【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
登場人物が増えると「この人誰だっけ?」となるので、ブラジル戦は『ポジション名だけ』にしたのですが…今話は、それだと余計ややこしくなるから、一応、個人名を付けてあげました。
【なでしこジャパン 選手一覧】
( )内は登録ポジション
#1 佐藤翔子(GK)
#2 宮下心美(SB)
#3 馬場聖子(CB)
#4 坂巻ちづる(CB)
#5 黒崎純(SB)
#6 桐原風花(DMF)
#7 森嶋菜々(OMF)
#8 須田ルカ(DMF)
#9 九条麗羅(FW)
#10 藤城真弓(OMF)
#11 緑川沙紀(FW)
#13 深山早智子(GK)
#14 菊池あかり(CB)
#17 斉木悠(OMF)
#20 神谷美佳(FW)
#23 西村史奈(GK)
#26 白瀬夕季(OMF)
#28 夢野つばさ(OMF)
ブラジル戦から中2日。
なでしこジャパンの2戦目はフランスだ。
強引にドリブルで運ぶと言うより、パスサッカーを展開するチームである。
個々の選手は日本に較べると速さはないが、しかし身体が大きく当り負けしない為、ボールが足元に入ると、なかなか奪うのが難しい。
そして、なんと言っても怖いのはセットプレーで…特に高い打点から放たれるヘディングシュートは要注意だ。
フランスは初戦の南アフリカを2-1で勝利しているが、どちらもCKとFKからエースの『レベッカ』が頭で決めたものだった。
ただし、彼女はスタメンに名を連ねていない。
その試合で腰を痛めたとの情報だ。
迎え撃つ日本は3-3-2-2…ブラジル戦の前半と同じシステムで挑む。
ただ、若干メンバーに変更がある。
》日本のスタメンです。GKは初戦の『西村』に代わって、ハイボールの処理には定評のある、経験豊富な『佐藤』がゴールマウスを守ります。DFはスリーバック…左から『菊池』『馬場』『黒崎』…今日は『坂巻』に代わって馬場が入りました。中盤の底には『桐原』、SHは左に『森嶋』右に『須田』。前線2列目は左が『藤城』、右には…右には『斉木』…今日は斉木が入ります。夢野つばさはベンチスタート。そしてFW、ツートップは『九条』と…ブラジル戦全得点に絡む活躍を見せた『緑川』です…。
聴いての通りだ。
DFはあのミスを犯してしまったCBに代わり『馬場聖子』が入った。
彼女はかつて、つばさや沙紀とともに大和シルフィードでプレーしていた長身選手で、現在はイングランドのプレミアリーグに在籍している頼れるベテランだ。
このメンバー変更が、相手の高さを警戒した戦略上のことなのか、あるいは初戦の結果を加味してのことなのか…そこは不明。
おそらく前者だと思われるが、後者であるならば、彼女の今日の汚名返上とはならなさそうだ。
GKも選手変更があったが、こちらは元々の計画だろう。
実況にもあったように、高さに強い選手である。
ただし、彼女は練習中に右足を捻ったとのことで、万全ではないらしい。
もっとも、この情報は『三味線』の可能性がある。
相手エースの腰の状態もしかり。
情報戦…。
ホイッスルが鳴る前から、駆け引きが始まっているのだ。
しかし、なんと言っても心配なのは夢野つばさの状態である。
ノースリーブのウォームアップシャツの左肩からは、痛々しいまでにガチガチに固められた、ベージュのテーピングが目立つ。
日本にとっては、とにかく負けが許されない試合。
なんとしても先制点がほしい状況下で、チームのポイントゲッターでもあり、チャンスメイカーでも彼女を外すというのは大英断だ。
いや、そうせざるを得ないほど、肩の具合が悪のだろう。
しかし、そんなことは言ってられない。
とにかく、今、ピッチに立つ11人の選手で闘うしかないのだ。
キックオフの笛が鳴った。
日本はブラジル戦の反省を生かして、落ち着いてボールを回す。
フランスもゆっくりとパスを繋ぎ、序盤はお互い様子見と言った展開。
しかし、沙紀を中心に連動して選手が動き、高い位置からプレッシャーを掛けていくことで、徐々に流れは日本に傾いていく。
これが功を奏し、何度かカウンターで相手ゴールを脅かした。
試合が動いたのは、前半21分。
ハーフライン付近でボールを奪った日本は、大きくパスを展開し、左サイドを駆け上がってきたSHの森嶋菜々にボールが渡る。
