【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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新文のスクープ(その5)

 

 

 

〉さて、残念ながら今回、直接取材できなかったメンバーもいるので、近況だけでも伝えておこう。

 

〉グラマラスなボディと、すべてを許してくれそうな包容力が魅力の『Tさん(22)』は、高校卒業後、旅行会社に就職。入社後、企画グループに所属すると、パワースポットを巡るツアーなどを次々と立案し、同社の主力商品へと押し上げた。英語が堪能な彼女は、海外へと飛び出し、現地のコーディネートからアテンドまでをこなすという、多忙な日々を過ごしているようだ。

 

〉我々が取材に訪れた際も、南米に出張していた為、会うことはできなかった。

 

 

 

〉もうひとりは『K泉さん(19)』。

※前出のKさんと上も下もイニシャルが同じである為、ここでは『K泉』さんと表記する。

 

〉K泉さんは高校卒業後渡米し、現在は著名な音楽プロデューサーのもと、スタッフとして働いており、米国人歌手フランク=ゴーディッシュのPVを手掛けるなど、業界内外からも注目されている、新進気鋭の若手映像クリエイターだ。

 

〉K泉さんの渡米に関しては、あのA-RISEが橋渡したというのは、ファンには有名な話である。

 

〉日本には年に数回しか帰ってこないとのことで、Tさん同様国内におらず、やはりコメントを取ることはできなかった。

 

 

 

〉というわけで、彼女たちの近況をお伝えしてきたわけだが…

 

 

 

 

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

「にゃ?」

 

突然にこが怒鳴ったので、凛は朗読をやめた。

 

「『Yさん』の記述を飛ばさないでよ!」

 

「Yさんって誰にゃ?」

 

「矢澤のYよ!ヤ・ザ・ワ!決まってるじゃないの!!」

 

凛は目元をゴシゴシと腕で擦ったあと、目をパチクリとさせながら誌面を見直した。

 

「…ないにゃ…」

 

「はぁ?」

 

「Yさんの『ワ』の字も…」

 

「なに、バカなことを言ってるのよ!」

 

「ホントだってば…」

 

「ちょっと、貸しなさいよ!」

 

凛が言い終わるか終わらないうちに、にこは週刊誌を引ったくった。

 

 

 

そして…

 

 

 

「…」

 

 

 

「ね?」

 

 

 

「ぬわんでよっ!!」

 

「にこちゃんをオチに使うなんて、この記者、わかってるにゃ」

 

「アンタ、殺されたいわけ?」

 

「わ~!凛に怒らないでほしいにゃ!」

 

「き、きっと…ほら、にこちゃんは唯一芸能活動してる『有名人』だから、あえて紹介しなくても…って思ったんじゃないかな?」

と、必死にフォローすることり。

 

「うん、うん、それだ!きっとそうだ」

 

穂乃果がそれに同調するが、にこは納得しない。

 

「そもそも、にこは取材されたの?」

 

 

 

「…」

 

絵里のもっともな質問に、にこは黙りこんだ。

 

 

 

「それは載らなくても当たり前にゃ」

 

「いや、だからそれは…事務所に取材が…あぁ!!ムカつくわ。新文め!アタシをコケにするなんて、絶対に許さないんだから!」

 

「にこ、落ち着いて…」

 

「これは陰謀よ!アタシをこの世界から消し去る為、ライバルが仕掛けた陰謀なんだわ!そもそも、今、ここで、こんな記事が出ること自体、おかしいのよ!」

 

「それよ、それ!私たちのことはともかく、本題はそのことでしょ!」

 

「うっ!…まぁ…そうだけど…」

 

真姫にピシャッと言われて、にこは我に返る。

 

「ここから先に書いてあることが大事なんでしょ」

 

「わ、わかってるわよ…」

 

真姫はにこから週刊誌を取り上げると、朗読が途切れたところから読み返した。

 

 

 

 

 

〉というわけで、彼女たちの近況をお伝えしてきたわけだが、全員元気にしており、それぞれの分野でそれぞれの道を目指していることがわかった。ファンだった皆さんにとっては、まずはホッとしたことだろう。

 

〉だがしかし、取材を通じて気になったことがある。

 

〉それは誰もが、自分達が築いてきたスクールアイドル時代の歴史を『封印』していることにある。

 

