記憶が曖昧だ。
赫子でまた腹ぶっ刺されたところまでは覚えているが、その後の記憶が一切無い。
…川崎は無事なのか。そう考えた瞬間、安否確認をしたくなり、起き上がろうとする。
が、それは叶わず、全身を激痛が襲う。
「がっ!!いっ────」
いてえ、と身を転がそうとした時に気が付いてしまった。
ここはベッドであり、周りには本棚が沢山ある。片やラノベ、片や小説、片や国語の事やら、そういう類の物がズラリと並んでいる。
────知らない天井だ。
このネタを本当に使う事があるとは思わなかった。本気と書いてマジと読むくらい。
────!!
突然だが、男性諸君。君達が朝起きた時に「幸せだ」と感じる光景は何かね?
俺、比企谷八幡は自信を持って3つ挙げれる。
まず1つ。カーテンの隙間から控えめに差し込む太陽光が俺の顔面にぶち当たっている時。これにより、俺は朝日で光合成し、一日の養分を蓄える。蓄えた後、また更に深い眠りにつこうとする。これができない場合は、俺にとってのデンプンと言えるMAXコーヒーを飲むこと。
そして2つ。女性が馬乗りに俺の頬をツンツンしているのが目に写った時だ。まずそんなことないけど。
そして最後、これが隣に誰か女性がいる時だ。これにより、可愛らしい寝顔を見れる。その寝顔の為なら、俺は社畜にでもなれる。
何故こうも下らない妄想妄言虚偽無実を並べたかと言うと、それは1つの光景が原因だ。
「すぴー、すぴー、」zzz
俺はこんなにも心温まる光景を知らない。
すやすやと可愛らしい吐息を立てながら、鼻から風船(?)のような物を出して、時折「むにゃむにゃ」とか言いながらくるりと寝返りする────少女。いや、俺は悪くねえ。何もしてねえ。
因みに。
生い茂る自然の様な緑色の髪。絵に描いたように整った輪郭。握ったら折れそうなほど細く、しなやかな腕。曲線、クビレが目立つ腰。その腰から伸びる、細くしなやかな足。
間違いない。こいつぁ美少女だ。
このままだとこいつをぶち犯しかねない。かと言って、俺が動くわけにも行かない。いや、動けない。
ダークハッチマンとエンジェルハッチマンが争ってる。
『オイオイ、今なら童貞卒業出来んじゃねーのか!?』
『駄目に決まってんだろ!しっかり同意を得ろ!!』
…2人とも童貞卒業については何も言わない。両方悪魔。お前ら陽乃さんだわ。
そんな悪魔兼魔王達のやり取りの中、すやすやと可愛らしい寝息を立てていた美少女が起きた。
「すぴー…んぉ?おぉ、起きたか、少年。」
美少女はそう言った。
いや起きたのお前だろ。それより少年て。
「…俺よりも貴方の方が幼く見えるんですけど。」
「はっはっは、冗談は腐った目だけにしたまえよ。私はもうばばあさ。」
ほっとけ。
あ、見た目だけロリだ!この人。合法ロリって奴?違法ロリ?あれ、ロリってなんだっけ。知らんけど。
「あー、君の名前は?」
ロリっ子は俺に名前を聞いてきた。そういえばそんな名前の映画あったな。入れ替わるとか。
「…比企谷八幡です。」
「比企谷君、ね。キミ、面白い!」
俺の名前を聞いてうんと頷いた後、好奇心に溢れた、夏休みに虫を捕まえに行く少年のような目で言った。内容はそんな大層なものではない。
「俺のどこが面白いんすか…それより、貴方も…名前は?」
俺は俺の面白さをとうまわしに否定するように言い、ついでに名前を聞いた。知ってる名前だったら土下座してやるぜ。
「んー?芳村愛支。エトちゃんって愛称で呼んでね。」
「芳m「エトだっつってんだろ」…すみません、エトさん。」
この人怖い。ニコニコしてるけど。目も笑ってるけど、声がガチトーン。見た目は天使なのに声だけ切れてる沢城みゆきみたいな感じ。怖え。
「あ、ついでに…」
ついでに?
