【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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マニアックな記憶

 

 

 

 

 

「どうかした?」

 

妙に明るい病室の空気に、戸惑っている様子の海未。

 

それを見て、つばさが声を掛けた。

 

「…いえ…あの…皆さんお見舞いにいらしたんですよね…」

 

海未は何となく申し訳なさそうに尋ねた。

 

 

 

シルフィードの3人は、それぞれ顔を見合わせる。

 

その問いに、合点がいったのはつばさだった。

 

 

 

「なるほどね。言いたいことはわかるわ。遊びに来たようにしか見えないものね…でも半分そうかも」

 

「えっ?」

 

「とりあえず『死なない』って、わかったから…『しんみり』しててもしかたないでしょ?病人ならともかく、この通り元気みたいだし…」

 

「おいおい、元気ではないだろ!」

 

「じゃあ、何も喋らないで大人しくしてた方がいい?」

 

「いや、それは…」

 

「ねっ!…って、言うことだから」

 

 

 

「はぁ…」

 

海未は返す言葉に詰まった。

 

 

 

…なぜ、この人たちは、こんなにもポジティブなのでしょうか…

 

…ご両親も、つばささんも…そして当のご本人も!…

 

…ひょっとしたら、穂乃果以上かもしれませんね…

 

 

 

「園田さん?」

 

「はっ!すみません、少し考え事を…」

 

「まぁまぁ、リラックスしてくださいな」

 

「…って、はるか。まるで自分の部屋みたいだね」

めぐみはそう言って笑った。

 

「でも、ほら、知らない仲じゃないんだし」

 

「かなり一方的だけどね。面と向かって会うのは初めてだから」

 

「あの…」

 

「はい?」

 

「先程、お二人は、μ'sのファンです…とか、私に会いにきた…とかおっしゃいましたが…それは一体どういうことでしょうか」

 

「私たちがμ'sのファン…っておかしいですか?」

 

はるかは決して威圧的ではなく、本当に『なんで?』という感じで、逆質問をした。

 

「それはその…私たちがμ'sとして活動したのは、ほんの1年足らずで…それも世間の皆様に名前を覚えて頂いたのは、海外ライブのあとで…ですが、すぐに解散してしまいましたし…」

 

「私はその全然前から、応援してましたよ」

 

「そうなのですか?でも、その時、すでに皆様はシルフィードとして活躍されてらして…そんな方々が素人の私たちのファンなどというのは…」

 

「そんなことないですよ!…ね?」

 

「うん。それは全然違いますよ」

 

めぐみの否定に、はるかが同意した。

 

 

 

 

「ラブライブ…」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「私たちも注目してたんです、ラブライブ」

 

「皆さんがですか?」

 

「最初は…『ラブライブっていうのが開催されるらしいよ』『全国のスクールアイドルがパフォーマンスを競うんだって』『へぇ…』みたいな感じだったんですよ…私たちも」

 

「だけどその中に『A-RISEっていうチームが、かなり凄い』って、話題になって。ほら、彼女たちって、その時からプロデビューの話があったじゃないですか。『スクールアイドル?ただのお遊びでしょ?』って言ってた人たちも『ちょっとバカにできないかも…』ってなって」

 

「業界全体がね…『次世代アイドル発掘の場』みたいに捉えるようになったんだよね」

 

「うん。私たちは『歌って踊る』っていう方向性じゃなかったから、スクールアイドルに対して、それほど意識してなかったけど、同じジャンルの娘たちは、結構気にしてたよね?だって、もしかしたら、ライバルになっちゃうかもしれないんだから」

 

「でも、ちょっとA-RISEは別格だったかな。彼女たちのパフォーマンスを見ちゃうと、どうしても…ね?」

 

「そうだったのですか。そういう業界の事情みたいなものは、私たちはまったく知りませんでした…」

 

 

 

スクールアイドルをやっていた者の中には『当時の矢澤にこのように』本気でアイドルを目指していた生徒も少なくなかったに違いない。

 

だが、いまだかつて、A-RISEを超えるアイドルは出てこない。

 

そういった意味では、デビュー前から注目され、今も活躍を続けている3人は、やはり特別な存在と言えよう。

 

 

 

…あのA-RISEと時を同じくしていたなんて…

 

…今でも信じられないのですが…

 

 

 

めぐみとはるかにラブライブの話を聴かされて、海未は少しその頃を思い出した。

 

 

 

「それで、誰もがA-RISEの3連覇かな…って思ってたときに、現れたのが…」

 

「μ'sだったんです」

 

 

 

「私たち…ですか」

 

 

 

「はい」

 

海未の言葉に、めぐみとはるかが首を縦に振った。

 

 

 

