超本気で幻想郷を支配したい二人のおはなし。   作:にゃっとう

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三番煎じは流石に無理があるおはなし。

「まぁ上がりなさいよ。ちょうど暇してたし」

 

 と。お賽銭効果か、意外なことに割と普通に歓迎されたフランとこいし。二人は現在、博麗神社の居間の一室にて思い思いにくつろいでいる。

 フランはちゃぶ台に上半身を乗り出して、ぺたんとちゃぶ台に頬を当ててその冷たさを堪能している。こいしはそんなフランの隣でうつ伏せになって、時折ごろごろごろごろと転がったりしていた。

 ふすまを開けて風通しをよくして、すだれを吊り下げることで日避けをしているからか、部屋の中は外の蒸し暑さと比べれば大分涼しい。

 フランが住んでいる紅魔館は、吸血鬼が住んでいる関係で日差しをあまり取り入れないよう、窓が少ない構造をしている。そのぶん風通しが悪く、暑さの対策としては魔法などの別の力を活用しなければならない。それと違って神社のこれは自然の力をありのままに使っているからか、単純な温度としてならば紅魔館の方が低いものの、居心地のよさで言えば神社の方に軍配が上がる。

 とんっ、と。ついと、こいしがごろごろと転がる勢いのまま、軽くフランにぶつかってくる。視線だけを動かして隣を見やれば、寝転がった姿勢のままフランの頭に向かって手を伸ばしてくるこいしの姿が目に入る。

 なにをする気なのかしら。傍観していると、彼女はフランの帽子に手をかけて、ひょいっと取っていった。

 帽子がない方が涼しいので助かるというか、これだけで終わるならむしろお礼を言いたいくらいなのだが……彼女がするちょっかいがこの程度で終わるわけがないことはわかり切っている。

 直後にこれまでの緩慢な動作とは打って変わって、しゅばばばっ! と素早く猫耳を装着させようとしてくるこいし。フランは即座にその腕を払うと、お返しにげしっと彼女の横腹をどついてあげる。

 うぐぅ。そんなうめき声を上げてぴくぴくと痙攣し始めたこいしを横目に、フランは小さくため息をついた。

 

「お茶が入ったわよー、って……あんたらほんと遠慮なくくつろいでるわね。まぁ、私の知り合いで遠慮するやつの方がはるかに珍しいけど」

 

 こと、こと。居間に戻ってきた霊夢がちゃぶ台の上に湯呑みを並べ、急須からお茶を注いでいく。

 

「ほら、こんな暑い中歩いてきたんだから喉乾いてるでしょ? 好きに飲みなさいよ」

「うーん……まぁ、乾いてると言えば乾いてるけど……」

「なによ。なにか問題でもあるの?」

「や、霊夢が親切すぎて裏があるんじゃないかって」

「ちょっと。別に裏なんてありゃしないわよ。あんたらは今回お賽銭をくれたからね。最低限のもてなしはしておかないと神さまに怒られちゃうわ。まぁ、うちの神さまってどんなのがいるかとか、名前すら知らないけど」

 

 巫女がそれでいいのだろうか。霊夢に問いかければ別にいいとか答えそうだが、十中八九それでいいわけがない。ここの神さまに若干同情を覚えつつ、霊夢がお茶を入れてくれた湯呑みを見下ろす。

 喉もそうだけど、お腹も空いてるから、できれば血が入ってる方が嬉しかったんだけど……。

 そんな風にちょっとだけ不満を抱くものの、咲夜ならともかく、霊夢がわざわざ血がどばどば出るほどの傷を負ってまでフランに尽くしてくれるはずもない。しかたなくそのまま湯呑みを手に取って口に運ぶ。こいしもいつの間にか起き上がって、フランと同じようにお茶に手を伸ばしていた。

 ずずず。暑いので一気には飲まず、少しずつ。しかし一口目を舌で味わった瞬間、「うへぇ」とフランの顔に苦い表情が浮かんだ。

 

「……ねぇ霊夢。これ、もしかしなくても二番煎じ?」

「残念。三番煎じよ」

「本当に残念ね……」

 

 二番ならまだしも三番ときたか。フランだけでなく、これにはさすがにこいしさえ苦い顔をせざるを得ない。

 

「むぅー、仮にも私たちお客さまなのに、こんな出がらしを出すなんていろいろ間違ってない? 最低限のもてなしはしてくれるんじゃなかったっけ?」

「してるじゃない。別に三番でも大丈夫よ。飲めるから」

 

 飲めはするけれども。フランとこいしは揃って不満げな表情を浮かべて抗議するものの、霊夢はどこ吹く風。悠々と自分のお茶を口にしている。彼女は彼女で飲み慣れているのか、同じ三番煎じのお茶を飲んでもその表情に特に変化はない。

 まだまだ文句を言い足りない気持ちではあったが、霊夢も同じものを飲んでいるということで、それ以上の言葉をぐっと押さえ込む。

 一応、今日はお願いをしに来た立場だ。この程度のことであまり霊夢の機嫌を損ねたくはない。

 

