Fate/Grand Order -flowering night-   作:紅劉

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前回のあらすじ

1、藤丸たちはウィンターローズに到着。アカシアとサボテンはブロッサムヒルへ戻る。

2、ハツユキソウを狙う男たちに襲われるが荊軻に助けられ、ヘザーが経営している酒場に隠れることになる。

3、藤丸がお酒を飲む羽目になる。荊軻は聖杯の在り処が閉ざされたお屋敷にあることを目につけ、藤丸に告げた。


第5話「エドモン探偵事務所」

 親睦会という名の酒宴が終わったあと、オレとハツユキソウは2階の個室に入りオレはそのままベッドへ横になった。

 そう、オレたちはヘザーの計らいで酒場に泊まることになったのである。

 大変ありがたいことだがオレの胃はキュルキュルと悲鳴を上げている。それもこれも無理矢理お酒を飲ませるヘザーたちのせいだ。今にも虹色の滝を吐きそうだが、ヘザーからもらった薬を飲めば朝には治るらしい。

 それを信じてオレは薬を口に含み、ハツユキソウから渡されたグラスを手に取り水で胃の中へと流し込んだ。

 と、オレのことはいい。

 泊まることになった理由はこれとは別にある。

 その理由が、このハツユキソウにあった。

 なんでも、彼女はやたらと噂のネタとされるらしい。雪女というのもそうだが、彼女にまつわる噂は全て事実無根であり彼女は真っ当な花騎士だとヘザーは口にしていた。

 噂というものはその性質上すぐに広まる。 そして今の状況から察するに、当てのない人々は噂を鵜呑みにしやすい。仮に、宿に泊めてもらおうと願ったところで宿主から通報されるのがオチなはずだ。だから今回は本当に運がよかった。

 

「それにしてもよかったですね団長さん。ここに泊まらなかったら私たち一生追いかけられてたかもですよ」

「今日みたいな人たちに襲われるのも困るからね。ハツユキソウは大丈夫?」

「私ですか?」

「うん。噂を理由に襲われたんだからたまったもんじゃないだろ?」

「そう、ですね……。でもこういうのは慣れてますから! 子どもたちに雪女呼ばわりされて雪玉投げつけられるのと一緒のようなものですし。それに私は人々を守る花騎士です。挫けていられませんよ。だから団長さん、そんなに心配していただかなくても大丈夫ですから!」

 そう言ってハツユキソウはエッヘンと胸を張った。

 

「そんなに胸張ってもないものはないぞ」

「んなっ!? ひどいですよ団長さん!」

「ごめんごめん。ほら、飴ちゃんあげるから、これで許して」

 オレはハツユキソウにひょいと飴を投げ渡した。

 彼女はそれを慌ててキャッチすると笑顔になり飴玉を頬張った。

 さて、いい加減に寝るとしよう。

 明日もまた歩いてここから遠くにある屋敷に行くのだから、せめてこの酔いだけは完治させておかないとな。

 

 

 

×

 

 

 

「寝たようですね」

「えぇ、団長もハツユキソウさんも布団を被ってぐっすりです」

 時は既に真夜中。街中の灯りは街灯が点いてるくらいで家庭の灯りはほとんど見られない。寝静まった静寂、ランタン一つが一階の灯りを照らす中でモミジとヘザーはカウンター席で晩酌をしていた。

 

「それで、私に聞きたいこととは何でしょうかモミジさん?」

「あなたの噂については聞いたことがありますよ情報屋(、、、)のヘザーさん」

「あら、私のことご存じでしたか」

「……単刀直入にお聞きします。あなたは、私の姉について何か知っていることはありませんか?」

 グラスに入った氷が傾く。カランと一つの音が鳴った後、ヘザーはひと呼吸を置いて口を開いた。

 

「姉……そうですね。この(情報)は、あなたに伝えておくべきでしょう。私からも単刀直入に言います。あなたの姉は、確かに死んでいます(、、、、、、、、、)

