Fate/Grand Order -flowering night-   作:紅劉

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前回のあらすじ

1、巌窟王とサフランの出会いについて

2、藤丸たちがウィンターローズへ行く道中、害虫の群れに接近されそうになるがアカシアによって駆除される。

3、大雪から難を逃れるため小屋に入ると、きのこスープをハツユキソウに投げつけられた。


第4話「お酒は二十歳になってから」

ウィンターローズ 酒場「カルーナ・ブルガリス」

 

 雪が止んできた。外は既に夕暮れ時だが日は雲隠れを決めたままである。

 藤丸たちが小屋で休息している最中、小降りの雪は荒れた吹雪へ変貌しウィンターローズを真白に染め上げていく。人がそれに出くわせば、たちまち雪の中に埋もれてしまうほどに。

 だが、ウィンターローズの都市ともなれば話は変わる。

 ウィンターローズにある世界花は都市に大きな恩恵を与えているのである。それがウィンターローズの大結界。文字通り、街中全てを結界で覆い、雪の侵入を防ぐ役割を務めているのだ。それでも、人に害を及ぼすことのない小雪ともなれば話は別。小雪は結界をすり抜け、時間をかけて街中を白銀の世界に変えてしまう。

 そんな街中にある一つの小さな酒場で白装束を身に纏う彼女、荊軻(けいか)はカウンター席でグラスに入った冷水をちびちびと口に運んでいた。その隣に同席しているのは、町娘の格好をした花騎士にしてこの酒場の主ヘザー。片側には愛用の箒を立て掛けている。ジョッキに手酌した溢れんばかりのビールを豪快に飲みこんでいく彼女の様はまさに酒豪、普段の容姿からは想像もつかないだろう。

 

「どうしたんですか荊軻さん? 今日はいつものお酒飲まないんですか?」

 からかいも含めてジョッキを荊軻の頬に押し当てるヘザーに荊軻は抵抗することもなく懐から一枚のリストを彼女の前に置いた。

 

「これは?」

 ジョッキを手放し、差し出されたリストに目を通していく。そこに記載されているのはウィンターローズに居を構える上流階級の貴族や富豪である。見れば名前に横線を引かれた者がほとんど。それが何を意味しているのかは想像に難くないがヘザーは敢えて彼女に返答を求めた。

 

「それは私が始末した者たちだ。だが勘違いしてほしくないのは私がやったのはその取り巻き。彼らが独自に雇っている傭兵やならず者のリーダー格だけだ」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……、うーん、ざっと二十名程度ですか。これだけの人数を三日足らずでクリアするとはさすがとしか言いようがありませんね暗殺者(アサシン)さん」

「暗殺など私の生業ではないのだが、国の頼みとあっては無下に断れない。いや、今の私に断る理由もないのだがな。成すべきこともないし」

「ここまで出来るとは、本当に異界から来た客将と認めざるを得ませんね。いえ、疑っていたわけではないですよ。それで、これを私に見せるということは何か意図があるんですよね?」

 トントンと、リストの一番下に書かれた名前をヘザーは叩く。それは、未だ消去線が引かれていない唯一の標的者。

 

「何が知りたいんですか?」

 今までのにこやかな笑顔とは打って変わってヘザーの目つきは鋭くなった。

 

「その者の人間関係について」

「うぅん、お高いですよぉ。何せ、国すらこの人については隠そうとしてますからね。この国は都合の悪いことは何でも隠蔽することに長けていますから。その代わり、そうした裏を忘れないように詩として後世に伝えていくんですけどね。ふふっ、全く何がしたいのかよくわからないですよこの国は」

 ウィンターローズへの愚痴をさりげなく吐いた彼女は締めにビールを一気に飲み干した。

 

「ですから、この人について情報を得るにしても少し時間がかかってしまいますが」

「いいさ。情報がなくては迂闊に動けない」

「わかりました。ですが私よりも、彼ら(、、)にお願いした方がいいと思いますよ? お知り合いなんでしょ?」

「あちらはあちらで調査していることがある。今頼ることは難しい。まぁ、これを機にしばらくはのんびりさせてもらうさ。それにしても詩か……」

「おや? もしかして荊軻さん、詩人だったりします?」

「まさか。私はただの客将だよ」

 グラスに入った冷水を飲み終え、荊軻は懐から一冊の本を取り出した。書かれているたタイトルは、

 

