【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
…いやぁ、凄い試合だった…
見終わったオレは、グッタリと疲れてしまった。
サッカーを始めて15年近く立つが、ここまで壮絶な打ち合いは、あまり見たことがない。
「ナイスファイト!」
それ以外、言葉が出なかった。
内容的には誉められたものではなかったかもしれないが、日本中の魂を震わせる熱い戦いだった。
ブラジルは、南アフリカを3-0で下した為、最終戦を待たずして決勝進出となった。
これにより日本が予選を突破するには、次の南アフリカ戦に絶対勝つことはもちろん、フランスがブラジルに負けてくれなくてはならない。
尚且つ、得失点差は現時点で日本が-3、フランスが+1であることから、これを跳ね返すくらいのゴールが必要だ。
他力本願。
だが、何を言っても始まらない。
とにかく、自分たちの力を出しきるしかないんだ。
そして、改めて思った。
応援してくれる人たちの気持ちを。
オレたちは、特定の誰かの為にプレーしているわけじゃない。
もちろん、サポーターあってのオレたちであることは、重々承知しているが、それ以前にサッカー選手として上手くなりたい…最高のプレーヤーになりたい…という、自己の欲求を満たす方が、上位にくる。
だが、そのプレーに胸熱くする人がいる。
そのプレーヤーに憧れる人がいる。
しかし『こっちかた』にいると、ついつい、そのことを忘れがちである。
つまり『チームを』あるいは『オレたちを』応援してくれることは、当たり前だと思ってしまう。
でも違う。
それは一生懸命プレーしてくれるから、応援してもらえるのだし、応援してもらえるから一生懸命プレーするのだろう。
つまり、我々プレーヤーにその熱意がなければ、きっとその関係性は成り立たない。
オレたちは『国の為に』戦っているつもりはない。
たが『国の代表』である限り、精一杯のプレーはしなければいけない。
無責任にメダル、メダルと騒ぐマスコミには同意しかねるが、応援してくれる人には報いる努力はしなくちゃいけない。
気持ちの入ったプレーであれば、例えその結果が、どうであれ、ある程度の人は納得してくれるであろう。
今日の試合を観て、改めてそう思った。
ついでに男子の2戦目についても、触れておこう。
南米の古豪、ウルグアイとの1戦は1-1のドロー。
オランダもコートジボワールと(予想外に)引き分けた為、なんと2チームが1勝1分、2チームが1敗1分となり大混戦となる。
※説明していなかったが、初戦でオランダはウルグアイを3-2で下している。
次の結果次第では、1勝1敗1分で4チームが並ぶ可能性がある為、こちらも、決勝進出の行方は最終戦に委ねられた。
いやはや、こっちも大変な状況だ。
翌日から、オレのリハビリが始まった。
一般的に頸椎損傷と言えば、下半身不随や部分麻痺などの後遺症が想像されるが、オレの場合はそこまで酷くないらしい。
難しいことはわからないが『奇跡的』に軽度だったようだ。
正確に言えば頸椎損傷という表現は少し語弊があるのだが、首の骨が傷ついたことには間違いないので、そう使わせてもらう。
だが、甘かった。
そう簡単ではない。
『たかだか数週間』ベッドの上にいただけなのに、身体…特に下半身の関節が固まって、まったく動かない。
膝を曲げることすらできない。
オレのリハビリはまず、それが曲げ伸ばしできるようマッサージから始まった。
よく映像で見る『平行棒のようなものに掴まってする歩行訓練』など、まだまだ、全然先の話だ。
…こりゃあ、プレーヤーとして復帰するなんて、無理じゃねぇか?…
さすがに不安になる。
それでも、担当してくれる理学療法士が、わりと綺麗な女性であることがわかり、オレのモチベーションは高まった。
…ふん、単純で悪かったな…
実力に差があるなら論外だが、そこに違いがなければ、男より女の人の方がいい。
さらに言えば、やっぱり見た目がいいに越したことはない。
まぁ、ごくごく普通の男子はそう思うだろ。
これは差別と言わない。
本能だ。
「先は長いですが、一緒に頑張りましょう…」
「は、はい!お願いします」
オレより、5歳上だという彼女の、優しい声に癒される。
しかし、だからといって簡単に足が動くわけではない。
「はい、ゆっくり曲げていきますよ…」
「うっ…うぅ…」
「はい、頑張ってくださ~い…はい、もどしま~す」
「くはっ!」
オレの顔は苦痛に顔が歪むが、彼女は極めてビジネスライクに作業を進める。
決して『メイド喫茶の女の子のような微笑み』は見せてくれない。
当たり前か。
足首、膝、股関節を少しずつ揉みほぐしながら動かしたあとは、電気を流す。
ピクピク、ビリビリ…。
僅かではあるが、刺激されている感覚はある。
感覚があるということは、神経が生きている証拠であるらしい。
「今日はここまでです。ただ、なにもしなければ、またすぐに元に戻ってしまうので…横になってる時でも、自分で意識的に力を入れて、曲げる努力をしてください」
担当が男だろうと女だろうと、関係なかった。
冗談のひとつも言う余裕もなかった。
ただ
「実は私、マリノスのサポーターなんですよ。だから、高野さんの事故の話を知ったときは本当にショックで、悔しくて…。泣いちゃったんです。でも、こうやって復帰に向けて協力することできることが、すごく嬉しいです…」
と打ち明けてくれた。
そして
「全国にいるファンの為にも、闘いましょう!」
とも。
…そうかオレには、身内以外にも泣いてくれる人がいるんだ…
…オレにはまだ帰れるところがあるんだ…
…こんなに嬉しいことはない…
わかる人だけわかってくれればいい。
オレは某アニメの主人公の名台詞を、心の中で呟いた。
~つづく~