超本気で幻想郷を支配したい二人のおはなし。   作:にゃっとう

21 / 29
日の力さえ遮る外の神秘のおはなし。

 からんからん、と、来客を知らせる鐘の音が鳴る。

 店の中はフランの想像とまったく違わない、店の外のように奇妙なガラクタが散乱した光景が広がっていた。

 いや、散乱したという表現は少々正しくない。確かに大量の外の世界の品が並べられている。けれど中のそれは外のそれと違って商品としてそれなりに整えられており、散らかっているというようなことはなかった。

 ただし、割と埃っぽい。

 

「いらっしゃい。ようこそ香霖堂へ」

 

 店の奥。ロッキングチェアに座って読書に勤しんでいた男性がこちらを向く。

 眼鏡をかけた、落ちついた雰囲気の男性だ。魔理沙が特に冬は引きこもり気味だと言っていた通り、第一印象からして、元気に外を駆け回るような性格には見えない。

 不可思議な道具の数々に目を輝かせて店の中をふらふらとし始めるこいし。フランもまたついていきたい衝動に駆られながらも、まずは挨拶が先だと男性の方に足を進める。

 ちょっと前のフランならば挨拶なんてどうでもいいと考えてこいしと一緒にさっさと商品の鑑賞に行っていたかもしれないが、今回フランは頼みに来た立場であり、最近は慧音の教育も受けている。彼女は挨拶をもっとも重視し、きちんと挨拶をしないとまともに相手をしてくれないので、挨拶の重要性は身にしみて理解していた。

 

「こんにちわ。お初にお目にかかります。(わたくし)、フランドール・スカーレットと申しますわ」

 

 たまには紅魔館のご令嬢らしく、礼儀正しくカーテシなんてものを行ってみる。片足を斜め後ろに下げて、もう片方の足を曲げながら、スカートの端を両手で摘んで慎ましく礼をした。

 こいしが背後で目を瞬かせているのが、見えていないけれど、それなりの付き合いゆえに感覚的にわかる。なにせフランは大体どんな相手にも同じような対応しかしない。というか、妖怪なんて誰もかれも皆そんなものだ。

 しかしこいしに対し霖之助はフランの普段の人柄を知らないため、特に驚くことなく今のフランに対応する。

 

「あぁ、これはご丁寧に。僕は森近霖之助。若輩ながらこの香霖堂の店主をやらせてもらっている」

「店主。じゃあ、あなたが香霖さん?」

「その呼び方は……もしかして君は魔理沙にここを紹介してもらったのかい? それにこの気配、君は悪魔、それも吸血鬼だね。これもまたもしかしてだけど、君はあの赤い館のお嬢さまの?」

「はい。僭越ながら、レミリアお姉さまの妹をやらせてもらっています」

「なるほど……しかし礼儀正しい子だ。姉の方とは大違い、ああいや失礼した。悪口を言ったつもりじゃないんだ。君が歳の割には落ちついていると言いたかっただけでね」

 

 そこで、とてとてとこいしがフランの横に歩み寄ってきた。店内を見回るよりも、フランの普段との態度の違いの方がよほど興味を惹かれたらしい。

 こいしは信じられないものを見るような目をしながら、つんつんとフランの頬をつついた。

 

「フラン? あなたほんとにフランよね? 実は变化してるだけの別人だったりしないよね?」

「……ぷふっ。ええ、本当に私よ。ちょっとふざけてみただけ。霖之助さんもごめんなさい。あれ以上お嬢さまっぽくしてると笑いが堪えられそうにないし、ここからはいつもの態度で行かせてもらうわね」

「ふむ、それが普段の君かい? まぁ正直、僕を敬ってくれるお客の方がはるかに少ないからね。どうしてくれても構わないよ。そもそも君は僕より歳上だろう。もっとも、妖怪に歳の差が関係あるとは思えないが」

 

 これくらいのことには慣れっこらしい。フランの変化にも軽く肩をすくめるだけで、霖之助は特にめぼしい反応を見せることはなかった。

 なんとなく苦労症のにおいを感じ取りつつも、フランは早速本題に入ることにする。店の中のものを見て回るのはその後でもできる。

 

「それでね霖之助さん。私、あなたに折り入ってお願いがあってここに来たんだけど」

「まぁ、あの魔理沙がここを紹介するくらいだからね。薄々わかっていたよ。それも古道具屋としての仕事ではなく、おそらく僕個人への……」

 