「ウィンターローズ詩集、ですか」

「あぁ、昨年度のな。詩は詠んでいて飽きることはない。しかし私がいた国でも詩は愛されてはいたがここまで中身の薄いものではなかったぞ」

「あら? お気に召しませんでしたか?」

「そんなことはない。強いて言えば、恋愛ものが多すぎて私には退屈に感じただけだ」

 荊軻が詩集を開いて挟んでいたしおりを抜き取った時、ヘザーは詩集のページではなくしおりの方に視線を奪われた。そのしおりはただの紙切れなどではなく、面に百合(ユリ)を押し花として作られた荊軻お手製のものだ。

 

「お洒落なしおりですね」

「非売品だぞ。譲ってもいいが自分で作った方がいい。作り方がわからなければ私が直に伝授してあげよう」

「それはもう、是非お願いします。あっ、読書をするなら私はここで失礼しますね。そろそろお店の準備もしなくちゃいけないし」

「酒に溺れていながら店を開けるのか」

「ふふん。これが私なんですよぉ。酒は飲んでも飲まれることはありません。これはコミュニケーションを円滑に取るためですから」

 席から立ち上がり箒を手にしたヘザーは酔っていないと証明するためにあたりをササッと掃いてみせる。終いには箒を使った曲芸まで披露したが、荊軻が見るにその動きはどこか覚束ない。いつ床に倒れて寝込みを決めてもおかしくないと理解した彼女は肩をすくめた。

 

「私も手伝おう。何からすればいい?」

「いいんですか? では外の階段に積もった雪を掃ってもらっても――」

 

『ここから立ち去れ雪女ッ!!』

 

 突然店内にまで響いてきた罵声に二人は酔いから覚めたように目を丸くした。

 

「な、何でしょうか?もしかして暴動?」

「慌てるな。まずは窓から覗いて確認する」

 動じる様子を見せることなく荊軻は速やかに窓際へ身を隠す。ヘザーも彼女のあとに続いてかけ足で隣へ駆け寄った。

 閉められたカーテンの隙間から外の状況を確認すると思わず荊軻は唇を歪めてしまった。何をやっているんだと言わんばかりに、彼女は店の出入り口へと歩を進める。

 

「荊軻さん、どちらへ?」

 静止の意味を込めたヘザーの注意喚起に荊軻は歩を止めるが、

 

「我が(あるじ)が、危機に瀕している。ならば私が駆けつけるのは必然だ」

 扉を開ける。ドアベルの音が静かに鳴る。入ってきたのは凍える冷気と耳障りな罵声のみ。荊軻は一歩、また一歩と気配を完全に絶ち切って罵る集団の背後に忍び寄る。

 

「少々手荒だが悪く思わないでくれ」

 

 そう呟いた荊軻は手に持った一つのライターで灯りを点火する。

 

――この寒空の下、その場に立ち止まっていてはさぞ冷えるだろう。

 

「さぁ、舞踏会の幕上げだ」

 

 

 

×

 

 

 

ウィンターローズ 入口前

 

「や、やっとついた」

 吹雪が止んだ後、オレたちは小屋から退出し、サボテンの案内のもと、ようやくウィンターローズへとたどり着いた。

 長かった。とにかく長かった。まさか雪の中に害虫が隠れ潜んでいるとは想定外だった。いや、虫って雪下にいて平気なのか? 凍え死ぬことはないのかとは思ったが考えるだけ無駄だった。

 いや、それは置いておくとして――。

 

「なんでついてきたのかなハツユキソウ?」

 小屋から出る際、ハツユキソウもいつの間にかオレたちと同行していた。気がつかなかったと聞かれればそのとおりとしか言えない。服装が完全に雪に溶け込んでいるからというのもあるが、正直誰かに構っているほど精神的な体力がなかった。

 

