間違いの先に   作:さまそくん

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【#008】川崎沙希には、理解できない。

 どさり、と力無く倒れる。流れ出した血は止まらず、青白い髪を紅へと染め上げる。意識は朦朧とし、コンクリートの冷たい感触が直に伝わるせいか、全身が冷たい。寒い。

 

 

 

 失いかけた気で、ちらりと横を見やると、血で染まった青白いポニーテールを下げた少女が一生懸命俺に声をかけ、体を揺さぶっている。

 

 体を揺さぶる毎に血がブシュ、と吹き出す。それを見て察したのか、揺さぶるのを急にやめた。

 

 

 

 意識がブラックアウトして、俺に暗転が訪れた。

 

 

 

『八幡。』

 

 

 

 暗転した景色に、戸塚が溶け込むように現れる。戸塚はニコニコしながら俺を見やり、コツコツと足音を立てながら俺に近付いてくる。

 

 

 

『…今は休んで。川崎さんは死なないから、安心して。』

 

 

 

 安心こそしてないが、戸塚がそう告げると、俺の意識は完全にぷつりと切れた。

 

 

 

 逃げてくれ、川崎────。

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 川崎は微動だにしない。その理由は何故かはわからない。視線は泳がず、真っ直ぐと前を向いている。

 

 

 

 喰種の目にはそれが〝生意気〟に写ったのか、川崎を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた影響で川崎は数m吹き飛び、ズザザザ、と地面を引きずる音が止むと同時に川崎の体も止まる。

 

 川崎の体は限界を迎えている筈だ。喰種の蹴りを生身で受けてまともにいられる人間などいないはず。

 

 それを含めて生意気に見えているのか、地団駄を踏みながらジリジリと距離を詰めていく。「次で終わりだ」と言わんばかりに。

 

 

 

 「────ッ、」

 

 

 

 その様子を噛み締めた川崎は、息を呑む。そして、額を伝った鮮血を拭う。だが、止まらない。拭っても拭っても流れてくる血と共に、川崎は地面に手をついた。

 

 

 

 「…。」

 

 

 

 諦めかけた命の中、川崎は弟と妹の事を考えている。走馬灯というのは本当に死に間際に見えるものであり、全ての光景がスローモーションになる。

 

 

 

(けーちゃん、大志。)

 

 

 

 今は会えることなどない家族の名を呼ぶ。助けを求めても誰も来ない。それ以前に、喰種に襲われている人間を助ける物好きな人間などいない。川崎はそれを理解している。理解した上で、誰かに助けを求めようとしない。

 

 でも、死にたくはない。

 

 

 

 「────」

 

 

 

 ニヤリ、と笑った。

 

 最期は笑って死のうと思ったのだろうか、川崎にそれ以上の感情はない。

 

 

 

 八幡は全力で川崎を守ろうとしたが、満身創痍というのは怖いものであり、自身がやられてしまった。暗転した意識の中でも、いつも通り捻くれた考え方をしているのだろうか。八幡の中にいる戸塚は何を考えているのだろうか。

 

 

 

 もう、そうも考えることすら出来なくなっていた。

 

 

 

 数秒後には、川崎は死を迎える。

 

 

 

 そんな時、愉快な考えはできるはずがない。

 

 

 

 全てを覚悟し、目を瞑った川崎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、次の瞬間、川崎の目に写ったのは、首が切断された喰種の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 切られて生首と化した喰種の頭などには目を向けず、川崎はその行為の実行犯に目を向けた。

 

 

 

 

 八幡────

 

 

 

 

 

 

 

 

……ではなく。

 

 

 

 

 緑色の髪を下げた、八幡と同じ、片目だけ赤黒い、小柄な少女だった。そしてその少女は、八幡をちらりと見たあとに、川崎の方へとトテトテ歩き、

 

 

 

 「キミ、いやキミ達!実に面白い!」

 

 

 

 見た目に合った声の雰囲気で、彼女はそう言った。額には、首をはね飛ばした影響で返り血がこべり付き、赤黒い方の目の辺りを更に赤くしていて、薄気味悪い。だが、当の本人はそれすら気にせず、口を開く。

 

 

 

 「いやいやー、大変だったね?こんなのに襲われちゃって。」

 

 

 

 こんなのと名指し、喰種の体をペシペシと蹴る。

 その様子は、まるで人形でも扱っているかのように映り、更に薄気味悪い。

 

 

 

 「────、そう警戒しなくていい。私は味方さ。取り敢えず、彼を運ぼうか。」

 

 

 

 自身が味方であると告げ、ちらりと八幡の方を見る。まるで、自身と同じものを見るかのようなその目は、人間らしさ、喰種らしさ、或いはその両方か。それらを灯している。

 

 

 川崎には、理解できない。

 

 ここまでして助けてくれる理由が。しかも、見た所彼女は喰種だ。喰種が人間、半喰種を助けるなど、考えもできない。

 

 

 

 そうはいっても、実際助けてくれた。その上、彼女は余裕を感じさせる表情を浮かべながら、楽しげに八幡を担ぐ。普通逆だろ、と思うかもしれないが、本当に担いでいる。

 

 完全に黒と化した夜空の下に、女2人男1人。男は担がれ、女1人は大怪我。もう1人はとてもニコニコしながら男を担いでいる。

 

 幸い、人はおらず、返り血もバレることがない。

 

 そんな中、男を担ぐ女が言った。

 

 

 

 「────私はエト…芳村エト。高槻泉って名前で小説家やったりもしてるよー。」

 

 

 

 と、気だるげに言うその少女────否。大人の女性は。

 

 

 

 …超有名人だった。

 

 




エトしゃん登場です。
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