 のほほんとくつろいでいる割に、感が鋭い。魔法の森の入り口付近なんていう変わったところで店を構え、しかも幻想郷には滅多にない外の世界の道具を売っているくらいだ。これくらいの面倒は、あるいは日常茶飯事なのかもしれない。

 

「で、君が持ってきたのはどんな厄介事なんだい?」

 

 霖之助は本を机の上に置き、代わりに、置いてあった緑茶の入った湯呑みを口元に運びながら、フランを見やる。

 

「私ね、昼間でも外で遊べるようになりたいの」

「昼間でも……? その日傘じゃダメなのかい? 今ちょうど昼間だし、それを差してここまで来たんだろう?」

「出歩けるだけじゃダメなのよ。遊べるようになりたいの。たとえば、弾幕ごっこができるくらい」

「……なるほど。つまり、吸血鬼の弱点の一つとされる日光を克服したいというわけか。これはまた、相当な厄介事を持ち込んできてくれたものだね……」

 

 額に手を当てて、ふぅー、と大きく息をつく。そんな霖之助の仕草に、フランは途端に不安になった。

 

「で、できないの?」

「……いや、できないこともない。僕はマジックアイテムを作ることを趣味としている。太陽の光から、吸血鬼にとって有害となる日光としての要素のみを取り除くことのできる道具を作ることは、おそらく不可能ではない」

 

 これまた目をぱちぱちとさせた。あっさりと、不可能ではないと。いくら魔理沙が自信を持って紹介してくれたとは言え、実際のところ半信半疑だった。

 それがおそらくながらもできると肯定され、無意識のうちにフランは霖之助に近づいていた。目をきらきらと輝かせ、ばんっ、と少し強めに机を叩いて乗り出して。前のめりになって彼に詰め寄った。

 

「ほ、ほんとにっ? ほんとにできるのっ?」

「あ、あぁ。できるはずだ。だからその、ちょっと力を緩めてくれないか。机が壊れそうだ」

「あ、ご、ごめんなさい」

 

 いつの間にか掴んでしまっていたらしい、みしみしと嫌な音を立てていた机の端から手を離す。霖之助はほっとしたように息をついた。

 

「ふぅ……話を続けるよ。僕の手にかかれば、君が望むような、日光から太陽の力のみを遮断するマジックアイテムを作ることも不可能ではない。ただ、問題が一つある」

「問題……?」

「あぁ。致命的な問題だ。言ってしまえば、そう、材料が足りない」

 

 ことん、と霖之助が湯呑みを置いた。

 

「太陽の光とは、つまるところ太陽の神、天照大御神(あまてらすおおのかみ)の力ということになる。それは曲がりなりにも、いや、正真正銘神の力の具現だ。それを無力化するとなれば当然、それ相応の材料が必要となる」

「材料……たとえばどんなのがあればいいの?」

「一番いいのはかつて光のない世界を作るきっかけになった天岩戸(あまのいわと)にある岩なんかだろうけど、そんなもの手に入れられるはずもない。次点で、海の向こうの神話で太陽を喰らったとされる天狼スコルの毛や牙……まぁこれも無理か」

「むぅ、幻想郷で手に入れられるものはないの?」

「ない、こともない。もちろん神話のそれを素材にしたマジックアイテムにははるかに劣る性能にはなってしまうけれど……日光の力の象徴とされる、外の世界では紫外線と呼ばれる力。それを遮断することを可能とする、これまた外の世界の神秘なる道具の一つ――すなわち、サンスクリーン剤があれば」

「……サンスクリーン剤(日焼け止め)……」

 

 ……なんか一段としょぼくなった。

 急に全身の力が抜けてきたフランとは反対に、霖之助の声音にはどんどん熱がこもっていく。

 

「これがまた難問でね。サンスクリーン剤は僕も容器だけは見たことがあるんだが、いつも中身が入っていないんだ。それも当然だろうね。なんせ太陽の力を無効化できる、ずばり神秘に干渉さえできる道具だ。それが中身が入っているような状態で幻想郷に流れ込んでくるはずがない。幻想郷に流れつくのは人に忘れられた物だけなのだから」

