【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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穂むらの跡取り

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「海未ちゃん、お帰り!」

 

「お疲れ~」

 

 

 

園田海未は、高野梨里を見舞ったあと『穂むら』へと立ち寄った。

 

穂むらは…言わずと知れた『高坂穂乃果』の実家である。

 

 

 

海未はここに住んでいる訳ではない。

 

故に「ただいま戻りました」という表現は、正確ではない。

 

だが自宅を出て、ここに寄ってから病院に行った…という道筋を考えれば、確かにそういう言葉になる。

 

だから穂乃果も「お帰り!」と返事をしたのだった。

 

 

 

μ'sが、解散して4年余りが過ぎた。

 

 

 

メンバーはそれぞれの道を歩み、全員が一同に会することは、多くない。

 

それでも、穂乃果が家にいるときは、なにかしら理由を付けて、みんなここにくる。

 

穂乃果がいない時は、隣の部屋…雪穂の部屋で寛ぐメンバーさえいる。

 

 

 

彼女たちにとって、自宅以上にリラックスできる場所。

 

それが穂むらの2階であった。

 

 

 

この日は部屋の主以外に、もうひとりいた。

 

 

 

『矢澤にこ』。

 

 

 

にこは高校を卒業後、調理師の専門学校に進んだ。

 

そして在学中に調理師免許や、管理栄養士など数種類の資格を取得する。

 

にこ曰く「芸能活動をする為の『付加価値』」とのこと。

 

 

 

「色々なスキルを身に付けておけば、どこかしらで、なんかしらに引っ掛かるでしょ!」

 

 

 

加えて…『セカンドキャリア』…将来を見据えて『手に職』を付けておくことが必要…そういう判断もあったようだ。

 

 

 

今は

「二十歳を過ぎて『にっこにっこに~』が通じるほど、アイドルの世界は甘くない!」

…とのことで、劇団に入り、ミュージカル俳優を目指して稽古に励んでいる。

 

芸名は『小庭 沙弥』という。

 

近々、端役ではあるが『初めてのステージ』が決まったと、メンバーに告げていた。

 

 

 

彼女は他のメンバーに比べて、わりと頻繁に穂むらを訪れている。

 

劇団の活動と平行して、穂乃果の父から、和菓子作りのイロハを学んでいるのである。

 

穂乃果の母は

「どっちが跡取りなのかしら」

と、自分の娘に向かって、よく嘆いているらしい。

 

 

 

実はこの日も、その勉強をしに、ここに来ており…穂乃果と一緒に海未の帰りを待っていたのだった。

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

帰ってきた海未に、穂乃果が訊いた。

 

 

 

海未はどのような顔をして見舞いに行ったらよいか、悩んでいた。

 

 

 

高野梨里の意識が戻るまでは、ただひたすら、彼の回復を祈っていた。

 

食事も喉に通らず、眠ることすらできないでいた。

 

自分が原因で、相手は大怪我をしてしまった。

それも、オリンピックを目前に控えたサッカー選手。

 

海未の性格上、自分を追い詰めてしまうのは、仕方のないことだった。

 

 

 

だからと言って、他のメンバーも海未に掛ける言葉がない。

 

彼女たちもまた、意識が戻るのを祈ることしかできないでいた。

 

 

 

その想いが通じたのか、梨里の両親から、吉報が届く。

 

事故から3日目のことだった。

 

 

 

しかし、喜びも束の間…新な悩みが襲ってきた。

 

 

 

それは梨里に対して、どのように接したらよいのか…ということ。

 

 

 

助けてもらったことに関しては、誠心誠意、感謝の意を伝える…それは、問題ない。

 

しかし、彼は受け入れてくれるだろうか。

 

不可抗力とはいえ、私がそこにいなければ、こんなことにはならなかった…。

 

なぜ、あの時、すぐに避けられなかったのだろうか…という、自戒の念が、海未を苦しめていた。

 

 

 

怪我については全治6ヶ月と聴いた。

 

他の人ならともかく、自分の口からは安易に「頑張って治してください」などとは言えない。

 

 

 

それでも、穂乃果に

「行くしかないよ。行って、正直に、今の気持ちを伝えよう!」

と励まされ、ようやく出掛ける決意をしたのだった。

 

 

 

 

 

「…お見舞いに行ったつもりでしたが…逆に勇気付けられて帰ってきました」

 

「ん?」

 

「高野さん、私を責めるようなことは、一切しませんでした」

 

「そりゃあ、そうよ。海未は悪くないもの」

 

「…はい。ですが、普通は面会拒否をされてもおかしくない状況の中、嫌な顔もせず…ときどき冗談を交えて、私に負担を掛けまいと、明るく振る舞って頂き…」

 

「へぇ…出来た人だねぇ」

 

「はい、とても優しい方でした。怪我したこと、オリンピックに出られないこと…諸々、相当ショックがあるハズなのです。しかし、逆に私の今後のことを心配して下さり…」

 

「それって…」

穂乃果もにこも、なにかを悟ったようだ。

 

 

 

ふたりとも、海未の名前がネットを中心に広まっているのを知っている。

 

梨里が指摘した通り、そのほとんどがネガティブなカキコミだ。

 

 

 

 

>お前がそこにいなければ、梨里さんはあんなことにはならなかったんだよ!

>隣にいた…って、付き合ってるのかよ!

>梨里さんを利用した売名行為か!?

>どう責任取るんだよ!!

 

 

 

 

「『強い気持ちを持ってほしい』…そう言ってくださいました」

 

「うん、海未ちゃん、その通り!だって海未ちゃんは悪くないんだもん」

 

「そう、そう!気にしない、気にしない!『人の噂も四十九日』って言うしね」

 

「にこ、それを言うなら『七十五日』です」

 

「…うっ!…れ、冷静じゃない…。まぁ、今の世の中、匿名をいいことに、あることないこと、好き勝手に書くから…気にしてたらキリがないわよ」

にこは『かつての自分』を棚にあげ、海未にそう言った。

 

「はい。とにかく、ふたりとも、とても良い方でした」

 

「ふたりとも?」

 

「もうひとりって誰よ?」

 

「あら、言いませんでしたっけ?高野さんの病室に、つばささんがいたんです」

 

「つばさ…って、A-RISEの『綺羅ツバサ』?」

 

「いえ…『シルフィード』の『夢野つばさ』さんです」

 

 

 

「え~っ!!」

 

 

 

穂乃果とにこは、揃って大きな声で驚いた…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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