僕の秘書艦 天津風   作:ミトラ

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守りたい、このぬくもり

 

「あ~、冬にこたつでゴロゴロするのは最高だな~」

「だらしないわね……そのまま寝たら風邪ひくわよ?」

 

 ある日の昼下がり。仕事が休みの僕は、同じく非番の天津風、雪風、初風と四方からこたつを囲んでいた。下半身をこたつに突っ込んだまま座布団に寝ころぶ僕を天津風が諭してくるが、耳に入らない。

 すると、僕とは反対側に座っている初風が、抑揚のない声で話しかけてくる。

 

「提督だったら、立ち居振る舞いもみんなの模範になるべきじゃないの?」

「いや、初風、それは勘違いだよ。僕は今、業務の時にベストパフォーマンスを発揮するために、こうして英気を養ってるんだ。休むのも仕事のうちってことさ」

「ふうん、提督のそのブレない生き方は、確かに尊敬に値するわね」

 

 言葉とは裏腹に、全く尊敬の念を抱いているように見えない初風であった。

 今度は僕の右側に座っていた雪風が、明るい声をあげる。

 

「さすがです、しれぇ! 雪風もしれぇを見習って休息に入ります!」

「雪風、真似しなくていいから……」

 

 雪風は僕の姿と同じように、こたつに入ったまま寝ころんだ。そんな雪風を見て、天津風がやれやれといった感じで息を吐く。

 そんな時、不意に入口の扉が開け放たれた。

 

「やっと遠征終わったー! あたしも混ぜて混ぜてー!」

「おお、時津風、お疲れさま」

 

 部屋に入ってきたのは、遠征帰りですがすがしい顔をした時津風だった。

彼女は意気揚々とこちらに近づいてきたが、あることに気づいて立ち止まる。実はこのこたつは意外と小さいため、一ヵ所に二人座るのはかなり窮屈なのである。しかも既に四人座っているため、時津風が入る場所がない。

 時津風は僕の方に近づいてきて、いきなり僕の身体をこたつから引きずり出そうとする。

 

「ちょ、時津風!? 何するのさ」

「しれーがこたつから出てくれれば、あたしが入れるじゃん♪」

「『あたしが入れるじゃん♪』じゃないよ! 何で僕なの!?」

「しれーは男の人なんだから、レディーファーストしたくならなーい? なるよねー!」

「男でも寒いものは寒い!」

「時津風、ちょっと狭いけど、あたしの隣に来る?」

「雪風の隣も大丈夫!」

「いいよー天津風、雪風。それも悪くないけど、ここはしれーが席を譲るべきだと思うなー」

 

 あくまでも僕をどかして、こたつに陣取ろうとする時津風。少しでもこたつでの滞在時間を伸ばすために、とりあえず適当に話を延ばしてみることにする。

 

「ならば仕方ない……上官の権限を行使して居座っちゃおっかなぁ」

「何それー!? ずるくないー!?」

「まあ、じょうだ――」

「本当にそんなことしたら、パワハラって言われてもおかしくないんじゃない?」

「いやいや、冗談だよ?」

 

 僕が言い切る前に、初風が忠告をしてくる。さすがの僕でも権限の行使まではしないつもりだけれども。

 

「しれぇ、パワハラって何でしょう?」

「う、それは……」

「ほら雪風、男の人が好きなやつだよー。確か、パイパイワクワクハラショーの略? だっけ?」

「いやいやいや!? 全然違うからね!? たぶん、時津風が言いたいのはセクハラのことだよね!?」

「あ、そうとも言うねー」

「そうとしか言わない!」

 

 僕と時津風のやり取りを聞いて、雪風がつぶやく。

 

「しれぇ……」

「ん?」

「それは、ハレンチだと思います!」

「だから違うからね!?」

 

 最初は冗談のつもりだったのが、謎のセクハラ容疑にまで発展してしまったので、話を本筋に戻すことにする。

 

「分かった。とりあえずここはトランプの”大貧民”で勝負して、下位の二人が一ヵ所に座るって事でどうだろう?」

「大貧民? 大富豪のこと?」

「どっちも同じだね。手持ちのカードが無くなるのが遅かった二人が負けということで。ちなみに全員平民でカード交換無しの一発勝負」

「ふーん、それなら公平ではあるわね」

「しれぇ! ルールが分かりません!」

「あ、時津風もあんまり知らないかもー」

「ルールが分からない人にはしっかり教えるとしよう。では、この方法に決めていいかな?」

 

