【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「μ'sは永遠に私たちのライバル」
シルフィードと対談した際、A-RISEはそんな発言をしていた。
それがこの騒動の発端だ。
当初はA-RISEのファンも
「彼女たちが言うなら、そうなのだろう」
と受け止めていた。
反対にμ'sのファンは
「ずっとそう思っていてくれて嬉しい。ファンとして誇りに思う」
と好意的だった。
ところが…
『μ's再結成希望』の話題が出てきてから、にわかに情勢が変わる。
μ'sのファンがA-RISEを叩くようになったのだ。
その根拠はやはり、μ'sが『ラブライブ!』で初優勝を飾った時に、予選でA-RISEを破ったことにある。
「μ'sが現役であったなら、今のA-RISEはない!実力差は歴然!早く消えろ!」
などと攻撃を開始した。
これに対して
「μ'sはただメンバーが多いだけ。3倍の人数でようやくA-RISEと対等…もしくはそれ以下」
とA-RISEファンが反論。
さらに
「『永遠にライバル』って言葉は社交辞令だ」
と続けた。
実際はもっと口汚い言葉で互いを罵っているのだが、ここでは省略する。
ファン同士が『代理戦争』を名乗って、激しくやりあってる様に
「まったく、迷惑な話だわ。私たちを勝手に巻き込まないでほしい…」
とツバサは嘆き、ひとつ大きな溜め息をついた。
「なるべく見ないようにしているので、細かいところまではわからないのですが…かなり、大変なことになっているのですね…」
と海未も困惑した顔だ。
「私たちもそれは同じだ。下手に反応しない方がいい。所詮、落書きにしか過ぎないのだから」
「でも、ちょっと度が過ぎるわね…」
英玲奈もあんじゅも『頭が痛い』…そんな感じだ。
「そうですね…私やメンバーはまだしも…雪穂や亜里沙の話題まで出てくるはのは、頂けませんね…」
「完全にプライバシーの侵害ですよ!」
「法的手段に出た方が…」
「でもね、萌絵、かのん…まだ実害が出てる訳じゃないから、それはなかなか難しいかも」
「でも、綾乃さん!」
「実害が出てからじゃ遅いですよ!」
「それはわかってるけど…」
「まずは私たちから発信してみるわ」
「ツバサさん!?」
「仕掛けたのはμ'sのファンかも知れないけど、私たちのファンも張り合っちゃってるしね…」
「私はファンと呼ぶのに抵抗があるが」
「中には、便乗して騒ぎたいだけの人もいるかもね。でも、私たちじゃその区別はつかないし」
「あぁ…それはそうだが…」
「私たちも何ができるか、専門家に相談してみるわ」
「綾乃さん…ご迷惑をお掛けします」
「やっぱり、看過できないもの。梨里も海未さんも物騒な言葉で脅されて…それがμ'sやA-RISEにまで波及してる…。明日は我が身だし」
「えっ?」
「たぶん私もオリンピックで結果が出せなかったら『やられる』わ。他の代表選手以上に…ね」
「綾乃さん…」
「まぁ、そうならないように戦ってくるつもりだけど…。それより、この件は…著しい誹謗・中傷は管理者に頼んで削除してもらうとかしないと」
「そうですね。私たちも関係者を当たってみます」
「はい」
かのんと萌絵が、綾乃の言葉に呼応した。
「…ところで…」
と切り出したのはツバサ。
「はい、なんでしょう?」
「μ'sの復活は、本当にないのかしら?」
「えっ!?」
驚きの声をあげたのは海未だけではなかった。
英玲奈もあんじゅも…シルフィードの3人も、質問主の顔を一斉に見た。
「それ、今、訊いちゃいますか?私はさっき、そうしたかったのをグッと堪えたんですけど…」
と苦笑いしながら萌絵。
「だって、こんな機会は滅多にないでしょ?今すぐ『どうこう』はなくても将来的にありえる話なのかは、気になるじゃない」
「異論はありませんが…ということで、どうなんでしょう?海未さん…」
「ツバサさん、萌絵さん…私ひとりの判断で回答するのどうかと思いますが…限りなくその可能性はないかと…」
「そう…残念ね…」
「すみません…」
「でも、寂しくなったりしないですか?あれだけのパフォーマンスをして、あれだけの歓声や拍手を受けて…スパッとやめられるものなんですか?」
萌絵の問いに、海未は困った顔をして、返答に窮した。
「それは…その…」
「すぐに否定しないということは、無いわけでは、ないのだな?」
海未の様子を見て、英玲奈が訊く。
「…はい。未練のようなものはありませんが…皆さんが活躍している姿を見ると『あぁ、私もこういうことをしていたのですね…』と思うことはあります」
「それは園田さんだけなのか?」
「どうなのでしょう…」
しばし考える海未。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「メンバーひとりひとりが、今現在どう思っているかはわかりません。なぜかと言いますと…私たちは、わりと頻繁に集まるのですが、一切、そのことには触れないからです」
「そうなのか?」
「意識的に『避けている』のかも知れません」
「避けている?」
「μ's…はみんな納得して解散したのですから『仮に誰かの胸にそういう気持ちがあった』としても…今さら、蒸し返すようなことは…」
「その件なんだけど…」
とツバサ。
「はい?」
「『9人じゃなければ意味がない』ってμ'sを解散したでしょ?それは私も納得しているの。…でも、そのあとも『スクールアイドルは続ける』んじゃなかったのかしら?あなたたちが不仲になった…とは思ってないけど、どうして活動をやめてしまったのかと」
