隣人だから   作:ヤンデレ大好き系あさり

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ちょいとグロあり。


第六話

 かちゃりと、少女はゆっくり扉を開く。

 

 それは大して大きな音でもなかった。にも関わらず、どうしてか少女は蝶番の軋む音がこの静かな夜に響き渡ったように思えて心がざわついた。元よりいけないこと(・・・・・・)をしているという自覚があったからだ。

 

 ―――誰かがこの音を聞きつけて、ここに来るかもしれない。

 

 それは少女にとって非常に不都合な事態だ。急いで、しかし音は立てずに少女は部屋の中に入る。その際鍵をしっかりかけることは忘れない。たったそれだけの行為なのに、それらを終えた少女の額からは冷えた汗が流れた。

 

 「……ん」

 

 汗をぬぐい去り、部屋に入るだけでもう疲労を感じる。まるで忍び込むことに慣れてない空き巣のような体たらくだが、あながちその表現は外れてない。もっともただの空き巣と違うのは、この部屋には家主がいる(・・)ということなのだが。

 

 少女の手に握られているのは何の変哲もない鍵。しかしながらそれは彼女のモノではない。この部屋の主から借り受けた合鍵である。家主の少年曰く「まぁなんだ。これから何度も出入りするんなら、合鍵渡しておいた方が便利だろ」との事である。その時の彼は恐らく、彼女に貸した鍵がこんな不法侵入に使われることになるとは思いもしなかっただろう。

 

 「……ごめんなさい」

 

 額に鍵を押し当てながら、弱々しくそんな謝罪の言葉をこぼす。

 

 少女もまた、朝田詩乃も全く同じ心境であった。まさか自分がこんな事に、この大切な鍵を使うなんて。考える前にあり得ない。本来であればそんな事出来る筈がないのだ。

 

 そもそもこの合鍵は彼からの信頼の証といっても過言ではない。他人に自身の鍵を渡すという行為は特別な意味を持つ。そしてそれを許される人物もまた、その持ち主にとって特別な人間でなければならない。なんせ自身の領域に踏み入れることを他人に許すのだ。親しい間柄でなければ、おいそれと合鍵なんて渡すことが出来る訳がないのである。

 

 だからこそ、心が苦しい。この行為は詩乃を信頼してくれる彼への背徳だ。そのことを正しく、朝田詩乃と言う少女は理解している。

 

 

 

 今より十年以上も前の話である。詩乃が物心がつく前、彼女の父親は交通事故により他界した。

 

 父親、母親、そして詩乃の三人で構成された家族は年末年始に母方の実家で過ごしていた。そしてその帰り道、山道にて大型トラックが猛スピードで走っていたため急カーブを曲がり切れず、偶然そこに居合わせた詩乃たちの乗る自動車を吹き飛ばした。

 

 運転していた彼女の父は意識不明の重体ではあったが即死には至らず、母親は片足の骨折で済み、詩乃に至ってはシートベルトをしっかり締めていたためほとんど無傷であったという。問題だったのが、事故の起きた現場は深夜という事もあってほとんど車は通らず、そして詩乃たちの車は道路から吹き飛び、木に引っかかっていたという事だ。

 

 当然のことながら、車が通らなければ事故に気づく者もいない。また携帯電話も事故の影響によってか見事に破損し、彼女たちに打つ手はなかった。というよりも、下手に動くと車体が揺れてこの絶妙なバランスが崩れる可能性があった。

 

 六時間後、現場を通ったサラリーマンの通報により詩乃の乗る自動車は救出される。しかし、大量出血により父親は死亡。母親は目の前で衰弱する夫を目の当たりにして、元々脆かったということもあって精神が少し壊れてしまった。

 

 不幸は続く。

 

 七年前、幼児退行してしまったものの少しずつ立ち直り始めた母親と詩乃が、用事で郵便局にいた時の出来事だ。いきなり後ろから現れた中年男性が書類を提出していた母親を突き飛ばし、銃を取り出して「金をだせ!!」と怒鳴り散らしていた。そしてその時、人質に取られそうになったのが詩乃の母親だった。

 

 元より、詩乃は母親を守るために自身を犠牲に出来る少女だった。母親が家を出るときは常に一緒で、訪問販売は警察を呼ぶと言って追い返し、学校では友達をほとんど作らずにすぐに家に帰った。

 

 そんな詩乃だからこそ、彼女は母親の命の危機と咄嗟に判断して、いや判断するよりも先に、その小さな身一つで錯乱する男にかみついた。

 

