「っ、ん……」
かくん、と船を漕いだ勢いで目が覚める。不覚にも、座ったまま少し眠ってしまっていたようだ。
枕元にある時計を確認すると、記憶にある秒針の位置と比べても一分も経っていない。
傍らで変わらずに横たわるマスターが静かに胸を上下させる様子を見て、思わず微かな安堵の息が漏れる。
「……マスター」
安らかに寝息を立てる彼女の髪を撫でる。年相応の女の子らしく手入れはされているのか、さらさらと触り心地のいい髪は私の無骨な指の間を流れる。と、同時にシャンプーの微かな芳香がふわりと鼻腔に届いた。
「ふふ……」
髪を触られたのがくすぐったかったのか、笑いながら僅かに身をよじるマスターだった。
その様子は、とてもではないがつい一時間前まで惨劇の渦中にいたとは思えない程だ。
「…………」
今思えば、あれはマスターからの救援を求める無意識的な合図だったのだろう。
だが私はすぐに気付けなかった。
気付くことが、出来なかった。
この世に生を受け生きて行くことは、後悔の連続だ。それはサーヴァントとなった今でも依然として変わらない。
あの時こうしていれば良かった、ああしていればこうはならなかった筈だ。何度悔やんだことか、数えたくもない。
だが過去を悔やんだ所で事実が改善される訳でもない。今を生きる私たちは、飽くまで前を向いて歩まねばならないのだ。
とは言え、だ。
もし仮に――そう、私がいち早く気付いてマスターの力になってやる事が出来ていたのなら、こんな悲劇にはならなかったのかも知れない。
そう思えずにはいられない。
サーヴァントは、マスターを守るのが役割だ。
だと言うのに、私は――、
「……エミヤ?」
懊悩の中、マスターが目を覚ます。
「すまない、起こしてしまったか」
「ここ……私の部屋?」
首だけを動かし、周囲を確認するマスターだった。恐らく記憶に混乱があるのだろう。
無理もない、あれだけの事があったのだ。
「なあ、マスター」
「なに?」
「私はここにいる限り、最後まで君の剣であると誓おう」
「エミヤ……いきなりどうしたの?」
突然の私からの告白に、戸惑いつつも笑みをこぼすマスター。
だが、何と笑われようとこれだけは譲れない。
かつて、彼女が私の剣として在ってくれたように。
私もまた、君の剣となろう。
「だから――」
//
事の起こりの口火を切ったのは、そう。
「最近、先輩の様子がおかしいんです」
午後三時頃、マリアージュフレールのアールグレイを前にする、マシュのその一言だった。
それはきっと、最も長い間マスターと共に肩を並べてきたマシュだからこその発言だったのだろう。
それ以前にも予兆らしきものはあった。
あったのだが、私を含めたカルデアの面々は、些細な日常の一場面としてそれらを額縁に収めていたのだ。
「そんな大ごとになるような事じゃないんですけど……僅かに違和感がある、と言いますか……」
口にしたはいいものの、確信と言える程にまでは至っていないのだろう、マシュが自信なさ気に歯切れも悪く不安を紡ぐ。
その言葉に意識を引かれ、ここ数日のマスターを思い浮かべる。
「そう改めて言われてみると、そうだな。確かに最近のマスターはいつもと比べると食が細い」
いつもは大きめの茶碗に最低でも二杯は米を食うマスターが、ここ数日は茶碗に半分ほどしか食べていないのを思い出す。主食だけではなく、副菜も普段と比較すると消費量は半分以下だ。
キャットが担当している食後のデザートに関しても、あれこれと理由をつけて他のサーヴァントと半分こにして食べている。
加えて三時のおやつの時間になれば呼ばずとも食堂にやって来るマスターだが、今日も未だ姿を現していない。
これは由々しき事態とも言える……が、
