【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
〉さて、そのSさんであるが…ネット上では、わりと早い段階から、高野梨里と一緒に事故に巻き込まれたことは話題になっていた。
〉そのSさんの名前が検索ワード等で急浮上したことにより、彼女たちのファンから、アイドル活動再開希望の声が増えている。元々、そういう話がなかった訳ではないが、これを機に爆発したようだ。
〉そこで、元メンバーに直接取材を申込み、彼女たちの今と、ユニット復活の可能性を探ってみた。
〉まずはM'sのリーダーで、現在は都内の大学に通う『Kさん(20)』。
〉実家が和菓子店というのはファンには有名な話で、ここは『聖地』と呼ばれている場所のひとつとなっている。
〉Kさんは、たまに店頭に立つこともあるらしい。明るく屈託のない笑顔は今も健在で、彼女逢いたさに訪れる客も少なくないという。
〉我々は、そんな彼女の通学中に遭遇し、取材を申し込んだ。当時と比べ、かなりふっくらとしたように見える。
〉人懐っこい微笑みで我々に挨拶してくれた彼女であったが、アイドル活動の再開について話を向けると「すみません。急いでいますので…」と丁寧に一礼して、その場から去ってしまった。
〉大学の同級生によると、普段はムードメーカー的役割で、周囲にはいつも仲間がいるという彼女だが、スクールアイドル時代の話はしたことがないという。
〉現在はマスコミ関係の制作に携わりたいと、就活中のKさん。彼女のポテンシャルなら、裏方ではなく、華やかな表舞台の方が良く似合うと思うのだが…。
「う~…『かなりふっくら』したとか…あんまりだよ~』
穂乃果が大きな声で叫ぶ。
高野梨里がベッドで週刊 新文の記事を読んでいるのと、時を同じくしてμ'sのメンバーも、ここ…穂乃果の部屋…に集まって、それを見ていた。
「まぁ、そこは間違ってないから、仕方ないにゃ~」
「そんなに太ってないよ~」
「それは穂乃果ちゃんが認めてないだけにゃ」
「いやいや、そんなことないって」
「あるわよ。私たちが忠告してるにも関わらず、全然言うことを聞かないんだもの。まぁ、もうアイドルじゃないんだし、私たちには関係ないことだけど」
真姫は少し冷ややかな目で、穂乃果を見る。
「そんなに変わったかな?体重だって少ししか増えてないんだけど」
「毎日見ていれば、わからないかもしれないけど、久々に見ると一目瞭然なのだと思うわ」
絵里の言葉も手厳しい。
「だって、高校卒業してから、まともに運動らしい運動してないだもん」
「それを『自堕落』っていうのよ」
「うぅ…にこちゃんまで海未ちゃんみたいなことを…」
穂乃果はすがるような目でことりを見たが、彼女は「うふふ…」と笑って、それを受け流した。
「そ、それにしても…訊かれてもいないことまで、よく書くよねぇ。穂乃果は、一言も就活の話なんてしてないのに」
形勢が不利と知った穂乃果は、慌てて話題を変える。
「確かに。そのリサーチ力と、それを『さも聴いたかのように』書く能力は大したものね…」
真姫は皮肉たっぷりに、呟いた。
「次は凛のことが書いてあるにゃ」
集まったメンバーは、その先の記事を読む。
〉続いて直撃したのは小柄ながら、バツグンの運動神経で人気を博した『Hさん(19)』。現在は専門学校に通っている。
〉授業終わりに訪ねたのだが…記者は彼女の外見が変わっていなかったことに、まず驚いた。話し方こそ、大人っぽさを感じたものの、髪型含め、見た目はまったく同じで、恐らく当時の写真と比べても遜色ないであろう。
〉我々の取材に対し、落ち着いて受け答えしてくれたものの、アイドル活動再開について話を振ると「そのことについてはノーコメントで…」と、口を閉ざしてしまった。
〉噂によると彼女には、付き合っている男性がいるとのこと。同じ専門学校に通うイケメンらしいが、その件についても顔を赤らめながら「ノーコメントです」と、答えてもらえなかった。