〉彼女たちの周辺で「彼女たちがスクールアイドルをやっていた」と知っている人は、あまり多くはなかった。中にはネットなどで動画を何度も観ていたにも関わらず、目の前にいるのが『本人(同一人物)』だと知らない人もおり、記者がその旨を告げると「えっ!そうなんですか!」と驚きの声をあげることもあった。

 

〉もっとも「グループとしては知っているけど、個人名までは…」という話はわからなくもない。

 

 

 

〉では、どうして彼女たちは、華やかな過去を公開することに、拒否反応を示すのか。

 

 

 

〉「スクールアイドル」「ラブライブ」という言葉を広めたのは、間違いなく彼女たちである。そして、今をときめくA-RISEに至っては「彼女たちは永遠のライバル」と公言して憚らないのに…である。

 

〉その真相を解き明かす為、我々は彼女たちの母校を訪れた。しかし在籍したアイドル研究部は現存するものの、彼女たちが残した輝かしい功績の数々…優勝旗やトロフィー…は跡形もなかった。その光景はまるで「歴史からの抹殺を謀(はか)ったのではないか」と思わせるほどの違和感だった。

 

〉また今回の取材に対しても、誰もが多くを語らず、アイドル活動の再開について、前向きな回答をするメンバーはひとりもいなかった。

 

 

 

〉なぜか。

 

 

 

〉確かに、それぞれの夢に向かって歩き始めた彼女たちにとって、過去の話が決してプラスに働くとは限らないし、昔の名前に拘らない彼女たちの潔さに敬意は表す。

 

 

 

〉だが、理由はそれだけであろうか。

 

 

 

〉そこでファンの間でまことしやかな噂として流れているのが『メンバーの不仲説』である。

 

〉そして、その原因が冒頭の記事で紹介した『Sさん』にあるというから、穏やかな話ではない。

 

 

 

〉「Kさん」「Sさん」「Mさん」の3人は幼馴染みで、M'sの創始者である(残りのメンバーはそのあとに加入)。だが関係者の話によるとリーダーだったKさんと、実質的にユニットを取り仕切っていたSさんは性格が合わず、口論が絶えなかったという。それでも活動を継続し、その名を日本中に轟かせるまでになったのは、同い年のMさんを始め、先輩、後輩が調整役として間を取り持っていたからである。

 

〉ところがメンバーのうち3人が高校を卒業すると、そのパワーバランスが崩れ、KさんとSさんとの間の溝が埋まらなくなっていたという。

 

 

 

〉前述した通り、Sさんはかなりストイックな性格である為、過度なトレーニングを強要し、それがメンバーを苦しめていたという話もある。実際、Hさんは登山に無理矢理連れて行かれて遭難しかけたと言い、K泉さんは食事を制限され餓死寸前までに陥ったという。また、一見、アイドル活動とは無関係な20㎞の遠泳を計画したこともあったようだ。

 

〉今、彼女たちは、こうした「シゴキ」とも言えるスパルタ指導を受けたことがトラウマとなっており、スクールアイドルとしての華やかなりし活動を『闇の記憶』へと変えてしまったのではないのだろうか。

 

〉それなら、取材に対し一様に口が重いのも頷ける話だ。当時のことは思い出したくない、そういうことなのであろう。

 

 

 

〉だとしたら、彼女たちのアイドル活動再開など「以ての外(もってのほか)」ということになる。

 

 

 

〉ところが、Sさんだけは様相が違うようだ。ひとり活動再開を画策しているのではないかと、思われる節がある。

 

〉それが冒頭に紹介したシルフィードとA-RISEと同席した「会食」だ。

 

 

 

〉写真を見てほしい。音楽活動を休止している夢野つばさが、星野はるか、水野めぐみと一緒に写っている。まずこれが、いまや非常に珍しいことである。だが、注目してほしいのは、さらに同じフレームの中にA-RISEが納まっていることである。まさにレア中のレアと言っていい。業界も驚くスクープ写真だ。

 

〉そして、その並びの一番端にいるのが、件(くだん)のSさんである。

※Sさんは一般人であるため、顔に目隠し加工をしています。

 

 

 