「え? それはですね。私。長いものには自ら巻かれていくスタイルなんです。ここで会ったのも何かの縁。最後までお供させていただきますから」

 迷惑だったらごめんなさいと頭をぺこぺこ下げるハツユキソウ。ここまでされては追い返すわけにはいかないだろう。男が廃るというものだ。

 それに、ここからはもう案内役は彼女一人だけなのだから。

 

「ここまで連れてきてくれてありがとう。サボテン、アカシア」

「私からもお礼を。ありがとうございました二人とも。」

 オレに続いてモミジも二人の花騎士に一礼する。そう、ここまで来ることが出来たのも彼女たちのおかげだ。自分には利益にならないのに、献身にオレたちを導いてくれた二人にはいずれ恩返しをしたいところである。

 

「いいの。団長をここまで、連れてくることが、わたしの役目だったから」

「そうそう。私もサボテンも自分の職務というか役割というのかな? うん、それを全うしただけだからね。本当はそっちについていきたいけどさ」

 二人とも当然のことをしたまでだと揃えて口にする。

 

「それに、私たち花騎士は世のため人のために動くものだからね。まっ、それに関わらず人助けするのは当たり前よ。困っている人のためならば、たとえ火の中水の中、害虫の中でも助けるからね」

「アカシア、話はそこまで。ビリーを、待たせ続けるの、よくないと思う」

「あっ、そうだった。すっかり忘れてたわ!」

 良い人なんだけどどこか抜けてるような。こんな上司に付き従ってる人たちもさぞ大変だろう。

 

「じゃあリツカ、モミジ、また会いましょう。次に会う時は長期休暇入れて力貸してあげるから期待してネ♪」

「いや、輸送の任務を頑張ってくださいよ。でもありがとう。その気持ちだけで十分だ」

「団長、元気で。わたしも、次に会う時は、美味しい料理を、ご馳走するから」

「サボテンもありがとう。ブロッサムヒルに戻ったらそっちに遊びに行くよ」

「うん。待ってる」

 最後に別れの握手を済ませる。それに満足したのか二人は早々にオレたちの前から姿を消した。無事にビリーと合流出来ればいいのだがと不安が過ぎるが心配するだけ徒労だ。とにかくまずはここから先どうするかだ。

 と思っていた矢先、帰ったはずのアカシアがオレたちのもとに急いで戻ってきた。

 

「どうかしたのかアカシア?」

「いやぁ、これを渡すのをすっかり忘れててさ。……はい、これ」

 アカシアから手渡されたのは一枚の紙。何が書かれているかはまったくわからない。何せ文字が自分がいた世界とはまるっきり違う。読めなくて当然だが、言語は日本語と変わらないのは不幸中の幸いとも言える。

 

「これは?」

「特許状。ネロから君に渡してくれって頼まれてたんだよね。私としたことがうっかりしてたわ」

「特許状?」

「通行許可証みたいなものよ。検問所を通るために必要でね。それを警備兵やら門兵やらにでも突き出せばすぐに街中へ通してくれるわ」

 所謂パスポートというやつか。どこの国にもこういうのは必要不可欠なんだな。

 

「それと、気をつけなさいねリツカ。今のウィンターローズはいろいろと物騒だから」

「忠告ありがとうアカシア。あとはオレたちで何とかするから」

「それ聞いて安心したわ。サボテンもキミのこと心配してたからね。いいわねこの色男♪」

 そうからかって彼女は今度こそ飛び去って行った。

 色男って、オレはそんな大層な人間じゃないんだけど。

 

「さて、これからどうするべきか」

 アカシアも去ったことだし今こそ次のことを考えなければならない。幸いなことに、ここにはハツユキソウという土地勘のある花騎士もいる。街中で迷うということはまずないだろう。

 

「まずは宿を取るのが先決ですね。ハツユキソウさん、この時間でどこか泊まれる宿舎はありますか?」

「もしかして私の出番ですか!? いいですよ、ご案内します!」

 ハツユキソウは子どものようにはしゃぎながら先を行く。頼られることが嬉しいのかわからないが、小さな手を振って手招きする様は本当に幼い子どもに見えた。

 