〉これは全員に言えることだが、今は一般人として生活している元メンバーたち。彼女たちのルックスを見れば、男性が声を掛けない方がおかしいというものだ。彼氏のひとりやふたりいたとしても、全然不思議ではない。
〉それはさておき、スポーツクラブのインストラクターを目指して勉強中だという彼女。キレキレのダンスを貴方が直接教わる日も、そう遠くないと思われる。
〉もしかしたら、その時に、恋のチャンスが貴方にも訪れるかも知れない。
「にゃ~!凛は『何にも変わってない』…って書かれてる…。これは誉められてるのかにゃ?」
「そうだと思うよ」
ことりはニッコリと微笑んだ。
「う~ん…」
「どうしたの?」
「だって、ことりちゃん!凛はもうすぐ二十歳だよ!大人っぽく、女っぽくなりたいのに…まるで成長してないみたいな書かれ方にゃ…」
「いいじゃん!穂乃果みたいに太ったとか言われるよりは」
「それはどうでもいいにゃ」
「うぅ…」
凛の『にべもない』一言に、穂乃果は撃沈した。
「まぁ、老けたとか言われるよりは、格段にいいんじゃないかしら。それに、私たちから見ても、凛は凛のままだし」
「私もそう思う。凛がどういう女性を目指しているのかわからないけど…」
「真姫ちゃん、絵里ちゃん…。凛の理想は、やっぱり『かよちん』なんだにゃ…。凛も誰からも愛される人になりたいにゃ」
「アンタには無理よ。花陽の『愛され力』は天性のものなんだから」
「そんなことは言われなくても、凛が一番知ってるにゃ!」
「そりゃ、そうね…」
にこは愚問だったと、納得した。
「それでどうなの?彼氏とはうまくいってるの?」
真姫の問いに、そこにいるメンバー全員が、興味津々で凛を見る。
「にゃ!?彼氏?」
凛の顔が瞬く間に、真っ赤になった。
「アタシたちに、全っ然、報告がないじゃない」
「にゃ?にこちゃん…どうもこうも…まだ付き合って、そんなに経ってないし…」
「まさか凛ちゃんに彼氏ができるとはねぇ」
「あら、穂乃果。それは失礼よ」
「違うよ、絵里ちゃん。そういう意味じゃなくて…凛ちゃんは花陽ちゃん一筋だと思ってたから、まさか男の人と付き合うとは…って」
「それはそうだけど…」
「正直、凛も戸惑ってるにゃ。凛のこと『凄い好きだ』って言ってくれて…そんなに想ってくれてるなら、受け入れてもいいかな…って感じで…」
「一回、会ったことがあるけど、顔も悪くないし、優しそうな人だったし…何か不満でもある?」
「う~ん、真姫ちゃん…例えばだけど…彼はご飯を2杯しか食べないにゃ」
「えっ?」
「かよちんなら軽く4~5杯食べるから、なんか物足りないんだにゃ…」
「花陽と比較する!?」
と真姫。
言葉を発したのは彼女だが、そこにいた全員が同じことを思った。
「花陽ちゃんを基準にしたら、彼氏さんが可哀想かな…」
さすがに、ことりも苦笑する。
「そうよ、花陽に敵う相手なんて、フードファイターくらいなものよ」
にこも追従する。
「例えばって、言ったでしょ!」
「他には?」
「かよちんなら、凛が『あそこ行きたい』って言ったら『うん、いいよ』って言ってくれるけど、彼は『そこよりもこっちに行ってみよう!』とか言うにゃ」
「はぁ…それは凛、無理があるわよ」
「真姫ちゃん、どういうことにゃ?」
「凛の中から花陽を消さない限り、一生結婚なんてできないってこと…」
「え~!?凛から、かよちんを消すのなんてムリにゃ~」
「でしょ?だったら彼氏と花陽は分けて考えないと…」
「それはわかってる…にゃ…」
「まぁ、気持ちはわからなくないけど…。私も花陽がそばにいてくれないと、時々不安になるし。彼女はそこに存在するだけで、精神安定剤みたいな安らぎを与えてくれるから」
「真姫ちゃん…」
「でも…だから中途半端に付き合うのは、よくないと思うわ」
「…うぅ…」
「まぁ、凛の彼氏の事は、私たちがとやかくいうことじゃないけど…こういう事が記事になる…っていうのは、頭にくるわね。私たちはまだいいにしても、直接関係のない第三者のことを載せる…っていうのは…認められないわ」
絵里の憤りに、全員が大きく頷いた。
~つづく~
しばし夏休みを頂いておりました。
ボチボチ、再開します。