Fate/Grand Order -flowering night-   作:紅劉

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1、モミジが花騎士は英霊に勝てるかどうかの答えを出す

2、ハツユキソウが自身は枯生花であることを告げる

3、偽物のサフランと二人の花騎士が立ちはだかる


第8話「英霊華」

 モミジは足を止めてしまった。

 天が割れたからではない。

 大地が鳴いているからではない。

 ただの一人の騎士に対し、恐怖を覚えたからである。

 恐怖とは、言わば死である。なぜなら、自分の死を幻視させる力がある。死の結果だけではなく死ぬまでの過程を構築(イメージ)してしまうがゆえに現実味(リアリティ)が増幅する。そうなることで迎えるべきだと描いた絶対的な死が完成し、自身の運命に烙印してしまう。結果、思考は放棄され、体もまた機能を停止させる。

 そうならないようにと、モミジは死と隣り合わせになるよう自ら死地へ赴いたことが幾度もある。敵わない敵でもせめて戦えるようにと、窮地に立って抗ってみせた。

 だが今回はこれまで味わってきた恐怖とは比べ物にならなかった。常人なら目を合わせただけでその気迫に抵抗する間もなく崩れ落ちる。モミジでさえギリギリ立つのでやっとの状態にある。

 膝が嗤っている。手も震えている。それがどうしたと、モミジは深呼吸し、己の弱さを掻き消すために喝を入れ、ようやく団長のもとへたどり着いた。

 

「ご無事ですか団長」

「モミジ、どうしてここに」

「団長もどうして……。いえ、今は説明をする時間はないのですみませんがハツユキソウさんをお願いします」

 剣を構える。剣先の前にはサフランとパフィオペディルムと名乗った紫の騎士。その騎士の後ろに佇む虚ろな少女。

 

「サフランさん、ではないですね。何者ですかあなたは?」

「さぁて、私は誰でしょう? 害虫か、人か、それとも鬼か。いえ、神様かもしれませんよ?」

「戯言を。その首落とせばわかることッ!」

 サフランとの間合いを一気に詰める。剣に巻かれた包帯は瞬時に灰となって炎とともに絶叫する。だがサフランの前に、あの紫の騎士の姿が目に飛び込んできた。

 

「その炎の大剣、キミがモミジか」

 紫の騎士、パフィオペディルムが剣を抜く。一度は恐怖を覚えた相手にモミジは俄然力を握り剣を振り下ろした。

 嵐が巻き起こる。互いの刃かがぶつかり合い激しく火花が散っていく。鍔迫り合いの中、力で攻めるモミジに対し紫の騎士は顔色一つ変えることはなかった。

 

「噂通りの力の持ち主だな。だが足りない。私を満足させるにはな」

 途端、パフィオペディルムの足捌きによってモミジの体勢は大きく崩れた。後方へ転倒すればすぐに追撃が、逆に踏み止まろうとすればそこで一突きされる。ならばと、モミジはすぐに剣に魔力を込め、剣先を足元に向けて膨大な炎を射出した。その衝撃はパフィオペディルムの動きを封じ、逆にモミジは射出時の反動を利用し鮮やかに後方へ宙返りし間合いを広げた。

 呼吸を整えようと体勢を取るモミジ。だがパフィオペディルムはそれを許すことはない。彼女もまた同じように剣から放つ魔力放出の反動でモミジへ距離を詰めた。一撃、二撃、三撃と。立て続けに繰り出される連撃にモミジの顔に焦りが見え始める。受け流しこそすれど既に四十九の切り傷が刻まれていたからだ。

 

「どうした? 剣先が鈍っているぞ」

「言われなくても、わかってるッ!!」

 トリガーを引く。剣から噴き出る激流の炎は渦潮となって周囲を炎で飲み込んでいく。パフィオペディルムはすぐに後退し、炎の渦が治まるまで攻勢の構えを取る。積雪の山は炎の渦による熱風で次々と蒸発して水蒸気と化し、霧となって濛々と周辺を覆い始めた。

 

「融雪霧か。だがそのような小細工、今の私には通用しない」

 剣を掲げる。刀身は七つの色を纏い、虹色となって輝きを放つ。

 

