【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
…いったい何があったというのです?…
海未は着信と、メールやLINEのメッセージの多さに驚いた。
その履歴の『一番最初』に遡ってみる。
〉海未、事故に巻き込まれたって本当?ケガはないの!?
…21時42分…にこからですね…
μ'sの元メンバーで作っているLINEのグループ。
その中に『始まり』があった。
『穂乃果』や『ことり』からではなく、真っ先に『にこ』からというのが、海未からしてみれば少し意外な気がしたが、心配してくれていることに関しては、素直に嬉しかった。
…ですが…
…何故にこは、私がこうなったことを知っているのでしょう…
その答えは、にこのLINEに反応した穂乃果たちとのやりとりから判明する。
〉にこちゃん、それ本当なの?(穂乃果)
〉海未ちゃんがケガ?(ことり)
〉あんたたち、ニュース見てないの?サッカー選手が事故に巻き込まれたってヤツ(にこ)
〉ニュース…これか…でも、海未ちゃんの名前なんて出てないよ?(穂乃果)
〉海未の話はSNS情報よ。巻き込まれて、一緒に運ばれたって(にこ)
〉なんだ、SNSの情報か(穂乃果)
〉あてにならないよね(ことり)
〉凜も見たにゃ!(凛)
〉凛ちゃん!(穂乃果)
〉凛は専門学校の友達から連絡がきたにゃ(凛)
〉こんばんわ、絵里です。にこのLINE見て、すぐに電話したけど…出ないわね…(絵里)
〉私も電話してみたけど…出ないわ(真姫)
〉真姫ちゃんも来たのね(穂乃果)
〉このLINEにも、反応ないにゃ(凛)
〉たまたま、近くに携帯がないとか、見られない状況にあるんじゃないかな(ことり)
〉だと良いのだけど(絵里)
〉そもそも、その情報が正しいかどうかわからないんでしょ?(穂乃果)
〉そうだよね(ことり)
〉だから、確かめてるんじゃないの(にこ)
〉確かに…(穂乃果)
〉まぁ、あんまりみんなで電話しても仕方ないし、代表して穂乃果が連絡するっていうのがいいんじゃないかしら?(絵里)
〉うん、わかった(穂乃果)
〉海未だってLINEに気付けば、何らかの反応があるだろうし(絵里)
〉そうだね(ことり)
〉わかったにゃ(凛)
〉なんでもなきゃいいけど(真姫)
〉大丈夫だよ、海未ちゃんだもん(穂乃果)
〉じゃあ、穂乃果よろしくね(絵里)
〉任せたわよ(にこ)
〉了解!(穂乃果)
…なるほど…
…それで、この着信ですか…
希と花陽がLINEに参加しなかったのは、彼女たちは今、仕事で海外にいるからである。
…みんな、私のことを心配してくれているのですね…
μ'sが解散してから3年あまりが過ぎたが、絆の強さは今も変わらない。
これを見て、仲間たちの想いに感謝した。
…と同時に頭に浮かぶ疑問と、若干の恐怖。
海未はこのやりとりから、何点かの情報を得た。
ひとつは、出どころは不明だが、自分が事故に巻き込まれた…という情報が出回っていること。
次にそれが『園田 海未』である…と特定されていること。
海未はゾッとした。
…いつ、誰が見ていたのでしょうか…
…いえ、事故の目撃者は多数いたのですから、そう考えればわからなくもありませんが…
…何故、私の名前がそのようなところに…
無理矢理、推理するならば…
弓道部の飲み会の帰り道の出来事だ。
海未は二次会の誘いを断り、その場をあとにした訳だが…他にも同じように帰宅の途についた部員がいて、通りかかった際に、事故現場に遭遇。
その者がSNSに投稿した…というところだろうか。
…だとしても、個人名を載せるのはどうかと思うのですが…
海未は、少し憤りを感じた。
だが、海未はそれよりも、もうひとつ得た情報…そっちの方が気になった。
それは、自分が助けてくれた『彼』が、サッカー選手であるらしい…ということ。
この時、海未の頭の回路が、いきなりバシッ!と繋がった。