 刹那。ヘザーの頭上にモミジの大剣が振り下ろされたところでピタリと動きが止まる。

 まるで、何かに挟まれているかのような。モミジが振り上げようとした途端、枷は外されモミジは勢い余って後ろに転がってしまった。

 

「何をしているモミジ?」

 枷となっていた犯人が正体を現す。殺気を放ち、モミジの前で霊体化を解いたのは――。

 

「荊軻さん、いつからそこに……」

「宿主に手をあげてもらっては困る。今すぐその剣を鞘に収めてはくれないか?」

 その清澄な声の裏に、モミジは背筋に悪寒を覚える。

 死神の鎌を音を立てることなく首に掛けるかのように。荊軻から放たれる小さくも悍ましい殺気に、彼女は唾をグッと飲みこむ。

 

「……すみません。ご無礼を働いてしまいました。……今日はこれで失礼します」

 刃を収めたモミジは頭を下げると俯いたまま二階へと上っていった。

 一方荊軻はモミジが着席していた席に座り、ヘザーから冷水が入ったグラスを受け取っていた。

 

「ありがとうございました荊軻さん。危うく真っ二つにされるところでしたよ」

「礼など不要だ。それより何があった? あの殺意、尋常ではなかったが」

 荊軻の問いにヘザーは目を瞑って答えた。

 

「あの娘はきっと、未だ現実を受け入れていないと思うんです」

「どういう意味だ?」

「そこはプライバシーに関わるのでお答え出来ません。知ってのとおり私は情報屋ですから、教えてほしかったら対価を支払ってください」

 そう軽くあしらったヘザーは席から立って『ワインセラーの整理をしてきます』と、ワインセラーのある地下へと下りていった。

 

「まあ、聞かずともおおよそ見当はつくがな」

 そうひとり言を呟いた荊軻は、手にグラスを取って口に冷水を運んだ。

 

 

 

×

 

 

 

「へいよーかるでらっくす!」

「へいよーかるでらっくすです!」

 オレとハツユキソウのハイタッチの衝撃音が部屋に響き渡る。

 説明しよう。へいよーかるであっくすとは、オレがカルデアにいた時に作ったハイタッチ式アイサツ!

 しかしこれはマシュによって禁止となった知る人ぞ知る幻の挨拶なのである!

 起床したあと、酔いが醒めていたオレは気合を入れるためにハツユキソウにこの挨拶を伝授したのである。

 

「いいですねこれ。起きたばかりなのにテンションが高まるといいますか、身が引き締まるといいますか、気持ち的にすごくスッキリしますね! 団長さんすごいです。もう一回お願いしてもいいですか?」

「いいぞぉ。へいよーかるでらっくす!」

「へいよーかるでらっくす!」

 やっぱりいいなこれ。あいさつはいい文明だと本当に思う。カルデアに戻ったら復活させよう絶対に。

 

「おはようございます団長。よく眠れましたか?」

「あっ、モミジさん! へいよーかるでらっくす!」

「へ、ヘイヨーカルデラックス?」

 戸惑うのも無理はない。いきなりハイテンションでへいよーかるでらっくすなんて言われれば誰しもキョトンとした顔になる。

 オレはモミジに駆け寄って事情を説明した。

 

「なるほど、新しい挨拶ですか。いいとは思いますがさすがにこれは仲間内以外に使うのはよくないかと」

「ごもっともな意見です」

「下で荊軻さんとヘザーさんがお待ちしてすよ。団長たちも早く着替えを」

「着替え? そういえばモミジ、その装いは」

「荊軻さんから変装したほうがいいと言われたので部屋にあるクローゼットから拝借しました。あっ、クローゼットはそちらにありますので。……団長?」

 目のやり場に困る。いたってカジュアルな服装なのだがまた胸を露出させてる。北半球、南半球ともに露わにしてるわけだが隠す気はないのか。

 

「この服装ですか? 私は機動性を意識してるので動きやすいものを選んだのですが」

「いや、それは問題視してないというか。そ、そういえばモミジの剣、布で巻いたんだね」

「はい。こればかりは目立ちますし、マフラーもヘザーさんに預けて変わりのものを。ヘザーさんお手製のものですから大事に扱わないといけませんね」

 そう自分に言い聞かせるように話すモミジを余所に、ハツユキソウがドタバタとオレたちの前に現れた。

 