「慌てないでくださいハツユキソウさん。すぐそちらに向かいますから。団長、急ぎましょう」

「わかってる。こんな寒空の下にいつまでもいるのは堪えるし」

 オレは陽気に振る舞うハツユキソウのあとをモミジと一緒についていった。

 

 

 

ウィンターローズ 街中

 

 ウィンターローズに入るのは本当にあっさり出来た。

 アカシアから受け取った特許状を見せたら、警備兵はすんなりオレたちをウィンターローズに通してくれた。

 特許状ってスゲーと感心するのも束の間、オレはウィンターローズの街を目の当たりにするわけだが――。

 

「――――すごい」

 ブロッサムヒルで初めて世界花を見た時と同じように、オレはただ圧倒された。

 ウィンターローズは大規模な結界に包み込まれている。ところどころに生えている巨大な結晶、クリスタルと言うべきか。これはウィンターローズの象徴と言っても過言ではないはずだ。

 だがそれよりも相応しい国の象徴といえばこれだろう。一目見れば忘れることはない巨大な花、つまり世界花だ。ウィンターローズの世界花はブロッサムヒルの世界花とは容姿も何もかもが違う。ガラス細工などの、人の手で造られたものではない。氷のように透き通った薔薇の花を咲かせているのだ。

 

「すごいですよね、ですよね! 私も初めて見た時は驚いちゃいましたが団長さんも私と同じように感動しましたか」

「そうだね。薄々感じてはいたけどこういう花が国ごとにあるのかな?」

「さすがですね団長。おっしゃりとおり、世界花は各国それぞれに存在します。ですが今は」

「宿を探すべき。顔にそう書いてある」

 オレはモミジの顔にビシッと指差す。

 本当ですかと、モミジはペタペタと自分の顔を触って確認しだした。純粋というか生真面目というか、これはからかいがいがある。

 

「それにしても、やけに人が少ない気がするんだけど」

 街中を歩き続けているが街にいる人はほとんど見かけられない。家に灯りがついているから人がいるのは確かなんだけど、街に賑わいが何一つ感じられない。寒いから外出したくないというのならわかるが、雪の国の住人がそんな理由で出歩かないのはおかしくないか。

 

「仕方ないんです団長さん。十五日前からこの国は異常な大雪の影響で食糧危機に陥ってしまったんです。今では配給制で決められた時間にしか食糧は提供されないんです。だからみんな出来るだけ家から出ないで体力を温存しようとしているんです」

 異常事態が起こっているのはブロッサムヒルだけじゃないのか。食糧危機という状況に追い込まれそうになったことはカルデアでもあったがここでは現実に起きている。そういえばモミジとアカシアが言ってたような――。

 

――「ウィンターローズは悪天候に見舞われて国外との貿易もままならない状態なんです」

――「そうなのよ。猛吹雪に襲われることなんて今じゃ当たり前で、輸送隊が結構やられてるのよね。本当に困ったものよ」

 

 貿易がままならない、輸送隊が来れないともなれば食糧危機となっても仕方ないのかもしれないが食糧の備蓄はしていなかったのか? さすがに十五日という期間でここまで追い込まれることはないはずだ。

 

「害虫による被害も尋常じゃないんです。多くの町村が襲われて……、それだけじゃないんです民家も当然なんですけど食糧の保存庫、とにかく食糧のあるところばかり襲撃されて。人々はパニック状態。あるところでは暴動で食糧の奪い合いが起きて、もうとにかくここ最近は不幸ばかりが重なって大変なんですよ……。どうしてこんなことに……」

「ハツユキソウ……」

「く、暗いお話をしてしまってすみません! 今は宿探しでしたね! もうすぐ着きますから頑張りましょう! 配給制とはいっても旅は道ずれ世は情けです。旅人さんなら食事の提供は――」

「そんなもんねぇよ。この雪女が」

 ちょうど広場に出たところで、突如見知らぬ屈強な男がオレたちの目の前に立っていた。

 男が言った雪女というのはわからなくもないが、なんだ? どこか様子がおかしい。

 そんな男を見たハツユキソウは怖くなったのか、慌ててオレの背後に隠れてしまった。

 男は眉間にシワを寄せながらジリジリと歩み寄ってくる。

 

「ハツユキソウ、この人に何かしたのか? やけに怒っているように見えるんだけど」

「うぅ、それは……」

「なんだ兄ちゃん、知らねぇのか? そいつが、このウィンターローズを地獄に変えやがった張本人なんだよ!!」

 なんだって――?