…サッカー選手?…
…高野さん…
…「なにも、こんな時に!」と言った、彼のお父さんの言葉…
…まさか…
…彼はサッカーのオリンピック代表選手!?…
それほどサッカーには興味がない海未でも、高野 梨里の名前は知っていた。
オリンピックの最終予選…その運命を分ける大事な試合で決勝ゴールを挙げ、日本を本大会出場に導いた『時の人』である。
知らないハズはなかった。
ただ顔までは…
見たことはある。
今、思い出せば確かにその人だった。
だが、あの時は…
暗くて良く見えなかったこともあるが、そんなところに、そんな人が歩いていようとは…
想像だにしなかった。
…高野 梨里さん?…
突如、海未背中に悪寒が走った。
…あぁ…私はなんてことをしてしまったのでしょう…
彼が本当に彼が高野 梨里であるならば、仮に意識が戻ったとしても、来月に控えたオリンピックの出場など、とても困難であることは、小学生でもわかること。
『被害者が誰であったか』によって、命の重さ、怪我の大きさに差をつけるのはおかしな話だが、それでも、一般人と有名人では、その意味合いが変わってしまう。
高野の父が言った
「こんな時に」
が、胸に響く…。
…そうですよ…
…そんな大事な時期に、何故わざわざ、あんなことを…
高野の行動に疑問を抱く、海未。
そして、車から逃げることが出来なかった自分に対して、再び激しい後悔が襲う。
さらには…
…そして、私はこんな大事な話を、どうして『にこたち』から知らされなければならないのでしょう…
…よりによって、当事者の私が一番最後に知るなんて…
「1本電話をしてもよいでしょうか?」
海未は父にそう断りを入れ、スマホの画面をタップした。
「もしもし?海未ちゃん?」
「はい、海未です。穂乃果…寝てましたか?」
「ううん、起きてたよ。えへへ、実は…隣にことりちゃんもいるんだよ」
「ことりがいるのですか!?」
「あ、待って…今、替わるね…」
「もしもし、海未ちゃん?ことりだよ」
「海未です」
「LINE見たかなぁ?みんな、すごく心配になっちゃって」
「すみません…私としたことが…。まず事故に巻き込まれた…というのは、事実です」
「えっ?」
「ですが、幸い大事には至りませんでした。掠り傷程度で済みました。ただ念のために…ということで病院に運ばれて、一通り検査を受けたので…」
「そっか…それで今まで連絡がつかなかったんだね」
「はい。みんなには多大な心配を掛けました。まさか、こんな騒ぎになっているとは夢にも思わなかったものですから…」
「そうだよね…」
「それで実は、まだ病院におりまして…ええ、父に迎えにきてもらってますので、それは問題ないのですが…あの、私と一緒に事故に遭ったのは『高野 梨里』さんなのでしょうか…」
「…うん…そうみたい…」
それも海未ちゃん知らないの?と、ことりの隣から穂乃果の声。
「えぇ…誰もそこまでは教えてくれなかったものですから…。そうですか…」
「どうしたの?」
「はい、高野さんは私の身代わりになって、事故に遭われたのです」
「えっ?」
海未は簡単に事故のいきさつを説明した。
「で、でも…海未ちゃんが悪いわけじゃ…」
「もちろん、そうなのですが…なんだかやりきれないのです」
「気持ちはわかるけど…。あ、とりあえず、みんな心配してるから、ことりがLINE送っておくね!」
「はい、すみません。お願いします」
「だから、海未ちゃんはもうちょっと、頑張って。明日…あ、もう今日だね…穂乃果ちゃんと一緒に迎えに行くから」
うん、うん、海未ちゃん、ファイトだよ!と穂乃果の声。
…この台詞に何回元気付けられたのでしょう…
「はい、わかりました…。では、みんなに連絡のほどお願い致します」
海未は電話を切った。
穂乃果とことりの声を聴き、少しだけ元気がもらえたものの、心に残った重いものを取り除くには、まだまだ不完全な状態だった…。
~つづく~