Fate/Grand Order -flowering night-   作:紅劉

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前回のあらすじ

1、オジマンディアスから花騎士サボテンにウィンターローズまで案内してもらうことになる。

2、ネロとオジマンディアスの計らいで、藤丸たちは輸送任務専門部隊アカシア隊のリーダーを務めるアカシアと、彼女に雇われたビリーによりウィンターローズまで輸送される。

3、藤丸立香はカルデア騎士団を設立した。(モミジが最初の正式メンバーとなる)


第3話「その人が世界で一番でも、私が世界で一番です」

 

 

 その女は、酷く嫉まれていた。

 

 その女は、陰で疎まれていた。

 

 その女は、ただ一人の、普通の人間として在りたかった。

 

 

 女は物心ついた頃からそうだった。

 見渡す限り、あるのは"貴族"というブランド名。

 貴族、貴族、貴族。片手にグラスを優雅に持って、瀟洒足る己の力を誇示することばかり。常に勝者の側でなければ落ち着かない傲慢な人種。

 上を見上げれば、貴族同士で互いに嘲笑の目をしている。

 下を見下せば、身分を弁えよと、公衆の面前だろうと身勝手な裁き(悪戯)が当然のように行われる。

 それが彼女には、ただただ心底腹立たしくて仕方なかった。

 

――あぁ。恥ずかしい。汚らわしい。いったい世界は、いつからこんなにも酷く醜く歪みきってしまったのだろう?

 

 気持ち悪い。

 腹の底で煮え滾るこの嫌悪感はいったいいつ治まるのか。

 貴族様はそんなにも偉いのか?

 彼女は唇を噛みしめる。

 人を蔑み、人を弄び、人を玩具としか見ていないというのに。

 拳を握り締める。

 その玩具に支えてもらっているというのに。

 双眸は憤怒を表している。

 恩を仇で返すことしか出来ない恥晒しが。

 

――私は今もこの先も、貴族を忌み嫌う。・・・そう思っていました。

 

 その日、女は退屈だった。

 することは何もなく、自分の部屋の本棚にあるファッション誌に手を伸ばし、ベッドに寝転び読み返すだけの些細な日常を送っていた。気がついた時には日は既に沈み、月光が雪を輝かせている。

 カーテンを閉めないと。毎日行っている当たり前の行動に従おうとベッドから体を起こした時――。

 その男は、何の前触れもなく姿を現した。

 

――「俺を、呼んだか?」

 

 壁窓から差し込む静寂の月灯りが、得体のしれない隠れたシルエットを照ら出す。

 漆黒の外套を纏った白人の青年。女の見立てだと背丈は百八十センチを超えると推測できる。

 ポークパイハットで見え隠れするその瞳からは、何もかも全てを否定するかのような憎しみで満ち溢れている。

 怖かった。恐ろしかった。助けを呼ぼうにも体が竦む。それよりも純粋に、彼の印象を、"死神"だと女はつい呟いてしまった。

 

――「死神? そんな大層なものじゃない。強いて言えば、鬼だ」

 

 男は怯える女のことなど気にする素振りも見せないまま、どこからか煙草を取り出す。

 それには"焔龍"という銘柄が書かれており、太極図のような柄が描かれている。

 箱から一本取り出した彼は口に咥えた。あとはライターで火をつける。それで煙草を味わうための工程は完了する。

 が、青年は咥え煙草を手に戻すと突然舌打ちし――。

 

――「ライターを持ってないか?」

 

 突然現れといてその態度はなんだと女は思ったが、先程までの恐怖はウソのように消えていた。危害を加える男ではないと本能が確信したからだろうと彼女は安堵のため息を吐き、渋々手元にあったライターを手渡した。男は礼をすることもなくライターを手に取り煙草に火を当てる。

 たちまち煙が上がり、青年は傍にあった椅子に腰掛け深く息をつく。

 

――「おまえ、名は何という?」

 

 それはこちらの台詞だと、まずは自分から名乗るのが筋だと女は言った。

 節度ある態度でいてくださいと女は目で意見する。

 

――「そうだな。おまえの言い分にも一理ある」

 

 青年は煙草を灰皿に押し当て立ち上がる。冷たい夜風が渦を巻き、外套をはためかせる。

 

――「我が名は復讐者(アヴェンジャー)巌窟王(がんくつおう)エドモン・ダンテス。恩讐の彼方より、おまえを導きに来た」

 