森嶋はそのまま中に切れ込むと、自らゴール前まで持ち込みシュート。
これが見事、右サイドネットを揺らし、待望の先制点をあげる。
これで波に乗りたい日本。
ところが、そう簡単には勝たせてくれない。
すぐさま注意していたハズのセットプレーから失点してしまう。
右コーナー付近からのFK。
ボールはグラウンダーでマイナス方向に蹴られ、後方から走り込んできた選手にダイレクトでズドン!と決められてしまった。
高さを気にするあまり、ゴール前に人数を掛けていたが、この選手にマークがついていなかった。
フランスに裏をかかれた格好で、日本は1-1の同点に追い付かれる。
前半はこのあと、ともに数回チャンスを作るが決められず、得点がないままハーフタイムに入った。
後半戦、キックオフ。
お互いメンバー交代はない。
開始8分…相手のパスミスからインターセプトした日本は、ショートカウンターを発動させ…沙紀がドリブルからGKの股間を抜く…今大会2点目のゴールを決めて勝ち越す。
すると、ここから点の取り合い…シーソーゲームになる。
5分後…今度はフランスがパスを繋ぎゴール前までボールを運ぶと、左サイドからのクロスに、ゴール正面でボレーシュートを打たれる。
GKもよく反応したのだが…こぼれ球を流し込まれ…再び同点。
さらに後半21分には『これぞ、ワールドクラス』『芸術としか言いようがない』というような、角度のない難しい位置からFKを直接決められ、逆に勝ち越しを許してしまう。
それでも、この試合、絶対に負けられない日本は意地を見せて、必死に食い下がる。
後半26分、今日、先制点を挙げた森嶋を起点に、DMFの桐原、OMFの藤城がポジョンを入れ換えながら上手く左サイドを崩し…最後は森嶋がもう一度、ゴール前へ低くて速いクロスを放り込む。
これに飛び込んだ沙紀…は、潰されてしまうが…その後ろをフォローしていたツートップの片割れ…九条がスライディングしながらボールを押し込み、スコアは三度(みたび)振り出しに戻った。
なんというゲームだ!
これはもう、なにがどっちに転んでも、まったくおかしくない試合になった。
お互い激しくボールを奪い合う展開となり、体力の消耗が激しい。
延長でもないのに、フランスの選手は度々足を攣(つ)り、ストレッチをしている。
そんな状況下、後半30分。
先に日本のベンチが動く。
ここまで好守に渡り奮闘してきた森嶋だが、運動量が落ちたと見たか、選手交代。
SBが本職の宮下が入る。
これに伴い、日本はシステムを変更する。
右SHのポジションを下げ、最終ラインは左から宮下、菊池、馬場、須田となった。
CBだった黒崎が前目に位置し、ボランチの桐原とコンビを組む。
前線の2列目…藤城と斉木はワイドに開き、中央には沙紀が入る。
そしてFWは九条のワントップ。
4-2-3-1となった。
ところが、この選手交代とシステム変更が裏目に出る…。
直後にフランスも選手交代で2枚のカードを切った。
1枚は再三、森嶋にやられていた自陣の右サイドに、フレッシュな選手を入れ活性化を図る。
そしてもう1枚は…『レベッカ』だ。
満を持して、エースが登場。
狙いは明白。
彼女の頭だ。
フランスはSHがいなくなり、中盤に空いた(日本の)両サイドのスペースから、アーリークロスを何度も放り込んでくる。
体力が落ちてきた中で、単純だが一番効率のいい作戦だ。
初戦を勝っているフランスは、日本より少しだけ余裕がある。
負けなければいい…。
多少、そんな感じも見え隠れする。
日本は苦しい。
何度も何度も跳ね返すが、こぼれ球が拾えず、クロスを入れられてしまう。
そして後半36分…ついに怖れていたことが起きる。
ゴール正面からあがったセンタリングに、レベッカがバックヘッド…後ろに擦らされたボールは、ポストに当たってゴールラインを越えてしまう。
3-4…。
日本、痛恨の一撃を喰らう…。
馬場も身体を寄せていたのだが、一歩及ばず…技ありの一発に屈する。
だが、日本、まだ諦めてはいない。
1点差で負けようが、2点差で負けようが、2敗すれば、その時点で予選突破は絶望的。
であるならば…。
日本、奇策に出る。
白瀬と…つばさがピッチサイドに立つ。
交代は3点目を挙げた九条と、今日、つばさに代わりスタメンに入った斉木。
つばさは九条と入れ代わり、そのままFWの位置に入るようだ。
こちらもつばさの高さを活かしたパワープレーか?
