【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
『夢野つばさの壮行会』というよりは『園田海未と語る会』となった7人の会食は、2時間ほどでお開きになった。
最後は年頃の女子らしく「○○のブランドのファションが可愛いよ」とか「○○のスイーツが美味しい」などの話題になり、和やかな雰囲気で終了した。
ただ、海未には少し、縁遠い話ではあった。
大学生になっても、海未のスリムなプロポーションは健在で…その辺りは女性として、自分自身かなり意識しているところであるが…こと、服装に関してはあまり興味がない。
どうしても、地味目で実用的で…なおかつ安いもの…を選んでしまう。
従って彼女たちの語る『華やかな』話は、海未にとって異世界のことと等しかった。
海未自身は(本人にそのつもりはないが)良家のお嬢様であり、望めば贅沢な生活はいくらでもできるハズだ。
しかし、海未の性格上それを許さず、慎ましく暮らしている。
シルフィードやA-RISEがいくら稼いでいるのか、海未には知るよしも無かったが…自分がこの世界に入ったら、果たして、どんな生活になるのだろうか…などと考えながら話を聴いていた。
会計は
「主役と大学生とゲストに出させる訳にはいかないから…」
とアクアスターが支払い、7人は地上へと出た。
黒い雲が、月を隠している。
もっとも都心のビル群の中にいると、月が出ていようと出ていまいと、明るさはさほど気にならない。
心配するのは傘がいるか否かである。
「ひと雨来そうね…」
一番先にいたツバサが、空を見上げてポツリと呟いた。
「店に着いたときには、そんな感じではなかったがな」
「でも少しは降った方がいいんじゃない?乾燥しすぎでノドがやられるわ」
英玲奈とあんじゅは手の平を上に向け、雨の様子を確認する。
「今年もカラ梅雨で水不足って言いますし」
「でも、ゲリラ豪雨はごめんかな…」
「なんで降ってほしいとこに降らないんだろうね…」
かのん、萌絵、綾乃も空を見上げた。
「そうかと思えば、私の田舎は豪雨で田んぼが全滅したって…」
「そっか…かのんは秋田出身だもんね」
「はい。今年は米不足になるかもしれませんよ」
「そうなんだ!それは大問題なんだ!さぞかし小泉さんも心配していることだろう…」
「えっ?」
「花陽…ですか?」
「あっ、すまん。小泉さんは関係ない。米が不足するというのは、ゆゆしき問題だ…と言っただけだ」
シルフィードの3人も…そして海未も、彼女が『利き米コンテストに出場した』ことは知っているので「それはそうか…」という顔をした。
しかし、ツバサとあんじゅは「ふふふ…」と笑っている。
「何がおかしい?」
と不満げに英玲奈。
「英玲奈が本当に気にしているのは、お米よりも小泉さんのことでしょ?」
「あ、あんじゅ!」
「えぇっ!?」
海未はその言葉を聴いて、目を丸くした。
「あら園田さんもわりとニブいのね?英玲奈がずっと小泉さんが好きだったこと、気付いていなかった?」
「ツバサ、余計なことを!」
「さっきのお返し。英玲奈だって『高坂さんのことが…』って言ってくれたじゃない」
「くっ…」
返す言葉がない。
「英玲奈は初めて小泉さんを見た時から…彼女にしたい…って思ってたのよね?」
「いや、あんじゅ!それは語弊がある!『もし私が男だったとして彼女にするならば…』という話だ」
「似たようなものじゃない…」
「全然違う!」
「だけど私が『小泉さんて可愛いわね。食べちゃおうかな…』って言ったら、物凄い剣幕で怒ったじゃない」
「当たり前だ!あのような純粋な人を、あんじゅのような淫靡な者に、弄ばれるようなことがあってはならないのであって…」
「冗談に決まってるでしょ?」
「あんじゅのそういう話は冗談に聴こえない」
「そう?…だから、あの時『好きだ』って言っちゃえば良かったのに!」
「あの時…とは?」
「えぇ、園田さん。私たちが音ノ木坂に押し掛けて、ラストライブの準備をさせてもらった時よ」
「それはまた、随分前のことですね…」
「その時は小泉さんと南さんの仲が、あまりに良すぎて、英玲奈の入る隙がなかったんだけど…」
「…結構、ガチな話なんだね…」