 

「そいつは前々から雪女だってウワサがあってな。雪女なら雪を操って吹雪にしてしまうことなんか造作もねぇ。害虫だってテメェが操ったと証言してるやつらがいっぱいいるんだよ」

「ち、違います!私は――」

「ダマれ! 裏切りものの花騎士が、地獄に堕ちろッ!!」

 

――こいつ。

 怒りの頂点に達したのか、男は大剣を力任せに振り上げる。

 

「待ってください」

 見るに見かねたのか、モミジがオレたちの前に立ち、彼女もまたガンブレードを構えた。

 

「それはあまりにも言いがかりというもの。ハツユキソウさんがやったという証拠もないのに、根拠のない噂を信じて彼女を殺そうとは不届き千万です!」

「――ッ。テメェに、余所者にオレたちの何がわかる!? この現状を打開するにはそいつを殺すしかねぇって誰もが信じて疑わねえ! オマエら出てこいッ!!」

 男の号令に広場の周りは彼の手下とでも言うべきか、様々な鈍器を持った野蛮な連中がオレたちを囲み始めた。

 

「だ、団長さん……」

「――ッ。この人数、しかも街中なのに堂々と。巡回してる兵士とかはいないのか!?」

「無駄だぜ兄ちゃん。何せオレたちは国に雇われた傭兵。見回りの兵士でもオレたちのことは知らんぷり。つまりオレたちはそいつを殺すに至っては何しても構わねぇのさ」

 国絡みかよ。国が花騎士じゃなくて噂を信じるとかどういう神経してるんだ!?

 

「モミジ、逃げ道は作れるか? 出来れば殺すことなく、街にも被害は出さずに」

「難しいですね……、これが人ではなく害虫ならまだ何とかなりましたが。ですが、命令というなら絶対成し遂げてみせます」

 さすがのモミジでも手に余るか。モミジの言うとおり、この人たちが害虫であればまだ何とかなっただろう。しかし相手は人間だ。一人でも傷を負えばそれを理由にハツユキソウを悪と決めつけてしまう。これが万事休すというやつか。

 

「オマエら殺ってしまえぇえええええ!!」

 男の命令に周りの連中も一斉に襲いかかってくる。

 覚悟するしかないかと思ったその時だった。

 

 バンッ! ババババババンッ!!

 

 周囲の男たちは全員、足元で爆発した何かに驚き、恐怖で飛び退いたが、その後ろでもまた何かが爆発した。

 知っている。これは爆竹だ。もとは鬼・魔除けのものらしいがここでそれを使うとはある意味センスある。いや、彼らが鬼でも魔物でもないのだけど、いったい誰が?

 

「我が(あるじ)よ」

「ひっ!?」

 突然耳元で囁かれたからビックリして思わず声が漏れたが、この声の持ち主くらいはわかる。

 

「そう驚かれると困るが時間がない。私に良い隠れ家があるゆえ、そこに案内する」

「ありがとう荊軻。助かる」

 暗殺者(アサシン)英霊(サーヴァント)、名は荊軻。

 第二特異点で共に戦った刺客。オレが第二特異点に来るまでにネロ陛下の下で客将として従い、敵であった連合ローマ帝国にいた皇帝を呂布とともに三人も暗殺したというトップクラスの英霊だ。

 

「モミジ、今のうちに行くぞ!」

「了解です、団長」

「ちっ、逃がすか!」

 男がモミジに向かって大剣を振り下ろすが、モミジはそれを難なく回避し、容赦なくその大剣をガンブレードで叩き割った。

 

「――なッ!?」

「とんだ鈍剣ですね。鍛え直すことをオススメします」

 そう言った彼女は今度は見事なボディブローを決め込み、情けをかけることなく頭部を蹴り上げてそのまま蹴り飛ばしてしまった。

 こわい。モミジコワイ。これからちょっとずつからかおうと思っていたけど下手すればオレもあんな風に粛正喰らうのか。

 