「確かに…それは私も気になってました。μ'sの名前は使わなくても、6人で続けることはできたと思うし…」
「…そうですね…みなさんにならお話ししても良いかとは思いますが…でも今日は『夢野つばささんの壮行会』だったかと。私たちのことなど…」
「あら、私は全然構わないわよ。むしろ、これまで謎だったことをスッキリさせてくれた方が、気持ち良くオリンピックに行けるから」
「綾乃さん…」
「ふふふ…なぁんてね!言えないような話なら、無理には訊かないけど」
「大丈夫ですよ!週刊誌に売ったりはしませんから」
「こらこら…」
萌絵の言葉に全員が突っ込んだ。
「ツバサなんて、フッとした瞬間に『そういえば高坂さんは元気かしら』とか言うんだ。どうやら何年もの間、気になって気になって仕方がないらしい」
「え、英玲奈!な、なにを突然言い出すのよ!」
「恥ずかしがらなくてもいい。事実を言ったまでだ」
「穂乃果ですか?相変わらず…ですよ。天真爛漫といいますか…一向に大人になりません」
「そ、そう…相変わらずなのね。少し安心したわ」
「たまには連絡するように伝えましょうか?」
「い、いや…それには及ばないわ…」
「ごめんなさい。悪気はないのですが…みんな各々『ラブライブ』『μ's』から離れた生活をしているもので…決して不義理をしているつもりはなく…」
「それは理解してるわ。だから、こちらからも連絡はしてないし…」
「でも矢澤さんからは、大きなイベントの時には必ず花を頂くんだ。『毎回、毎回ありがとう』と、今度会ったら伝えてくれないか?」
英玲奈の言葉に、海未は少し驚いた表情をした。
…にこ…
…いまだにA-RISEを…
…ひょっとしたら、自分の諦めた夢をこの人たちに託したのかもしれませんね…
「承知しました。伝えておきます」
「矢澤さんは…ミュージカルの道に進んだ…と聴いたけど…」
「はい、にこだけですね。そちらの世界に進んだのは…」
「芸名は…確か…」
「『小庭 沙弥(こにわ さや)』です」
「『こにわ さや?』…ひょっとして…」
「逆から呼んだら『やさわ にこ』…ですね?」
「萌絵さん、正解です!」
「なるほど、彼女らしいわ。自己プロデュース能力が長けている」
ツバサは大納得といった面持ちで、ふふふと笑った。
「自己顕示欲の塊みたいな人ですから」
思わず海未も笑う。
「だが、私は彼女のプロ意識の高さは素晴らしいと思っている」
「英玲奈さん、ありがとうございます。にこにとってA-RISEの皆さんは憧れの存在でしたから…きっと喜ぶと思いますよ。あっ!そう言えば…初舞台が決まったと言ってました。端役だけど…と」
「そう。じゃあ、今度は私たちがお花を贈らないと…。あ、ダメよ、ちゃんと内緒にしておいてくれなきゃ」
「あんじゅさん…」
「それくらいのお返しはしないと…ね?」
「はい。ありがとうございます」
「だけど、どうしてわざわざ芸名にしたんですか?『矢澤にこ』の方が全然ネームバリューがあると思うんですけど」
「萌絵はわかってないなぁ!なんとかの七光り…じゃないけど、要はμ'sの名前に縋(すが)りたくなかった…ってことでしょ?」
「そうですね。にこはああ見えて、大変しっかりしていますので…単体でアイドルになることは厳しいと判断して、ミュージカル俳優の道を選んだのです。さりげなく自分を『矢澤にこ』だとアピールしているところは、彼女らしいといえば彼女らしいのですが…。その一方で、セカンドキャリアのこともちゃんと考えているようですし、穂乃果などと比べればよっぽど…ハッ!すみません…つい、いつものクセで愚痴を…」
「いえいえ『素』の海未さんが見れて嬉しいですよ」
「お恥ずかしい…。あ、いえ、で、ですから…にこは本当にイチから頑張っていますので、何卒、応援のほどを…」
「わかったわ」
「絶対に舞台、観に行きます!」
「はい。お願いします!」
海未が深々と頭を下げる。
「解散してもμ'sはμ's。絆は強いわね…。ネットで流れてる不仲説なんて、問題外ね」
綾乃の言葉に全員が頷いた。
「海未さん…やっぱり『元μ's』って看板は重かったですか?」
訊いたのは、かのん。
6人は食べることも飲むことも忘れて、すっかり話に夢中になっていた。
「私たちはともかく…にこ、絵里、希の3人は大変だったみたいです。高校を卒業してそれぞれ、専門生、大学生、社会人となったわけですが、最初はどこに行っても、何をしても注目されるというか…そういうことは多々あったと」
「…ですよね…」
「それに比べれば、私たちの学年は卒業までに1年、下の学年は2年空きましたので、そこまでの苦労…といいますか…そういうものは少なかったかと…」
「上手くフェイドアウトできた?」
「いえ、あんじゅさん…そうは言っても、知ってる方、わかる方はいらっしゃいますので、まったくゼロでは…」
「『歌って!』とか言われたりするでしょ?」
「…はい…。丁重にお断りさせて戴きますが…」
「歌っちゃえばいいのに!」
「無理です、無理です!とても人前で歌うなど…」
「そうですよね、人前で歌うなんて無理に決まってます…って、やってたじゃないですか!」
萌絵が関西仕込みのノリツッコミで、周囲を笑わせる。
「ですから…μ'sの活動時期だけが、特別…異常な状態だったんです。違う人格だった…と言ってもよいです。…にこは別としても…他のメンバーは『アイドル』になろうなんて、誰ひとり考えていなかったのですから」
「それがアイドル活動を続けなかった理由?」
とツバサ。
「全てではありませんが、一部ではあるかと思います…」
「じゃあ、他にも理由が?」
「はい…」
ツバサの再度の問い掛けに、海未は小さく頷いた…。
~つづく~