【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

89 / 173
2017/8/31
日本、W杯出場決定!!





絶対に負けられない闘いが、そこにはある(ブラジル戦 前編)

 

 

 

なでしこジャパンのオリンピック初戦。

 

相手はブラジルだ。

 

 

 

この試合を見届けたあと、オレは手術室に入る。

 

できれば、勝利を目にして、気分良く麻酔を掛けられたい。

 

 

 

下馬評はかなり不利。

 

『プロ』のオレから見ても、厳しい戦いになると思っている。

 

それでも何が起こるかわからないのが、サッカーだ。

 

アップセット(番狂わせ)がもっとも起きやすいスポーツだと言える。

 

 

 

日本は世界の頂点に立った『黄金期』から、一気に世代交代が進み、若手主体のメンバーになった。

 

今、ピッチにいる11人のうち、実に7人が、オリンピック初出場だ。

 

そこにはチョモもいる。

 

心配したが、無事スタメンに名を連ねたようだ。

 

しかしフレッシュなのはいいが、これは諸刃の剣で、本来ならベテラン、中堅、若手がバランス良く混ざっているのが望ましい。

 

果たして、これが吉と出るか凶と出るか…。

 

 

 

システムは3-3-2-2。

 

高さはないが個人技に優るブラジルを、なるべく好き勝手させない為、まずは中盤を厚くして、守備に重きを置く布陣となった。

 

3バック(CB)、1ボランチ(DH)、並ぶようにしてサイドハーフ(SH)…いや、どちらかと言うとサイドバック(SB)に近いか。

 

マイボールになったら、ボランチに入った選手がゲームメイカーとなるらしい。

 

 

2列目の右に夢野つばさ。

 

ヤツの最大の武器である『デビルウイング』…左足のミドル…が一番狙えるポジションだ。

 

 

 

2トップの片割れには、緑川沙紀が入った。

 

恐らくは少し下がり目で…1.5列目的な役割になるだろう。

 

彼女は前線からボールを追う、汗かき役の動きも求められている。

 

 

 

…魔の5分などと言われるが…

 

…こうした大一番は、特に入り方を気を付けないと…

 

 

 

 

 

大事な初戦。

 

右から左に攻めるのが日本。

 

前半は、強い追い風を背に受ける。

 

 

 

ブラジルボールでキックオフされた。

 

 

 

しかし、ここで、いきなりゲームプランを狂わせる出来事が起こる。

 

 

 

ホイッスルと同時に、長いボールを入れてきたブラジル。

 

高く上がったボールは逆風で押し戻され…目測を誤ったか…日本のCBがクリアミス。

 

ヘディングしそこなったボールを相手フォワード(FW)に拾われ、開始0分で先制を許してしまう。

 

 

 

きっと、日本中が呆然としているに違いない。

 

選手も何が起こったのか、把握できないだろう。

 

それくらい、アッと言う間のことだった。

 

 

 

》しかし、まだ始まったばかりです。時間はたっぷりありますよ!焦らずにいきましょう!!

 

中継の解説者はそう言う。

 

 

 

そんなことは、選手もベンチも百も承知だ。

 

だが、そう簡単にはいかない。

 

特にミスした選手は、気持ちの切り替えができない。

 

それが守備を統率するCBなら、なおさらだ。

 

やらかした!と失敗を引きずったまま残り90分プレーするのでは、ディフェンスラインの統率、コーチングなどできるハズもない。

 

それほど大きなミスだった。

 

攻撃陣なら、点を獲って名誉挽回、汚名返上といきたいところだが、守備陣となるとそうはいかない。

 

1回のミスが命取り…。

 

残酷なものだ。

 

 

 

カメラは、意地悪くもそのCBの顔をアップで抜く。

 

 

 

…う~ん、目が泳いでる…

 

…意地でも動揺を見せちゃいけない…

 

…ボールが悪い!くらいに思わないと尾を引くぞ…

 

 

 

…こういう時にチームを鼓舞する…あるいは落ち着かせるベテランがほしい…

 

 

 

「羽山優子がいれば…」

 

怪我がなければ、まだピッチに立っていただろうレジェンドの名を、オレは思わず口にする。

 