〉Sさんは、高野梨里が事故に巻き込まれたのは偶然だと言い、そもそも、彼がその人物だと知ったのは、病院に運ばれたあとだと語った。

 

〉その高野には、夢野つばさという、今、日本中が注目している彼女いる。

 

〉そして夢野を交えて(彼女が所属する)シルフィードと、かつてのライバルでもあるA-RISEと食事を共にしたSさん。そこにはいったい、なにがあったのか。

 

 

 

〉店の関係者は取材に対し「オーダーを取りにいったときとか、料理の上げ下げの際に聴こえた程度で、全部知ってるわけじゃありませんけど…」と前置きした上で次のように語った。

 

〉「シルフィードの皆さんは、常連さんで…いつも贔屓にしてもらってます。つばささんの(オリンピックの)激励会という主旨で、星野はるかさんが企画されたのだったと思います。髪の長い方(Sさん)は、どこかで見たことあるな…くらいな感じで。えっ?元M'sのメンバー!?…どおりで、素人さんではないな…とは思ってましたけど」と、その正体を知り驚いた様子だ。

 

〉「そのあとA-RISEがやって来て…思わず『おぉ!』って思いましたよ。だって、シルフィードとプライベートで交流があるとは、思わないじゃないですか…。ちょっと興奮しましたね。誰かに伝えたかったですけど、さすがにそれは…と自粛しました。最初のうちはわりと静かだった感じですけど、後半はかなり盛り上がってましたよ。えぇ、アルコールは飲まれませんでしたが…。そうですねぇ、印象に残ってることですか?その…Sさんですっけ?…に『色々相談に乗る』って言ってましたよ。『力になるから』…って。良くわからなかったですけど、あのシルフィードとA-RISEが協力するよ…って話ですからね…この人は何者なんだろう?って思ってました…」

 

 

 

〉その話こそ、Sさんのアイドル活動再開の話ではないか?

 

 

 

〉夢野つばさとしては、複雑な立場だったに違いない。共にオリンピックに出場するハズだった恋人が、生死をさまようような重症を負ったわけだ。意識は回復したが、その夢は絶望的である。しかし自分は代表を辞退するわけにはいかない。なでしこジャパンのエースとして闘わなくてはならない…。この食事会は、だからサッカー選手として気持ちを切り替える為に、敢えて臨んだのだろう。その心中は察するに余りあるし、その行動を否定することは出来ない。

 

 

 

〉しかし、そこにSさんを同席させた理由については、理解しがたい。恐らくは、事故に巻き込まれた彼女を想ってのことだろう。

 

〉だが、果たしてそれは正解だったのか?

 

 

 

〉そもそも、先に述べた通り、事故に巻き込まれたのが、偶然だったかどうかが、まず怪しい。

 

〉そして、アイドル活動の再開を目論んでいたところに現れたのが、シルフィードとA-RISEである。Sさんは「これ幸い」と、その両者に取り入ったのではなかろうか?

 

〉であるならば、とんでもない裏切り行為である。ひとつは夢野つばさに対して。もうひとつはM'sの復活を期待しているファンに対して。

 

 

 

〉Sさんは、高野に恋愛の情を持って接しようとしているのは明らかだ。でなければ、いくら「命の恩人」であるとはいえ、夢野つばさの不在時を狙って訪れるなどという、常識外れのことはしないだろう。しかも、高野との関係を暴露しておきながら…というのだから、タチが悪い。Sさんの立場をおもんぱかって食事会に同席させた、彼女の純粋な想いを踏みにじる行為だといえる。

 

〉またM'sの活動再開が絶望的となった今、その原因を作った張本人だけが、復帰を考えているというのは、いかがなものか。しかも、その相談相手は、かつてのライバルであるA-RISEだ。これをファンに対する裏切りと言わずしてなんと言おう。そしてなにより、元メンバーが納得するハズもない。

 

 

 

〉Sさんは我々の取材に対し、最初は強気に応じていたものの、形勢が不利と見るや、最後は曖昧な回答に終止した為、残念ながら疑惑の解明には至らなかった。

 

 

 

〉高野にも、夢野つばさとSさんの二股交際の可能性が浮上したわけだが、2人には今後、某政治家のように、詳しく丁寧な説明を求められるであろう。

 

〉我々も深く追求していきたい。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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