 その後は泥沼だった。詩乃の立ち回りが良かったのか、それとも男が冷静な判断が出来なかったのか。何にせよ、詩乃は格闘ともいえない抵抗の末に銃を奪う。ことの重大さに気づいたのだろう。男は先ほどよりも必死に叫びながら詩乃に掴みかかってくるが、それがいけなかった。

 

 恐怖を煽る男の行動は、詩乃の引き金を軽くさせた。

 

 放った弾丸は計三発。その内の一つが男の額に吸い寄せられ、そして即死した。

 

 この事件が公開されることはなかったが、火のない所に煙は立たぬという。いらない努力をした何者かが事件を見つけ出し世間に晒した。その結果、必然的に詩乃は批判の対象となった。

 

 詩乃からすれば、ただ母親を守りたかった。それだけなのに、詩乃の日常は周囲から常に暴言を吐かれて暴言を吐かれるものに変わった。意味が分からないとは言わない。しかし釈明の余地があるのは明白である。

 

 それが許されないのは何故か。どうして詩乃は強盗を殺してしまったのか。そもそもどうして人質になりそうだったのが詩乃の母親だったのか。更に言うなら、どうして交通事故に遭い、詩乃の父親が死んでしまったのか。言うまでもない。

 

 偏に、詩乃に運がなかっただけの話である。

 

 それを知った詩乃は、瞳を濁らせ、ただ現実を受け入れることをした。

 

 

 それ以来、詩乃は他人とは極力接しないようにした。彼女にとって他人とは、自身に危害を加える何者かの事を指し、元々の性格が淡泊で素っ気ないという事も相まって更に孤立を加速させた。皆無に等しかった友達もいなくなり、彼女の理解者は母親と祖父母のみとなった。その母親だって詩乃にとっては『守るべき者』でしかなく、泣き言を吐露する事はなかった。

 

 そんな彼女の摩耗具合は凄まじいに違いない。当時の事件の記憶はトラウマとなり、今も銃を見れば嘔吐したい衝動に駆られる。それでも自己を保ち続け、詩乃は今日まで真っ当に生き抜いてきた。

 

 そんな彼女が唯一弱みを見せた人間がいる。

 

 菊川哲郎、それが彼の名だ。詩乃と同じ高校に通い、一つ年上の先輩でもあるので詩乃は「先輩」と親しみを込めて呼んでいる。最初は部屋が隣り合わせというだけの関係であったが、とある出来事を切っ掛けにご飯を一緒に食べる間柄となった。

 

 彼は基本的に人畜無害な人間だ。ボクシングや格闘技の事になると少し頭のネジが飛んでしまう事もあるが、おおよその人に彼の人となりを聞けば殆ど全員が彼の事を「優しい」というだろう。

 

 ―――もしこんな俺で良ければ、頼ってくれないか?

 

 全てを知った上で彼はそう言った。詩乃の突然の告白にも、多少は驚いたもののそれから彼の態度が何か変化するような事はなかった。

 

 自然体でいてくれる彼に、今まで彼女のメンタルケアを行ってきたカウンセラーらののっぺりとした言葉の数々よりも、よほど安らぎを感じられた。ちょっとした世間話で驚いたり得意げになる彼を見て、日常を肌で感じられるようになった。いてほしいと思った時に必ず現れては、何でもないように笑ってくれる彼を見れば、胸が締め付けられたかのように痛くなる。

 

 ―――ええそうだとも。私は先輩のことをきっと―――

 

 それ以上先は思考することも憚られた。もし彼に対しての気持ち(・・・)を言葉にしたものなら、恐らく理性が溶けてしまう自信が詩乃にはあった。

 

 

 ―――いえ、もうとっくのとうに理性なんかはち切れているのでしょうね。

 

 

 ベットで寝息を立てて寝ている(・・・・)自身の想い人を見下ろしながら、そんな事を詩乃は考えていた。

 

 「……んぅ」

 

 変な息が漏れでてくる。まるで腹を空かした獣の目の前に大量の肉でも置かれているのかのような、そんな心境。要するに詩乃は無防備な彼の姿を見て興奮しているのだ。

 

 やはり自分は異常なんだなと、詩乃は他人事のように分析する。ただの興奮であるなら、まぁまだ百歩譲って何とか許してもらえるだろう。問題なのは詩乃が本当に彼にかみつきたい(・・・・・・)という心情にあるという事だ。

 