 呆然。彼女は何をどう反応すればいいのかわからなかった。名を告げられるまではギリギリの思考を保っていたのに。

 復讐者? 巌窟王? 恩讐の彼方? なにそれ、もしかして世に聞く中二病というやつかと疑いはした。

 女は直視する。如何にもこの怪しげな男がなぜここへ姿を見せたのか、疑問はいくつか浮かぶが名乗られたからにはこちらも名乗り返さなければならない。

 女はベッドから立ち上がり、巌窟王と名乗った男に手を差し伸べた。

 

「私はサフラン。貴族の紛いものよ」

 

 

×

 

 

ブロッサムヒル外郭

 

 ブロッサムヒルから離れ、害虫と遭遇することなく着々とウィンターローズへ向かうオレたち。

 アカシアが言うにはオレたちが今いる場所はブロッサムヒル外郭と呼ばれる三ヶ国の国境が入り混じる区域付近らしい。ブロッサムヒル、ウィンターローズ、そしてリリィウッドと呼ばれる自然との共生を思想としている都市国家だ。ここブロッサムヒル外郭は独特な地形で人が住みにくいため街や集落がなく、三国の気候がぶつかり合うため作物が育ちにくい。おまけに、三つの国の責任が問われる手の出しにくい領土なのだと彼女は饒舌に語ってくれた。

 

――『だからここは人目を気にすることなく運搬するにはうってつけなのよ。調査とか警備の任務で来る派遣者も全然見ないし。ある意味無法地帯って感じでラッキーよね♪』

 見方によってはそうなのかもしれないが、それってつまり害虫の巣窟としては都合がいいということなんじゃないのか?

 何はともあれ、今はウィンターローズに辿り着くことが最優先。ここの問題は花騎士たちがいずれ解決するだろう。

 

「ちょっと聞いてるリツカ!?」

 不意にアカシアの声が耳に響いた。

 オレは目を丸くして一瞬体がカチンコチンになったがすぐに平静を装って彼女の方へ振り向いた。もちろん彼女が何を話していたのかは一切不明だったわけだが。

 

「は、はい聞いてますとも!」

「よろしい。で、どうなの? キミがいたカルデアってところは」

 なんだ、カルデアについてか。どうしようかと悩んでいたけどこれならすぐお望みの答えをご用意出来ますとも。

 

「そうですね。カルデアは人類の未来を守るための」

「あぁ違う違う。そういうのじゃなくってさ、どんな人がいるとか」

「それならアカシアそっくりな人がうちにいますよ」

「おっ? もしかして私の子孫だったりして。いや、生き別れた姉妹とか!」

「それはない」

 などと、アカシアから来るボケをオレは適当に返していく。彼女は、そりゃそうかと笑いながらおにぎりを頬張る。

 その傍らでサボテンは、オレとアカシアによる素人同然のコントを静聴しながら黙々と弁当を食している。

 そしてモミジは、荷台の最後方でジッと空を眺めていた。

 かれこれ三時間は経っているというのに、彼女は飽きた素振りさえ見せない。

 

「空が好きなのか?」

 オレはアカシアとの会話を中断してモミジの隣に座った。見れば彼女の顔は無表情で、その瞳はきっと、空とはまた別の何かを見ているのだろう。

 

「そうですね、空は好きなほうです。団長はどうですか?」

「オレ? オレは、そうだな…」

 記憶が()ぎる。

 マシュとともに駆け抜けた旅路、そこには必ず穴があった。

 天に輝く、地球を囲む光の輪。人理焼却の象徴であるのと同時に人類の営みの集合体。

 その下でオレは幾度の戦場を越え、幾度の運命と出会っては別れてきた。

 空を最後に直視したのは、全ての戦いを終えた後のこと。人類史の未来を守ったオレとマシュは、あの降り積もった雪山の丘で空を見上げた。あの時に感じた気持ちは、言葉では言い表せない。

 

「好き…かな?」

「なぜ疑問形なのですか?」

「なぜって、正直よくわかってないからね。でも、山から見る空は好きだな」

「う~ん。わかるなぁ、その気持ち。私も山頂から眺める空は好きよ」

 オレとモミジの会話にしれっと参加してきたアカシアがうんうんと頷く。

 

「空って自由なイメージがあるよねぇ。害虫との争いが終わった暁には自由に駆け回りたいなぁ」

「ダメだよアカシア。それ、ハリエンジュたちが聞いたら怒るよ」

 

「大丈夫よビリー、今のは本心じゃないからね。ところで話は変わるけどリツカにはサーヴァントっていう子たちを従えてるわけじゃない?