「で……今日はいったいなんの用でこんな真っ昼間から神社に歩いてなんてきたの? まさか参拝が目的だなんてあるわけないだろうし」

 

 それぞれ一息をついたところで、湯呑みを置いた霊夢が切り出してきた。

 ちょうどその話をしようと思っていたところだ。フランは少し姿勢を正して、霊夢の方に向き直る。

 

「私、宇佐見菫子って人に会いたくて。魔理沙に聞いたら霊夢に許可を貰えって言われたから、それで霊夢に会いに来たの」

「菫子に? なんであいつと……あ、まさか菫子が珍しい力を持ってる人間だからって、紅魔館で馬車馬のごとく働かせようとしてるんじゃないでしょうね。もしくは眷属かなんかにでもするつもり? あんたら吸血鬼は条約で里の人間には手が出せないみたいだけど、外の人間は対象外だものね。あんたら吸血鬼にとっては都合が」

「ちが、待って待って。違う、違うから。危害を加えたりだとか、そんなつもりは微塵もないわ」

「じゃあなに? どういうこと?」

「えっと、紅魔館がどうとか吸血鬼がどうとかそういうんじゃなくて、私の個人的な用事でどうしても会いたいのよ。菫子って人にしか頼めない用事なの」

 

 霊夢とこうして会った回数なんて数える程度しかなく、互いの性質をあまり把握していない。そのせいかかなり誤解されかけたので、どうにか訂正して言い直す。

 しかし、その内容に霊夢の顔がさらに訝しげに歪んだ。

 

「あいつにしか頼めない用事、ねぇ。詳しく話してもらえる?」

「私、昼間でも自由に外を出歩けるようになりたくて。今も日傘を差せば出かけられはするけどかなりきついし……私としては日差しを気にせず遊べるくらいにはなりたいの」

「ふーん。吸血鬼らしい悩みね。で、それにどうして菫子に関わってくるの? 聞いたところその話に菫子が絡んでくる余地がなさそうだけど」

「んー、霊夢は霖之助って人のことは知ってる?」

「霖之助さん? なんでここで霖之助さんが…………あー」

 

 なにかに思い至ったかのように言葉を止めた霊夢。おそらくはもう理解してくれただろうけれど、確認のためにフランは続けた。

 

「霖之助さんなら日光をどうにかできるマジックアイテムを作れるかもって、これも魔理沙から聞いて、ちょっと前に頼みに行ってみたのよ。実際できるみたいなんだけど、でも、材料が足りなくて。その材料の候補の中でも一番手に入れやすそうなのが外の世界のサンスクリーン剤……えっと、日焼け止めって言った方がわかりやすいかしら。その日焼け止めなのよ」

「……なるほどね。あんたは外の世界の道具が欲しい。でも幻想郷の中だけでそれを手に入れるのは難しい。なら、外の世界の道具が欲しいんだから、外の世界の人間を直接頼ればいい。至って単純な解決方法ね」

 

 納得したように霊夢が首を縦に振る。

 

(ゆかり)でも手に入れられそうだけど、あいつは神出鬼没だもの。確かに菫子の方が確実だわ」

「……紫?」

「あー、あんたは知らないか。八雲紫。妖怪の賢者だとかなんだとか呼ばれてる、やたらと胡散臭い妖怪よ。あいつだけは幻想郷と外の世界の境界を好きに越えることができるの」

 

 妖怪の賢者。その単語は、かつて慧音に受けた授業で習ったものだ。

 科学が進み、妖怪の実在が信じられなくなってきた時代に幻想郷を外の世界から隔離した、今の幻想郷の創造主たち。それらのことを妖怪の賢者と呼ぶ。

 博麗神社は元々外の世界と幻想郷とを分けている結界の管理が仕事の一つらしい――これも慧音から習った――ので、妖怪の賢者と知り合いでもおかしくはないかもしれないが、霊夢も魔理沙も人間のくせして妖怪側に顔が広い。そのうち妖怪化してもフランは不思議に思わない。

 ただ、そんな愉快な彼女たちがなんの変哲もない妖怪になるというのは少々面白くない。それならいっそフランやレミリアの眷属として吸血鬼にでもなってもらいたいところである。特に魔理沙はフランのお気に入りの一人だ。彼女が許可してくれるのなら、次会った時すぐにでも同じ吸血鬼にしてあげたい。

 

「一応確認しておくけど、菫子に危害を加えるつもりはないのよね」

 

 ずいっ、と少しだけフランに詰め寄って念を入れてくる霊夢。フランはこくりと、確かに頷いてみせた。

 

「ならいいや。菫子に会うなりお願いするなり好きにしたらいいわ。そのお願いが聞き入れられるかどうかは知らないけどね」

「……いいの?」

 

 あまりに軽く許可が出されたものだから、思わずそう聞き返してしまっていた。

 

