

 

「でも…」

 

「とにかく、僕のことは気になさらずに」

 

「そんなわけにはいきません!」

 

「園田さん?…」

 

「ひとりの人生の…一生を棒に振るような出来事。…その一因を作ったのは、間違いなく私です。ですから、この責任は…」

 

「園田さん…」

 

「はい?」

 

「あなたは大きな勘違いをしてます…」

 

「えっ?」

 

「僕が恨むべき相手は、あなたじゃない。車を運転していた、あの『ガキ』です。これは…僕とその子との間の話であって、基本的にあなたは関係ありません」

 

「関係ないことは…」

 

 

 

「いや、関係ないです!」

 

オレの声は、少しだけ強くなってしまった。

 

すかさず

「りさとっ!」

とチョモ。

 

 

 

「あ…失礼…」

 

「いえ…」

 

「…あなたは車に接触もしていないですし、幸い、大きな怪我もしませんでした。この件については、僕ひとりが巻き込まれた…それでいい」

 

「高野さん…」

 

「実はさ、僕、あなたのことをナンパするつもりで、声を掛けようとしてたとこだったんです」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「だから、偶然じゃないんですよ…隣にいたのは。それで、あの事故でしょ?いいとこ見せよう!って思ったんですよ…で、僕も上手く避けられてれば、今頃、違う展開になっていたんでしょうけど…見事にしくじりました」

 

「そうね。バカなのよ、この人…」

 

チョモが、オレの意を汲み、同調する。

 

 

 

「つばささん!?」

 

彼女は突然の乱入に、驚いたように声をあげた。

 

 

 

「この人が勝手にやったことだから、気に病まないで」

 

「そういうことです!」

 

「そう言われましても…」

 

「大丈夫。確かに今はこんな状態だけど、治らない怪我じゃないですから。復帰してプレーが出来るようになったら、応援して下さい」

 

「高野さん…」

 

「僕は…むしろ、あなたの方が心配です」

 

「私が…ですか…」

 

「はい…さっきの逆パターン」

 

「えっ?」

 

「僕は今…意識的に情報を遮断してるので、世間がどうなってるか、知らないんです。そこにいるチョモ…じゃなかった…つばさからも、話は聴いていないので」

 

「そうなのですか…」

 

「まさかと思うますけど…あなた、叩かれたりしてないですよね…」

 

 

 

「えっ!?…そ、そんなことはありません」

 

彼女が返答するのに、一瞬、間があった。

 

 

 

…正直な人だ…

 

 

 

その反応で、オレは懸念していたことが、早くも始まっていることを悟った…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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