 そこで、リツカの一番のサーヴァントってどんな子?」

「一番? それ、私も気になります!」

 二人がぐいっと体を詰め寄せてきた。モミジに至ってはまるで磨き上げた水晶玉のように目を輝かせている。

 

「わかったからとりあえず離れて! そうだな、オレにとって一番のサーヴァントはマ――」

 

 バキュンッ!

 

「……」

 今、何かがオレのこめかみ一歩手前を通り過ぎた気がしたけど……。

 

「い、一番のサーヴァントはm――」

 

 バキュキュンッ!

 

「マ――」

 

 バババンッ!!

 

「おいいいい!? さっきからなんだよビリー! オレが言おうとするたびに銃撃ってくるのやめて!」

 犯人がビリーであることはわかってた。始めは何事かわからなかったけど二撃、三撃と繰れば嫌でも頭が勝手に理解してしまう。

 

「何のことかわからないよマスター。僕はほら、このとおり馬車を動かすので精一杯だし」

「ウソおっしゃい。馬車だけで手いっぱいになるサーヴァントなんて聞いたことありません」

 全く、何が面白くて撃ってきたのか。

 

「ごめん。この話はやめにしよう。次言いかけたら本当に撃たれそうだから」

「うーん、仕方ないわねぇ。じゃあ」

 アカシアが食事を終えかけてたサボテンを半ば強引にこちらへ引っ張ってきた。

 

「私にモミジにサボテン。この三人の中で一番好みなタイプは誰かな?」

「あぁ、好みなタイプね。それならって、はぁあああああ!?」

 また爆弾投下してきたよこの人でなし!!

 しかし、ふむ……。せっかくだし見比べてみるかとオレはエデンの園へ足を踏み入れた。

 まずアカシアだ。見れば見るほど聖処女と瓜二つ。この三人の中では一番誠実そうで真っ当なお姉さんに見える(黙っていればの話)。それでいて体のラインがいい。出るとこは出て締まるところはしっかり締まってる美の集大成。女神すら嫉妬するのではないだろうか。自分勝手なところに難ありだけども。

 次にサボテン。まだよくわからない人だけど名前のとおり刺々しい鎧を装備しているが寡黙のせいかそこからギャップが生まれてより可愛く見える。それでいてスパッツ、これがまたいい。いい文明。

 最後にモミジ。彼女は特にあの二つのマシュマロが大変魅力的だ。北半球と南半球が同時に味わえるその胸はきっと多くの男性を魅了出来るだろう。あとスカートの丈が短すぎる気もする。要するに目のやり場に困る服装なのでアカシアといい勝負をしている。あとはそうだな、まっすぐな姿勢はいいけどちょっと度が過ぎる気もする。

 ――って、容姿ばかり見てないかオレ? アンデルセンならもっとこう深く掘り下げて追及するだろうけども。

 

「まだですか団長?」

「こらこら焦らしちゃダメよモミジ。これは男にとって一番の悩みだからね」

「団長どこか、目が」

「サボちゃん、それは我慢よ。男の人にとっては絶賛眼福タイムなんだから」

 んん、くそっ。好き放題言ってくれるなこの人は。しょうがないじゃないか。両手に花とはこのこと。その中で一番を決めるのって酷な話なんだから。

 

「あのさ、お楽しみのところ申し訳ないんだけど」

 ビリーが助け舟を出してくれた! ナイスだビリー。この窮地を救ってくれるとはもしかして本当はクラスルーラーなんじゃないの?

 

「あれ、頼んだよ」

 ビリーが指差す方向に目を向けると見覚えのある無数のシルエットが砂埃を巻き上げながら近づいてるじゃないか。

 

「なんだ、ただの害虫じゃない。あれくらいの数、ビリーだけで片づけられるでしょ」

「いやいや、ここで君の株を上げるチャンスだよアカシア。君の活躍を見ればマスターの評価変わるかもよ」

「あー、なるほどねぇ。そういうことなら」

 荷車の両外側からゴトンと何かがぶつかる音が響いてきた。巻かれた布を裂いて現れたのは木の根が巻きついている二本の長剣だ。神々しく輝かせるそれはまさに聖剣と呼ばれてもおかしくない代物と言える。

 

