【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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当たらず、触らず

 

 

 

 

 

『オレ』が意識を取り戻してから3日目。

 

 

 

とりあえず親父は、仕事に復帰した。

 

おふくろも『病室にいてもやることがない』とのことで、午前中少し顔を出して帰っていった。

 

 

 

オレはといえば…

 

 

 

ほぼ一日中ベッドの上で過ごしている。

 

身体が動かないんだから仕方がない。

 

 

 

できるだけ『くだらない報道』や『代表の情報』は耳にしたくないと、TVやラジオを点けることを拒んでいるオレだが…さすがに何もしないでいることに飽きた。

 

薬の影響からか、うつらうつらと寝てしまうこともあるが、夢見が悪い。

 

今回の事故について、頭の中では割り切っているつもりでも…深層心理…心の奥深いところでは納得していない自分がいるのだろう。

 

 

 

これで美人のナースでもいれば、多少は目の保養…癒しにでもなるのだろうが、現実はそんなに甘くない。

 

これじゃあ、夢の中でも『楽しいこと』など、起こるハズもない。

 

 

 

そのオレを担当してくれている看護師によると、オレが意識を取り戻したことにより、病院に詰めかけていた報道陣は姿を消したとのこと。

 

 

 

…残念だったな、死ななくて…

 

 

 

オレは心の中で、毒づいた。

 

無事を祈ってます…などと言いながら、本当は悲劇を期待している。

 

マスコミなんて…いや、日本人なんてそんなものさ。

 

 

 

そんなことを考えていると、サッカー協会の広報担当者が面会にやってきた。

 

意識が回復して、容態が落ち着いたということで、コメントを発表することになっていた。

 

当面、男とは会いたくなかったのだが、こればかりはどうしようもない。

 

 

 

現れたのは、40~50歳くらいの男性だった。

 

名前は『小野』という。

 

 

 

「どうだい、気分は?」

 

「いいように見えますか?」

 

「絶好調に見えるな…ハッハッハッ」

 

オレはこの一言を聴いて、手強いな…と感じた。

 

 

 

…結構な皮肉を言ったつもりだが…

 

…それに動じず、逆に切り返してきやがった…

 

 

 

報道できないようなコメントを羅列してやろうかと『半分』考えていたが、そう容易な相手ではないと、一瞬で悟った。

 

 

 

「さてさて…冗談はさておき…高野くんの意識が回復したということで『元気です』『頑張ってます』的な言葉を、もらうわけだけど…こういうのは、ある程度、定型文みたいのがあってね」

 

「定型文?」

 

「そりゃあ、好き勝手コメントされちゃうと、色々なところに反響が及ぶから、当たらず触らず…が望ましいわけ」

 

「…へぇ…」

 

 

 

サッカーに関する取材しか受けてこなかったオレにとっては、そんなものなのか…と思うしかなかった。

 

 

 

「例えば…今回の事故を起こした車は『レクサス』だった…ってことは周知の事実だけど、コメントの中でそんな車種の名前なんか出せないでしょ?イメージダウンに繋がるって、すぐにクレームになる」

 

「そんなことは言いませんけどね」

 

「例えばの話だよ、例えばの話。ただ、今回は交通事故だよね…。高野くんが所属するマリノスは、親会社が日産だから、車社会や車の性能を批判するようなことも、避けなきゃいけない」

 

「あぁ、それは確かに…」

 

「同様に、それ以外のスポンサーにも気を遣わなきゃいけない」

 

「面倒くさいですね」

 

「そう、その通り。だけど、よっぽどの物好きでない限り、わざわざ下手なコメントをして『炎上』しようとは思わないだろ?自分の身は、自分で守るのさ」

 

「…なるほど…だから、結局のところ、似たり寄ったりのコメントになる…」

 

「そういうこと。じゃあ、内容が理解できたところで、文章を作っていこうか…」

 

 

 

…で…

 

 

 

できた『作文』がこれ。

 

 

 

……

 

〉こんにちわ。横浜・F・マリノスの高野 梨里です。

 

〉この度は関係者、およびファンの皆さまには、多大な心配をお掛け致しましたことを、まずはお詫び申し上げます。

 

〉また代表やマリノスのH.Pを通じて、非常に多くの方から私に関する応援メッセージを頂き、誠にありがとうございます。

 

〉事故に遭った経緯等については、先にサッカー協会から発表があった通りです。

 

〉トレーニングの帰りに、信号待ちをしていたところで巻き込まれたもので、一部噂されている『女性と一緒にいた』という情報は、事実と異なります。

 

〉その方も、私の隣で信号待ちをしており、同じように巻き込まれた…と聴いておりますが、私自身面識は一切ございません。

 

〉幸い、軽傷で済んだようですし、一般の方とのことですので、できれば静かに見守って頂きたく思います。

 

〉さて、皆さまのお陰をもちまして、私は一命をとりとめました。

 

〉今後については医師と相談しながら進めて参りますが、一日も早く元気な姿を見せられるよう頑張ります。

 

〉最後に。

 

〉オリンピックの出場は叶いませんでしたが、代表メンバーは必ずやメダルを獲得してくるものと信じております。

 

〉身体は日本にありますが、魂は現地に飛んでおり、一緒に戦うつもりで応援します。

 

〉頑張れ!ニッポン!

 

〉横浜・F・マリノス 高野 梨里 #17

 

……

 

 

 

 

 

「本当に無難な文章ですね…」

 

「これでいい。誰も傷つかないし、誰も怒らない」

 

「オレはメチャメチャ怒ってますよ!車を運転していたガキに!」

 

 

 

そう、車を運転していたのは16歳のガキだった。

 

当然、無免許だ。

 

コイツには、言いたいことがヤマほどある。

 

 

 

しかし、それすらも

「だからと言って、ここでのコメントは控えた方がいい」

と小野さんに言われた。

 

 

 

…100対0で相手が悪くても、文句すら言えないのかよ…

 

 

 

まぁ、オレもことを荒立てるつもりはないが、釈然としないのは確かだ。

 

 

 

…あとで、どこかで、爆発しそうだよ…

 

 

 

 

 

こうして、オレと小野さんが作った『作文』は、夕方、マスコミ各社にFAXされたのだった。

 

 

 

 

 

~つづく~


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