「心配する程の事でもないのではないか? マスターは重要な問題を一人で抱え込むような人間でもない。何か問題があれば本人から言うだろう」
人理修復に携わるマスターとて、年頃の一般人だ。些細な事で悩むこともあれば、食欲がなくなる時だってある。
と、
「マシュ殿。ティータイムとは優雅ですね」
「ジルさん、こんにちは」
「こんにちは」
静かな微笑を湛えながら静かな佇まいでやって来たのは、セイバーのジルドレェだった。
その皮肉にも聞こえかねない台詞に嫌味がないのは、彼の実直さが故だろう。反英霊として召喚されているキャスターのジルドレェと同一人物とはとても思えない。
「元帥、貴方も一緒にどうかね?」
「ええ、よろしければ是非。ジャンヌがマリー殿らと楽しそうにしているのを何度か見て、以前より体験してみたかった次第です」
「声をかけて混ぜてもらえばよいのでは?」
「ジャンヌの愉しみを私ごときが邪魔するなど畏れ多い。若輩者の私にそんな勇気はありません。それに」
「それに?」
「私もジャンヌも生前は気の休まる時間すらない程、戦の毎日でしたから。あのように、年相応にお茶を飲んで微笑むジャンヌを遠巻きに見ているだけで、私は十二分に満たされるのです」
「ジル元帥……」
ジル元帥が指すのは言うまでもなくルーラーのジャンヌの事だ。同じフランス出身で気が合うのか、ジャンヌはマリーやデオンと良く一緒にお茶を飲んでいる。その様はまさに圧巻、彼女らが放つ麗らかなオーラはその場の空気を一瞬にして塗り替えるほどの威力を秘めていると言えよう。
ただ、毎回物陰から仮面を被った男や処刑人やキャスターのジルが監視しているのはご愛嬌だ。
「では少々待ってくれ。せっかくの紅茶だ、出涸らしではつまらん。一から淹れ直そう」
「それはありがたい。ではマシュ殿、お相伴させてもらってもよろしいですか?」
「はい、もちろんです」
水を入れたやかんを火にかけ、一リットル用のティーポットとルイボスの茶葉を用意する。
当然ではあるが、紅茶は作り置きよりも淹れたての方が断然美味い。紅茶の銘柄に明るくはないが、種類はわかるし淹れ方で味は多いに変わる。鮮度が命と言ってもいい。
「やあ、楽しみですね」
僅かに頰を吊り上げマシュの隣に座るジル。その仕草は流暢ながらも何処か遠慮がちに見えた。
これでも彼はカルデアの最古参のサーヴァントの一人だ。
彼は良く言えば寡黙にて質実剛健。悪く言えば陰鬱で他者との関わりを避けるイメージの強い人物だった。
元々物静かな男だったのであろう、召喚された当初は口を開く事も少なく、黙々と任務を遂行していたのをよく覚えている。
後にジャンヌが召喚され、時が経つうちにマシュを含むカルデアの面々とも打ち解けるようになった。
思えばサーヴァントとは思えない程、カルデアでは長い月日を過ごしている。いつまでもこんな日常が続けば――いや、こんな事は一介のサーヴァントの考える事ではない。やめておこう。
「……っと」
湯が沸いたので火を止め、予め用意した茶葉を入れたティーポットに湯を注ぐ。
緑茶と違い、紅茶を淹れる時の湯は沸かしたてのものが好ましい。熱湯を少々勢いよく注ぐことでポットの中に対流を起こし、茶葉を均等に抽出することが目的だ。熱湯を注ぐとほぼ全ての茶葉は水面に浮き、次第に浮き沈みを始める。この現象を日本ではジャンピングと呼び、この一連の流れを経ると紅茶を美味く淹れることが可能になるのだ。茶葉が全てポットの底に沈めば頃合いである。
それら一連の流れを見ながら、マシュが感心を含む声をあげる。
「いつ見てもエミヤさんの淹れ方は絵になっていますね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
