【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「ふぅ…なんて試合なの。点を獲るならもっとサクサク獲ってよねぇ!」
にこはグッタリと疲れた様子だ。
「そんな簡単に獲れるなら、苦労はしません!」
「わかってるけどさぁ、こんなに劇的な展開にしなくても」
「スポーツは筋書きのないドラマなんです。それに、まだ前半が終わったばかりですよ。これからが勝負です!!」
「まぁまぁ、海未ちゃん。まだあと45分あるんだから、少し休もうよ…。この緊張感を持続させるなんて、無理だし」
「穂乃果の集中力は、せいぜい10分程度ですからね…」
「そういうことじゃなくて…」
「今、入ってきた情報によりますと…日本が決勝進出する為のカギを握るフランスは、前半終わって0-1なんだそうです」
「おっ!負けてるじゃん!…ってことは?」
「ただし、仮にこのまま終わった場合、得失点差で1点及びません。ですからもっと点を獲らないと」
「大丈夫じゃない?2-0で勝ってるんだし。そもそも南アフリカって、ここまで全敗でしょ?そんなに強くないんじゃないの?」
「そうやってすぐ気を抜くところが、穂乃果の悪い癖です」
「海未ちゃん、それは今、関係ないんじゃ…」
「オリンピックに出てくるくらいなんだから、弱いってことはないんじゃない?」
「真姫ちゃんの言う通りにゃ。後半はかなり苦しい戦いが待ってるにゃ」
「どうして?」
「うん、ことりちゃん。日本は退場者が出て1人少ないから、スタミナ切れが心配…ってこと。1人足りない分を、みんなでカバーしなきゃいけないから、その分運動量が増えるにゃ」
「そっか!1人少ないんだったね…」
「だけど、夢野つばさって、本当に凄い選手だね。これだけ活躍してくれれば、わざわざここまで応援にきた甲斐があるって…」
「穂乃果、甘いです。これで満足してもらっては困るんです。まだ、目的は半分しか達成してませんから」
「半分?」
「予選突破で完遂です!!」
「相変わらず、熱いわね…」
ツバサが前に座っている穂乃果に、耳元で囁いた。
「でも、海未ちゃんはこうでなくっちゃ!」
穂乃果の回答に、ツバサは
「そうね」
と納得した様子で返事をした。
「実はね、さっきのプレー、生で観たことがあるんだにゃ!」
「さっきのプレー…ですか?」
「生で観た?」
海未と穂乃果が、凛を見る。
「うん。中学の時だったかな。かよちんに連れられて、フットサルの大会を観に行ったことがあって…その時につばささんがいたの。まだ、モデルさんだった頃」
「へぇ…」
「それで、その時も、すっごいシュートをバーン!って打って、GKの人の顔にバシッて当たって、ドーンってなって…」
「爆発したの?」
「しないにゃ!!」
凛は、穂乃果の間抜けな相槌を、すぐさま否定した。
「つまり、さっきみたいにボールが顔に当たって、倒れたってことですね?」
と海未が通訳する。
「うん!それでね、そのあとは相手の選手が、シュートを打つフリをするだけで怖がって、動けなくなっちゃって…。2点目のシーンを観て、その時のことを思い出したにゃ」
「その時、会場にいたんですか?実は私たちも応援に行ってたんですよ!」
「でも本当は『シュートを打つフリ』じゃなくて、つばささんの方が『またぶつけたらどうしよう…』ってシュート打つのを、躊躇してたらしいんですけど…」
とはるかとめぐみが解説する。
「へぇ…」
裏事情を聴き、一同驚きの声をあげる。
「GKの人の前歯折ったんだっけ?」
「はるか、『折った』って言うと、つばささん怒るわよ。『欠けただけ』って」
「どっちにしても、凄いね…」
思わず穂乃果が呟く。
「…モデルだった人が、サッカーの日本代表だなんて…本当に驚きだわ」
と絵里。
「あの人は、別格ですよ」
「はるかさん?」
「絢瀬さん…あっ、絵里さんと呼ばせてもらってもいいですか?」
