間違いの先に   作:さまそくん

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【#003】そして、離れ離れの比企谷兄妹は。

 

 

 

お母さんからお兄ちゃんが、私のお兄ちゃんが死んでしまったと聞いた。お母さんも、お兄ちゃんの学校の平塚先生から聞いたらしくて、泣くよりも驚いていた。私も実感が無いから、涙は流せなかった。悲しさも寂しさも、混じり合って複雑になってる。この前まで元気だったんだよ。お兄ちゃん。

 「…お兄ちゃん、小町を先に置いていくなんて、小町的にポイントが低いかも。」

 呟くように口にしたその言葉は、妙に部屋に響いた気がした。

 

 

 私の大切なお兄ちゃん。

 私の1人だけのお兄ちゃん。

 私の優しいお兄ちゃん。

 私の…、

 もうそれ以上は言葉に出来ず、お兄ちゃんの部屋でボロボロと泣いた。

 

 

 「お兄ちゃん!!!…おにい…!!ッッ!、」

 

 

 一度流れ出してしまった涙は止まらず、滝のように流れて止まらない。鼻水も、何度啜っても収まらない。感情は抑えきれず、呼吸のように次々と溢れ出る。

 

 

 「お兄ちゃん……ッ!!」

 

 

 グスッ、という音ではなく、それよりもさらに何倍も酷い嗚咽が溢れる。

 

 出来ることなら、今の顔を誰にも見られたくない。酷い顔をしている筈だ。今は亡きお兄ちゃんにも、そんな顔は見せたくない。見せられない。情けなさ過ぎて、いつも一緒に居て、いつも助けてくれたお兄ちゃんに見せる顔がない。お兄ちゃんは一人でも何でもやって来ていた。小町も一人でやらなきゃいけない。そう思ってるはずなのに、涙と鼻水、嗚咽は止まらない。

 

 

 「こま、ちを置いていか…ないでよぉお!!!」

 

 

 懇願する様に叫ぶ。だがそれは虚しく、さらに空虚感を与えるだけ。スカスカで、空っぽになってしまった、今まではあったはずの〝兄〟(比企谷八幡)という存在。その大切さ、重要さ、尊さ、それらは無くした時に気付くというのは本当だった。

 お兄ちゃんがいない人生なんて、豚肉の入っていない豚汁のようなものなのかもしれない。

 自分が、小町が、どれほどお兄ちゃんを好きだったか、それを理解させられた。

 

 

 

 

 小町、お兄ちゃんの事…受け入れられないよ…ッ

 あ、いまの…こ…まち的に…

 

 もう、そんな口癖を言う余裕も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ────お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 時同じくして、【あんていく】。

 

 

 

 

 「…比企谷です。」

 

 簡潔に名前を言って、どんな要件かを伝えた。

 

 「…君が比企谷君か。さぞ大変だっただろう…。」

 

 俺の肩に手を当て、そう嘆く様に呟いて俺を椅子へと座らせる芳村さん。何故かは分からないが、この人は信用できると思ってしまった。優しくされたのなんて久しぶりだ。

 

 「…ッ…」

 

 涙が出そうになるのを必死に堪え、平常心という名の仮面を被る。陽乃さんの様に上手くはできないが、それなりによくできてないのではないだろうか。いやできてないと困る。

 

 

 「…少し長くなってしまうが、君と同じ事になってしまった大学生がいてね。彼もここで働いてたんだ。彼は人であり、喰種であるという複雑かつ…言い方が悪いが中途半端の存在、と自身を述べていたよ。だが、双方の気持ちを理解する唯一の存在、と私は思っている。君も例外ではない。」

 

 コト、と軽い音をたて、俺の目の前にコーヒーを置く芳村さん。美味しさは匂いで分かる。そういえば宮川大輔が「見たらわかる安いヤツやん!!」って言ってた。同じだな。見たらわかる美味い珈琲やん。

 

 

 「…」

 

 

 「私は君に何があったかは追求しない。だが、ここにいるからには働いてもらうし、なにより【仲間】だ。頼れる人がいる。遠慮なく頼ってもいいんだよ。そう考えることを忘れないでほしいな。」

 

 

 芳村さんは俺の肩に手を乗せ、そう語りかけるように呟いた。

 遠慮なく頼ってもいいんだよ。

その言葉はまるでドーピングの様に心に響き、俺の中の何かが壊れた気がした。

 

 それは〝壁〟。

 「俺は平気だ」という自答を繰り返し繰り返し、積み重なってできた〝壁〟を芳村さんはものの一瞬で破壊した。俺は、気が付けば涙を流していた。

 

 芳村さんは何も言わず、俺をただただ見つめ、時に微笑み、背中を摩ってくれている。

 

 

 「……ッ、俺、は…ッ!」

 

 

 「うん。」

 

 

 「ッ戸塚、も…!!小町も……人生も!居場…しょも無くした…ッ、俺は…お……れ…俺…俺は…ッ!」

 

 

 「うん。」

 

 

 「ッ…俺…は…ッ、」

 

 

 自分の感情を制御できない。涙が汗のように流れてくる。鼻水も花粉をゼロ距離で浴びた様に止まらない。嗚咽が鳴り止まない。我ながらダサい。大人と言っても過言ではないいい歳した男が涙と鼻水をドバドバ流しながら号泣している。その上、自分の私欲を口に出す。

 

 

 「無くしたく……なかっ、た!!」

 

 

 「…うん。」

 

 

 「もう!!もど、れな…い……ッ!!!!」

 

 

 「そんなことは無いよ。」

 

 

 それに触れず、芳村さんはただただ俺を励ます様に相槌を挟む。

 

 

 「アイツらに会いたい……ッ!!!!俺、は…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの場所が────好きだった。

 

 

 

 

 言葉にならず…否。もう言葉を発することは出来なくなり、口を手で抑えるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────それでも、芳村さんは…ただただ微笑みながら俺の背中を摩ってくれているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…すみません、お見苦しい所を…。」

 結果として、俺は1時間近く泣いていた。それも文字通り大泣き。芳村さんはその1時間もの間、俺を励まし、隣に居てくれた。下げた頭が上がらない。それに、途中からは古間さんや入見さんも混ざってくれた。入見さんは常に微笑んで俺を見ていた。古間さんは「魔猿にもそんな時があったさ。」と言いながら頭をワシワシしてくれていた。魔猿がなんなのかは分からない。そんな2人にも頭が上がらない。

 

 

 「比企谷君。顔を上げてほしいな。【あんていく】は助け合いがモットーだからね。当然のことをしたまでだよ。」

 

 

 「そうだよ比企谷君。魔猿に頼って欲しいねぇ。」

 

 

 「あんたは黙ってなさい。比企谷君。無理しないで話してね。」

 

 

 3人の優しさは心に染みるほどだった。

ここは俺の第2の居場所…と…もう、戻れない第1の居場所。

 

 

 

 

 

 

 

────小町、皆…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、会えないのかな。

 

 

 

 

 

 




話が重いです。俺なんてもの書いてんだ。
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