マスターの為に戦うことが本領であるサーヴァントである私に対し、紅茶の淹れ方が上手い、と言われても正直、反応に困る。最も、今に始まったことではないが。
「お待たせ、ミルクと砂糖は好みで使ってくれ」
ミルクティーを好むマシュが小ぶりのスプーン一杯の砂糖とミルクを入れるのに対し、ジル元帥はそのままカップを口につける。
「コーヒーとは違い、絹のような口当たりなのですね。香りも実に芳しい」
「気に入って貰えたようで良かった。お茶請けもどうだ」
「これはキャラメルですか?」
「ああ、手作りだが」
小皿に乗せたいくつかの小さな薄茶色の塊を差し出すと、マシュが反応する。
「て、手作りのキャラメルなんですか。エミヤさんは本当に何でも作れるんですね」
「何でも、というのは買い被りが過ぎる。なんだったら作り方を教えようか? マスターも喜ぶだろう」
「ぜ、ぜひ!」
キャラメルの作り方は簡単だ。
砂糖とバターを水で煮詰め、生クリームを加え更に煮る。適当な粘度になったら蜂蜜や塩で味を整え、後は冷やすだけだ。
「素晴らしい。甘すぎず雪のように口の中で溶けていきます」
「これは油断すると止まりませんね……」
「……ふ」
ジル元帥と一緒にマシュがあと一つだけ、あと一つだけ、と呪文のように繰り返しながら次々とキャラメルを口に運ぶ様を微笑ましくも見ていると、
「おや、マスター」
「ジル? 珍しいね、マシュとお茶なんて」
通りかかったのだろう、マスターがいつの間にかこちらに歩いて来るところだった。
「マスターもご一緒に如何ですか」
「え?」
「お茶請けにエミヤさんの作ったキャラメルもありますよ先輩。甘すぎなくて口の中でとろけて、すごく美味しいんです、私も食べすぎちゃって」
「キャラメル」
ごくり、とマスターが生唾を飲み込む音が微かに聞こえた。
いつものマスターならばここで誰かが止めようと参加する筈なのだが、
「ごめんねマシュ、私ちょっとやる事があって」
「そうですか……残念です」
「う、うん。ごめん」
「…………」
やはり、どこかおかしい。
ジル元帥も何かしら察してはいるのだろう、神妙な表情で紅茶の残りを啜っていた。
さて、私はどうするべきか。
マスターとて年頃の女の子。食が絡むとなるとデリケートな問題かも知れない。
ならば遠回しにマスターの胸の内を聞くのがベストなのだろうが、私はそこまで器用でもないし、心配なのも事実だ。
ここは真っ向から聞き出したほうがいいだろう。
「マスター」
「なに?」
「何があったのかは知らん。私達にも話せない事ならば話さなくともいい。だが――一人で背負い込むな。重い荷物でも一人で持つよりも、数人で持てば軽くなる」
「……どうしたの、いきなり」
「さっきまでエミヤさんと話していましたが……最近の先輩は、少し変です。元気がないと言いますか」
「ん……そっか、そうかもね」
「抱え込むよりは、吐き出してしまった方が良いでしょう。異性に話しにくい事であれば、私とエミヤ殿は消えますので」
「ジルまで……そんな、」
「私なんかじゃ頼りにならないかも知れませんけど……でも、元気のない先輩を見てると、辛くて」
マシュが、泣きそうだった。
マスターは、カルデア唯一のマスターとなった時から、強くあろうとしていた。それは知っている。
数々のサーヴァントの上に立つ者として、弱味を見せず、いつでも朗らかに振る舞っていた。
誰もいないところでひとり泣いていた事もあった。
それ程に彼女の双肩にかかったものは、その小さな身体には不相応に重い。
今更マスターが弱音を吐いたところで誰も責めたりはしない。
だが、何かあれば助け合うのが人間というものだ。
