【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
バンッ!
記事を読み終えた真姫は、音が立つほど勢い良く週刊誌を閉じた。
「サイテーな記事…」
真姫は小さく呟いたが、そこには怒り…いや深い悲しみが込められているように感じられた。
「私たちのことはさておき…海未のことについては、都合のいい事だけを切り貼りして並べた『完全な捏造』ね」
絵里は自分自身を落ち着かせるかのように、静かに、冷静に話した。
しかし、表情は驚くほど険しい。
「実際にあったエピソードのブレンド加減が、絶妙だわ」
「なんで、にこちゃん誉めるにゃ!」
「誉めてなんかいないわよ!やり方が汚いって言ってるの!!」
「確かに、穂乃果ちゃんと海未ちゃんの口喧嘩とか、凛の遭難事件とか…それらは全部事実だけど…かよちんの餓死は大袈裟過ぎるにゃ…」
「これ、情報リークしてるのヒデコたちじゃないでしょうね!?」
「にこちゃん!そんなわけないよ!ヒデコたちはそんな悪いことしないよ!」
「冗談に決まってるでしょ!」
「この場面で言うことじゃないにゃ…」
「まぁ、μ'sに関しては当時の在校生とかが、私たちの関わってないところで、色んなサイトを立ち上げてるから…探せばこれくらいのこと、いくらでも出てくるわよ」
「真姫の言う通りね。これまでは実害もなかったし、特に気にしてなかったけど…」
「でもこの記事は、明らかに『海未を悪者に仕立てあげて』読者にそう思わせようとしている。別に『それ』が原因でμ'sが解散したわけじゃないのに」
「真姫ちゃん、それって『確信犯』ってことにゃ?」
「正式な使い方ではないけど…一般的にはそう言うかも」
「許せないにゃ!」
「私、文句行ってくる!」
やおら、穂乃果が立ち上がった。
「どこに行くのよ!?」
「もちろん、この出版社だよ!!」
「よしなさいよ」
「どうして?だって、にこちゃん、こんなの海未ちゃんが可哀想すぎるよ!」
「わかってるわよ!わかってるけど、なんの策もなく飛び込んでいったって、軽くあしらわれて終わりよ。向こうはプロなんだから」
「これって名誉毀損で訴えることができるんじゃないかな…」
「やれば勝てると思うわ。でもね、ことり…個人で争える金額なんて、たがだか1億円程度よ。ヤツらは『負けて払う賠償金』以上に、このネタで稼げばいいって思ってるの。長引かせれば長引かせるほど不利だと思うわ。新たなネタを探してくるんだろうし、なければ作ればいいんだから」
「泣き寝入りしろ?ってこと」
鋭い目でにこを睨む真姫。
「そうは言ってないでしょ?でも、一回、狙いをつけられたら、逃れるのは至難のワザってこと。下手をすれば、アタシたちにまで飛び火する恐れがあるわ」
「もう、飛んできてるわ」
真姫は、ひとつ深い溜め息をついた。
「じゃあ、どうすればいいのさ」
穂乃果の目には、うっすらと涙が光っている。
「アタシたちが海未を守る…それしかないわ」
「でも、どうやって…」
「それは…」
「私たちのことはどうでもいいけど、高野さんのことだけは、疑惑を晴らしたいわね。ちゃんと『お見舞いにいくことを、つばささんに頼まれた』って証明できれば」
「絵里ちゃん、そこだよ!なんで海未ちゃんは、その時そう言わなかったんだろう?穂乃果には、あんなにズバズバ言うのに」
「…これは私の想像だけど…それを言っちゃうと『高野さんとつばささんの関係』を明言しちゃうようなものでしょ?だから、海未なりに気を使ったんじゃないのかしら…」
それを聴いて、全員が黙りこんだ。
…もし、自分だったら、どう対応したんだろう…
「だから海未は責められないわ」
絵里の言葉に、全員が首を縦に振った。
「こうなったら!」
「穂乃果!どこに行くの?」
「にこちゃん!つばささんに直談判してくる。つばささんから証言してもらえれば…」
「はぁ?アンタ、バカじゃない?夢野つばさは今、海外でしょ?そこまでいくつもり?」
「そうでした、そうでした」
「確かに、彼女がちゃんと話してくれれば一番いいのだけど…」
「でも、絵里。オリンピックの本番直前でしょ?普通は今ここで、そんなことは言わないわよ」
「そうね。それはわかってるけど…」
「真姫ちゃんも、絵里ちゃんも、海未ちゃんよりオリンピックの方が大事なの?」
「凛!?」
「もちろん、そういうことじゃないわ。でも、私たちじゃ…」
「だったらさ、高野さんに頼もうよ!」
「穂乃果!?」
「高野さんなら、入院してるとはいえ、話くらいならできるでしょ?」
「それはそうかもしれないけど…彼だって疑惑を掛けられちゃってる方だから、証言したところで説得力はないと思うわ」
「じゃあ、絵里ちゃん!どうすれば…」
「今のところ、八方塞がりって感じね…」
「…どうして海未ちゃんを助けたのが…高野さんだったんだろう…」
「えっ…穂乃果ちゃん?」
穂乃果がボソリと呟いたのを、ことりは聴き逃さなかった。
「もっと、全然知らない人だったら良かったのに!」
「穂乃果ちゃん…」
「だって、ことりちゃん、そうでしょ!助けたのが高野さんじゃなかったら、海未ちゃんはこんなに苦しまなかったんだよ!」