「…だね…」
萌絵とかのんは、笑いながら一歩後ずさりをした。
「ほら、このようにあらぬ誤解を生むではないか」
「別にいいんじゃない?事実なんだから」
「ツバサ!」
「そうですか…英玲奈さんは花陽のことを…」
と言った海未の口元は、少し緩んでいた。
「園田さんまで、私をバカにしているのか」
「あのね…小泉さんが撮ったPVを、私たちのディレクターに『売り込んだ』のは、英玲奈なのよ」
とツバサがシルフィードの3人に説明した。
「A-RISEが橋渡しした…っていうのは知っていましたけど…」
「売り込んだっていうのは…」
「良いものは良い!そう思っただけだ。特別、彼女が作ったからだとか…そういう理由ではない!」
「でも、ずっとチェックしてたでしょ?小泉さんのこと」
「あ、いや、それは…私を負かして『初代お米クイーン』になった人だ。それはいつかリベンジすべく…」
「酷い言い訳だわ」
ツバサとあんじゅは呆れ顔をした。
「…英玲奈さんの気持ちはわかりますよ。私も危うく花陽に心を奪われそうになったことがありますから」
「園田さんが!?」
「はい。ですが…花陽を手に入れるのは、一筋縄ではいきませんよ!」
「手に入れる?」
「希も花陽のことを『ウチのお嫁さんになってや』と公言して憚(はばか)りませんし、さっき話に出たことりとは『花陽ちゃんはことりの大事な妹だもん!』と言っております。にこも負けじと『花陽は私の弟子だけど、妹でもあるの!。それに、こころたちのお姉さんなんだから!』と主張しております。あ…こころというのは、にこの実の妹なのですが…実際、花陽は彼女たちに大変慕われております」
「うひゃあ…花陽さん、恐るべし!」
「μ'sは花陽さんがいなければ、こうはなってなかったかも…って話は知ってるんですけど…なんか凄い人なんですね…」
萌絵とかのんは前のめりになって、海未の話を聴く。
「それと真姫は、親友として絶大な信頼を置いてますし、雪穂に至っては…姉の穂乃果よりも尊敬しています。あの絵里でさえも、花陽には助けられたと申してます。…この件については、私も詳細はわからないのですが…」
「ありゃあ…英玲奈さん、これはなかなかハードル高そうですね!?」
「からかうな!」
萌絵の一言に、英玲奈はそっぽを向いた。
「それ以外にも、花陽は3年時に生徒会長もしておりましたし…全国のスクールアイドルの取り纏めも行っておりましたので、後輩…もしくは学校外からの人気も高く…」
「それは知っている…」
「なんか、小泉さんがその気になれば、政党が出来そうな話ね…」
ツバサが呟く。
「あ、言い忘れましたが…星空 凛という最難関がいることをご承知おきください」
「もちろん、それもよく知っている…」
「どうする?ライバル多すぎじゃない?」
「あんじゅ、何をどうすると言うのだ?別にどうもしない。小泉さんなら、それだけの人望があって当然だ」
「…そうね…。じゃあ、今度、小泉さんに会ったら、英玲奈も好きだって言ってた…って伝えといて」
「かしこまりました」
「園田さん、あんじゅの言うことを真(ま)に受けないでくれ」
英玲奈は泣きそうな声で言った。
「そう言えば…さっき海未さんも『心を奪われそうになった』って言ってたけど…」
と、これまで黙ってそのやりとりを楽しんでいた、綾乃が訊く。
「えっ?あ、それはですね…おや、あれは…」
海未が説明をしようとした時、彼女たちの目の前に黒塗りの車が、音もなく停まった。
A-RISEがチャーターしたハイヤーだった。
「残念ね。どうやら時間みたい…」
「あ、あぁ…」
「園田さん、その話の続きはまた今度聴かせてね?」
「は、はい…」
「じゃあ、私たちはこれで…今日は色々楽しかったわ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
そう言って綾乃は深々と頭を下げた。
「オリンピック…頑張ってね!」
「検討を祈る!」
「期待してるわ」
綾乃と握手を交わすA-RISE。
シルフィードと海未にも別れを告げると、3人はハイヤーに乗り込んだ。
車が走り出す。
窓から出た手は、見えなくなるまで、ずっと振られていた…。
~つづく~