「菫子に死なれたらいろいろと困るのよね。魔理沙がそう言ってたわ。私はその、自分の家じゃ気が触れてるだとかなんだとかいろいろ言われてるし、実際その通りだし。ふとした拍子に菫子を食べちゃったりするかもしれないわよ?」

「あー、まぁ、確かに菫子に死なれたら困るわ。菫子に限らず誰でも死なれたら困るけど、あの子の場合は特にね。でも大丈夫でしょ」

「大丈夫って、なにを根拠に」

「あんたの話は魔理沙から結構聞いてたからね。最近は姉ともちゃんと挨拶交わしたりとかパチュリーのやつと仲良さそうにしてたりだとか、割とおとなしくしてるそうじゃない。こうして話してみても話が通じないってこともないみたいだし、そっちの無意識妖怪とも和気あいあいとしてたみたいだし。一見した程度じゃ気が触れてるようには見えないわね」

 

 フランは目をぱちぱちとさせて、ふと、隣を見た。隣でうつらうつらと頭を揺らしている、こいしを見やった。

 フランが最近はおとなしくしている、一見したくらいでは気が触れてるようには見えない。それはつまりフランが以前とは変わったということ。そしてその原因は間違いなく隣に座る少女、古明地こいしの影響だ。

 能天気で、マイペースで、天真爛漫。いつだって振り回されてばかりだ。でも、だからこそ一緒にいて楽しい。壊したくないと思う。この先もずっと笑い合っていたいと感じる。

 目を瞑る。それから、少しだけ、昔の自分を想起してみた。

 この手を握りしめるだけであっけなく壊れてしまうような脆いものだらけのこの世界に、いったいどれだけの価値があるのだろう、なんて。目に映るもの、感じているもののなにもかもを壊してしまったら、いったいどうなるんだろう、なんて。

 確かにフランは変わった。破壊願望、破滅願望。あんな風に考えてばかりだったつまらない昔の自分と比べれば、本当に大違いだ。

 

「それに菫子だって一応ただの人間ではないわ。あんたが本気で殺そうとしたりとかしなければ大抵のことはどうとでもできるはずよ」

 

 霊夢がそう言うものだから、フランは首を傾げる。

 

「ただの人間じゃない?」

「ええ。あの子は――」

 

 ちゃりん、と。外からなにやら小銭が落ちたような音がして、霊夢の言葉が止まった。

 続いて、ぱんっぱんっと手のひら同士を叩いて合わせるかのような音。霊夢は立ち上がって、開いたふすまの方へ歩いていく。

 

「噂をすれば、ってところかしら」

「え、それって」

「ええ。菫子よ」

 

 なんとタイミングのいい。「やった、今日お賽銭三回目よ!」と小声ではしゃいでいる霊夢の横から顔を出して、フランも外の賽銭箱の方を覗いてみた。

 そこにいたのは、幻想郷では珍しい眼鏡をかけた、一人の少女だ。若干癖のある茶色の髪と瞳は平凡と言わざるをえない色合いだけれども、纏う衣装はひどく印象的だ。魔理沙がいかにも魔法使い然とした格好をしているのだとすれば、これは手品師(マジシャン)然としているとでも言おうか。白いリボンのついた黒い帽子と、幾何学的模様が内側に描かれた、これまた黒いマント。マントの内側にはチェック柄のベストとプリーツスカート、さらにその下には白いシャツを着込んでいる。

 そんな彼女はちょうど参拝が終わったところらしく、合わせていた手を下ろしてこちらにとてとてと小走りで駆けてくるところだった。

 

「霊夢さーん、こんにちわー。いやぁ、今日も暑いですねぇ。なんでこの真夏に私はこんな暑苦しい格好してるんですかね」

「いや知らないけど。なんでそんな格好してるのよ」

「それがですね、これ冬服で、夏服には結構前に変わってたんですけど、前回こっちに遊びに来た時にちょっと破けてしまって修繕中なんです。いやぁ、すごいですよねぇ。私にとっては夢の中のはずなのに、あっちで起きたらなぜか服が同じように破けてるんですもん。これもう一種のホラーですよホラー。まぁ幻想郷の存在自体ホラーみたいなものというか事実そのまんまですけど」

「へえ、すごいわね」

「なんですかその『半分くらい理解できないけどなんか楽しそうだから適当に流しとこう』みたいな反応。そこは制服じゃなくて普通の服着てくればいいんじゃってつっこんでくださいよー、もう」

 

 人懐っこく霊夢のもとに近づいてきたかと思えば、ものすごい勢いでまくし立ててくる。霊夢いわく、この少女が宇佐見菫子らしいけれど……。

 霊夢と魔理沙、幻想郷の人間は知っている。けれど外の世界の人間を見るのは初めてだ。興味津々で菫子のことを見上げていると、あちらもフランのの存在に気がついたようだった。その目線が下げられ、フランと視線が交錯する。

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