 僕の問いかけに、四人の艦娘は各自うなずく。こうして、こたつの位置争奪戦が始まった。

 ゲームをするために、時津風は暫定的に雪風の隣に座ることとなった。もうこの席のままでいいのではとも思ったが、言い出した手前、ちゃんと勝負するしかない。

 天津風と初風はルールを知っているようだが、雪風と時津風はよく分かっていないようなので、一から説明する。

 数字の3が一番弱く、続いて4・5・6……Q・K・Aと上がっていき、2が一番強いこと。場に出ているカードの上により強いカードを乗せていき、誰もカードを出さなくなったら場のカードを脇に流し、最後に出した人が手持ちのカードを新たに出すこと。自分の手札が無くなったら勝ちであることなど。また、このゲームはローカルルールが多いので、その大半は排除し、8切りや革命などの有名なものだけにすることで単純化する。

 こうして準備が調い、ゲームを開始することとなった。

 

「よし、ダイヤの3を持ってる人からスタートだよ」

「はーい、あたしあたし♪」

 

 時津風は景気よくダイヤの3を出し、ゲームが開始する。時計回りに一人ずつカードを出していく。

 自分の手札を見ると、それほど悪くない構成である。

 周りに目線を動かすと、左側にいる天津風は真剣な顔で手札とにらめっこ。右側の雪風は軽く頭を揺らしながら、鼻歌を歌っている。その奥の時津風は場に出てくるカードに合わせて、表情がころころ変わって分かりやすい。向かいの初風は顔色一つ変えず、淡々と場に出るカードを見つめている。

 

「これで流しますね!」

 

 雪風が出したカード以降、誰も出そうとしなかったため、場のカードを流した。彼女はかなりテンポよくカードを消化しているが、割と強いカードを連発しているため、後半どうする気なのか。

 その時、僕の中に、ある懸念が生じた。

 

「(まさか、革命する気じゃ……)」

 

 革命をするとカードの強さが完全に逆になり、2が一番弱く、3が一番強くなる。革命を発動するには同じ数字のカードが4枚必要だが、雪風がそれを持っているとすると、彼女は先に強いカードを出しきってから、革命をして後の展開を優位にする可能性がある。

 もしそうなら、さすが幸運艦といったところ。だが、実際彼女はこのゲームをするのは初めてだから、考え無しに強いカードを出しているだけかもしれない。

 

「(革命するのか、しないのか、どっちなんだ?)」

 

 こちらとしては、革命されるかどうかで、今後のカードの出し方が完全に変わってしまう。一応、どちらにも対応できるように気を配っていくが、中途半端な感は否めない。

 そうこうしているうちに、雪風が場にカードを2枚出し、彼女の手札が残り3枚になる。

 

「(お! 残り3枚ということは革命はない!)」

 

 雪風が革命を起こす可能性が無くなったので、僕は手札の弱いカードを処理して、残りの強いカードで攻勢をかけることにする。

 しかし――

 

「はい、革命」

 

 その宣告は淡々としていて、落ち着いていた。しかし、対照的に僕の心情はその驚愕に激しくえぐられる。

 その言を発したのは、目の前にいる初風だった。

 

「うわ、やられた……」

「提督には結構効いたかしら?」

 

 初風のしてやったりという表情がありありと表れる。

 雪風に気を取られすぎて、初風は完全にノーマークだった。

 

「ああぁ……あたしにもダメージよっ!」

「革命って、あー、数字がひっくり返るやつ? んなバカな」

「初風、びっくりだよー」

 

 天津風と時津風も予想外だったようで、頭を悩ませている。雪風も驚きはしているものの、特に困惑した様子は無い。

 さて、こうなると今後の展開をどうするか困ってしまった。この革命状態では、3や4が強いわけだが、その辺のカードは先ほど処理したばかりだ。

 仕方ないので、天津風や僕は今や弱体化した2やAを出していくが、雪風はいきなり3を出して場を流し、手札最後の2枚を出した。

 

「これで上がりです!」

 