「お荷物を護るだけじゃなくて私の魅力をアピールしちゃおうじゃないの!」

 アカシアの手の動きに合わせて剣も動く。恐らく魔術の類で操作しているのだろう。

 いや、その前に疑問が一つ出来た。

 

「これ、馬車止めないでそのまま突っ込むつもり?」

「あー、大丈夫よ大丈夫。通る前に全部駆除すればいいんだから」

 自信満々に語るアカシアは手首を回した。その動きに呼応して剣は矛先を害虫に向けて回転する。

 

「それじゃあ、いってらっしゃい!」

 アカシアが腕を前に突き出す。やはり同じように剣も動きに沿って前方へ射出された。遠くから害虫の悲鳴が届いてきたがこの遠距離で当てるとはさすがとしか言いようがない。

 銃の弾丸という小さなものではなく剣が弾丸となるのだからその殺傷力、破壊力は想像するだけで恐ろしい。

 あっ、今気がついた。この人。聖処女(ジャンヌ)に加えて英雄王(ギルガメッシュ)を足して割ったような人なんだ。

 

「まだまだいくよぉ!」

 腕を縦横に振り動かすその姿は何かのパフォーマーかと思ってしまうが、その実彼女の動きは躍動に爽やかさがある。疲れた様子など微塵もなく、余裕の笑みをこちらに見せている。

 

「どうリツカ? これで私が一番でしょ? でしょ!!」

「い、いやぁそれは」

「なるほど、そういうことなら私も黙っているわけにはいきません」

 突然立ち上がったモミジがガンブレードを構える。トリガーを引き、膨大な炎を昇らせるがそれはマズい。非常にマズい!

 確かに殲滅力こそあれどその被害は甚大になる。下手に放てばオレたちも巻き添えを喰らいかねない。

 

「ハウス、モミジ!」

「な!? なぜですか団長!? アカシアさんが一番を譲らないというなら私も同じです。ここで私がお役に立って私が一番であることを証明してみせます!」

「今は抑えてくれ。ここでモミジが出ると衝撃でオレたちも吹っ飛んじゃうから」

「……わかりました。今回は譲りますが次は負けません」

 渋々と大剣を仕舞わせてしまったが致し方ないこと。ここは全部アカシアに任せたほうが得策だし。

 

「安心しなさいな。もう全部片付いちゃうから」

 アカシアが勝ち誇った表情を浮かべると人差し指をくるくると円を描き始めた。

 

「ちちんぷいぷい。そぉーれっ♪」

 今この距離なら何が起こっているのかは十分目視出来た。

 二本の長剣も円を描きながら遠心力を上げている。高速回転する剣はブーメランへと役割を変え害虫の胴体を両断していく。

 圧倒的だ。剣というものは使用者によってここまで化けるものなのか。

 

「よぉし! 全部片付いたよ。はぁ…、害虫には困ったものよねぇ。この私に勝てるわけないのに襲ってくるんだもの」

 手首を手前に引き、長剣を手元に戻したアカシアは平然と座り、弁当にあるタコ様ウィンナーをパクパクと口に運んでいく。

 

「リツカどうだった? これはもう間違いなく私が一番でしょ!」

「うーん……」

 確かに彼女の強さはこの三人の中では一番かもしれない。けど、今競い合ってる一番というのは好みなタイプのことだから強さで決めるのは違う。それに、

 

「まだサボテンの実力を見てないから何とも言えない」

「わたしの、実力?」

「えー、なにそれツマんなーい」

「つまんないじゃありません。それ以前にこの話もなし! どのみち何を答えてもあとで恐ろしいことになりそうだから!」

 にしても順調に進んでいるよな。迫ってきた害虫なんかお構いなしで馬車を止めることなくすべてアカシア一人で討伐したんだから。いったいどこでそんな力を身に着けたのか気になる。

 

「ところでさ、花騎士ってどうやってなれるの?」

「花騎士になるには、ですか?」

「そうなんだよサボテン。今疑問に思ったんだけどさ。そもそも花騎士ってなろうと思えばなれるものなのか?」

 オレの質問に三人は互いに顔を見合わせる。たぶん誰が答えるか決めているのだろう。そこで、代表者となったモミジがわかりましたと口を開いた。

 

「花騎士はこの世界を喰らう害虫を倒すための存在。それは団長もご存じのとおりです。私たち花騎士はなろうと思えば誰でもなれる。ですが、最終的に花騎士を決めるのは世界花です」

「世界花が花騎士を決める? 世界花に意思があるということ?」

「はい。ですが花騎士になるための評価基準は今も不明です。成績が優秀であれば誰でもなれるというわけでもなく、選定の儀(、、、、)によって決められるのです」

「選定の儀?」

 アーサー王伝説でいうと選定の剣を引き抜く儀式、それと同じようなものか。そう考えと花騎士になるには相当の実力を有していないとまず無理なのでは?

