【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
園田海未に非はない。
それは普通に考えればわかること。
彼女はただ、信号待ちをしていただけだった。
そこに車が突っ込んできて…事故に巻き込まれた。
唯一、落ち度があったとすれば…その車を、自分自身の力で避けきれなかったことである。
しかし、それさえも、非難の対象にはあたらない。
その局面に陥れば、誰にでも起こりうることである。
彼女の不幸は、その場に居合わせたのが『高野梨里』であったこと。
そして、自身が『園田海未』であったこと…。
この2点だ。
マスコミは海未の名前について、一切報道していない。
「…ほか1名が、手や足に掠り傷を負いましたが、命に別条はないとのことで…」
ニュースとして流れてきた文言は、概ね、こんな感じである。
名前どころか、性別すら報じていない。
それでも、彼女の名前が広まったのは…
現場に海未を知る者がいたからである。
強いて、もうひとつ海未の『不運』を挙げるとするならば、この者がμ'sの『コアなファン』だった…と思われることだ。
日本国内、老若男女、μ'sの名前を『聞いたことある、ない』で言えば、前者の方が多いだろう。
ただし、メンバーの顔と名前まで認識している人は少ない。
現役でないこと…活動時期があまりに短かったこと…そして人数が多かったこと…それらが主な理由だ。
高野も綾乃に、初めて海未の名前を聴かされたとき
「人数が多くて、顔と名前が一致しない」
と言っていた。
解散から3年余りが経ち(ネット上ではいまだに人気が高いとはいえ)あの状況で瞬時に彼女を『園田海未』だと断定できる者は、知人かファンか、そのどちらかしかいないだろう。
その者が、何を意図してそうしたのかはわからない。
恐らくは、ただ単に『報告』しただけだと思われる。
たまたま事故を目撃したら、そこにいたのが元μ'sの園田海未だった。
それだけの理由。
悪気もなく「有名人(あの、μ'sの園田海未)を見つけた!」みたいなノリで載せたのだろう。
『報告』が妥当でなければ『自慢』かも知れない。
それが『普通の状況』であれば、まだ許されるだろうが、事故の被害者であることを考えれば、あまりに非常識な行動と言えた。
しかし、その『報告』は瞬く間に拡散する。
そして広まっていくうちに『男と一緒に運ばれた』という『事実』が、根も葉もない噂…デマとなり、そのスピードは加速していった。
まず『高野と一緒にいた』あるいは『彼女のせいで高野が犠牲になった』ということで、彼のファンが海未を責め立てた。
もちろん、当人同士はまったく面識はなかったのだが『一緒に運ばれた』という情報が、勝手に『付き合っている』と『変換』され、その印象だけがひとり歩きする。
ファンというものは、仮に自分の応援する対象に非があったとしても、素直に認めたくないものだ。
つまり、この場合、怒りの矛先は『この大事な時期に高野と付き合っている、空気の読めない』海未へと向けられたのだ。
事実無根である。
しかし、一度、付いたレッテルは剥がれない。
いつの間にか、2人はカップルにされていた。
海未への攻撃に『アンチ海未』が便乗。
μ'sのファンの中でも、いわゆる推しメンはそれぞれ違う。
海未に好意をもっていなかった者たちが、ここぞとばかりに、彼女のマイナス面を書き込んでいった。
それも、この事故とはまったく関係のないことで…。
逆に『アンチ高野』は、この時期に女と一緒に歩いているヤツが悪い…自業自得だと反論し、これに同調する形で、μ'sや海未のファンが、高野が『海未を奪った』と悪人のごとく騒ぎ立てる。
また、μ'sのメンバーの中では一番『清廉潔白』のイメージが強かった海未に『男の影』が見えたことに対して、幻滅するファンの声もあった。
すでにスクールアイドルでもなく、成人である海未が、誰と付き合おうと、一般人には関係ないハズなのだが、熱烈なファンというのはそうではないのだろう。
『裏切られた』などの言葉が並ぶ。
それだけならまだマシだ。
中には2人の殺害を仄(ほの)めかす記述もあった。
昔から『恋の病は盲目』などというが、熱心なファンと狂信的なファンとは紙一重だ。
実際にファンというよりストーカーと呼ぶべき輩(やから)が、予告通り…あるいはゲリラ的に傷害罪や殺人未遂を犯しているのだから、看過できない。
海未も
「極力、ひとりでは出歩かないように…」
と『にこ』から助言を受けていた。
いずれにしても、現実世界で起きたことと、ネット上で語られていることは、事実と大きく乖離している。
大半は、それが誤った情報だと冷静に判断していた。
だが、そんな不毛なやりとりに眉をひそめながらも、それを真剣に正そうとする者はいない。
下手に関われば、逆に執拗に叩かれる。
我、関せず…。
それが今の世の中、一番無難な過ごし方であると言えた。
こうして、この事故をキッカケにした『高野ファン』『アンチ高野』『海未ファン』『アンチ海未』が入り乱れての誹謗・中傷バトルが始まったのだ…。
~つづく~