「正直言うと、私はそこまでラブライブに注目してなかったんですよ。さっきも言いましたけど、やってるジャンルが違ってたので。どちらかというと、はるかの方が」

 

「はい。私は趣味でダンスをやってるので…もちろん、そのアイドルの振り付けとはまったく違うんですけど、勉強にはなるかな…って、色々なチームを見てましたよ」

 

「そうしたら、はるかが『あのA-RISEが挑戦状を叩きつけたチームが現れた』って」

 

「挑戦状…ですか?」

 

海未は身に覚えがない…とばかりに呟く。

 

「あれ?お忘れですか?アキバでA-RISEに煽られて、急遽アカペラを披露したときのこと」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「見てたんですよ、たまたま。ネットで中継されてたじゃないですか」

 

 

 

 

 

『μ's』が『A-RISE』にライブ会場として『UTX』の屋上を提供してもらい『ユメノトビラ』を披露してから、少し経ってからのこと…。

 

アキバで『利き米コンテスト/愛・米・味(あい・まい・みー)』が開催された。

 

 

 

μ'sからは希、にこ、穂乃果、凛…そして花陽が参戦。

 

そしてそこには、なんとA-RISEの統堂英玲奈も、虎視眈々と優勝を狙って参加していた。

 

 

 

決勝に残ったのは…μ'sからは予想通り、花陽。

 

そして、英玲奈。

 

 

 

予選、準決勝を勝ち上がった、2人は激しいバトルを繰り広げる。

 

 

 

その死闘を制したのは…花陽。

 

 

 

彼女はこうしてアキバの『初代お米クイーンの称号』と『優勝商品の新米120kg』を手に入れたのだった(余談だが、のちに花陽はその新米を食べ過ぎて、穂乃果と2人で『海未の強制ダイエットメニュー』の敢行をさせられることになった)。

 

 

 

その利き米コンテストのサプライズゲストとしてライブを行ったのが、地元のスター『A-RISE』である。

 

その時に、何を思ったか『綺羅ツバサ』は、(参加者とその応援で)会場に全員集まっていたμ'sに、1曲歌えと要求したのだ。

 

このプロレス的なマイクパフォーマンスに、盛り上がる観客。

 

 

 

だが、まったく予期していない、突然の挑発に戸惑うメンバーたち。

 

当然、衣装もない。

 

打ち合わせも何もしていない。

 

花陽はこの時、臀部を打撲しており、ダンスは難しかった。

 

 

 

この状況で、なにができるのか…

 

中途半端なパフォーマンスなら、やらない方がいい。

 

 

 

果たして…

 

 

 

穂乃果は受けて立った。

 

にこは

「売られたケンカ、買ってやろうじゃないの!これは最終予選の前哨戦よ!」

と息巻いた。

 

 

 

そして、私服の9人が披露したのが…

 

 

 

『愛してるばんざーい!』のアカペラだった。

 

 

 

奇策と言ってもよいパフォーマンス。

 

 

 

しかし、その歌声は(歌詞の内容とも相まって)観客の心に大きな感動をもたらした。

 

 

 

いみじくもそれは、μ'sが『ただの大所帯ユニットではない』ことを示す、アピールの場となり、一躍、A-RISEのライバルとして注目を集めることなったのだ。

 

 

 

あの時、なぜ綺羅ツバサは自分達のライブの時間を削ってまで、μ'sをステージに立たせたのか、その真意はいまだ謎である。

 

 

 

μ'sを本気で潰そうとしたのか…自分達のライバルとしてふさわしいかどうか、試そうとしたのか…。

 

 

 

ただひとつ言えることは、3連覇確実と言われていたA-RISEにとって、自らがステップアップするための起爆剤に、μ'sが選ばれたことは間違いなかった。

 

 

 

そして、9人は、その期待に違わぬ成長を遂げていったのだ。

 

 

 

 

 

その時の一連の出来事を、はるかは『A-RISEが叩きつけた挑戦状』と言ったのだ。

※詳細は#82486『Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~』の『にこ編』を参照願います。

 

 

 

 

 

「その時から私は、μ'sのファンになったんです。生意気なことを言わせて頂くと、素人なのに凄いパワーを感じたというか…。あぁ、なるほど…A-RISEが挑発しただけのことはあるな…って」

 

「恐縮です…」

 

海未は顔を赤らめた。

 

 

 

名前が売れてからではなく、その前から…しかも、かなりマニアックなシチュエーションのライブを、こうまでハッキリと覚えている人は、そうはいない。

 

いや、いるかも知れないが、面と向かって、そういう話を聴いたことがない。

 

 

 

それがまさか、星野はるかの口から語られようとは…。

 

 

 

嬉さ半分、恥ずかしさ半分といったとこだった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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