「モミジさんに合わせて私もお着換えしました! どうでしょうか」

 どうでしょうかと言われても、相変わらず厚着してるから変化が見られない。

 というより、いつの間に着替えたんだ君は。

 

「厚着するのが好きなの?」

「いえ、そういうわけではなくてですね。私の中に流れる魔力のせいなのか、低体温なんです。だから、こうして厚着していないと凍え死んでしまいますから」

「低体温? 体が冷たいってことか」

 そういえば、さっきハイタッチした時、妙に寒気を感じたのはそのせいか。手をぶつけた衝撃に雑じって気づけなかった。

 

「なんだってそんなそことに」

「恐らく、世界花の恩恵によるものでしょう。それより団長も早く着替えを」

「あ、あぁ。じゃあしばらく廊下で待っててくれ」

 言って、オレは二人を部屋から退出させたあと、クローゼットからサイズの合う服を急いで選び抜いた。女性を待たせるわけにはいかないし。

 何より、普段着ているこのカルデアの制服ではどうしても寒い。早く温かい毛布にでも包まりたいほどにオレは厚手のものを欲しているのだから。

 

「みなさん、おはようございます。朝食の用意はすでに出来てますよ」

 着替えを終えたオレたちは一階へと下りる。そこで、早朝からオレたちのために朝食を調理してくれたヘザーさんがテーブル席に案内してくれた。

 テーブルには雪国にあって当然であろうボルシチや、牛肉をふんだんに使ったシチューであるビーフストロガノフ、パンケーキにワッフル、ココアといったもはや寒さをしのぐには欠かせない料理ばかりが揃えられていた。

 

「たんと食べてください。ウィンターローズの寒さをのり切るにはまず食べることが大事ですから」

「いいんですかヘザーさん、食糧も残り少ないのでは?」

「心配することありませんよモミジさん。困った時はお互い様です。人は支え合うことが何より大切ですから」

 良い人だ。やっぱりヘザーさん良い人――、 

 

「ですが忘れてはいけないのがお酒です! 本当はウォッカを振舞おうと思ったのですが荊軻さんに止められてしまいまして」

 ダメだ。お酒を未成年にチラつかせてくる時点でアウトだこれ。

 

「朝から酒は関心しない。朝は酔いが回りやすいからな。主、ヘザーのことは気にせず食事を楽しんでくれ」

 荊軻が見ていてくれるなら助かる。もうお酒を勧めてほしくはないし。では早速冷めないうちに食べてしまうとしよう。

 と、その前に荊軻からもう一つ告げられた。

 

「主、食事が終わり次第すぐにここを発つが構わないな?」

「大丈夫。二人とも身支度は済ませてあるし、いつでもここを出られるよ」

 出発の予定確認だったようだ。しかし行く先については何も言わなかったけど何か理由があるのか?

 しかしまずは腹ごしらえ。食糧に限りがあるはずなのにこうしてわざわざ食事を用意してくれたのだから美味しく食べないと失礼だ。

 見れば、モミジは落ち着いた様子でボルシチを食べており、ハツユキソウは嬉しそうにビーフストロガノフを頬張っている。

 オレも二人に倣って食事を満喫しようとココアに唇をつける。

 ――熱くて思わずコップを手放した。

 

 ヘザーさんに朝食のことや宿泊のことについて礼を言った後、オレたちは荊軻の案内に従って街の中を歩いた。見渡せば出歩いている人はそれなりに見かけられるが、それよりも警備で巡回している兵士が多く見られた。

 昨日襲ってきた男が言ってたように国が絡んでいるのであれば、オレたちは発見され次第捕まえられるか殺されるだろう。

 昨日検問所を通過出来たのも恐らくハツユキソウをここから逃げられないようにするためだったんだ。

 しかしこうして着替えという変装をしたおかげか、今のところ誰にも気づかれてはいない。

 正体を看破されるのも時間の問題だと思うが。

 