「今一度我が宝具(、、)に慄くがいい。虹色閃光、破壊ノ」

「させないッ!!」

 激突。モミジの投げた大剣がパフィオペディルムの剣に直撃した。双方の剣は宙を舞い、モミジは猛進してパフィオペディルムへと詰め寄り渾身の拳を振りかざす。剣を捨て拳で立ち向かってきた彼女にパフィオペディルムは顔を顰めるがすぐに口元はにやけた。剣を棄てるとは即ち自身の命を棄てること。ゆえにモミジが自ら死を選択したと、パフィオペディルムは憤りを覚えた。だがモミジは己の拳で絶勝を獲らんと勝負に出た。

 

──そうか。キミも私と同じ、戦いに身を委ねる者か。

 

 拳を握る。

 足を踏み込む。

 直進の拳が、猛進してきたモミジに突き刺さる。

 渾身の拳が、パフィオペディルムの腹部へ突き刺さる。

 唇を噛み締め、ふらついた身体を両足で踏ん張り互いに睨み合う。

 双方の剣は、両者の目の前で地に突き刺さる。

 

「キミ、今までこういう戦いをしてきたのか」

「こうでもしないと、私が一番にはなれないから」

「なるほど、やはりキミはここで壊すには惜しい」

 そう言ってパフィオペディルムは剣を鞘に収めた。 

 

「どういうつもりですか?」

「どうもこうも、キミをここで斬るのは惜しいと思っただけだ。キミのような戦闘狂はそうそういないからな」

「つまり逃げると」

「逃げる? 冗談じゃない。今のキミでは私は斬れない。だから私はキミが花開くのを待つとする」

「何を勝手な」

「そうですよ。何勝手なことを言ってるんですかパフィオペディルム!」

 両者の中に割って入ってきたサフランはパフィオペディルムに押し寄る。

 

「私の命令を忘れたのかしら? 言ったはずよ、殺せって」

「私もおまえに命令するなと忠告した。私はあの方の命で動いただけ。破壊(、、)はした。既に命は果たされているのだからもうここにいる理由はない」

 背を向けられたサフランは顔を歪める。その顔はもはやサフランが絶対することのない歪なもの。害虫のような悍ましい何か。モミジは思わず身の毛がよだった。そんなモミジのことなど構うことなくサフランはもう一人の花騎士に迫る。

 

「おい、おまえはどうだトリカブト。おまえの力ならアイツなんかすぐに殺せるだろ?」

 トリカブトと呼ばれた人形のような、情が入っていない少女は無表情のまま小さく口を開く。

 

「……確かにわたしなら楽に殺せる。でもわたしも命令されてる。あなたは見ているだけでいいって。それと」

 トリカブトが天に向けて杖を掲げる。杖に填め込まれた禍々しい髑髏が夜陰を照らすと、例えようのない無数の何かが夜光の奥から顔を覘かせる。牙を剥き出し、獰猛な獣の如く荒々しい咆哮が響き渡る。

 

「いつ見ても気持ち悪いなそれ。怪物や悪魔を滅した英霊様たちも一目見ただけでひくだろうよ。じゃあ早速そいつを使ってヤツらを殺し」

「今からあなたを主のもとへ返します」

「……は?」

 

「"逝け、門よ"」

 影が跳ぶ。獣の形相をしたそれは大口を開いてサフランを頭から飲み込んだ。抵抗する素振りすら与えられぬまま、サフランは獣とともに跡形もなく消えてしまった。

 

「仲間割れ?」

「いいえ。これも命令のうちの一つです」

 モミジへ振り替えるトリカブトは杖を仕舞って彼女のもとへ歩み寄る。それを見たモミジもまた敵意がない事を察して剣を収めた。

 

「初めまして、私はトリカブト。主から、あなたたちカルデアの者に手紙を預かっています」

 

 

 

 一旦は戦闘が終わったみたいだ。

 オレはホッと胸を撫で下ろし、モミジから預けられたハツユキソウに目を向ける。始めに見た時はハツユキソウの顔はひどく赤くなっていた。気を失っており何度呼びかけても一切答えることもない。異常であることに確信を持てたのは彼女の手を握った時。低体温症であるはずなのに人並みの体温よりも熱く感じた。

 それが今ではだいぶ落ち着きを取り戻している。意識はないが呼吸は安定し、体温も少しずつ下がっている。とりあえずはこのまま寝かせておけば問題ないはずだ。

 だがまた別の問題が浮上した。

 偽物のサフラン、モミジを圧倒した花騎士パフィオペディルム。

 そして、花騎士トリカブトが今モミジの前に迫っている。

 どうしてこうもいつも突然に次から次へと問題が降ってくるのか。憎らしく感じるが今はモミジのもとへ駆けつけることが大事だ。

 