穂乃果の声が、徐々に大きくなっていく。
「高野さんが、つばささんと付き合ってなきゃ、こんな大騒ぎにならなかったんだよ!」
「穂乃果ちゃん!!」
「どうして海未ちゃんは、高野さんなんかに助けられたのさぁ!!!」
穂乃果の感情は一気に昂り、泣き叫びながら訴えた。
「穂乃果!いい加減にしなさい!!」
「ダメ!絵里ちゃん!」
絵里は右手を振り上げたが、それをことりが身を挺して防ぐ。
「ことり…」
「ダメだよ…」
「ことり…」
「たたくのは…ダメ…」
「うん、ありがとう…止めてくれて…」
「えへっ…良かった。止まってくれて」
「でも、穂乃果の言葉は許せないわ」
「うぅ…絵里ちゃん…だって、だって…ヒック…だって…」
「『高野さんだったから』海未は助かったんでしょ?」
「…うぅ…うん…そう…だけど…」
「それとも、海未が轢かれても良かったとでも?」
穂乃果は首を横に何度も振った。
「でしょ…。だから、高野さんに当たるのは筋違いよ。恨むべきは…車を運転していた犯人でしょ?」
今度は、穂乃果の首が縦に動いた。
そして
「…ごめん…」
と絵里に頭を下げた。
「そういえば、犯人の話って出てこないわね」
と、真姫。
「そうにゃ!普通だったら、もっと報道されてもいいハズにゃ!」
「未成年だからかしら」
「さぁ…確かに今までことを考えれば、不自然かもしれないけど…それより、今は海未の事を…」
絵里は「さぁ、どうしたものか…」頭を抱え、思案にくれる。
「オリンピックが終わるまで、待つしかないんじゃない?」
「にこ!?」
「その間、海未に対する風当たりは強いかもしれないけど…凌ぐしかないわよ」
「無責任すぎるにゃ…」
「じゃあ、他に方法があるの?」
「…」
「それしかないのよ、今は。そりゃあ、これまで以上にネットは荒れるだろうし、夢野つばさが結果を出せなかったら『海未のせいだ!』ってなるかもだけど…その時こそ、アタシたちが守ってあげないと…」
「うん、そうだね。そうしたら、私たちはつばささんを、全力で応援しなきゃいけないよね。『海未ちゃんのせい』って言われないよう、活躍して、優勝してもらわなきゃ!」
穂乃果が鼻水を啜(すす)りながら、にこの言葉に、反応した。
「うん、穂乃果ちゃん!ことりもサッカーはあんまり詳しくないけど、一生懸命応援するね!」
「凛も頑張るにゃ!」
「ねぇ…だったら、いっそうのこと現地に行って応援しない?」
「えっ!」
「ま、真姫ちゃん!?」
「親父…園田さんの連絡先、知ってるんだろ?」
穂乃果たちがそんな話をしていた頃、高野も同じように新文の記事を読み終えた。
もっともこちらは、真姫とは違い、その誌面をビリビリに破き捨てていた。
「園田さんの連絡先?父さんは知らないが、母さんなら…」
「ちょっと訊いてくれないか?」
「訊いてどうする?」
「電話するに決まってるだろ!彼女のメンタルが心配だ」
「今は、そうっとしてあげた方がいいんじゃないか」
「どうして?」
「…なんとなくだ…。お前からの慰めは、逆に色々、ツラくなる…そんな気がする」
「…」
「気持ちはわかるが…」
「チッ!」
「それより、自分の身を案じなさい。明後日には手術だろ。身体も心も整えておけと、あの本にも書いてあったろ」
「『傷付いた羽』か…。それはわかってるけど、こんなイライラした状態で落ち着けるハズがない!」
高野は、手元に残った新文のページを再び破ると、クシャクシャに丸めて投げ捨てた。
その夜…。
キンコン!
海未のスマホが鳴る。
正確に数えていないが、この日だけで、数十回目の通知だった。
相手はわかっている。
μ'sのメンバーだ。
記事を受けて、きっと自分を励まそうと、LINEにメッセージを送っているに違いない。
しかし、今の海未にとって、その優しさは苦痛以外の何物でもなかった。
…どこかに、消えてしまいたい…
そう思った。
それでも手元にそれを置いておくのは、自分がまだ見捨てられていないことを確認する為の証しだった。
これ以上迷惑は掛けたくない…だけど助けてほしい。
その狭間で海未は揺れている。
部屋の片隅で膝を抱え、ただボーッと座っているだけの時間が、どれからい続いているのだろうか。
気が付いたら、夕方になっていた。
いや、もう19時になろうかとしている。
夏場となり、日の入りがだいぶ遅くなっていた。
スマホが鳴った。
…また、ですか…
半分、気遣ってもらえていることに感謝しつつも、残りの半分は放っておいてほしいと思っていた。
だが、やがてそれがLINEの通知音でないことに気付く。
…えっ?電話ですか!!…
慌てて画面を見る。
非通知ではなかったが、アドレスに登録してある番号でもない。
出るか出ないか迷っているうちに、電話は切れた。
…はて、どなただっのでしょうか…
ふと海未の頭に、とある人物の顔が過(よぎ)った。
…ですが、まさか…
その時、再びスマホが鳴った。
今度はショートメールを知らせる着信音だ。
相手は…
海未の想像した人物…
高野梨里だった…。
~つづく~
海未を守れ。