超本気で幻想郷を支配したい二人のおはなし。   作:にゃっとう

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あいつとお茶会するおはなし。

 遠くの方で、紅魔館の外で雨が降り続いていた。

 梅雨の季節は未だ続いている。ちょっと前までならむしろ日の光が差し込まないぶんだけ居心地がいいと感じていたそれも、今はただただ煩わしいだけだ。

 フランは外出が禁止されているため、普段外出する際は基本的にこいしの手を借りることになる。ただ、彼女が訪れる周期が大体彼女の気分次第のため、遊びたい時に遊べないということもままあった。しかしどちらにせよ、今日は仮にこいしが来てくれたとしてもフランは流水を歩けないので外に行くことはできない。

 とりわけ今日は雨も強い。こいしは来ないだろう。今日は一人で館の中でゆっくりと過ごしているしかない。

 

「……なんでこんなつまんないんだろ。おかしいなぁ」

 

 ふらふらと廊下をぶらつく。以前までならこれだけでも暇つぶし程度にはなったはずなのに、沈んだ気分がもとに戻ることはない。

 言うまでもなくこいしに会えないことが原因なことはわかっている。彼女と外で遊ぶことが楽しすぎたせいで今更他のことに手をつけたって物足りない。きっとそういうことだろう。

 

「今日は一日ふて寝でもしてようかしら。それとも新しいスペルカードか魔法でも研究しとく? それかそれかー」

「……なに一人でぶつぶつ言ってるの? フラン」

「げっ、お姉さま」

「げってなによ」

 

 考えごとをしていたせいで姉の近くを通りかかっていたことに気がつかなかった。

 フランと同程度の一〇歳に届くかどうかという体躯、幼い声音と顔。服装や髪の色も違うが、明確に異なっているところと言えば翼の形状だろう。レミリアのそれはコウモリを彷彿とさせる悪魔らしい翼だけど、フランの翼には翼膜がなく、きらきらとした七色の宝石がぶら下がっている。

 あからさまに嫌そうな反応をしたフランに、レミリアは嘆息する。

 

「あのねぇ、フラン。この際だから言っておくけど、私はあなたのお姉さまなのよ。年上なの。偉いの。もっと敬う気持ちを持ちなさいな」

 

 なに意味不明なこと言ってるのかなこいつ、などと一瞬思いかけたものの、フランはいい子なので言いつけ通りに態度を直してみることにした。

 

「わー、さすがおねえさまー。うんめいがよめるだなんて、そこにしびれるあこがれるー」

「……なんだかバカにされてる気がする……」

 

 フランがレミリアをからかう態度を取ることはいつものことだ。レミリアはため息をつきつつも、わかっていたとでも言うように態度を切り替えた。

 

「で、フラン。最近調子はどう?」

「どうって聞かれても、いつも通りとしか答えようがないけど?」

「あら、そうかしら。私には、なんだかそのいつもより元気がないように見えたけれど」

「むぐ……なにそれ。適当なことばっかり言わないでよ」

「そうね、適当。適当というのはつまり、ほどほどちょうどいいということ。もしかして図星だったのかしら?」

「ろくに私のことを見てないくせによく言うわ」

 

 変わらずつっけんどんなフランにも、レミリアはずいぶん慣れた様子だ。つんと顔を背けるフランに対し、軽く肩を竦めてみせた。

 

「まぁ、あなたの生活に口を出すつもりはないわよ。でもせっかく二人だけの姉妹なんだもの。仲が悪いのも考えものだわ。そうは思わない?」

「別に悪くなんてないでしょ? 私とお姉さまの仲は」

「それはそうなんだけど。もうちょっと姉を慕ってくれてもいいと思うのよ私は」

「それならもっと慕われるような言動をしてくれないとねぇ。たとえばー」

「たとえば?」

「うーん、あー、ウルデラ超本って本を見つけてきたり?」

「なにその頭が悪そうな題名の本は……」

 

 呆れたような表情をするレミリアだが、こいしから聞いた時にはフランも同じ気持ちだった。姉妹だからか抱いた感想も一緒らしい。

 

「あぁ、そうそう。今からパチェと軽くお茶会でも開こうかと思っててね、咲夜にお菓子の準備とかさせてるんだけど。あなたも来る?」

「……珍しいね。私を誘うなんて」

「いつも誘おうって思う気持ちだけならあるわよ。どうせ断られるだろうから言ってないってだけで」

「ふーん。まー確かに誘われたって行かないけど」

「ほらね。それじゃあ今回もやっぱり」

「でも、今日はものすっごく暇だからね。せっかくだから行かせてもらおうかしら」

 

 他にやることもない。前は家の中を散歩しているだけでも暇を潰せたが、今はどうにもそんな気分にはなれない。

 フランのなんとはなしの肯定の返事に、なぜかレミリアは何度も目をぱちぱちとさせて、口を半開きにさせていた。

 

