【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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サプライズゲスト

 

 

 

 

「高野さん、ご面会の方が見えてますけど…」

 

病室のドアがノックされ、看護師がオレに声を掛ける。

 

「男だったら断ってください」

 

彼女は冗談だと思って笑っているが、オレは至って本気だ。

 

「じゃあ、大丈夫ということで!」

 

オレが許可していないのにも関わらず、ヤツは勝手に入ってきた。

 

代表の広報と、ほぼすれ違いのタイミングで病室にきたのは『夢野 つばさ』だった。

 

 

 

「なんだ…『チョモ』か…」

 

「なんだ…はないでしょ?こうして時間を割いて、逢いにきてるのに!」

 

「あぁ、ありがとな。さすがにヒマしてて…話し相手が欲しかったところだ」

 

「どう?具合は?」

 

「いいように見えるか?」

 

「絶好調でしょ?」

 

「お前は『小野さん』か!」

 

「小野さん?なんの話?」

 

「いや、いい…」

 

さっきのやりとりを見てたんじゃないかってほどの、見事なまでのリプレイに、オレは笑ってしまった。

 

「ほら、元気そうじゃない」

 

「いや、だから、これは別件で」

 

「別件?」

 

「気にするな…」

 

 

 

笑いのツボを他人に説明することほど、野暮なことはない。

 

 

 

「それより、今日はスペシャルゲストを連れてきたよ」

 

 

 

…チョモこそ、楽しそうなんだが…

 

 

 

「スペシャルゲスト?」

 

オレが鸚鵡返すと、ヤツは意外な人物の名前を呼んだ。

 

 

 

「めぐみ!はるか!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「失礼しま~す…」

 

 

 

声を揃えて入ってきたのは…『水野めぐみ』と『星野はるか』だった。

 

 

 

「男の人じゃないからOKなんだよね?」

 

チョモが悪戯っぽく笑う。

 

 

 

「えっ?えっ?どうしてここに?」

 

あまりに突然の出来事に戸惑うオレ。

 

 

 

「私、明後日から代表の最終合宿じゃない?それで壮行会っていうのかな…2人がこのあと開いてくれるって。…で、その前に寄りたいところがあるんだけど…って言ったら、一緒に付いてきてくれて…」

 

「初めまして。水野めぐみです」

 

「星野はるかです」

 

「あ、高野 梨里です。いや、すみません…こんなところにわざわざ…」

 

「いつも、ウチの『つばさ』がお世話になってます」

 

はるかがそう言うと

「別に世話になんてなってないわよ!」

とつばさが返した。

 

「でも…彼氏…なんですよね?」

 

めぐみがつばさに詰め寄る。

 

「彼氏…なの?」

 

つばさがオレに振った。

 

「オレに訊いてる?」

 

「うん」

 

「…まぁ、じゃあ、そういうことで…」

 

「別に2人とも、照れなくてもいいですよ」

と、めぐみ。

 

「そうそう、見てるこっちが恥ずかしくなりますから」

はるかが、それに同調した。

 

 

 

オレとチョモの関係については、ある程度認識しているようだ。

 

じゃなければ、ヤツもここには連れてこない。

 

ヒマをしていたオレにとっては、願ってもないサプライズプレゼント。

 

病室が一気に華やぐ。

 

 

 

…できれば、寝たきりの状態じゃなくて、元気な時に逢いたいねぇ…

 

 

 

「大丈夫なの?騒がれなかった?」

 

「はい。ナースステーションは、少しザワザワしてましたけど」

 

「私はそうでもないんですけど…めぐみはわりとバレるんですよ。やっぱり、みんな最初に胸に目がいくみたいで。そのあと顔見て…『あっ!』みたいな」

はるかは自分の胸元を見てから、つばさの胸へと視線を移した。

 

「こらこら、私の胸は見なくていいの!」

 

「ちっちゃくなりました?」

 

「なってないよ!」

 

「…って言ってますけど、そうですか?」

 

「…オレに言ってる?えっとねぇ…って言えるか!」

 

めぐみとはるかが笑う。

 

つばさも笑っていた。

 

「この人ね『シルフィード』の中で、誰が好き?って訊いたら、めぐみって答えたんだよ。おっぱいが大きいから…って」

 

「昔の話だろ…」

 

「でも、普通に3人並んでたら、今でもめぐみを選ぶでしょ?」

 

「うん」

 

「ねっ?こういう人なのよ…デリカシーがないって…いうか」

 

「正直でいいんじゃないですか?私はムッツリより好きですけど」

 

「おっ!はるかちゃん、若いのにわかってるね」

 

「若いのに…って、私たちのひとつ下じゃない」

 

「この世界にいると、セクハラまがいのことは結構ありますからね…。それくらいの話なら、かわいいものですよ」

 

「まぁね…」

 

 

 

…容姿がいい…ってことも、それなりの苦労があるんだろうなぁ…

 

 

 

チョモからは、あまり芸能界の裏事情的な話は聴かないが(…というより、そういうことをペラペラ喋るタイプではないが)それはそれで、大変なんだろう。

 

 

 

「それより、2人は忙しいんじゃないの?」

とオレ。

 