「いたぞ、やつだ!」

 まさか、もうバレたのかとオレは体を後ろに振り向かせた。花騎士たちも振り向いたが、こちらに追いかけてくるものは一人もおらず、代わりに誰ともわからない何者かが兵士たちに取り押さえられていた。

 

「あれはどういうこと? なんで何もしてない人がいきなり」

「団長さん。たぶんあの人はレジスタンスの方だと思います」

「レジスタンス? あっ、革命軍とかいう」

「みなさん食糧問題のこともあって今の政治に不満があるみたいなんです。貴族や政治家だけが不自由なく食事が出来るのに私たちにはパンだけかと」

「それは不満も募りますね。今の私たちではどうすることも出来ませんしそこは政府に任せるしかありませんね」

 モミジが慰める様に呟いた。

 それもそのはずだ。今でこそハツユキソウはこの食糧問題の原因の一つとして疑いをかけられているんだ。無実だとわかっているのに責任感を感じてしまうのも無理はない。

 

「ついたぞ主。ここが最初の訪問先、"エドモン探偵事務所"だ」

 

 オレたちは無事に目的地であるエドモン探偵事務所についたのであった。

 外観は近代日本ではよく見られた趣ある和洋折衷建築そのもの。こういいうブランド感というか浪漫ある住宅は好きだよオレ。

 ん? ちょっと待って。エドモン探偵事務所?

 

「失礼」

 オレの動揺はお構いなく荊軻は事務所の扉を開いた。

 待って。どうして彼が――

 

「団長、入らないんですか? どこか具合でも」

「それなら今すぐ入べきですよ団長さん! モミジさん、団長さんを担ぎましょう」

「はい」

「え? ちょっと!?」

 降ろしてと口にする暇もなく、オレは二人の手によって半ば強制的に事務所へ連行された。

 

 

 

ウィンターローズ エドモン探偵事務所内

 

 内観は想像していた以上に落ち着いていた。アンティークな家具で揃えられており、書類なども散乱してはいない。広々としたこの応接間の奥には襖が見られるが、きっと座敷だろう。

 暖炉で温かな火が燃え滾っているその前で、一人の女性が何やらポーズを決め込んでいた。

 

「あなたを犯人です!」

 あれは、推理漫画でよく見られる犯人を名指しする時のポーズだな。鹿撃ち帽(しかうちぼう)をクイっと下げて人差し指でビシッと指差す。

 その指先がまさにオレを指示しているんだけど、目と目が合った瞬間、彼女は顔を真っ赤にして慌てた素振りで何やら言い訳しようとしている。

 

「ち、違いますよ! こ、これは決して暇だったから探偵のモノマネをしてたわけじゃ」

「いえ、別に何も聞いて」

「違いますから! とにかく違いますからぁあああああッ!!」

 ぶんぶんと手を振って何だか可愛らしい娘。それが、オレが感じた第一印象だった。

 

「初めまして。私は探偵助手にして花騎士のサフランといいます。みなさんのことは荊軻さんから聞いていますよ。そ、それとさっきのことはどうか内密に。というより忘れてくだ……さい……」

 顔を俯かせてちらちらとオレたちの反応を確認してくる。

 うぅ、変な罪悪感に押しつぶされそうだ。

 

「いやいや、気にする必要なんてないから頭上げてください。急に押しかけてきたこっちが悪いし。えっと、オレは藤丸立香。こっちがモミジで、隣がハツユキソウ」

「紹介に預かりました花騎士モミジです」

「同じく私も花騎士のハツユキソウです」

 無理矢理自己紹介を始めたが、これで話を広げてさっきのことは互いに忘れることとしようじゃないか。

 

「サフランさんと呼んだらいいのかな? 質問なんだけどこのエドモン探偵事務所って」

「呼び捨てで構いませんよ。サフランと。エドモン探偵事務所は一ヶ月ほど前に探偵のエドモン・ダンテスが空き物件だったここを買い占めて開いたんです」

「この家を買ったの!?」

 エドモン・ダンテス。アレクサンドル・デュマが書いた小説"モンテ・クリスト伯"、日本では"巌窟王"というタイトルで知られている主人公だ。

 エドモンは無実の罪で監獄塔(シャトー・ディフ)に幽閉されるが、そこで出会ったファリア神父の助けもあって脱獄し、自分を陥れた者たちに復讐する。という物語なわけだが、ファリア神父に託された財宝のおかげで彼はお金に困ることはなかったという。

 まさか、現界時に財宝までも彼の手にあるというのか?