 こうして、大富豪の座は雪風に決まった。結果として、彼女はこの革命下でも強いカードを偶然残していたのだ。やはり幸運艦は伊達じゃなかった。

 続いて、初風がすんなりと上がる。革命を仕掛けた張本人なので、当然のごとく勝算のあるカードを残していたのだ。

 次に上がったのは、意外にも時津風だった。彼女は、場を流すことが多かった雪風の次に順番が回ってくるため、比較的カードを消化しやすかったようである。

 結局、天津風が4番目で貧民、僕がビリで大貧民となった。なんてこった。

 

「まさか大貧民になるなんて……」

「あたしも、途中まではかなり良かったんだから。ホントよ?」

 

 僕と天津風が敗者の弁に終始していると、時津風がふと思い出したように声を出す。

 

「じゃあじゃあ、こたつの二人席はしれーと天津風で決まりだねー!」

「あ」

 

 僕と天津風は驚いたようにお互いの顔を見合わせた。そうかと思えば、なんだか気恥ずかしくなってお互い目線が泳ぐ。

 

「そうと決まれば、さっさとどいたどいたー♪」

 

 そう言って時津風は僕を今の位置から引きはがし、天津風の隣まで連れていき、無理矢理座らせた。そして、自分は空いた席にうれしそうに入り込む。

 こうして、僕と天津風は急に至近距離で隣に並んで座ることになった。このこたつはやはり小さく、二人並んで座るとどうしても身体の側面が密着する。そのため、天津風の身体の熱や柔らかい感触をはっきりと感じ取れてしまう。

 天津風が秘書艦になってからそれなりに経つが、こんなに彼女に接近したことは初めてだ。彼女の髪からシャンプーのいい香りがただよってきて、呼吸が幸せである。

 天津風の方を見ると、やはり落ち着かないのか、恥ずかしそうにうつむいている。ふと何かを思いついたのか顔を上げ、口を開いた。

 

「あ、あたし、お茶でもいれてこようかしら?」

 

 天津風がお茶をいれるためにこたつを離れようとしたところ、とっさに初風が立ち上がった。

 

「いいわよ。私がいれてくるから」

「は、初風!?」

 

 そのまま、初風はお茶をいれに歩いていった。普段、彼女はお茶くみを率先してやるタイプではない。気を利かせた、というよりは、僕と天津風が並んだ状態を楽しんでいるのだろう。

 立ち上がる理由を失った天津風は、またこたつの定位置に戻ろうとするが、こちらを見ずにつぶやく。

 

「あ、あんまりくっつかないでよね」

「いや、そんなこと言われても……」

 

 このこたつの小ささでは、天津風の要望には無理がある。結局、また彼女と密着しながら座ることになる。

 心なしか、鼓動が早くなっている気がする。こうしていると彼女にも伝わってしまうのだろうか。

 そんな時に、雪風がこちらの様子に気づき、声をあげる。

 

「しれぇ! 顔が赤いです!」

「え、あはは、こたつでのぼせちゃったかも?」

 

 すると、時津風もこちらを向き、何かに気づいたようにニヤニヤしだす。

 

「あー、しれー、パワハラなこと考えちゃってるんじゃないのー?」

「考えてない! しかもそれを言うならセクハラ……ってちがうわ!」

「パイパイワクワクハラショーしちゃうなんて、しれーも男の人なんだねー」

「だから、してないから! っていうか、その言葉どこで覚えたのさ!?」

 

 パワーハラスメントという元の言葉からかけ離れている謎のワード。勘違いで生み出されるはずはない。何か発生源があるはず。

 

「あーそれはー」

「お茶、いれてきたわよ」

 

 そこで、お茶くみが終わった初風が戻ってきた。彼女はこたつに座っている一人ひとりの手元に湯のみを置いていく。

 

「初風、ありがとねー」

「時津風、パイパイワクワク“ハラショー”じゃなくて、“ハラスメント”だから。前に言ったわよね」

「えー、そうだっけー?」

 

 謎のワードの発生源はここにいた。いや、訂正するのそこだけかい。

 

「言葉はちゃんと覚えた方がいいわ。今後使うかもしれないし」

「あーそうかも。今度みんなにも教えてあげよー♪」

 

珍しく司令官としての危機を感じた瞬間だった。

 

「ちょちょっ、待てーい!!!」

 

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