 

「選定の儀というのは、花騎士になるに相応しいと国から認められた者に与えられる挑戦状のようなものです。私たち花騎士はその選定の儀で与えられた試練を乗り越えることで初めて花騎士|(フラワーナイト)になれというわけです」

 なるほど、ただ認められるだけではなく試練をクリアしないとなれないと。それも国が絡んでいるとなると尚更審査は厳しそうだ。

 

「けどそんなに厳しいなら花騎士に慣れる人ってそういないんじゃないか? 自称花騎士なんていたりして」

「それは無理だよリツカ。子どもならまだ許されるけど大の大人がそんなことしたら極刑ものだからね。

 いいかい? 世界花に花騎士と認められるということは、世界に寵愛され祝福を受けるということなのよ。それを、我儘になって自分が花騎士だなんて自称するやつは、傲慢をとおり越したただの阿呆、世界を侮辱していることと同じなのよ」

 坦々とした口調でありながも熱く説明するアカシアの言葉には意外にも説得力が溢れていた。悠然としている彼女が熱意を込めて言い切るあたり、彼女にも花騎士としての誇りがあるということか。

 

「それはわかったけど、試練ってどんなのなんだ? やっぱりこう、害虫を倒すとかそういうのなのか?」

「それについてはすみません団長。口外してはいけない決まりとなっているので」

 掟というやつか。それなら仕方ないけど気になる。いったいどのような試練を達成することで花騎士として成就出来るのか。

 モヤモヤとした疑問を払うためにオレもアカシアに倣ってタコ様ウィンナーを一つ頂戴する。

 

「タコ様ウィンナーって足から食べる派? 頭から食べる派?」

 ……はい?

 何を思ったのか突然アカシアが派閥争いの火種をばら撒いた。

 

「私は足を一本ずつ食べていく派です」

「いや、真面目に答えなくていいよモミジ。でもわかる。オレもたまに一本ずつ――」

「わたしは、そのまま一口で食べる、けど」

「それが普通だよサボテン。何も間違ってなんか――」

「団長、それはつまり私の食道に異を唱えるということですか?」

 あっ、もしかしなくてもスイッチ入ったかこれ?

 

「いや、否定するつもりはないからね。単にオレは、そのまま一口で食べるのが当たり前というか当然というか」

「リツカ、それはよくない。そんな普通であることを私は良しとしない。普通ということは変化がないということだよ。そんな刺激のない在り方は面白くない。ちなみに私は一度に足を全部食いちぎる派だよ」

「言い方! 食いちぎるとか物騒だからやめようね! 女の子が使う言葉じゃありません!」

 

 なんてふざけた会話が続いているうちに空は白くなってきた。

 木々は雪化粧で染め上げられており、馬車の進み具合も段々と疎かになってきている。もはや牛歩といってもいいだろう。

 そう、オレたちはウィンターローズの国境を既に越えており、降りしきる雪の中を進んでいるのである。

 景色といえば想像していたとおりだ。一面が銀世界、大地すべてが白銀の雪により地表を隠されてしまっている。

 

「アカシア、どうやらここまでのようだよ。積雪の深さが馬車で通れるレベルを軽く超えている」

「やっぱり? それじゃあここからは徒歩でいくしかないわね」

 アカシアが馬車から跳び下りると、ズボっと足が雪に埋まる音がすることはなかった。いやなんでだよとツッコミを入れると、

 

「だって私、浮けるし」

 そう告げた彼女はオレたちの前で見事宙に浮いて見せる。羨ましいぞそれ。それが出来れば長靴とか不要じゃないか。濡れなくて済むし進行の妨げすら無視とかもはや二鳥どころか一石三鳥ではないか。

 実際、オレがモミジたちより先に足を雪に置いて立つと脛|(すね)まで埋もれた。出始めからこの深さとなると、道中どこかで体ごと埋もれてしまうかもしれない。

 