「高槻泉って名前で小説家やってるよ。」
「すみませんでした。」
俺は秒速を超える速さで土下座した。土下座すればなんでも許されるというのは日本の摂理であると俺は思う。ジャパニーズ土下座。変な妄想とか襲おうとかエンジェル達が争ったりしてすみませんでした。
土下座しながらエトさんをちらりと見ると、エトさんは何故か凄く満足そうな顔で俺を踏もうとしてる。いやなんで?
案ずるより産むが易しという言葉がある。そう仮定して、謝るよりも、いっそ吹っ切れてしまえば案外大したことないかもしれない。そのことわざを考えたやつ出てこい。
エトさんの脚(言うまでもなく美脚)は、地面を貫いて、フローリングを破壊した。
これの前で案ずるより産むが易しとか言えるか馬鹿野郎!!
「あっぶねぇ!!!」
「逃げるなよ少年。如何わしくも下らなくもある妄想に私を巻き込んだ、それについて謝る気があるなら誠意を見せたまえ。」
なんでわかってんのこの人ぉ!?
阿鼻叫喚とはまさにこの事だ。地獄絵図とも言える。死ぬのを回避したかと思ったらまた更なる死の連なり。駐車場の様に溜まっていく。そのうち死に戻りとかしそうだ。
そんな考えをしてる中も、エトさんの攻撃は止まらない。本棚ぶっ壊し────はしないが、地面には複数の穴が。やべえよ、この人の蹴り。いや踏み。ひと踏みで地面破壊とかバケモンかよ。
そんな中、カチャリと音を立て、ドアが開く。開いた先には、青みがかったポニーテール────ではなく、その長いしなやかな髪をそのまま垂れ下げている、少女がいた。
「…何やってるんですか、エトさん、比企谷。」
俺達を見るなり、呆れる様にため息をつく。いつもとか違った雰囲気にドキリとするが、気のせいだ。俺は悪くねえ。
川崎は、額に指を当てながら、呟いた。
「…どれだけ心配したと…」
残念ながら、俺はその言葉聞こえなかった。目の前に「the・絶対俺を殺すlady」がいるから。気が狂いそうになる程、笑顔で追いかけ回してくる美少女…じゃなくて大人の女性。見た目とは裏腹に、俺をぶっ殺しに来てる。そんな中、川崎の小さい呟きは聞こえるはずがない。
「おら逃げんな、しっかり謝りたまえ。私たちにどれだけ心配させたか。あと変な妄想してすみませんて。」
エトさんは知らん。
心配させた、か。
確かに、俺は川崎を守る為に赫子で腹部を何度も貫かれた。ぐしゃ、という肉を穿つ音なんて何度も聞いた。俺が貫いたのと、あの喰種が貫いて響いた音は違いがったが、似たようなものだった。
喰種というのがどういう生物なのか、どうして生まれたのか、どうして人間しか食せないのか、それなのにどうして珈琲が飲めるのか…どうして、店長はそこまでして人を助ける────人を、好きでいられるのか。俺には分からない。人であった身だが、見当もつかない。腹部を穿たれるのなんて経験なかったし、ましてやそんな事するつもりなんて考えられなかった。
俺は、その人である身の川崎の目の前で、腹部を穿たれた。川崎からしてみれば、とてつもないトラウマとなりかねない。そう考えてしまうと、目を合わせられない。俺の不甲斐なさから、あんな目に遭わせてしまった。
そんな俺に、川崎は優しく声をかける。
「…アンタが気にすることないさ。次アタシとかを守ろうとして勝手に死にそうになったらぶっ殺すからね。」
…うへえ、いらねえツンデレだ。
エトさんを出したいがために!!!すみません!!!
えっと、今日をもちまして3月が終わり、出会いと別れの季節ですね。俺にそんなに出会いする友達と別れを告げる友達なんていないけど。
皆様どうお過ごしでしょうか。