「とにかく落ち着こう!」

 

オレはまるで自分がピッチに立っているが如く、呟いた。

 

 

 

中継の画面を見れば、センターサークル内でボールをセットするチョモと沙紀が、守備陣に向かって手を叩き「これから、これから」と叫んでいるのがわかった。

 

 

 

…そうだ、2人は羽山優子の愛弟子なんだ…

 

 

 

JKコンビと言われたのも、過去の話。

 

いまや若くして『なでしこのゴールデンコンビ』と呼ばれ、代表の主軸へと成長したのも、羽山優子がメンタル面を指導したことが大きい。

 

特に、沙紀が汗かき役を厭わずこなせるようになったのは、その教えの賜物なのだろう。

 

羽山優子は、とにかく『世界の頂点に立つ喜び』を2人に味わってほしいと公私問わず面倒を見てきたのだ。

 

その想いが結実する手前まできている。

 

オレは2人の姿に、彼女の影を見た。

 

 

 

 

 

試合は、日本のキックオフで再開。

 

まずは一旦、呼吸を整えるかのように、中盤で短いパスを繋ぎ、相手の出方を伺う。

 

不用意なバックパスは避けたいところだ。

 

だが、ブラジルはあまりガツガツとプレッシャーを掛けてこない。

 

ゲームは始まったばかり…まだ勝負どころではないからだろう。

 

しかし「ここ!」と言うときの仕掛けは、驚くほど速い。

 

この辺りが日本のサッカーと大きく違うところで…こちらは全般的に、体格やスピードに劣る分、プレッシャーを掛け続け、スタミナ勝負を強いられるのが辛いところだ。

 

 

 

ハーフライン付近でボールを受けたつばさは、相手が出てこないとみると、右サイドをゆっくり上がった。

 

ひとり、ふたりと相手選手が間合いを詰めてくる。

 

つばさをフォローしようと、ボールをもらいに沙紀が寄る。

 

一瞬、彼女に目をやった。

 

つられて、マークが沙紀の方向へと流れた。

 

 

 

ビッグプレーが生まれたのは、その時だった!

 

 

 

「おぉっ!!」

 

 

 

つばさは左のアウトでボールを『チョン!」と出すと、そのままノーステップで左足を振り抜いた。

 

GKのパントキックのように高く上がったボールは、風に乗り、ぐんぐんゴールへと向かっていく。

 

超ロングのループシュート!!

 

前目に位置していた相手GKが、慌てて下がる。

 

 

 

…決まった!!…

 

 

 

しかし…

 

 

 

「うっ!わっ!!」

 

 

 

ジャンプ一番!

 

 

 

わずかにボールはGKの手が触れ、クロスバーを越えていった…。

 

 

 

「おぉ~」

と、会場からどよめきが起こる。

 

俺も同じリアクション…天を仰いだ(もっとも実際にはコルセットをしており、オレは上を向けないのだが)。

 

そして、それはすぐに大歓声に変わった。

 

打ちも打ったり、守りも守ったり。

 

双方のプレーに、会場から惜しみ無い拍手が送られる。

 

 

 

いいプレーには敵味方なく讃える。

 

これこそが、スポーツを愛する人の本来の姿だ…と、オレは思う。

 

 

 

それはさておき、開始0分で先制点が入れられ、かなりシラケ気味だった日本サポーターを活気付けるには、充分過ぎるプレー…ナイストライだ。

 

 

 

しかし、それ以上のビッグプレーがブラジルに出た。

 

 

 

…あそこで触っちゃうかね…

 

 

 

紙一重とはまさにこのこと。

 

とにもかくにも、点が入らなかったことは間違いない。

 

どんなに惜しくても、ゼロはゼロだ。

 

 

 

…だけど…チョモは冷静だな…

 

 

 

あんなシュートが打てるのは、周りが見えている証拠。

 

練習試合を欠場するとかして、少しだけ心配したけど…なかなかどうして!