「え? え? えぇ?」

「いや、なんで誘った方が驚いてるのよ」

「や、だ、だっていつもは……そ、そう。わかったわ。一緒に来るのね。それじゃあ行きましょうか。あ……手でも繋いでいくかしら?」

「は? なに言ってんのよ。繋ぐわけないでしょ。お姉さままで頭おかしくなったの?」

「じょ、冗談に決まってるでしょ? ほら、さっさと行くわよ。パチェが待ってるわ」

 

 そそくさと足早に歩き始めたレミリアを若干訝しみつつ、後を追う。進んでいる方向からして、どうやらフランの部屋へ続く通路とはまた別の地下にある、大図書館に向かっているようだ。

 パチェことパチュリーは基本的に図書館に引きこもっているので、お茶会の話を聞いた時からそこでお茶会を開くだろうことは予想がついていた。

 案の定、レミリアは図書館の前までつくとその扉を開け、けれど先には入らず、マイペースにゆっくりと歩を進めているフランを急かすように待っていた。

 

「パチェー、お待たせー! 今来たわよー!」

 

 図書館のどこにいても聞こえるくらいの声音でレミリアが叫ぶ。フランはその横で煩わしそうに両手を耳に当てていた。

 

「レミィ、ここよここ。そんなに大声上げなくたって聞こえるわよ」

 

 近くのテーブルで本を読んでいた少女が呆れ混じりにこちらに顔を向けてくる。

 居心地のよさそうな寝巻きに似た薄紫の服を纏う、髪から服装まで全体的に紫色の少女。各所に赤や青のリボンをあしらえ、レミリアやフランがかぶっているものと同じような形の帽子には三日月の飾りがついている。

 彼女こそが魔法使いパチュリー・ノーレッジ。紅魔館の居候であり、レミリアの親友にあたる。

 

「なんだ、普通に近くにいるじゃない。もしかしたら本の山にでも埋もれているのかも、なんて思ってたんだけど」

「そんなことあるわけないじゃない……って否定し切れないのが辛いところね。というかレミィ、なんだか今日はまたずいぶんと上機嫌な感じねぇ、って、あら?」

 

 パチュリーの目線がレミリアの隣から顔を出したフランに留まり、目をぱちくりさせた。

 

「これはこれは妹さま。なにか暇つぶしのご本をお探しかしら。必要なら案内役に小悪魔をお呼びしますが?」

 

 ご丁寧に礼までするパチュリー。

 親友たるレミリアにはくだけた口調で話すことの多い彼女だが、フランとは敬語で会話する。これは館内の上下関係の問題であって、彼女が妖精メイドやホブゴブリンたちのようにフランを過度に恐れているからではない。

 

「ああ、違うわよパチェ。今日はフランもお茶会に参加するの。いいでしょ? もちろん」

「妹さまも? ……ふぅん、妙にレミィの機嫌がよさそうなのはそういうことね。ええ、もちろん構いませんわ。ですがくれぐれも、気まぐれに本を壊したりなどはしないでくださるよう、妹さま」

「それくらいわかってるわ」

 

 パチュリーと同じテーブルの、すでに用意されていたイスにレミリアと一緒に席につく。

 早速手持ち無沙汰になって、近くに積み上げられていた本のうちの一冊を手に取ってみる。タイトル、『星座を利用した魔法陣』。どうやら魔導書らしい。

 ぱらぱらとページをめくる。特殊な文字で書き綴られている内容もフランにかかれば容易に理解することができた。星の光と力を借り、それらを繋ぐことで擬似的な魔法の陣を形成し大魔法を可能とする方法が書かれている。

 

「ねーパチェ、咲夜はまだ来ないの?」

「さてね。そろそろ来るんじゃないかしら。もしかしたらもうレミィの後ろにいたりしてね」

「あはは、そんなわけないじゃない」

「そうですわね。後ろではなくて真横ですわ」

「なーんだ横ね、っているじゃないの!」

 

 いつの間にか噂の咲夜がレミリアの隣になに食わぬ顔で立っていた。その両手のひらの上には銀色のトレイが乗せられており、くんくんと鼻をきかせれば、その上からこぼれる甘い匂いがフランの頬をほころばせた。

 魔導書を適当に元の場所に戻し、顔を上げて咲夜の方を見やる。

 メイドらしいホワイトブリムや青白のメイド服を身に包み、腰に銀色の時計を下げている。髪は銀髪のボブカットであり、今この場にいる四人の中では見た目的にはもっとも年齢が高い。十代後半といったところだろうか。ただ、彼女は人間なので実際にはこの中ではもっとも、幼い。

 フランが自分に見ていることに気がついたのか、咲夜もまたフランへと目線を合わせ、両手にトレイを持ったまま腰を曲げて器用に礼をした。

 