「え、あ、うん。そうね」

「僕は本来古道具屋であり、マジックアイテム作りはただの趣味だ。だが、その中身が入ったサンスクリーン剤を見せてくれるのなら、君のために日光を遮断するマジックアイテムを作ってあげることもやぶさかじゃない。僕だってこれまで中身を一切見たことがなかったサンスクリーン剤には興味があるからね。いわばこれは取引だ」

 

 やけに饒舌に、霖之助がまくし立てていく。

 

「もし君が中身の入ったサンスクリーン剤を自ら調達してきてくれるのなら、僕は無償で君のためにマジックアイテムを作ってあげよう。その代わり、使わなかったぶんのサンスクリーン剤はもらうけどね。どうだい? 君たち吸血鬼は外の世界とのなんらかのパイプを持っているという噂もある。悪い話じゃないだろう」

「うーん……まぁ確かに、悪い話ではないわね」

 

 フランは外で遊ぶことを可能とするマジックアイテムを手に入れ、霖之助は霖之助でこれまで手に入れることがかなわなかったサンスクリーン剤を入手することができる。お互いに損がなく、得がある交渉だと言えた。

 問題はサンスクリーン剤、すなわち日焼け止めをどうやって手に入れるかになってくるが……。

 霖之助の言う通り、紅魔館にはある程度外の世界に干渉することができる秘密の手段がある。ただ、それはほんのわずかでしかなく、狙った外の世界の道具を手に入れることは難しい。それも霖之助の言う通り、中身まで伴った日焼け止めとなると誰かに忘れられている物体である可能性は極端に低くなる。

 少し悩んで、けれどすぐに頭を左右に振った。

 霖之助の提案はフランの前に唯一提示された日光の下で完全なる活動を可能とする確固たる手段なのだ。たとえ現状で入手する方法が思いつかないのだとしても、これからこいしともっと楽しく遊ぶためにもこれを受けない選択肢はない。

 

「……わかったわ。サンスクリーン剤をどうにか手に入れてくればいいのね。その取引、乗った。その代わり、きちんと私の満足できるマジックアイテムを作ってもらうから」

「もちろんだ。古道具屋としてではないけれど、仮にも仕事なんだ。満足してもらえるだけの役割はきっちり果たすさ」

 

 フランの挑発気味な了承にも臆さず言い切った霖之助に、口元が緩む。ここまで自信満々なのだ。ただの日焼け止めであろうと、それを手に入れることができさえすれば、霖之助はきっと間違いなくその道具を作ってみせることができる。

 自信満々にここを紹介した魔理沙の目に狂いはなかったというわけだ。

 

「ふふっ、それじゃ、あとは適当に店の中のものでも見て回って行こうかな。なにか面白そうなものないかなーっと」

 

 話を切り上げて、霖之助に背を向ける。いつの間にか、こいしは二人から離れて一人で店内を観察して回っていた。途中から一切会話に参加してこなかったのでそんな気はしていた。

 彼女の肩にぽん、と手を置くと、こいしが振り返る。

 

「あ、話は終わった? それでどうだったの?」

「サンスクリーン剤を手に入れてくれば外でも遊べるようになる道具を作ってくれるんだって」

「さんすくりーんざい? なにそれ」

「日焼け止めって言うんだけどね。体に塗れば、日光で皮膚が焼けるのを防ぐことができる、とかなんとか聞いたことがあるわ」

「え、それ外の世界の道具なんだよね。あっちって基本的に人間しかいないんじゃなかったっけ。それ塗らないと外の人間は日の光で吸血鬼みたいに燃えちゃうの? 日光で焦げちゃうの?」

「いや、焼けるとは言ったけどそこまで直接的な意味での焼けるじゃないから……たぶん」

 

 外の世界の人間の生態が幻想郷と異なる可能性もありえないこともないかもしれないこともない。完全には否定し切れないフランだった。

 なんにせよ、霖之助が提示してくれた取引は、紅魔館の外に出てようやく見つけることができた、フランが外を出歩けるようになるための唯一の手がかり。ついに見えてきた具体的な光明に、フランの目が細まる。

 多少苦労したって、絶対にサンスクリーン剤を手に入れてみせる。そうしてこいしともっと楽しく、もっと遠くで遊べるようになるんだ。

 うずうずとした気持ちが収まらない。

 明日からは、外の世界の道具を手に入れる方法を探ることになるだろう。きっと苦労する。けれど、こいしと一緒に過ごすためなら、こいしが隣にいてくれるなら、どんな苦難だって乗り越えることができるような気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告