【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「『ユメノトビラ』?」
「『夢野つばさ』よ!!」
穂乃果のボケに、にこが素早く反応した。
「し、知っているよ…そんな、怖い顔で見なくても…」
「海未!なんで夢野つばさが、そこにいたのよ」
「なんで…と言われましても…。『身内みたいな者だから、気にしないで』と仰ってましたが…」
「身内なわけないじゃない!これは男と女の関係に違いないわ!スクープよ、スクープ!ツーショットの写真とかないの?高く売れるわよ!」
「たはは…にこちゃん…」
「にこ、不謹慎ですよ!」
「…冗談よ!冗談!…するわけないじゃない」
「だよねぇ…」
「アタシだって、この世界に片足を踏み入れた身、それくらいの分別は付くわよ」
「それなら、良いのですが」
「でも、ふたりが深い付き合いであるのは間違いなさそうね」
「そうですね。…その…男女の関係…かどうかは知りませんが、親しい仲ではあると思います」
男女の関係…と言った瞬間、海未の顔が赤くなった。
相変わらず、その方面に関しては、成長していないようだ。
「じゃなきゃ、病室にはいないよね!」
「えぇ…。それに高野さんはつばささんのこと、あだ名で呼んでらっしゃいましたし」
「へぇ…なんて呼んでたの?」
「確か…『チョモ』と呼ばれてたかと…」
「『チョモ』?」
穂乃果とにこは、ふたりして、同時に首を傾げた。
「さすがのにこちゃんでも、それは知らないのか」
「もしかしたら、花陽なら知ってるかもしれないけど」
「わざわざ、今、訊くことではありませんね」
「あの子も忙しいから…」
「はい…。あ、実はちょっと嬉しいことがありまして…」
「?」
「つばささんは私たちのことをご存知でした。それもμ'sをリアルタイムで見ていてくれたようで…。かなり、詳しい感じでした。手土産で持参した『穂むらのお饅頭』を見て『穂乃果の実家』だと、すぐわかったくらいです」
「へぇ…やっぱμ'sって凄いグループだったんだね。現役のアーティストにまで注目されていたなんて」
「そうよ!最強の9人よ!」
「にこ…」
「アタシの中で、μ'sを越えるアイドルは、未だにいないもの…」
にこは常々、今の世代はビジュアルもテクニックもレベルは上がっているけど『熱さ』が足りない…とこぼしている。
それは海未も感じていた。
決して自惚れているわけではないが、あの時の自分達は、新しいものを切り拓いていく、冒険心とかチャレンジスピリッツのような…そんな熱量があった。
今のスクールアイドルを見ると、その辺りが足りない…と、確かに思う。
海未は黙って頷き、にこに同意した。
「…夢野つばさ…って、私たちと同い年じゃなかっけ?」
ふと思い出したかのように、穂乃果が呟く。
「あっ、そうですね…。長く活躍されてるので、ついつい、年上かと思ってしまいますが…」
「中学の時だよね、モデルやってたの。とても同い年には見えなかったよねぇ」
「はい、大人びてましたね」
「だから余計に年上っぽく、感じるんじゃない?」
「にこちゃんは、相変わらず見た目、中学生だけど」
「ぬわんですって!」
「うそ、うそ。小学生でした」
「それならいいわ…ってなんでよ!?」
にこのノリツッコミを見て、海未は思わず吹き出した。
何年立っても、にこの役目は変わらない。
こんな雰囲気が味わいたくて、メンバーは穂乃果の部屋に集まる。
「にこちゃんはどっち派だった?『AYA派』?『さくら派』?」
「当然、さくら派よ。AYAのファッションは、絵里みたいなスタイルじゃないと似合わないもの」
「穂乃果もさくら派だったんだけどね…。でも、いつかは、あぁいう格好いい服を着てみたいな…って憧れてたんだ。海未ちゃんはAYA派だったよね?」
「強いて言えば…です。私は可愛い服など似合いませんから…消去法でそっちが残っただけです」
「それが数年後、ミニスカートでステージに立つんだから、人生わからないもんだね…」
「私は、あなたに巻き込まれたのですが…」
「あはは…そうでした!」
穂乃果は頭を掻いた。
「モデル時代のイメージだと、ちょっと冷たい感じだった…と思ったのですが…実際は、とても爽やかな人でした」
「そうね。バラエティ番組とかに出るタイプじゃないし、わりとプライベートな部分は、謎に包ふまれてるわね」
「これまで、かなり苦労があったようなことも仰ってましたが」
「そりゃそうでしょ。なんの努力もせずに生き残れるほど、芸能会は甘くないわよ」
「はい…」
そう返事をしたあと、しばらく海未は喋らなかった。
「海未ちゃん?」
「えっ?あ…」
「どうかした」
「いえ、別に…」
「なにか悩みがあるなら言いなさいよ?」
「はい…ちょっと今日一日を思い返していたのですが…」
「ん?」
「意を決して病室に入ったら、思いもよらない人がいて…その人が夢野つばささんで…ふたりとも本当に優しい方で…逆に励まされて…ふわっとしたまま帰ってきてしまった感じで…本当にこれで良かったのかと…」
「かと言って、海未がウジウジしてても…高野さん…だっけ?は、良くならないんじゃない?」
「そうだよ!海未ちゃんが、元気でいること!それが大事だよ」
「にこ…穂乃果…」
「うん!」
穂乃果は大きく頷いた。
「そういえば、さっき穂乃果が『ユメノトビラ』と言いましたが…実はあれ…元々は『ユメノツバサ』だったんです!」
「えっ!?」
「衝撃発言!」
「そうなんです。途中まで『ツバサ』だったんです…。当時のノートを見ればわかると思いますが…そのことをご本人伝えるのを忘れてました」
「ユメノツバサだったら、まるパクリでしょ。そのまま出さなくて、よかったわ」
「いや、にこちゃん、その前に誰かが気付くでしょ」
「そうだけどさ…。それに当時、アタシたちにとって『ツバサ』と言えば『綺羅ツバサ』でしょ?わざわざ、ライバルのメンバーの名前をタイトルにしなくても…」
「はい。それに気付いて、変更したのですが…」
「これも、なにかの縁なんだね…きっと。あとで希ちゃんに訊いてみようか」
「今、希は日本にいないわよ!…確か…ペルーじゃなかったかしら」
「あぁ、そうだ!えっと…マシュピシュ遺跡?…」
「マチュピチュです!」
「よく言えるね…」
「これくらい、言えて当然です!!」
それを見たにこは、ニヤニヤと笑った。
「なんですか!?」
「やっと、アンタらしくなってきたな…って思ってさ」
「!」
「なるほど…やっぱ海未ちゃんは、穂乃果がいないとダメなんだね…」
「調子に乗らないでください!」
海未はそう言いつつも、ふたりと会話をしているうちに、気分が楽になっていくのを感じていた…。
~つづく~