 事実、彼には黄金律のスキルもあるし。

 

「ところでサフラン、伯爵は何処に? 昨日はここで落ち合うと予定したはずだが」

 そうだった。今為すべきことをやらないと。

 荊軻に続いてオレもサフランに聞くと、彼女は困った表情を浮かべてため息をついた。

 

「それが、先に行くと言って私を残して出てしまったんですよ。外は害虫で溢れているのに。でも彼のことだから、きっと先行くついでに害虫を倒しているんだと思います」

「でしたら急いで追いかける必要があると思います。団長」

 モミジの言うとおりだ。一人で行動するのはいくらエドモンとはいえ危険なことこの上ない。

 

「遅れを取るわけにはいかないし、すぐに行こう」

「待ってください。私も同行しますから少しお時間を」

「わかった。それと、もう敬語使わなくても大丈夫だから。疲れるでしょ?」

 そう指摘すると他のみんなもうんうんと頷く。 

 

「……ありがとう。団長さん、もしかして平等主義な人?」

「平等なのかな? ただオレは、素の君と仲良くなりたいと思ってるから」

 でも言われてみれば確かに平等主義なのかも。恐縮することはあるにはあるけど。 

 

「なるほどねぇ……。ふふん、団長さん♪」

 サフランがなにやらニヤニヤとした顔でオレの顔を覗き込んできた。

 もしかして何か癪に触ってしまったのか?

 

「あなた、もといた世界ではモテてたでしょ!」

 と、サフランは自信満々にさっきの決めポーズでオレに指差してきた。

 

「モ、モテてるとかそんなことない! むしろ襲われそうなことばっかりだよ!」

「そうなの? でも荊軻さんが言ってたわ。夜な夜な部屋に押し込んでくる人がいるほど好かれているって」

「ちょっと! なに吹き込んじゃってくれてるの荊軻!!」

「はて? 私は事実を口にしたまでだが?」

 薄ら笑いをしているのだから確信犯だよこの人!

 誰かあいつを捕まえて牢屋にぶち込んでくれぇええええええッ!!

 

 

 

ウィンターローズ ナイドホグル雪原

 

 オレたちはサフランの案内のもと、抜け口からウィンターローズの街から脱出し、今はナイドホグル雪原というウィンターローズ指折りの警戒区域に足を踏み入れている。

 幸いにも雪は止んでおり、今なら安全に進むことができるだろう。

 ここを通り抜けた先に目的地である閉ざされたお屋敷があるようなのだが、この雪原は害虫の巣が密集しており、危険視していたのだが。

 

「すごいですねこれ……。見渡す限り戦いの爪痕が残っていて、これをエドモンさんが一人で」

「うわぁ……。害虫さんの巣もこっぱみじんですね。もしかしてエドモンさんはすごく怖い人なんですか!?」

 というように、どうやらエドモンが先に害虫討伐してくれたおかげもあってオレたちは難なく先へ進めることが出来ている。

 が、どうにもハツユキソウには怖い人だとイメージが出来上がってしまったそうだで。

 

 それからして数時間後。オレの今までの経験上なら道中でイベントが起こることが多々あったが、今回は襲撃に会うこともなく順調に目的地へ進んでいた。

 

「あっ、見えてきましたよ。あれが閉ざされたお屋敷よ」

 サフランが指摘した方向へ目を向けると、確かに大きな屋敷がポツンと聳え立っている。

 そして、もう一つの影の姿も。あれは間違いなく

 

「おじ様ぁ!」

 え? 今なんとおっしゃいました?