「えっ?えぇ…どうぞ…」
「あの人は元々、小学生の時には『オリンピックを目指そうか』っていうくらい選手だったらしいので、運動神経がいいのは、当然って言えば当然なんです。なので、モデルがアスリートになったんじゃなくて、アスリートがモデルになったんですよ。そもそも、それが間違いの始まりなんですけど」
「間違いではないけどね…」
めぐみは苦笑しながら、発言を正した。
「どっちにしろ、それで両方ともトップに立っちゃうんだから、凄すぎるよね」
「うん!」
穂乃果の言葉に、ことりが頷いた。
「ふん!『天は人に二物を与えず』とか言うけど、二物どころか、三物も四物も与えるなんて、不公平極まりないわ!」
「にこっち!」
「ほ、誉め言葉よ!だってそうでしょ?ルックスが良くて、歌も歌えて、ギターも弾けて、サッカーも上手くて、素敵な彼氏がいて…なんて、あり得ないわ!」
素敵な彼氏…という言葉に、海未は一瞬ピクッと反応した。
にこはさらに続けて言う。
「それにさ、今、この瞬間、日本中のすべての人が、彼女の一挙手一投足に注目して、応援してくれてるわけでしょ?こんな幸せなことはないじゃない!」
「そうですね…。でも、綾乃も決して順風満帆な人生じゃないんですよ…」
と、これまで静かに話を聴いていたさくらが口を挟む。
「綾乃?」
「あ、つばさの本名です。私は昔からそっちで呼んでるので…」
「順風満帆ではない?…」
海未はポツリとその言葉を繰り返した。
「はい。あまり知られてないですけど、これまで何回も精神的に追い込まれるようなことがあって…それを乗り越えて、今があるんです。今回の高野さんの事故だって…」
「さくらさん!」
めぐみが「それ以上言わない方が…」という顔をした。
「あっ…ごめんなさい。そういうつもりじゃ…」
「いえ、大丈夫です。それがあっての今日の応援ですから」
「…そうですね。ただ、綾乃は決して才能だけの人じゃないことをわかってもらいたくて…。ギターだって、サッカーだって、一から勉強して、努力してここまで来たんだ…って」
「『努力は必ず報われるとは限らない。でも、成功した人は、間違いなく努力している』…ですね…」
「海未ちゃん、なにそれ?」
「奇しくも高野さんが仰(おっしゃ)っていた言葉です。何かの漫画のセリフらしいのですが」
「だから、それがどうしたのさ?」
「穂乃果ちゃんも勘が悪いやねぇ。つまり、つばささんには、元々そういう才能…素養があったのは事実かも…やけど…それに驕ることなく、弛(たゆ)まぬ努力を続けてきた…ってことやろ。だからこそ、モデルだけやなくて、アーティストとしても、サッカー選手としても結果を残した…」
「さすが希、その通りです!」
「なかなか奥深い言葉ね」
絵里は「なるほどね…」と感心した表情だ。
「でも、だったら少なからず、ここにいるみんなは、そうなんじゃない?特に後ろの席の人たちは」
と真姫。
彼女の後列にいるのは、A-RISEとアクアサクラスターだ。
その6人は、お互いの顔を見合わせたあと、発言主に視線を送る。
「な、なによ…」
「結構恥ずかしいことを、サラッというのね…」
「西木野さんて、他人を誉めない人だと思ってたから…」
「イメージと違いますね」
そう言ったのは、あんじゅ、ツバサ、はるか。
残りの3人も、うんうんと頷いている。
「あのねぇ…」
と彼女たちに反論しようとした真姫だが、μ'sのメンバーが声を圧し殺して笑っているのを見て
「もういいわよ!今日はみんな野宿しなさいよね!」
と言ってのけた。
「うそ!うそ!うそ!真姫ちゃんゴメン!」
と穂乃果。
こういう時のリアクションは早い。
「真姫ちゃんはそういう意地悪、しないにゃあ!」
「そうやね!」
「もう、遅いわよ。今日はみんな、野宿だから」
「真姫ちゃ~ん…」
彼女の足元で泣きすがる穂乃果の姿を見て、みんなで笑った。
その時だ!