「モミジ、大丈夫か?」

「はい。特に支障はありません。それより」

「あぁ、わかってる」

 目の前にはトリカブトがジッとこちらを覘いていた。見れば何か引き込まれそうなその虚ろな瞳からは生気がないように感じてしまう。

 

「よろしいですか? あなたがカルデアのマスターですね」

「藤丸立香だ。よろしく」

「敵同士だというのに随分と呑気なのですね。まぁいいです。こちらが主からの手紙です」

 所持していた封筒を取り出したトリカブトはすぐに封を切り、閉ざされていた手紙を開いてみせた。すると魔法陣が外側から浮かび上がりゆっくりと回転を始めた。

 蒼白く輝くそれはやがて上空に一つの映像を映し出した。

 

『初めましてカルデアのみなさん。私は鮮薙(せんてい)那乃葉(なのは)。彼女たちの主です』

 映っているのは仮面を被った一人の女性だ。名前と声からしてまず間違いないだろう。どうやらこの人物がさっきの偽サフランやトリカブトたちの主らしい。

 

『まずはお詫びを。私のアサシンがあなた方のお仲間にご迷惑をかけてしまいました。ですがこれも、弱肉強食なこの国では当たり前のことであることはご理解ください。仕方ないことだと(、、、、、、、、)

 弱肉強食な国? 仕方のないこと?

 

『では本題に入ります。カルデアのマスター、藤丸立香』

 !?

 まだ会ったこともないのに名前を。

 

『これは警告です。すぐにこの国から退去なさい。あなたも見たはずです。パフィオペディルムの強さはあなたの側にいる花騎士ですら敵わない。英霊ですら彼女に勝てるわけがありません』

「世迷言を! 確かに彼女は強かった。でも私はまだ負けてはいないッ!」

 

『特別に教えてあげましょう。パフィオペディルム、トリカブト、どちらも英霊の力を持った英霊華(えいれいか)です』

「英霊華?」

 

『英霊が持つ力を与えられた花騎士、それが英霊華。花騎士は疎か、サーヴァントすら凌駕する最強の騎士。どうです? 力の差は歴然でしょう。それでは今日はこれにて。私たちの国からいなくなることを心から願います』

 ブツン。

 映像はここで終了した。トリカブトは一礼すると炎の魔術で容易く手紙を燃やし、彼女の後ろで待機しているパフィオペディルムのもとへ戻っていこうとした。

 

「待ってくれ。一つ確認させてほしい。君たちは本当に英霊の力を」

「持っていますが、それが何か?」

「何がって……」

「心配など無意味です。あなたのデミ・サーヴァント(、、、、、、、、、)よりは完成された者ですから」

 トリカブトは杖をかざして魔法陣を展開する。状況から考えて転移魔法だろう。それを見たパフィオペディルムがトリカブトのもとに来たのが何よりの証拠だ。

 

「それではなカルデアのマスター、それにモミジ。命が惜しくばここから立ち去ることを私も望むが、できればモミジ。キミとの再戦はいずれ必ず」

「さようなら。"開け、門よ"」

 玲瓏に輝く魔法陣が二人を光に包みこむと二人の花騎士の姿は霊体化するように静かに消えた。

 まるで嵐のような出来事だったわけだけど、それと同じくらい情報も多く掴めた。これは大きな収穫だろう。

 けれど──

 

 隣を見る。

 モミジは俯いたまま拳を強く握らせている。

 よく見れば体中に切り傷が、服にいたってはところどころに焼けた跡が出来ていた。

 

「ひとまず、戻ろう」

 手をこまねいている時間はない。

 まずは治療、次に情報整理、それから本物のサフランの捜索だ。

 

「わかりました。ですが団長、ハツユキソウさんは……」

『その点は心配いらないわ』

 今度はどこからともなく声が聞こえてきた。頭に直接語りかけてきてるような。

 でもこの声は確か──

 

「来なさい、モミジ。それに藤丸。私カトレアが面倒見てあげるわ」

 

 




またオリ設定です。
英霊華はデミ・サーヴァントが持つ憑依継承よりも強力とだけ言っておきます。
あと新キャラ、鮮薙那乃葉
こんなのFGOにも花騎士にもいないですね。名前はね。


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