それに明らかに挙動のおかしいマスターをいつまでも放っておけるほど、マシュを含めた我々は気が長くもない。
「大丈夫だよマシュ。心配かけてごめんね」
「先輩」
「本当に、大した事ないから、ね?」
泣きそうになるマシュの肩に手を置き、にこりと笑ってみせるマスター。
この様子ならば本当に問題はなさそうだ。深刻な状況であれば、マスターは真摯に問いただせばきちんと腹を割って話してくれる。
「私達の杞憂だったか。どうやらその様子だと、食べ過ぎで体重が気にでもなってきたか?」
「なっ、そ、そんなんじゃないよ! 確かにエミヤのごはんはおいしいけど」
見る限り、マスターの体型も大きく変化はない。太ったから甘いものを控える、といった事ではなさそうだ。
「太るのが嫌でエミヤのごはんを控えるくらいだったら、その分運動してダイエットするよ」
「面映ゆいことを言ってくれる。素直に嬉しいよ」
とは言え、女子の心の機微は繊細だ。こればかりは何度世界を救おうと読むことは不可能に近い。
「食欲がない訳では無さそうだがね。先ほどキャラメルを見た時逡巡しただろう」
「先輩は太ってなんていませんよ? 同性の私から見ても素晴らしいプロポーションだと思いますけど」
「だから違うってば、ええと、ううううう!」
その瞬間、
髪をかきむしりながら唸るマスターの口内に見えたそれを、鷹の目と呼ばれるアーチャーとしての視力が捉えた。
「……ひょっとして虫歯か、マスター?」
「えっ!? なっ、なんでバレたの?」
「アーチャークラスの目の良さを甘く見るな」
「虫歯?」
マスターの口内、下段最奥の奥歯に、微かに黒い点が見えた。
これで合点がいった。虫歯となれば、食が細くなるのも頷ける。噛みしめるキャラメルなどは天敵にしかならないだろう。
「虫歯ですか。それは早急に治療が必要ですね」
「そうだ、たかが虫歯、されど虫歯だ」
病のように虫歯が原因で死ぬ事は滅多にない。が、歯は食生活と密接な関係にある。
歯を失うということは食生活が変わると言い換えてもいい。
「私の時代では虫歯は不治の病と同じくらいの大病でした。何しろ治らないから抜くしかない」
歯科学が本格的に盛んになるのは18世紀頃だ。それまでは歯の治療といえば抜歯が基本だったと聞く。
何しろ菌の存在が明確になるまでは歯を磨く、という習慣すらなかったのだ。
食べ物を咀嚼し、嚥下できるようにする歯は食事という生物に必要不可欠な行為を行う重要な器官だ。
歯科学の発達で人類は寿命を伸ばしたと言っても過言ではない。
「そりゃ治療した方がいいのはわかるけど……いくらカルデアでも歯医者さんはいないでしょ」
「安心しろ、名医がいる。今すぐに呼ぼう」
厨房に備え付けてある内線電話を取る。決まった番号を押すとすぐに繋がった。
『はいはい、こちら管制室。クレーム対応の電話からモールス信号までお手の物、奇跡の天才ダヴィンチちゃんだよ』
「マスターが虫歯だ。進行段階は恐らくC1。手遅れになる前に歯医者をひとつ派遣してくれ」
『了解。すぐに手配しよう』
受話器を置く。マスターは嫌がるだろうが、虫歯はすぐに治療しないと下手をしたら命に関わる。
現代で歯医者に行ったことがあればわかるが、C1とかC3というのは虫歯の進行段階を表す。一般的にはC0からC4まであり、C3で神経や血管まで冒された重篤状態、根管治療が必要となる。
断言は出来ないが、マスターの虫歯はまだ軽いように見えた。冷たいものや固いものを食べると多少しみる、程度だろう。治療出来るのならばすぐに治療しなければならない。
怪我や風邪と違って自然治癒するものではないのだ。
「え……婦長じゃないよね……? 『根治します』とか言って歯を全部引っこ抜かれた挙句、エジソンとテスラが作った口から
