【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
オレが目覚めたのに気付くと、看護師は医師を呼びに行った。
気分は悪い。
それはまだ麻酔が抜けてないから…ではない。
目覚めて、尚、悪夢が続いているような感じだからだ。
ほどなくして、病室に入ってきた医師は
「手術は無事終わりました。成功です。2~3日様子を見て、特に問題がないようでしたらリハビリを始めていきましょう」
とオレがに告げた。
今の時刻は、午後の5時半。
そう『難しくない』…と聴いていたが、手術開始が午前9時だったハズなので…かれこれ10時間以上が経過していた。
つまり、今朝行われたブラジル戦が終了してから、早くも半日が過ぎたわけだ。
だがオレは、それが『ついさっき』のような感覚でいる。
それはそうだ。
その間の記憶がまったくないのだから。
それでも、夢は見ていたらしい。
対戦相手がどこだかは不明だが、大量失点して落ち込んでいる『なでしこイレブンのメンバー』に替わってオレがピッチに入り、次々とゴールを決めていく。
しかし、オレは大ブーイングを浴びてしまう。
なぜならオレは男子だから。
そこに『園田さん』が現れて
「高野さんは怪我をしてるので、ハンデがあります。ですから、今の実力は女子と同等なのです」
などと言う。
…そんなワケはない…と反発しつつも、もしかしたら「そうかもしれない」と思い、落ち込んでしまう。
それを見たアクアスターの2人から、なぜか
「男として最低だ」
と言われ
「つばさが可哀想」
とやたら責め立てたてられた。
しかし園田さんが弓矢を持って
「高野さんは私が守ります!」
と今度はオレが彼女に助けられる。
だが、オレの身体はどういうわけか『ゴーゴンによって石にされた如く』身体が動かなくなって苦しむ…みたいな話だった。
そのあとは、あまり詳しく覚えていない…。
夢に『前後のエピソードの整合性』を求めちゃいけない。
ワケがわからないのが、夢なのである。
まぁ、どう考えても、直前に観たブラジル戦の結果を引きずったものだった…のは間違いないだろう。
それが麻酔から覚めても、気分が悪い理由だった。
夢と現実の境目が、一瞬わからなかった。
当事者でないオレが、そんな夢を見るんだ。
実際戦った選手たちはどうなんだろう。
特にあのCB…トラウマにならなきゃいいが…。
今頃、TVやネットでは失点シーンが繰り返され、チームへの厳しい声が溢れかえっているに違いない。
身贔屓する訳ではないが、チョモも沙紀も、よく戦ったと思う。
特に1-5とされてからのゴールは、まだ勝負を諦めていないという、彼女たちの意地を見た。
結果として得点に絡んだのは、この2人だけであるし、負けたチームの中にあっては、及第点を付けていい。
それでも流れの中で『消えている』時間も多かったし、決めるべき場面で決められなかったのは、大いなる反省点である。
きっとチョモ自身も『PKによる1点のみ』なんて、納得してないハズだ。
そうでなければ困る。
それで満足しているようじゃ、上は狙えない。
それより心配なのは、あのCBだ。
今日の敗戦の『全責任』を背負わされることになるだろうから。
確かに序盤のミスは大きすぎた。
しかし、敗因のひとつではあるが、すべてではない。
勝てた…とは言わないが、互角に持ち込める可能性はあったと思う。
ただ、結果的にチームとして、それができなかった。
サッカーは個人競技ではないのだ。
誰かひとりを戦犯に仕立てあげ、よってたかって徹底的に叩く…という風潮は今に始まったことではないかも知れないが『批判』と『誹謗・中傷』の類いはまったく違う。
別物だ。
ネットなどでは匿名なのをいいことに、安易に『死ね』だの『殺す』などの言葉が使われるが『もし自分が逆の立場で同じことを言われたら…』とか思わないのだろうか。
…思わないんだろうな…
厳しい言葉は、一生懸命応援した結果の裏返しかもしれないが、その気持ちは『口にしていい言葉』かどうかを、よく考えてほしい。
…オレたちは意外とメンタル弱いんだぜ…
…アンタみたいに、神経、図太くないだよ…
この日の深夜(日本時間)に、男子代表の初戦が行われた。
相手はコートジボワール…今年のアフリカ大陸王者である。
身体能力が高く、もちろん強敵には間違いないが…実は日本にとって、アフリカの国とはわりと相性がいい。
それほど苦にしていない。
時おり「漫画かよ!!」と言いたくなるようなスーパーゴールを決めてしまうスピードとパワーを持っているが…その確率は極めて低く…つまり基本的に何本かに1本決まるかどうか…のシュートをケアしていれば、それほど怖い相手ではない。
だが、守るだけでは勝てない。
男子はこのあと戦うのが、ウルグアイ、オランダであることを考えれば、確実に勝っておきたい相手である。
観戦したかたったが、術後ということもあり、医師から止められた。
仕方ない。
ここで変に無理をして、治りが遅くなっても困る。
オレは指示に従うことにした。
明けて翌日。
結果は1-0で勝利したと知る。
お互いにチャンスを潰し合った末、終了間際にようやく日本が得点して、そのまま逃げ切ったらしい。
内容には色々不満はあるが、大事な初戦に勝利したということは評価すべきことだろう。
食事、採血、検査…それ以外にすることもないので、結局オレは、サッカー関係の情報をタブレットで眺めることになった。
気乗りはしない。
誰でも負けた記事を見るのは、面白くないだろう。
案の定、女子については『惨敗!』あるいは『無惨(夢散))』などの大見出しが並ぶ。
続けて『疑惑の判定』『天にも見放された』という言葉。
マスコミの記事は概ねどこも同じで、尽きるところ
「最初の失点がキッカケでリズムに乗れず(ベンチワークを含めて)建て直すことができなかった」
という内容だった。
その通りだ。
一方、ネット民の反応は相変わらずで…ミスをしたCB、ファールを見逃した主審への罵詈雑言が羅列されている。
そして、その影に隠れて散見される、夢野つばさに対する非難コメント。
…『期待はずれ』『役立たず』『今すぐ帰れ』だと?…
…無慈悲な言葉だな…
「まてまて、夢野つばさは日本が挙げた全得点に絡んでるんだぜ。序盤の超ロングループシュート、空中戦での接触プレー、痛みに耐えながらの全力ファイト…お前たちが言うほど酷くはなかっただろ!?」
と、ひとりひとりに面と向かって、反論してやりたい。
さらに読み進めれば…やはりというか、なんというか…彼らの怒りの矛先はオレや『園田さん』にも向けられていた。
…いやいや、園田さんは関係ないだろ…
…あんなことが原因でどうこうなるような、ヤツはそんなに柔(やわ)じゃない…
オレがちょっとムカつき始めた頃、LINEのメッセージが入った。
「園田さんからだ…」
名前を見ただけで、オレの心はスッと軽くなった…。
~つづく~