【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「私は、はるかがμ'sを応援するようになってから、一緒に見るようになって」
とめぐみ。
「ありがとうございます」
「中でも印象的だったのが、最終予選かな。白い世界から、パーってオレンジに染まっていく瞬間、なんだかわからないけど、泣きそうになっちゃって…」
「私も」
はるかが相槌を打つ。
「あの時は、アクアスターとして全国ライブをすることが決まった時で…」
「でも、私たちライブって経験がなくて、すごく不安を感じでた時期だったんだよね?」
「えっ?その前の年に、紅白歌合戦に出場されていたかと…。逆にあれだけのお客さんの前で歌っているのに、不安があるなど考えられないのですが」
「その時は3人だったし、勢いだけで歌ってた…って感じで」
「2人だけで単独ライブでしょ?3時間も体力もつかな…とか、お客さん飽きないかな…とか…ね?」
「うん。それで、μ'sのパフォーマンスを見て、ひとつヒントをもらった…っていうか」
「それはどういうことでしょうか?」
「演者が最高のパフォーマンスをするのはもちろんなんですけど、観客を満足させるのって、それだけじゃ足りないと思うんです。プラスαが必要なんです」
「プラスα…ですか?」
「生意気なことを言わせて頂くと、A-RISEもパフォーマンスは完璧だったと思います。じゃあ、勝敗を分けたものはなんだったのか…私はμ'sの方が、少しだけ観客を魅了する力が上回っていたんだと思うんです」
「観客を魅了する力…ですか?」
「上手く表現できませんけど…強いて言うな『熱さ』ですかね…。A-RISEは淡々と自分たちのパフォーマンスに終始したように見えたんです」
「それが悪いとは言わないですし…収録ならそれでいいと思うんですけど…」
はるかが、めぐみの言葉をフォローする。
「うん。でも、ライブだからね…。その点、μ'sには私たちの胸を打つ何があったと思うんです」
「それが、熱さ…ですか…」
「はい」
「確かに、私たちもA-RISEに勝ったという実感がなかったというか…。終わってから、穂乃果もA-RISEのツバサさんに訊かれたみたいですけど…。『何が勝敗をわけたのか。μ'sを突き動かしているのはなにか』と」
「なんだったんですか?」
「すぐには答えが出ませんでした。ですが、やがて気が付いたのです。私たちは自分たちの力だけで、ここまで来たのではないと。多くの方に助けられて、ここまでこれたのだと。それが感謝の気持ちとなり、私たちのパフォーマンスの原動力だったのです。」
「『みんなで叶える物語』…μ'sのキャッチフレーズですね」
「はい、よくご存じで」
「つまり、ライブで必要なこと…それは、いかに集まって頂いたファンの方々と一体になれるか…だと思うんです。それを、あの時μ'sが教えてくれたんです」
「私たちはただただ、夢中でしたけど…そう言って頂けるのは、嬉しいです」
「それから私は、μ'sの映像は全て観ましたよ。ジャンルは違っても、目指すことは一緒だと感じてましたし、何より、どの楽曲も素敵で」
「自分たちで、作詞作曲して、振り付けから、演出まで。同世代なのに凄いな…って。私もめぐみも、楽器は演奏できますけど、そこまで全部はこなせないですもの」
「だから、私たちがμ'sのファンだって言っても、全然不思議じゃないんですよ」
「恐れ入ります。ですが、私たちも、全部がひとりで担当していたわけではありますせん。作詞、作曲、振り付け、衣装、演出…分業制でしたので」
「園田さんは、作詞担当でしたよね?」
「はい。全ての曲ではありませんが。先程話題に出ました『愛してるばんざーい!』は、真姫が作りましたし」
「ね?そういう才能の塊の集まりだったんだよ、μ'sって」
それまで黙って話を聴いていたつばさが、高野に向かって言った。
「あ、この人『μ'sのミュ』の字も知らなかったらしくてね…私が『キミが助けた人は、こうこうこういう人だよ』って教えてあげても『誰?』みたいな」
「失礼ながら、そういうことには全く興味がなくて…。そんなに凄い人だったんですね」
海未とはまだ距離がある為、話し方が丁寧になる高野。
「いえ、別に凄いなんてことは…。ただ、私個人がどうこうではなく、確かに集まったメンバーは最高の仲間でした。彼女たちに巡り逢えた私は、幸せ者だと思います」