否!
少し違う。
もうひとり長身の選手が前線に入る。
馬場聖子だ!!
一度ボランチに上がった黒崎が、再びDFラインに戻り、宮下、黒崎、菊池でスリーバックを形成。
ボランチは桐原。
2列目は藤城、沙紀、そしてSBにいた須田が入る。
前線は3人。
ややセカンドトップ(ST)気味に…ブラジル戦で途中出場して、クロスバーを叩くヘディングシュートを放った白瀬。
そして馬場とつばさ。
3-1-3-3…捨て身の戦術。
残された時間は…あと8分+α。
とにかく前線でタメを作り、厚みのある波状攻撃を仕掛けたい。
フランスはレベッカを残し、残りのフィールドプレーヤー9人が自陣で守る。
もう、このまま逃げ切る。
リスクは侵さない。
沙紀が左右にボールを散らしながら、藤城と須田が前線にクロスをあげる。
後半40分、馬場が頭で落としたボールを、つばさがダイレクトボレー!
しかし、これはわずかに枠の外。
ポストを掠めて、エンドラインを割る。
その2分後。
今度は楔(くさび)のパスを受けたつばさが、ワンタッチでボールをはたき、沙紀から白瀬へ…最後は馬場がシュートを放つが、これもDFにクリアされ、ゴールならず。
そして、ロスタイム…。
攻め続けた日本に、最後のチャンスが訪れる。
右サイドで粘りに粘った須田が、ボールを相手にぶつけて、CKを得る。
キッカーは黒崎。
もう、日本の自陣には誰もいない。
ラストプレーに、GKの佐藤も上がる。
一か八かの…いや、万にひとつのギャンブルプレーだ。
》さぁ、日本、最後のチャンスです!右からのCK…キッカーは黒崎。もう自陣には誰もいません!…覚悟を決めました…文字通りのラストプレー。
》ニアポストに馬場、ファーポストにGKの佐藤と白瀬。夢野つばさは…ゴールからは少し離れたところ。こぼれ球を狙います。
》さあ、主審がホイッスル吹く!…ショートコーナーを使ってきた!須田がゴール前にあげる!ニアサイド、馬場が落とす!もう一度、須田へ。今度はファーだ!白瀬、ヘディングシュート!…DFに当たる…こぼれ球を…つばさぁ!!あぁ!キーパー弾いた?弾いたところ…佐藤!?佐藤!佐藤が決めたぁ!!ゴーーーール!同点!同点!日本同~点~!!土壇場で追い付いたぁ!!!
アナウンサーの血管は切れそうだ。
いや、視聴者も同じくらい絶叫したかも知れない!
日本、起死回生の同点ゴール!
執念のプレーが実を結んだところでタイムアップ。
劇的な幕切れとなった。
首の皮一枚、予選突破への道が繋がった。
バッタリと倒れこむフランスの選手たち。
歓喜に沸く日本とは対照的な光景だ。
フランスは『安全策』が裏目に出たか、ほんの少しだけ厳しさが足りなかった。
ボールへの寄せが甘かった。
もう1点獲られていたら、日本は息の根を止められていた。
それがサッカーの難しいところ。
万全を図って逃げ切りにいったハズなのに『受け』に回っやられてしまった。
逆に日本は魂であげたゴールだ。
最後、決めたのはGKの佐藤。
キーパーが弾いたところ、素早く反応して、足が伸びた。
痛めていた右足だった。
馬場と佐藤は泣いている。
苦しい戦いだった。
思いもかけない4失点。
守備陣として、ベテランとして、責任を感じていたのだろう。
その2人が絡んで、なんとかもぎ取った勝ち点1。
現地でインタビューしたアナウンサーも、思わず貰い泣きをしていた…。
~つづく~