 サフランが影に対して手を振ると、それは瞬きをした瞬間に視界から消えて

 

「呼んだか?」

 さも当然のようにオレたちの後ろに姿を露わにした。

 

「もう、探したわよおじ様。一人でここまで行くなんて無茶にも程があるわ」

「探した? 飼い犬が後からついてきたの間違いではないか?」

「何ですってッ!?」

 頬を膨らませてポカポカと叩くサフランを無視して彼は、エドモンはオレに視線を向けてきた。

 

「待っていたぞマスター。程なく俺に駆けつけてくるだろうと踏んではいたが少々遅かったな」

 懐かしむこともなく平然とした顔でエドモンは懐から煙管(キセル)を取り出すと、

 

「火をつけてくれ」

 素っ気ない態度で要求してきたな。

 なんでこう、もっと再会の喜びとか労いの言葉とかないのか思ったが、要望通りにエドモンの煙管に火をつけることにした。

 でもその前に、気になっていることを一つ。

 

「エドモン、その恰好はなに?」

 そう。エドモンがいつも着ている服はスーツに引き締まった赤いネクタイ、黒寄りの外套。

 それが、今オレの目の前にいるエドモンは大正ロマンのそれ、着物にシャツに袴。

 モミジと同じくマフラーまでして、チューリップハットを被っている。

 この人、豪くこの世界を楽しんでないか?

 

「知ってのとおり今の俺は復讐鬼ではなく探偵だ。この衣服はサフランが見立てたもの故、仕方なくだ」

 そういう割には豪く気に入ってるように見えますよエドモンさん。 

 

 ポケットからビリーに貰ったライターを取り出す。

 蓋を開いて火を起こし、彼が手に持つ煙管に火をつけると、エドモンは上機嫌に煙管を口に咥えた。

 

「上出来。終局特異点以来だなマスター。あぁ、良い」

「ちょっと、私を無視しないでよ!」

「エドモン、サフランに冷たくない? もう少し優しくしてあげても」

 エドモンからの返事は何もなかった。

 煙を吸っては吐いての繰り返しで、これにはサフランもオレも頭を抱えることしか出来なかった。

 

「それで伯爵、屋敷のほうはいかがでしたか?」

「荊軻。あぁ、ここ一週間調査をしたが今日は厄介なことに人払いの結界が張られている」

「人払いの結界か。害虫除けではなく?」

「そうだ。サフラン、おまえはこれをどう捉える?」

「私!? そ、そうね。たぶんおじ様が覗き見してたことがバレたんじゃないの。一週間も私に内緒で屋敷に行ってたようだし!」

 やっと話が進み始めたと思ったら、エドモンのサフランに対する扱いがどんどん明るみになってきてる気がする。

 当のサフランもたいそうご立腹で。

 いやだこれ。そのうち修羅場になりそうでコワい。

 

 そんな今にも堪忍袋の緒が切れそうなサフランが続けて言った。

 

「きっとおじ様を警戒してるのよ。だからここは一旦引いてから」

「それでは遅い。おまえもわかっているはずだ。この国の吹雪は日を経つごとに強くなってることに。最悪、一週間でこの国は滅ぶ」

 そう断言したエドモンにオレは言った。

 

「国が滅ぶって、ウィンターローズは結界で守られてるはずじゃないの?」

「確かに守られてはいるがな、厄介事は他にもある。マスター、ここに来るまでの間におまえは見たはずだ。復讐(奴ら)の眼を」

「そんなの……」

 いた。

 事務所に行く途中で捕まったレジスタンスの人が。

 そういえばハツユキソウが言ってた。

 

――「みなさん食糧問題のこともあって今の政治に不満があるみたいなんです。貴族や政治家だけが不自由なく食事が出来るのに私たちにはパンだけかと」

 

 確かにこれなら国民がいつ暴動を起こしてもおかしくない。

 ハツユキソウが噂のせいで狙われるくらいだ。お偉いさん方が満足に食事を出来ているか出来ていないかに関わらず、人々は集団となって躊躇いなく襲うだろう。

 

