ガールズ&パンツァーダークサイド短編集   作:御船アイ

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エリみほまほが台風の夜に怪談話をするお話です。


台風の夜

 熊本に大型台風が上陸した。その台風の威力は凄まじく、ものすごい豪雨と突風で街を停電にした。

 そんな中で、偶然帰省していた西住みほと西住まほ、逸見エリカは木造の西住屋敷で身を寄せ合っていた。

 

「うう、どうしてこんなことに……」

「まあ、たまにはこういうのもいいじゃないか」

 

 愚痴るエリカにまほが言う。

 

「そうだねー、なんだか修学旅行みたいで楽しいかも」

「気楽ですね二人共……まあ楽しいって気持ち、ちょっと分かるけど」

 

 西住屋敷には三人しかいなかった。

 西住しほを始めとした大人達は皆出払っていた。

女中達も皆ついていっているため、屋敷には正真正銘三人しかいないのだ。

 電気も消え、ろうそくの明かりを頼りに身を寄せ合う三人の少女。その姿は、たしかに普段味わえないものだ。

 

「こんな夜は……怪談でもしたくなるね!」

 

 みほが楽しげに言う。

 

「怪談ってあなた……季節外れねぇ」

「なんだエリカ、怖いのか?」

「そ、そんなことないですし! むしろどんとこいですし!」

 

 明らかに強がって言うエリカに、西住姉妹はふふっと笑みをこぼした。

 

「実はね、こんな日にぴったりなとっておきの話があるんだ……」

 

 みほはろうそくを持って、顔を下から照らしながら言った。

 

「へ、へぇ……」

「それは今日と同じ台風の夜のことでした……」

 

 みほが雰囲気を作りながら言う。

 それにあからさまに怯えるエリカと、ふむと真剣な顔で聞くまほ。

 

「ある屋敷で、今の私達のように留守番をしている子供達がいました。その子供達は暗い闇に怯えながらも励まし合っていました」

「本当に今の私達のようだな」

「屋敷には子供達だけでした。しかし、突如ぎぃ……と床が軋む音が聞こえたのです。それは最初風のせいかと思いました。しかし、その音はぎぃ、ぎぃ……とだんだんと近づいてくるではありませんか。子供達は怯えます。だって、屋敷には自分達以外誰もいないはずなのに」

「か、風の音に決まってるわよそんなの!」

「どんどんと近づいてくる音。その音はやがて子供達のいる部屋の正面までやってきます。怯える子供達。ですが、その中で勇敢な一人の子供が、音の正体を確かめるんだと言って扉に近づきました。他の子供はやめろといいます。しかし彼はやめません」

「な、なんで近づくのよ!」

「エリカ静かに」

「子供がその音の正体を確かめるために、扉に手をかけました。そして、ゆっくりと扉を開けると……」

「あ、開けると……?」

「なんと開けると突然――」

 

 ぎぃ……

 

「……え?」

 

 オチに差し掛かる直前で、突如物音がした。

 その物音はぎぃ……ぎぃ……とだんだん近づいていくる。

 

「ちょ、ちょっと……」

「はは、まさか、だよね……?」

「まさか、な……?」

 

 ぎぃ……ぎぃ……

 そして音は、みほ達のいる部屋の正面で止まった。

 

「……そんな、嘘でしょ……?」

 

 エリカは震える。みほとまほも、息を呑んだ。

 

「こ、こんなの、怖くなんかないわ! 私が正体を確かめてやるわよ!」

 

 そう言って、エリカが音のした扉のほうへと向かう。

 

「ちょ、エリカさん……!?」

「ふむ、エリカは勇気があるな……」

 

 西住姉妹が固唾を飲んで扉に近づくエリカの背中を見る。

エリカはガクガクと震えながらも「こんなの、ただの風のイタズラよ……!」と言いながら扉へと辿り着き、扉に手をかけ、そして、ゆっくりと扉を開いた。すると――

 ガバッ!

 なにかがエリカの手を左手で掴んだ!

 

「いやああああああああ!」

『きゃああああああああ!』

 

 それぞれの悲鳴がこだまし、そして――

 

「な、なんですか突然!」

 

 扉の向こうにいたしほが、驚いた顔をした。

 

「い、家元……!?」

「お母さん……!?」

「お母様……!?」

 

 三人は揃って驚いた、しかし安堵した顔色を見せる。

 

「帰ってらしたのですね……」

「ええ……停電していましたからさぐりさぐりやってきて、扉を開こうとしら扉が開いてドアノブの代わりに逸見さんの手を握ってしまったのです。それにしてもなんですか、人を幽霊のように」

「ははは……すいません……」

「うん、ごめんねお母さん……」

「ちょうど怪談話をしていまして……」

 

 そうみほ達が言うと、しほは呆れた顔をした。

 

「高校生にもなって恥ずかしい……何をしているんですか」

「仰る通りです……」

 

 エリカは申し訳ないという顔をした。

 

「はぁ……後で三人にはしっかりとお話しなければなりませんね。まずは逸見さんからです。こっちにきなさい」

「え、私からですか!?」

「そうです」

 

 そう言ってしほは、エリカを連れて部屋の外に出てしまった。

 

「幽霊の正体見たり枯れ尾花だな」

 

 まほが笑う。みほもつられて笑う。

 

「そうだねー」

「そういえばみほ、さっきの話だが、結局どういうオチだったんだ?」

「え? ああそうだね……」

 

 みほが、ああ、といった顔になる。

 

「えっとね、扉を開けた子が青白い左手に掴まれてそのままどこかへ連れ去られてしまうって話なんだけど……」

「へぇ……左手ねぇ……」

 

 と、そこでまほが気づいた。

 

「そういえばさっきのお母様、結婚指輪してなかったな」

「え? いつもはめてるのに?」

「というかお母様、いったい何時の間に入ってきたんだ……? 玄関の音がしなかったぞ……?」

 

 そのとき、ガラガラ、と玄関の扉が開く音がした。

 西住姉妹は顔を見合わせ、急いで二人で玄関に向かった。

 そこにいたのは――

 

「ふぅ、ひどい台風ね……あらまほにみほ、どうしたの?」

 

 しほだった。

 

「おかあ、さま……?」

「台風の中移動するのは無茶でしたか……もうそろそろ女中達も来るはずですが……どうしたの二人共? 幽霊でも見たような顔をして」

 

 みほとまほは青白い顔をしながら屋敷の奥の闇を見る。

 そこからは物音一つ聞こえない。

 その日以降、逸見エリカを見たものはいない……。


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