「ご機嫌うるわしいようでなによりです、妹さま」

「そう見えるかしら」

「見えますわ。もしかして違いました?」

「ううん、違わないわ。そこにあるお菓子の匂いで少し鬱屈だった気分も和らいできちゃった」

 

 咲夜がトレイを机の上に置く動作を、フランはレミリアと一緒になって凝視する。トレイの上にどんな甘味が乗せられているか気になるのだ。

 少し離れたところでパチュリーが、「こういうところは本当、姉妹らしいんだけどねぇ」とでも言いたげに肩を竦めている。

 

「ちょうど厨房にあったありあわせの材料で作りましたので、大したものは用意できませんでしたが」

「ううん、じゅうぶんだわ。さすがは咲夜ね。これであとは性格が天然でなければ言うことなしなのだけど」

「あら。ふふっ、面白い冗談ですわ」

「その本気で冗談と思ってそうな声音がほんっとにねぇ……」

 

 じとーっとしたレミリアの目を、当の本人たる咲夜はけろりとした涼しい表情で見つめ返している。この様子ではどんな言い方をしたところで冗談としか受け取らなさそうだ。

 そんな咲夜の反応もわかりきっていたことなのだろう。レミリアはため息とともに早々に咲夜から視線を外すと、トレイの上にある甘味の山へと向き直った。

 

「それじゃあ早速だけどお茶会を始めましょうか。フランももう早く食べたくてうずうずしてるって感じだもの」

「むぐっ。べ、別にそんなことはないって。私はそんな食いしん坊じゃないわ」

「そうかしら? 私には、私が咲夜と話してる間、視界の端でずっと指を加えてトレイの方を物欲しそーうに見つめてたように見えてたけれど?」

「ふ、ふんっ。お姉さまの目はずいぶんと節穴みたいね。まるでイケチョウガイみたい」

「ふふ、苦しい言いぶんねぇ……うん? なんで貝なの?」

 

 心底不思議そうにするレミリアにももう取り合わない。さっさとトレイの上に手を伸ばし、一番乗りでお菓子を手に取って口に運んだ。

 アーモンド特有のとろけるような甘さ、そしてその奥からはほんのりとした苦味が口の中に広がっていく。ただ甘いだけではすぐに嫌気が差してしまうだろう甘い味も、わずかな苦さと絡み合うことで、より深い恍惚とした風味を生み出している。

 ありていに言ってとてもおいしい。いくらでも食べてしまえそうだ。今はチョコレートを食べたけれど、次はなににしようか。クッキーにしようか、それとも。

 そんな風に甘味に夢中になってあれこれと迷っているフランをレミリアは微笑ましそうに眺めている。

 

「ふふっ」

「……お姉さまなに一人でぶつぶつ笑ってるの? 気持ち悪いよ?」

「き、きもっ!? こ、こほんっ。べべ、別になんでもないわよ、もうっ」

 

 ぷいっ、とレミリアはフランから顔をそらす。さすがに傷ついたらしい。

 しかししばらくすると再びちらちらとフランの方を窺うようになり、「うー、あー、うー……」となにやら言いよどみ始めた。

 

「なに? お姉さま。言いたいことがあるならはっきり言ってほしいわ」

「あ、うん。えっと……ねぇ、フラン。今度はいつもホールとか外でやってるパーティにも参加してみない? きっと楽しいわよ? 今以上においしい食事とかもあるし」

「あー。それは別にいいかな。電灯に群がる醜い羽虫どもみたいに有象無象が固まってるところとか、私あんまり好きじゃないし」

「すごい例え方したわね……」

「ああいうところにいるといろんなものが目障りで手当たり次第に壊したくなっちゃうのよねぇ。私ってほら、頭おかしいから。特にお姉さまが食べかけてるチェリーなんかは壊したくなっちゃう筆頭かなー」

「あら? ふーらーんー?」

「も、もうしないってば。お姉さまはいちいち大げさだわ」

 

 あのいたずらをした翌日にはちゃっかりこってりと絞られていた。もう二度と同じいたずらはしないと誓ってしまっている。

 ……しかし、あの日のレミリアには少しだけ感謝する必要があるかもしれない。あの時、彼女がいたずらのしがいがある場面を作ってくれて、フランが能力を行使してみせたからこそ、こいしはフランに興味を持ってくれた。

 また、早くこいしに会いたいな。

 レミリアやパチュリー、咲夜と一緒にお茶会を楽しみながら、ふいと図書館の扉を振り返って、そんなことを思った。




・わー、さすがおねえさまー。うんめいがよめるだなんて、そこにしびれるあこがれるー
→ジョジョの奇妙な冒険より。さすが○○○(お好きな名前をどうぞ)! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!
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