 これは考えるまでもなくおかしい。哲郎の事が好きであるという自覚を持ち始めてから、何か詩乃の中でおかしくなり始めているという感覚はあった。例えば、ただ彼と他の女の子が会話をしているだけなのに悲しさと、それを上回る暗い感情になったことがある。それからは彼を見ていると割と少なくない頻度で、手足を縛って拘束してしまいたいという気持ちが生まれたり、今みたいに噛みつきたい衝動に駆られることもある。性質が悪いのは、その異常な衝動が日に日に強くなっていくという事だ。

 

 しかしそこは流石の朝田詩乃と言うべきか。過去と向き合い、トラウマを克服せんと努力を怠らない彼女にとって、それら全ての衝動を殺すことは容易だった。無論そこには彼に嫌われたくないという思いも働いていたのだが。

 

 だがしかし、詩乃の防波堤(意思)は今日をもって決壊した。

 

 「……本当に、ぐっすりね。こんなに近くにいるのに、起きる素振りすら見せないなんて」

 

 夕食にいれた(・・・)薬がここまで効いている事に安堵する詩乃。彼に対しては申し訳ないとは切に思っている。自分の感情を抑えきれず、あまつさえ薬まで盛るだなんて、誰に言われるまでもなく異常であるという事も詩乃は知っている。

 

 「でも、貴方も悪いのよ」

 

 それは哲郎にというよりも、自分に言い聞かせてるようだった。

 

 「これだけ貴方の事を意識させながら、他の女の子と楽しそうに買い物するだなんて。それってあんまりじゃない?」

 

 もし彼が起きていれば口にしなかったであろう言葉。それだけ彼女は追い詰められていた。

 

 彼の意思は尊重したい。彼が幸せなら、それは本当に喜ばしい事だ。その隣に自分が居ればもういう事はない。そんな風に詩乃は考えている。だがソレとは別に詩乃はもう一つの思いがあった。

 

 ―――果たして自分は、先輩が選んだ女を素直に祝福できるのか。

 

 無理だなと、すぐに答えは出た。あまりに自然に出てきた回答であったから、ようやくそこで、詩乃は自身の本質に気が付いた。今、自分の胸の中で燻る感情の正体は『嫉妬』に他ならない。そして詩乃は詩乃が思う以上に嫉妬深く、また独占欲が強かった。ただそれだけのこと。

 

 一度自覚したら後は速かった。

 

 夕食に睡眠薬を盛って、彼が完全に寝たことを把握するために小型カメラを用意し、そして彼から借りている鍵を使って部屋に侵入し今に至る。

 

 「ええ。貴方が悪いのよ。だから、ね」

 

 詩乃はベットの上に乗り、哲郎に馬乗りになってゆっくりと顔を彼の首筋へと近づける。

 

 「ゆるしてね」

 

 丁度抱き着くような態勢になって、そう囁きながら詩乃はかぷりと彼の首筋にかみついた。

 

 これだけの事をしてなお軽く呻くだけに留まる彼の鈍感さに呆れて、でも今回はその鈍さに心底感謝して。詩乃は次第に噛みつく力を強める。血の味がじんわりと口の中に広がった。

 

 それがどうしてか甘味のように甘く美味しく感じてしまう自分が嫌になる。そう思いつつも噛みつくことをやめようとはしない。自己嫌悪に陥りつつも、十分に時間をかけてから詩乃はゆっくり口を離した。口内は鉄臭い液体が残っていて、それを抵抗もなく、むしろもったいない言わんばかりに彼女は飲み干してから自身の想い人を見つめる。

 

 「……ふふ」

 

 不意に、静かに笑う。

 

 彼女の視線の先には、自分のつけた歯型が痛々しくも朱い液体と共に美しく彩られていた。

 

 まるでそれは、誰の所有物かを主張しているかのようなマークにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 後に、詩乃は哲郎が詩乃の誕生日プレゼントを買うためのアドバイザーとして、ボクシング部のマネージャーと共に買い物をしていたという事を知ってメチャクチャ自己嫌悪した。

 




どうでしょう、私なりにヤンデレを書いてみました。
というか一晩で書き上げたので普通にヤバいかもしれない。
だから誤字報告先輩に期待(無責任)
あと「こうした方が良いんじゃない?」という意見も大募集ですっ!

ところで、今回意識したのは自覚系ヤンデレなのですが、どうでしょう。依存系ヤンデレも最高ですが、これもかなりいいと思うんですよね。
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