「団長、急ぎましょう」

「あ、あぁ、行こうか」

 今度から、からかう時は気をつけよう。

 

 

 

×

 

 

 

ウィンターローズ 酒場「カルーナ・ブルガリス」

 

 男たちの追撃を受けることなく、オレたちは荊軻の案内のもと、彼女が隠れ家として利用しているという酒場へ到着した。看板には、酒場の店名『カルーナ・ブルガリス』と表記されている。

 カルーナってカルナさんのことかと一瞬脳裏に浮かんだが、そんな親父ギャグはどうでもいい。

 

「戻ったぞヘザー。悪いが今日は店を開けないようにしてくれ」

 荊軻に続いて酒場に入ると、荊軻の前にはヘザーと呼ばれた女性が箒で床を掃いていた。

 

「そのようですね。お二人とも初めまして、花騎士のヘザーといいます。以後お見知りおきを」

 三つ編みのおさげにエメラルドのような瞳を持つ彼女は丁寧にお辞儀する。

 オレとモミジも彼女に合わせて思わず軽く一礼するがハツユキソウだけは違った。

 

「ヘザーさん、お久しぶりです」

「ハツユキソウちゃんもお元気そうでなによりです」

 仲良く手を握って和気藹々と喜んでいるようだが、もしかして知り合いなのか?

 

「紹介しますね団長さん! この人は私と同じく花騎士でヘザーさんです。害虫討伐の任務でよくお世話になったんですけどお酒の飲み過ぎが玉に瑕で」

「そんなことないですよ。お酒はお互いを理解するのに最適。酌を交わせば即仲間入り。ぼっちな人もコミュ力ない人も繋がりを持てるようになる神アイテム! そこでいかがでしょう、お近づきにグビっと一杯!」

「未成年です!」

「あらー、それじゃ仕方ないですね。代わりにオレンジジュースでも飲みます?」

「出来れば温かいもので」

「でしたらお酒を」

「未成年ッ!」

 人の話を聞いてください。

 よく見れば、ヘザーの頬は真っ赤に染まっているし、すでに出来上がってるじゃないかこの人。

 

「主よ、諦めてそこに腰を下ろすといい。ヘザーの酌はいいぞ、安酒でも酒器に注けば美酒へと変わる」

 荊軻に言われるがままにオレはカウンター席に半ば強制的に座らされる。

 モミジもオレの隣に座り、ハツユキソウは既にモミジの隣でオレンジジュースを飲んでいた。

 

「さて主よ、話を聞かせてもらおう。飲んで全部吐くまでな」

 

 それからして、オレは荊軻たちにこれまでの出来事を洗いざらい説明した。

 無論、酒には口をつけてはいない……と言いたかったです。

 ハイ。ワタシ、負ケマシタワ。

 荊軻曰ハク。

 

――「私がいた国ではな。干杯後は一気飲みが決まりだった。それで敬意を表すことになる」

 と、涼しげに祖国にある習慣を語ってくれる中、ヘザーがなにやら酒器に白く濁った酒を注いでくれた。

 芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。ニオイはキツいが飲めばきっと感動して涙が出るに違いない。そう自分に言い聞かせて、荊軻に教えてもらったとおり、乾杯したあとはそのまま一気に口から喉へと流し込んだが最後。

 

「辛い! これが、喉が焼けるような痛みというやつなの!? アルコール度数幾つなのこれ!?」

「それは白酒(パイチュウ)の低度酒ですよリツカさん。度数は38度でウィスキークラス一歩手前ですね」

「お酒初めてなのにナニコレヒドイ! 殺す気か!?」

 荊軻から差し出された水の入ったグラスを辛抱たまらず受け取った。

 とにかく口をゆすいではうがいをする。二度三度と繰り返し、このヒリヒリ感を払拭しようと奮闘したが中々取れない。治まるのを待つしかないか。

 

「では本題に入ろう。主、聖杯探索についてだが既に調査は始まっている」

 突然の吉報に酒の痺れが一瞬にして切れた。

 まさかオレがいない間にもサーヴァントたちはこの問題を解決しようと動いてくれているとは想像していなかった。

 