 

本番に強い。

 

 

 

…伊達に紅白の舞台に立っていない…

 

…ヤツは大丈夫だ…

 

 

 

今のプレーでオレはそう確信した。

 

 

 

しかし、サッカーはひとりではできない。

 

 

 

折角得たCKだが、味方が蹴ったハイボールをそのままGKにダイレクトキャッチされると、一気に速攻を喰らう。

 

逆風など、まったくお構い無し。

 

長く速いグラウンダーのパスを3本ほど繋ぎ、瞬く前にゴール前へやってきた。

 

詰め寄るDF2人を、サイドステップでかるくいなすと、最後はGKの位置を落ち着いて確認し、ボールを流し込むようにシュートを打たれた。

 

 

 

開始5分で2失点…。

 

 

 

…あちゃ~、これは痛い…

 

 

 

完全なミスだった。

 

CKの場面、早めに点を取り返そうと、前がかりになったところをやられた。

 

 

 

まだ序盤。

 

そこまで焦ることはなかった。

 

当然、カウンターはケアしていなきゃいけなかった。

 

だが、最初のミスで冷静さを欠いたのか…広く空いた後ろのスペースを、スルーパス1本でやられた。

 

 

 

…ふう…

 

…これはマズイなぁ…

 

 

 

こうなると日本のストロングポイントである、積極的な守備がしづらくなる。

 

ブラジルはのらりくらりとボールを回し、隙を見て縦に速いパスを送るということを繰り返す。

 

これにより、日本のDFはゴール前に張り付くことを余儀なくされた。

 

これ以上の失点は許さない!…という、対応。

 

しかしSHもDHも守備に追われ、一向に反撃に転じることはできない。

 

 

 

風上を意識してか、最終ラインから長いボールを放り込むが、FW陣には繋がらず…得点の匂いがまったくしない。

 

 

 

沙紀は献身的に前からボールを追うものの、逆に下がりすぎてしまう為、FWひとりが孤立するという悪循環を繰り返す。

 

 

 

》守備陣は勇気を持って、ボールを奪いにいってほしいですね。

 

解説者は無責任に言う。

 

 

 

しかし果たして、それは正解なのか?

 

 

 

これ以上点を与えられない中、リスクを侵してでも、攻めるべきなのか?…ベンチは明確にしなければならない。

 

だが、作戦タイムがないのがサッカーだ。

 

監督がピッチサイドまで出て、声とジェスチャーで選手に指示を送るが…届いているだろうか…。

 

 

 

そうこうしているうちに、35分が過ぎた。

 

 

 

ここまで打たれたシュートは11本。

 

ピンチの連続だが、よく堪え忍んでいる…という感じ。

 

…とはいえ、そのシュート1本1本が守備陣の神経を磨り減らし、ボディブローのように効いてくる。

 

 

 

どこかで流れを変えたい。

 

 

 

一方、日本の放ったシュートは4本。

 

最初のつばさの超ロングなループシュートのほか、FW2人が苦し紛れに打った3本。

 

いずれもペナルティーエリアの外から狙ったものだが、残念ながら枠を捉えらることはなかった。

 

 

 

そして残り5分…。

 

日本に、この日初めてと言っていいくらいのチャンスが訪れる。

 

少しこの展開に焦れたのか、ブラジルが中盤でパスミスをする。

 

これをかっさらったのは…

 

 

 

沙紀だ!

 

 

 

センターサークル付近とかなり深い位置ではあるが、ドリブルで仕掛け一気に駆け上がった。

 

相手DFはペナルティーエリア内に4枚…きっちり揃っている。

 

 

 

…どうする?…

 

 

沙紀は一度は突っ込むフリをして、すぐにボールを右にはたいた。

 

コーナー付近にボールが転がる。

 

それに追い付いたのは…

 

 

 

…チョモ!!…

 

 

 

…ダイレクトでクロス?…

 

…逆足?…

 

 

 

「おぉっ!!」

 

 

 

…出た!エラシコ!!…

 

 

 

ヤツは詰めてきた相手DFを得意のフェイントでかわすと、ゴール前に左足で低くて速いボールを入れた。

 

 

 

…触れば1点!…

 

 

 

「あぁっ!!」

 

 

 

オレはまるで我が事のように、大きな声をあげた。

 

 

 

「おぉ…PKだ!!PK!!」

 

 

 

 

 

~つづく~

 







忘れてるかもしれませんが、元々はサッカーの物語りなんですw



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。