「みんな降りたね? それじゃあビリー、国境ラインまで戻ってて。私はリツカとモミジをウィンターローズまで届けたらサボテンを連れて帰ってくるから」

「構わないよ。元からそういう計画だったしね」

 ビリーは巧みに馬車を操り、元来た道へ方向を変える。

 

「じゃああとは頑張ってねマスター。影で応援してるよ。それとこれを渡しておくよ」

 ポケットから取り出したそれを、ビリーはポイっと投げ渡してきた。

 

「これって…」

「ライターだよ。この世界のライターで、魔力を動力源に火を灯せる。それと、もう一つのそれはお守りとして持っているといいよ」

「ありがとう、助かるよ」

 ビリーから受け取ったものを大事に仕舞うと、彼は何も言わずにその場を離れていってしまった。彼らしいと言えば彼らしい気もする。

 さて、問題はこれからだが。

 

「団長、そろそろ」

 サボテンから呼びかけがかかる。

 そうだった。ここからは彼女の仕事だ。今でこそ雪が激しく吹雪いている様子はないが、この雪国で迷うことなく目的地に辿り着くにはサボテンの協力が必要不可欠なのだから。

 

「いつ吹雪が、吹くかわからない、から、みんなこれを、腰に結んで」

 サボテンから手渡されたのは如何にも新品である頑丈な縄。間違いなく遭難を防ぐ為のものだ。

オレやモミジは必要としてもアカシアは浮遊出来るから縄は無用の長物だろう。

 

「しかしここまでする必要があるなんて、ウィンターローズってそこまで劣悪な環境なのか?」

「ウィンターローズはブロッサムヒルと同じように二週間前、いえ、もう十五日ですね。十五日前に害虫の襲撃を受けたんです。それ以来、ウィンターローズは悪天候に見舞われて国外との貿易もままならない状態なんです」

「そうなのよ。猛吹雪に襲われることなんて今じゃ当たり前で、輸送体が結構やられてるのよね。本当に困ったものよ」

 アカシアが項垂れる様を見せるということはそれだけ悩まされているという事か。たぶんその悪天候も聖杯の影響なのかもしれないな。

 

「それじゃあ、団長、わたしが先導、するから。ちゃんとついてきて」

 先頭にいるサボテンが歩を進めていく。続いてオレも積もった雪を退けながら歩いていく。後ろからはモミジが辺りを警戒しながらついてきているが、オレの隣にいるアカシアは変わらずのほほんとしている。

 それからしばらく、歩き始めてから既に一時間は経過したが町が見える気配は一切ない。それどころか積雪の深さが膝に到達する直前にまで迫っていた。これはもう遭難一歩手前の状態ではないだろうか。

 

「サボテン、ウィンターローズまであとどれくらいかかりそうなんだ?」

「まだかかる。このままだと、わたしたちが雪に、埋もれるから、あれを見て」

 サボテンが指差す方向には、雪のせいでよく見えないが確かに一件の小屋が聳え立っている。

 

「あら、小屋があるわね」

「しばらく、あそこでやり過ごして、天気が回復したら、また出発。それでいい、団長?」

「それでいこう。じゃないと本当に凍え死んじゃう」

 急げ急げと、オレたちは無理に走って小屋の前に到着した。小屋は木造で、よく見ればまだ新しい。最近建築されたものなのだろう。

 とにかくまずは小屋に入って温かいスープでも飲みたい。オレはその衝動に駆られるがままに戸を乱暴に開いてしまった。

 すると、誰もいないはずの小屋の中から、

 

「きゃああああああ!! オバケぇえええええ!!」

 熱々のきのこスープが入った皿が、オレの顔面に温もりをぶちまけてくれました。

 

 

「目がぁああああッ!! 目に菌糸類がぁああああッ!!」

「大丈夫ですか団長!?」

「はわわわわっ。すみませんすみませんッ! 決してワザとじゃないんです! すみません、ほんっとうにすみませんッ!! 今お水をかけますからッ!」

「熱ッ! 熱いッ! 熱いからッ!! 人の顔に熱湯ってどういう神経してんだぁああああッ!!」

「ごめんなさい間違えました! 許してくださぃいいいいいいいい!!」

 

 ひどい目にあった。

 扉開けた瞬間、パイ投げのように顔面にきのこスープがかかるわ熱湯かけられるわ、ナニ? オレいつから芸人になったの? この鬱憤をどこに晴らしたらいいの? 教えて神様。視界がまだブヤけてるんだけども。