「本当!? それで、聖杯のある場所は」

「あいにく未だ見つかってはいないが幾つか候補は絞り込めてはいる。ヘザー、地図はあるか?」

「ありますよ。こちらをどうぞ」

 ヘザーが巻かれた地図を荊軻に手渡す。

 広げられた地図に載っているのは当然ウィンターローズのものだった。世界花が描かれているのだから間違いない。

 

「幾つか候補があるとは言ったが、ここに聖杯があると最重要視している」

 地図に指差された地点に目をやる。

 そこには、

 

閉ざされたお屋敷(、、、、、、、、)?」

 いかにも童話か何かに出てきそうな名称が書かれていた。

 

「え? 閉ざされたお屋敷って、あの閉ざされたお屋敷ですか!?」

「そうだ。ハツユキソウだったか? 君は知っているのか、ここがどういう屋敷なのかを」

「知ってますよ。"あの森に近づいてはいけない。誰かを探してはいけない。興味を持ってはいけない。"ウィンターローズの子どもなら誰もが親からそう教わる、みんなに忌み嫌われてるお屋敷ですよ。実際私も結構怖く思ってますけど。考えただけでも恐ろしいです」

 体をビクビクと震わせながらハツユキソウが語るに、どうやらこの閉ざされたお屋敷とは相当危険な癖地らしい。

 呪われているのか? 幽霊が出るのか? はたまたポルターガイストでも起きるのか?

 いずれにせよ、目星がついているのだから行かないわけがない。

 

「さて、どうする主? 決めるのは君だ」

「もちろん行くさ。今からでもと言いたいけど今日はもう疲れたし明日にしよう。それでいいかな二人とも?」

「無論、私は団長の命令に従うまでです。ですが、ハツユキソウさんは」

「わ、私も全然バッチリオッケーですよ! 最後までお付き合いしますとも!」

 モミジは相変わらずだがハツユキソウの返事は意外だった。

 さっきあんな目にあったことに加えて、怖いと感じる屋敷に無理してついて来なくてもいいというのに。

 

「了解した、主よ。では私はしばらく留守にしよう。ヘザー、我が主を頼んだ」

「それは構いませんが、どちらへ?」

例の事務所(、、、、)に決まっている」

 そう言って荊軻は幽霊のように姿を消した。

 サーヴァントなら誰もが出来る霊体化(、、、)というやつだ。

 それに驚いたのか、モミジは目を丸くし、ハツユキソウはビックらこいて席からひっくり返った。

 幽霊だと騒ぎ立て、どういうことかと尋問してくる始末だ。

 

「大変ですねリツカさん」

「大変なのはいつものことですけどね。それと、ありがとうございますヘザーさん。荊軻のこと匿ってくれて」

「いいんですよ。彼女には酔っ払いを追い払ってくれた恩がありますし、困ったときはお互い様です」

 良い人だ! ここまで来るのにキャラが濃い人ばかりだったからどこか安心するよ。

 にこやかに微笑むその笑顔、それを見るだけで癒され―― 

 

「それは置いといて、このまま親睦会といきましょう! 私の驕りですからジャンジャン飲んでくださいね!」

 ドン! と、ヘザーはオレの前に注いだグラスを差し出してきた。

 オレは中身など確認することなくあっさり受け取り、勢いに任せて飲んでしまった。

 お決まりな展開というかお約束というか、これが運のツキだった。

 二度と味わいたくないキツい一撃が……、まるで針千本を飲まされているかのようだ。

 

「ヘザーさん……、お酒は二十歳になってから……です、よ」

 




【お・ま・け】
ヘザー「第1回リツカさんを酔わせようだーいさくせーん!」
モミジ・ハツユキソウ「「わーい!」」
立香「やめて」
ヘザー「まず一番槍はこちら! たりららったら~♪ ウォッカ~♪(裏声」
立香「死ぬ」

【コメント】
 動画作ったりいろいろやってたらここまで遅くなってしまってすまないさん。
 だいたいCCCイベントに夢中になってたせいな気もするけど是非もないよね。
 ちょっと敦盛踊ってくる。
 
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