この部屋に入ってから、海未は初めて力強い声で語った。
「あ、ごめんなさいね。2人を連れてきちゃって。迷惑だったかしら?」
「とんでもございません。私にそんなことを言える資格はありませんから…。ですが…何故、今日私が来ると」
「女の勘…ってやつ?」
「えっ?」
「冗談。この人のお母さんから聴いたの。今時、あんなに律儀な人は、珍しいって。だから、きっと今日も来る!って思ってた」
「律儀などでは…」
「それに、私も彼女たちも、園田さんと色々お話ししてみたかったの。もちろん、μ'sのファンだってこともあるんだけど、それ以外のことも…ね?」
つばさが、めぐみとはるかに同意を求めると、2人は『その通り』だと、二度三度と頷いた。
「あっ、そう言えば、私も昨日、つばささんに伝え忘れたことがありまして」
海未は右手を小さくあげて、発言の許可を得る。
「なにかしら?」
「μ'sの曲の中に『ユメノトビラ』という曲があるのですが…』
「知ってます!UTXの屋上で披露した曲ですよね?」
はるかが即答した。
「さ、さすがにお詳しいですね…」
「μ'sの中では、衣装も含めて少しタイプが違いまよね?振り付けも可愛らしくて、全体的にフェミニンな感じで」
「えぇ。実は私たち、一旦はラブライブの出場を諦めて、活動も休止したことがあったんです。ですが『もう一回頑張りましょう!』っていうことになり、合宿をして…その時にみんなでアイデアを出し合って作ったのが、あの曲なんです」
「それが凄いよね?私とはるかなんて、2人で話し合っても、何も生まれないもんね?」
「ね?」
2人はそう言ってケラケラと笑った。
「それでですね、作詞は私がしたのですが…最初のタイトルは『ユメノツバサ』だったんです」
「えっ?」
つばさ、はるか、めぐみがそれぞれ驚きの声をあげた。
「はい。無意識だったんですが…。完成して、見直している時に気付きまして、慌てて修正したんです」
「別に『ユメノツバサ』でも良かったんじゃない?」
「いえ、さすがにそういうワケには。それに『片仮名表記』で『ツバサ』としたならば『綺羅ツバサ』の名前がどうしても出てきてしまいますし」
「あぁ、それは確かにそうかも」
つばさはそれを聴いて笑った。
「ライバルですものね、A-RISEは」
「はい、はるかさん、その通りです。…ですから、昨日、夢野つばささんとお会いしたときは、ただならぬ『縁』のようなものを感じたのです」
「『縁』?」
「はい。先程、お二人がμ'sの事を語ってくださいましたが、当然ながら私もの皆様のことはよく存じております。特につばさんは、モデル時代から活躍されてらっしゃって」
「それほどでも…」
「一緒にモデルでコンビを組まれていた『浅倉さくら』さんが、私の友人の『南ことり』の遠縁だとのことで、まことに勝手ながら、私も身内のひとりみたいなつもりで見ておりまして」
「そうなんだってね。私もさくらからその話は聴いたわ。会ったことはないけど…って」
「そんなこともあって『AYA』さんが『夢野つばさ』さんになった時は本当にびっくりしましたし、そのインパクトが私の心の奥底にあったんだと思います。だから、無意識のうちに曲のタイトルに」
「うふっ…光栄ね」
「そんな方とまさか、こういう形でお逢いできるとは思っておりませんでした」
「へぇ…あるんだねぇ、そういうこと」
「運命っていうのかな?」
はるかとめぐみは、ちょっと大袈裟に騒ぎ立てた。
「どうなんでしょうか…。実は、もうひとつございまして…。こちらはいささか『こじつけ』ではあるのですが」
「はい?」
「私は非公式ではありますが『東條希』と『星空凛』と3人で『リリー ホワイト』というユニットを組んでいたのですが」
「リリーホワイト?」
「はい。それで高野さんのお名前が『梨里(りさと)』さん…あだ名が『リリ』と呼ばれているとお聴きしまして」
「『リリー』と『リリ』…。面白いわね」
「それはさすがに…こじつけだろ?」
と高野は笑った。
しかし、内心…
…いや、これが本当に運命で、そんな理由がオレたちを引き寄せたとしたら…
…親父、何者なんだ?って話だよ!…
…ってことは、彼女がオレの運命の人?…
20年間明かされていない自分の名前の由来に、常々疑問を持っていた高野。
そんなバカと思いつつ、もしかして…と、一瞬心が揺らいだのだった。
~つづく~