 

「さっきは本当にすみませんでした。私は、花騎士のハツユキソウといいます」

「ゆ、雪女……」

 徐々にはっきりと目の霧が晴れてきたおかげでハツユキソウと名乗った彼女の姿が映りこむ。稲藁で作られた草鞋の深靴を履いており、体は小柄のようだが分厚い白い着物を纏っている。それでいて深々とフードまで被っているのだから雪女と見間違えてもおかしくはない。

 

「チガいます! よく言われますが雪女じゃありません! いえ、そう噂する人もちらほらといますが決して雪女ではありませんからネ!」

 ハツユキソウはそう言って囲炉裏に吊るした鍋からきのこスープをお椀に装ってオレに手渡してくれた。オレは感謝を告げてそれを受け取る。ぐつぐつと煮込まれた中から掬われたばかりとあって湯気とともにスープの香ばしいさが鼻を刺激する。

 

「これはまた、体の芯から温まりそうな」

「え? そ、そうですか? わ、私これだけは得意なんですよ。えへへ」

 頬を赤く染めたハツユキソウは次々とお椀を取り出し、せっせとスープを注いでいき、モミジたちに渡していく。

 

「みなさんお疲れでしょう。私特製のきのこスープで温まるといいですよ。ところでみなさんはどうしてここに? ウィンターローズに何かご用事でもあるんですか? あっ、それと出来ればお名前も」

「そうね。まずは自己紹介からよねぇ。私はアカシア。で、団長たる彼がフジマルリツカ。その隣がモミジで、私の隣にいるのがサボテン。私とサボテンは彼らをウィンターローズまで無事送り届けることが任務で、リツカたちは……なんだっけ?」

 そこまで説明しておいて肝心なところを忘れてるのか。いや、オレから彼女には直接目的を伝えてはいないから知っていなくても当然かもしれない。

 

「オレとモミジはウィンターローズにある聖杯を探しに来たんだ。聖杯って言ってもわからないと思うけど」

「セイハイ? すみません、全然知らないです」

「そうだよな。ごめん、今のは気にしないで。ハツユキソウはどうなんだ? ここに暮らしてるとか?」

「そんわわけないですよ団長さん。ちょっと追われてただけなのでここに避難しにきただけです」

 追われてたから避難しにきた?

 

「追われてたとは、害虫にですか?」

 モミジが口を開くとハツユキソウは顔を横に振って否定する素振りを見せる。

 

「恥ずかしながら子どもたちに、です……」

 なんと? 世界を護る花騎士が子どもからここまで逃げてきたと?

 これを聞いた花騎士たちは笑いをとおりこして口をポカンと開いたままでいる。

 

「ち、ちょっと、そんな憐れみな目で見ないでください! 私だって好きで逃げているわけじゃないんですよ」

「すみませんハツユキソウさん。きのこスープ、おかわりしてもよろしいでしょうか? できれば大盛りでお願いします」

 モミジはよく食べるな。騎士王に負けない食いつきだ。そういえば弁当を一番早く食べ終わったのはモミジだった気がする。

 

「いいですよ~。私のスープは世界一ですからね~」

 あっ。待って、それは――。

 

「ほう? 世界一ですか……」

 火に油注いじゃったよこの娘。

 そうだ。せっかくだからカルデア騎士団に局中法度みたいなやつでも作ろう。

 第一条、一番と豪語するやつは花騎士道不覚悟で切腹でござる、みたいな。

 ん? 花騎士道ってナンダ? いやもういいかどうとでもなれ。

 オレは花騎士たちがワイワイと騒ぐ中、ダンマリを決め込み一人静かにカルデア法度を考えこむのであった。

 




【お・ま・け】
モミジ「きのこスープ美味しかったです」
ハツユキソウ「と、当然のことですよ! よかったら作り方教えましょうか?」
モミジ「ぜひお願いします」
ハツユキソウ「まず――」
アカシア「害虫に生えてるきのこを狩りにいきます」
ハツユキソウ「え?」
サボテン「次に、剥ぎ取ったきのこは、かごに入れて、害虫を串刺しにして」
アカシア「上手に焼けました♪」
立香「(どこのモ〇ハンだよそれ)」


【コメント】
 ウィンターローズ編1話、最初に登場したのはハツユキソウちゃんとなりました。
 ハツユキソウちゃんは可愛いぞ、今後彼女の良さを引き立てていけるよう頑張っていきます。
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