「はい、今、全国ツアーの真っ最中なんです」

 

「実は、来週から関東で…」

 

「本当はサプライズゲストで、つばささんに出てもらうつもりだったんですけど…」

 

「ちょうど最終合宿に行ったあとで…」

 

 

 

「…って、まだ歌えるの?」

 

シルフィードの活動を離れてから、3年余りが経過している。

 

オレは素朴な疑問をチョモにぶつけた。

 

 

 

「キミならわかると思うけど、サッカーの練習って普段、2~3時間くらいで終わっちゃうじゃない。そのあとの空いてる時間を利用して、ギターを弾いたりとかはしてるわよ」

 

「あぁ、そうか」

 

「高野さんも、やります?ギター?それでシルフィードに入ります?」

 

「へっ?いきなり何を?」

 

「あ、めぐみ、それ面白いかも!『シルフィード with T』みたいな?」

 

「夢野つばさ、水野めぐみ、星野はるか、高野りさと…名前の並びもピッタリだし」

 

「ムリ、ムリ、ムリ!この人、サッカー以外の才能はゼロなんだから」

 

「そこまで強く否定するかね…」

 

「リコーダーで『ドレミファソラシド』吹けたっけ?」

 

 

 

「口笛なら得意だけど」

 

 

 

「…だって!」

 

「人間誰しも、苦手なものはある!」

 

「体育以外に得意な課目ってあるの?」

 

 

 

「…動けないことをいいことに、すげぇ、ディスられてるんですけど…」

 

オレがそう呟くと

「それだけ仲がいい!って私には見えますよ」

とめぐみは言った。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

「だから、それくらいで照れないでくださいよ!中学生ですか!」

 

はるかがニヒヒ…と笑い、つばさをからかう。

 

 

 

その時だった。

 

病室のドアがノックされた。

 

 

 

「高野さん、またご面会の方が…」

 

 

 

…ん?今日は忙しいな…

 

 

 

「男だったら断っ…」

 

「女性ですよ!」

担当看護師は、笑いながら、少し喰い気味に反応した。

 

「あぁ、じゃあ…どうぞ」

 

「はい、失礼致します。こんにちわ、園田です…」

 

 

 

入ってきたのは、園田 海未だった…。

 

 

 

「えっ!?…あっ…『アクアスター』?」

 

彼女は『昨日』とまったく同じリアクションをした。

 

 

 

…リプレイか!…

 

 

 

今日2度目の出来事に、オレはひとり、声を押し殺して笑う。

 

 

 

だが、彼女が驚いたのも無理もない。

 

 

 

昨日、オレの病室に『夢野 つばさ』がいたことすら想定外なのに、まさか、その翌日『アクアスター』の2人がいて『シルフィード』が勢揃いしていようとは。

 

今や、オフィシャルでも、滅多にお目に掛かれない、超貴重な3ショットだ。

 

 

 

唖然として立ち尽くす彼女を、チョモが室内へと呼び込んだ。

 

 

 

「どうぞ、こちらへ」

 

「あ、ご迷惑であれば帰ります」

 

「迷惑なわけないじゃない…どうぞ」

 

「…はい…では、失礼致します…」

 

「えっと、この2人は…」

 

「はい、存じております。アクアスターの…いえ、シルフィードの水野めぐみさんと、星野はるかさんでいらっしゃいますよね」

 

「はい、夢野つばさです」

 

「水野めぐみです」

 

「星野はるかです」

 

「3人揃ってシルフィードです!!」

 

 

 

「おぉ!本物だ!」

 

チョモたちのサービスに、思わずオレが声をあげた。

 

 

 

オレとチョモとの付き合いは、どちらかというと『サッカー選手 夢野つばさ』としての比重が大きくて『芸能人 夢野つばさ』として接することは少ない。

 

だから、こんな至近距離で…しかも生で見れて、オレは素直に感動してしまった。

 

 

 

「今日はたまたま、私に付き合っててもらって…。ごめんなさい、驚かすつもりはなかったの」

 

「いえ、私こそ、突然お伺いしたものですから…あ、初めまして、園田海未と申します」

 

「お会いしたかったです、園田さん!」

 

「えぇ、私も!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「私たち、μ'sのファンだったんですよ!」

 

「だから、お会いできて光栄です」

 

 

 

「ど、どういうことでしょう…」

 

めぐみとはるかの告白に、彼女は言葉を失っている。

 

 

 

「私がオリンピックに行くからって、彼女たちが壮行会を開いてくれることになって…。でも、その前に、お見舞いに行くって言ったら、じゃあ付き合います…って、そういう流れで2人はここにいるんだけど…」

 

「つばささんが、もしかしたら園田さんと会えるかもしれない…っていうから」

 

「無理矢理付いてきちゃいました」

 

 

 

「えっ!じゃあ、オレの見舞いがオマケなの!?」

 

「はい!」

はるかが即答した。

 

「なんて日だ!!」

 

オレは聞き齧(かじ)ったことのある芸人の決め台詞を叫ぶと、室内が笑いに包まれた。

 

 

 

ただ、彼女…園田 海未だけは、狐につままれたような…キョトンとした顔をしていた。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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