間違いの先に   作:さまそくん

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【#011】比企谷八幡は、また。

 さて、現状について説明しよう。俺は今、あんていくにいる。目の前には、由比ヶ浜と雪ノ下。隣には、最近流行りのシャドウバースというTCGアプリをやっている川崎。俺もやっているが、最近A2になったばかりだ。見た所、川崎はmaster。すげーな。

 話がズレてしまった。川崎は俺の理解者として隣に居座り、由比ヶ浜と雪ノ下は尋問者として居座っている事だろう。

 事実、俺は何も言わずに総武高校を中退した。履歴書にするのなら、俺は中卒となる。その俺を雇ってくれたのが芳村さんであり、その芳村さんに合わせてくれたのが平塚先生だ。ハッキリ言ってしまうと、俺は期待していた。誰かが助けてくれるかな、と。その結果、空回りして、自身の風評が悪くなる。別に慣れてるからいいのだが、あくまで慣れているだけだ。痛くない訳では無いが、痛いという感情はとっくに捨てた。

 

 喰種である身の俺が、人間である身の由比ヶ浜、雪ノ下、川崎と関わり合うのは咎められるべき行為、俺は殺されても仕方ないし、川崎達は懲役刑を食らってもおかしくない。平塚先生がその事をこいつらに話したかどうかは分からない。川崎は俺の口から話した為知っているが。だが、そんなこと聞く耳持たないだろう。理由?

 

 

 「ヒッキー、なんで総武高辞めちゃったの?」

 

 

 「…戸塚君も総武高校を辞めたと聞いたわ。…あなた何か知っているのではなくて?」

 

 

 そういう事だ。黙秘権すら与えずに一方的なマシンガントークを繰り返すこいつらに一言でも「俺は喰種だ」なんて口が裂けても言えない。

 

 

 「…はぁ、アンタ達さ、少しは落ち着けないの?」

 

 

 そんな中、川崎が呆れ半分で口を開く。

 

 

 「サキサキには関係ないし。ヒッキー、答えて」

 

 

 「…」

 

 

 「どうせ言ってもおまえら信じねーだろ。散々人のことキモイだの死ねだの言ってた奴に俺の、俺と戸塚の何が分かる」

 

 

 「それは…」

 

 

 「何故戸塚君まで入ってるのかしら。そういう性癖?監禁でもして────

 

 

 「うるせえよ」

 

 

 あんていくの雰囲気が悪くなるのを感じた。それと同時に、川崎が深いため息をつくのを確認した。

 

 

 人の心にズカズカと入り込んで勝手に荒らしたりトラウマ漁ったりして勝手に出ていく由比ヶ浜。罵倒で態度には示さないが俺を傷つける雪ノ下。

 

 口を開けばキモイだの死ねだの。俺はもうそういうのは飽きた。いや、呆れた。

 

 

『八幡────』

 

 

 あの、優しくて耳の保養になる戸塚の声が頭の中にフラッシュバックする。

 

 何も分からないくせに。何も知らないくせに。

 

 零れそうになる涙を堪え、その場から立ち去る素振りを見せる。由比ヶ浜や雪ノ下は例外だが、川崎はそれを咎める様子も無く、同時進行で席を立った。

 

 

 「…もう、いい。お前らと俺はこれから何の関係も持たない赤の他人だ」

 

 

 「!!」

 

 

 「逃げるの?また、そうやって」

 

 

 煽る様に言う雪ノ下。

 

 

 「ああ、逃げだ。だが、逃げる事も一つの道だ」

 

 

 「それは詭弁よ。貴方のそれは進む事を恐れて震えてるだけよ」

 

 

 「逃げだって進む事だろ?無意味な行為に意味を求める馬鹿なんていない」

 

 

 「意味を探し出すのが進むという行為よ。蝿みたいに逃げ回ってれば誰かが助けてくれるとでも思ってるの?」

 

 

 「話が分からねえのな、お前は。それに、俺がいつ助けてくれって言った。お前の価値観で話を進めるなよ」

 

 

 「事実を口に出すのが悪い事ではないでしょう?」

 

 

 「いい事だと思うが、お前のそれは妄想に過ぎない。逃げるのが恥じゃねえんだ。逃げたまんまなのが恥なんだよ馬鹿」

 

 

 「いつも逃げている癖に偉そうに言うのね、ゴキブリ谷君」

 

 

 「そのゴキブリに付きまとってるお前はなんだ?クズか?埃か?ゴミか?お前もなんか言ったらどうなんだ由比ヶ浜?」

 

 

 口篭る雪ノ下に、何も言わない由比ヶ浜。後者に少し疑問を抱き、少し話題を降ってみた。

 

 

 「ヒッキー、なんでそんなに…」

 

 

 結果は無し。

 

 

 「…もういいだろ、お前ら。お前らのそのやり方、嫌いだ。もっと人の気持ち考えろ」

 

 

『────あなたのそのやり方、嫌いだわ』

 

 

『もっと人の気持ち考えてよ!』

 

 俺は、2人に言われた事をそのまま返してやった。俺の気持ちを考えないくせによく言えたもんだ。俺が解決してやったのに嫌いだなんていいご身分だな。

 

 

 「「…っ」」

 

 

 「…じゃあな。俺シフトあるから」

 

 

 歯を食いしばって俯く2人に背を向け、俺は珈琲の独特な匂いが香るカウンターへと入る。

 後悔はない。いや、する必要も無い。俺は俺の出来ることをしただけだ。それに、正しい行為だ。もうあの2人とは関わる気は無い。

 そう静かに決意し、俺はあらかじめ用意されていたコーヒーミルを回した。

 

 その様子を、川崎は静かに見つめていた。

 

 俺は、また…いや、もう。

 

 

 

 

 ────あの場所に戻ることは無い。

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