「みんな、静かにするにゃ!!」
凛が叫ぶ。
「えっ!?凛ちゃん、どうしたの、急に…」
「穂乃果ちゃん、黙って!」
と凛は人差し指を、自分の口の前に立てると、目を瞑り、耳を澄ます。
…うんしょ…うんしょ…
「…聴こえる…」
凛の脳内に、可愛らしい声が響く。
…あれぇ…みんなどこだろう…
…ここじゃないのかなぁ…
…もう少し、下かなぁ…
…迷っちゃったかなぁ…
…ダレカタスケテェ…
「かよちんにゃ!!」
「えっ!?」
「かよちんが来たにゃ!!」
「まさか!?」
「うそでしょ?」
凛はスクッとイスから立ち上がると、キョロキョロと周りを見回した。
「いた!あそこにゃ!!」
凛は十数段上の列を指差す。
「あっ!花陽…」
「うわぁ、花陽ちゃんだぁ」
「ハラショー…」
「テ、テレパシー?」
「穂乃果、それは非科学的です」
「スピリチュアルやね」
「出たな、希の決め台詞!」
「お~い、かよち~ん!こっちにゃ~!!」
「ハッ!今、凛ちゃんの声が聴こえたような…」
「こっち!こっち!」
「…!…凛ちゃん!?みんな!?」
μ'sのメンバーに気付いた花陽が、少し離れた通路を、上から駆け降りてくる。
しかし、その姿がフッと消えた。
「えっ!」
「花陽?」
そして2秒後…数段下から現れた。
「転んだにゃ…」
「転びましたね…」
「ドジ…」
「相変わらずやね」
「花陽ちゃん、怪我ないかなぁ…」
「こういうところは何年経っても変わらないのね…」
「にこちゃんの一番弟子だからねぇ」
「穂乃果、それは関係ないでしょ!」
「はぁ…はぁ…皆さん、お久しぶりです!遅くなってすみません!」
「かよちん!」
凛が花陽に抱き付く。
「花陽ちゃん!」
ことりも抱き付く。
「ちょっと、2人とも抜け駆けしたらいかんよ…」
「…って、なんで希も来るのよ…」
「にこっちこそ…」
「ちょっと、私の花陽を取らないで…」
「真姫…ちゃん…?…」
「…って、絵里が言ってるわ…」
「わ、私?」
目が点になる絵里。
「羨ましい…」
「英玲奈?」
「ん?いや、何でもない」
「ヨダレ、出てるよ」
「えっ?」
「うそよ!」
「あ、あんじゅ!!」
「ほらほら、花陽が困ってるじゃない!その辺にしなさい」
「よっ!さすが元生徒会長!ビシッと纏めるねぇ」
「茶化さないでよ…って、アナタもそうだったでしょ?」
「いえ、穂乃果は名前だけですから」
「海未ちゃん、またそういうことを言う…」
「へっ?海未ちゃん?」
「?」
「どこに海未ちゃんが、いるんですか?」
「私はここにおりますが…」
「…」
「…」
「ぴゃあ!う、海未ちゃん!?どうしたんですか、その髪形は!?」
海未はこうして、本日4度目となる事情説明をしたのだった…。
「それにしても、よく来たわね…」
「すみません、絵里ちゃん。最初から来れなくて」
「そんなこといいのよ。こうやって、元気な花陽に会えただけで充分だわ」
「恐れ入ります…」
「かよちん、髪延びたにゃ…」
「えへへ…ちょっとイメチェンしようかな…なんて。昔の絵里ちゃんみたいでしょ?」
「凄く似合ってるにゃ~」
「うん。とっても可愛いよ」
「凛はこっちのかよちんも大好きにゃ~」
「ありがとう、凛ちゃん、ことりちゃん。でも、本当はなかなか髪を切りにいくヒマがなくて…」
「私も…似合ってると思うぞ…」
「?」
「ひ、久しぶりだな…元気にしてたか?」
「ぴゃあ!え、英玲奈さん!?…って、A-RISEのみなさん!!わっ!わっ!ビックリです!いつからそこに…」
「試合が始まる前から、ここに…」
「ツバサさん!それは失礼しました!」
「私たちってそんなに存在感ないかしら?」
「あ、あんじゅさん!ご、ごめんなさい…決してそんなことは…」
「こらこら、二人とも、ウチの花陽ちゃんを苛めんといてくれる?」
「ウチらの…でしょ?」
「にこっち、そこは別にどうだっていはいやん…」
「ふふふ…やっぱり可愛いわね。英玲奈が惚れるのもわかるわ」
「へっ?」
「ツ、ツバサ!!」
「?」
「ちなみに私の隣にいるのが…アクアスターと、浅倉さくらさんだったりして…」
「ツバサさんの隣?…うひゃ!あっ、あっ…あの…初めまして、小泉花陽です!!」
「水野めぐみです!」
「浅倉さくらです!」
「星野はるかです!」
「アクアサクラスターです!!!」
「そ、それは…」
「今日だけの限定ユニット…ですね!」
「す、すごい!すごすぎます!こんなにも豪華なメンバーが、このようなところで集結するなんて!…にこちゃん、ちゃんとサインもらいましたか?写真撮りましたか?」
「ぬわんでよ!こう見えて、にこも女優なんだから、そんな端(はした)ない真似するハズないでしょ!」
…欲しいけど…
「そ、そっか…そうだよね…」
「っていうか、アンタも立場としては対等…いや、それ以上なんだから、もっと堂々としなさいよ!」
「はぅ…」
「…あとでサインください…」
花陽は小声で彼女たちに訴えた。
そんなこんなをしているうちに、ハーフタイムが終わる。
いよいよ後半戦だ。
ちなみに…
このハーフタイムの間、中継カメラはことりの作った横断幕とともに、何度も彼女たちを抜いていた。
〉カメラマン、A-RISEたちってわかって映してるよな?
〉だけどアナウンサー、一切触れず…
〉放置プレイ?
〉アナウンサーが、彼女たちをマジで知らない可能性もある…
ネットにはそんな言葉が溢れていた。
~つづく~
すみません、かよちん推しなもので…。