と、
「虫歯はわるい文明」
「アルテラ!?」
マスクをし、ひたいにシングルCDに似た鏡をつけ、片手におもちゃのような小型の軍神の剣を持ったアルテラが現れた。
てっきりフェルグスが来ると思っていたので、私も少々驚いた。
「聞けば虫歯とは歯の内側より神経までも腐らせると聞いた。人を滅ぼす可能性のある文明が良い文明の筈がない。破壊する」
「文明っていうか病気なんだけど」
「病も文明の一部に変わりあるまい。よってこの歩くライオンと帯電している妙な男にカスタマイズしてもらった宝具にて粉砕する――真名解放、穿て、『
「ぎゃ――――――――!」
ちゅいいいい、とアルテラの持っていた小型の凄まじい回転速度で回り出す。その音は良く言えば小気味よく、悪く言えば人間の神経を磨耗させる類の音だ。
そう、結論を言ってしまうのであれば、カラフルなエアタービンだ。マスターも現代人だ。あの音で恐怖することうけあいだろう。
……しかし、アルテラの
「その削るやつだけは嫌!」
「逃がさん」
「ぐえっ」
逃亡しようとするマスターの襟首を掴むと、カエルが潰れた時のようなうめき声と共にテーブルに押し倒される。
「さすが筋力B……やだよぉ、怖いよぉ……助けてマシュー! 先輩のピンチだよ!」
「申し訳ありませんが先輩、さすがに虫歯は放置せずに治された方がいいかと……」
「うわーん!」
「諦めろマスター。貴様とて入れ歯にはなりたくあるまい」
「うぅ……せめて優しくしてねアルテラ……」
「善処する。口を開けろ」
「あ、あーん」
「もっと大きくだ、
「あ、あー」
「いいか、絶対に動くなよマスター。下手をしてマスターの口を垣原組長のようにはしたくはない」
「何それこわい!」
「いざ!」
「――――――――――――!」
その後、慟哭と形容するのも生易しい程のマスターの泣き叫ぶ声が食堂に響いたのだった。
//
アルテラの治療(?)の甲斐もあり虫歯は完治し、気絶したマスターはマシュと私でマイルームへと送り届けたのだった。
そして話は冒頭へと戻る。
「だから――」
寝起きで茫洋とした表情のマスターに、懐から一枚の紙を取り出す。
「君の為にこんなものを用意した」
「ん……? なにこれ」
マスターに手渡したA4紙にはこう書かれていた。
月――メフィストフェレス
火――スパルタクス
水――土方歳三
木――黒髭
金――ヘラクレス
土――ナイチンゲール
日――ダレイオス
控え――クーフーリンオルタ、カリギュラ、呂布奉先、ベオウルフ
「……もう一度聞くけど、なにこれ?」
「君の歯みがき当番だ、既に話はつけてある」
「歯みがき……えっ?」
「ここに書かれた者が毎日君の就寝前に現れ、強制的に君の歯を徹底的に磨く。情に絆されないよう、舌先三寸で丸め込まれないよう、全員バーサーカーにしたよ」
「ちょっと待って! これ完全に私が死んじゃうやつ! あとバーサーカーじゃないけど身の危険を感じるのもいる!」
「嫌ならば毎日欠かさず歯を磨け。一日でも怠ったら」
「お、怠ったら?」
「問答無用でこのローテーションを回す」
「わたし歯みがきだーい好き!」
「よし」
これでマスターは二度と歯みがきを怠ることはないだろう。
少々可哀想ではあるが、これもマスターの為だ。慢性化した虫歯ほど怖いものはない。
「食は人間の欲望のひとつだ。それが満足に満たせないとなれば、君も苦しいだろう」
「ん、そうだね……ありがとう。心配かけてごめん」
「そのセリフはマシュに言ってやれ。一番心配していた」
「うん」
「よし、ひと段落ついたところで、食べるか?」
言って、先ほどのキャラメルをマスターに差し出す。
無論、紅茶の用意もある。