「推理出来たようで何よりだ。それでこそ俺のマスター。どこぞの貴族様に見習わせたいほどにな」

 エドモンはそう誰かを嘲笑するように罵った。

 

「それで、どうしますか団長? 話を聞く限りでは、ここは結界を強行突破するという話に流れてるように感じますが」

 モミジの進言にオレが頷く前にエドモンが先に口を開いた。

 

「わかってるな貴様。マフラーを捲いてるということはおまえがモミジか。マスター、なかなか良い花騎士(サーヴァント)を従えたな」

「もう、おじ様! 事は急を要するんでしょ。それでどうやって強行突破するつもりなの?」

 そうそう、サフランの言うとおりだ。

 兎にも角にも、早急に解決しないといけないんだ。

 聖杯がこの屋敷にあるのなら、急いで回収して正しく修正すれば何もかも解決する。

 

「それで、結界はどの程度の強度を持ってるのかわかってるのエドモン?」

「試しに俺の黒炎で破壊を試みたが傷一つつかなかった。恐らく対軍、或いは対城宝具でなければ破壊するのは難しいだろう」

「そんなに!?」

「「「宝具?」」」

 花騎士たちは知らなくて当然だ。

 宝具とは英霊(サーヴァント)の切り札で、それを使えばあらゆる逆境を覆せる最強の武器。

 

「荊軻は宝具」

「私のは対人、それも暗殺用だぞ主。結界を破ることには何の役にも立たない」

 うーん、そうなると残るは花騎士たちか。

 モミジのガンブレードで試してみる価値はありそうだけど、二人についてはまだ知らないな。

 

「ハツユキソウとサフランはどんな武器を使うんだ?」

 そうして、単純な質問に先に回答したのはハツユキソウだった。

 

「私の武器は、武器というよりは魔術ですね。大気中の水分を凍らせて出来た氷をズドーンと落とすんですよ! どうです? すごいと思いませんか!?」

「すごいよハツユキソウは。そんなすごいこと他の人じゃ出来ないからね」

 よく漫画で見られる能力だけど実際それが出来るというだけですごいよそれは。誇っていいと思う。

 

「では私ですね。私はこれです」

「ん? もしかしてボウガン?」

「はい。この容器に入った液体が弾の代わりとなって射出される仕組みです」

 というわけで二人の武器を把握したわけだが、これではいまいちパッとしない。

 対城宝具並みの火力を出すにはもっと力のあるものでないと。

 仕方ない、物は試しだ。

 まずはモミジたちの全力攻撃で――

 

「ん? あれ? もしかしてカトレアちゃんのお友達?」

 

 その言葉のほうに振り向くと、一人の少女と――、

 

 首輪をつけた"害虫(アリさん)"の姿がそこにあった。

 

「誰って顔してるね。私、オンシジューム! オンシでいいよ。よろしくねー♪」

 




【お・ま・け】
立香「エドモンって探偵として仕事出来てたの?」
サフラン「出来てましたよ。すごいんですよ! 瞬間移動出来るんです!」
立香「瞬間移動」
サフラン「それでいて推理を始める時には何故か犯人が横たわっているんです!」
立香「推理(物理)」

【コメント】
 あなたを犯人です!
 月姫知ってる人ならわかりましたよねこのネタ。サフランに言わせたかったんだww
 そして週刊カルデアベータに新連載!"オンシちゃんとぼく"
 これはウソですww
 いよいよお屋敷に突入です。やったね、物語が進むよ。
 それはそれとして最近いろいろと忙しいです。
 キャメロット舞台記念のMAD動画もだし、企画してる動画もまだ完成してないしでやることいっぱいですww
 正直今回遅くなったのはリアルな忙しさもだけどサフランとエドモンの台詞で結構迷ったせいなのもあります。キャラがまだ十分に理解できてなかったということですね。ツラい、とてもツラい_(:3」∠)_
 次回もまた遅くなるかもしれませんが出来る限り早めに完成目指して頑張ります。
 それではまた(*´∀`*)
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