たぶんもう誰かやってるんだろうと気にせず行こうと投稿した次第。
超不定期更新
その部屋を一言で言うならば『使われなくなった古い倉庫』だろう。
LED照明が広く普及する中未だに蛍光灯が使われており、その蛍光灯も二本並ぶ内の一本は外され残った蛍光灯も劣化が酷く薄暗らかった。
地面には配線コードや工具、何の部品かわからないものが乱雑に置いてあり、なんとか歩くスペースが確保されていると言った感じだ。
そしてそんな薄暗く物に溢れたその部屋の最奥に一人の少年が居た。
歳は十四、五くらいだろうか。黒い髪はボサボサで、羽織っていた白衣はオイルで汚れていてとても不衛生。整っていただろう顔は、目元の隈や煤、オイルで汚れていた。
そんな健康的とは間違っても言えない風体の少年は、天井のライトを覗けばこの真っ暗な部屋の唯一の光源であるモニターを眺めながら、手元のキーボードをガタガタと乱雑に叩いていた。
「hello、セイイチ。……もう、相変わらず暗くて汚いわね。自分の研究室なんだから大切にしなさいな」
プシュッ、と軽いエア音と共に少年の背後から眩いほどの光が溢れて来た。
部屋のオートドアが数日振りに役に立ったのだ。
そこに立っていたのはプラチナブロンドの美女だった。
「ぐっ……ナタル、悪いが直ぐに閉めてくれる?
眩しくて死ねる。あとインスタントで良いからコーヒー入れて」
「国家代表を顎で使うような人、あなたくらいよね」
批難するような言葉だが、ナタルと呼ばれた美女は呆れたような口振りで、しかし笑みを見せながら近くにあったコーヒーカップを手に取って、電気ポット近くにあったコーヒーの粉を大さじ一杯砂糖大さじ三杯、ミルクを半分入れた後に百度近くまで熱せられたお湯をカップに注ぐ。
その間、部屋の扉は開けられたままだった。
「はい、できたわよ?」
「乙。眩しいから閉めて」
「暗いから嫌よ」
デスクに置かれた熱々のミルクコーヒーを一気に飲み下して、少年は大きな溜め息をついた。
「どうしたのよセイイチ、世界の終わりみたいな顔してるわよ?」
ナタルに問われた少年、セイイチは自分の顔を覗き込む年上の金髪のブロンド美女に溜め息で返した。
「会う度に言われている気がするんだが?」
「ふふ。……で? 本当にどうかしたの? 表情だけならまだしも、覇気の無い貴方なんてそうそう見ないけど」
「これだよ、これ」
そう言ってセイイチはナタルに、テーブルに広げていた資料を手渡すと、椅子から立ち上がった。
「何々? ……ああ、世界初の男性IS操縦者ね。
ナタルが何気無く言った言葉に、セイイチは更に深い溜め息をついた。
「二人、か。 シャルじゃない本当の男で、一夏の幼馴染みで、ISに乗れてイケメン……となるとこりゃ明らかに俺と同じだよな。クソッ、俺との贔屓差が酷すぎやしないか? ……にしてもまさか
セイイチは空いたコーヒーカップに、先ほどナタルが入れたコーヒーと呼ぶべきか悩ませる飲料を再び作り上げ、これまた一息で飲み干した。
深いため息と共に白衣を脱ぎ、それを足元に落としたセイイチは近くのソファーに寝転んだ。
「気になるの? この二人の事」
ナタルは意味のわからない言葉を淡々と続けたセイイチの独り言をスルーして資料を眺めながら問う。
ナタルを始めセイイチを知る人物にとっては、彼の意味不明な独り言は知れ渡っており聞いてもはぐらかされるだけなので皆スルーしている。
高名な学者や研究者には奇人変人が多く居ると言われているが、彼もそんな奇人変人の一人だと思われているのだ。
「まあ、ね」
そんな事は露知らず、眠たげな声で答えたセイイチはソファーの上で猫のように丸くなり寝る準備にかかる。
「ああ、忘れてたわ。局長が来いって言ってたわよ? 例のプロジェクトの事だと思うわ」
「先にそれを言ってくれって!」
ソファーの上から飛び上がったセイイチは白衣を拾い上げてデスクに駆け寄り、資料を乱雑にかき集めてから薄暗い部屋を勢いよく飛び出して行った。
「ふふ。相変わらずそそっかしいわねぇ」
微笑みを浮かべながらそれを見送ったナタルは、もう一度資料に目を通してから呟いた。
「ブリュンヒルデの実弟、織斑一夏にその友人の――――、……なんだか荒れそうね」
◇
「随分遅かったが…なんだ、寝ていたのかい?」
先程のセイイチの研究室とは打って代わり、明るく、清潔に保たれたその部屋に無駄にでかくて無駄に豪華そうなデスクの上で司令官よろしく口の前で手を組む壮年の男は苛立った様子も無く、意外そうに問う。
「内線で呼んでいただけりゃすぐにでも飛んで来ましたよ。いちいちナタ……ナターシャに頼まなくても良かったじゃないですか」
親子ほども年齢が離れているだろう男に、セイイチは憮然とした態度で答える。
「別に言い換えなくても良いと思うのだが? それとも二人きりの時にしか愛称は使わない質かね?」
「仕事と
「ハハッ、それは残念だ。若人の恋話は好物なのだがね」
男は愉快そうに笑った後に、デスクに埋められていた手元のボタンを軽く押した。
「さて、君といつまでもこうして歓談を続けたい所だが……本題に移らせて貰おう」
笑っていた男は一瞬で真剣な顔つきとなり、ボタンを押したのが理由なのか、部屋は段々と薄暗くなり、男とセイイチの間に
空中に投影された、所謂空中ディスプレイにはCGでモデリングされた女性と、その女性を覆うように存在する機械の鎧。
「君の姉であるマリアが率いる研究開発チームにより作られている
この名称自体は知れ渡っているが……機体情報については極秘……なのだが、君ならもう知っている事だろう。何せ先日、この施設からハッキングを受けたと上の連中が大騒ぎしていたからな」
「ええ、随分堅かったから面白半分で
やはりか、と呟いた男にセイイチは続ける。
「
まさか軍用の中で対軍団とかそんな枠組みが決まってた事にも驚いたし、そのバカみたいな性能に驚いたし、その開発チームに姉さんが居る事にも驚いたし、その操者にナタ、ナターシャが選ばれてる事にも驚いたし……この界隈に入って随分立ちましたがこの一ヶ月は驚きの連続でしたよ。昨日なんてISの男性操縦者と来たもんですよ?
いやぁ、驚きっぱなしでもう何を聞いても驚かない自信が付きました」
深い隈を目の下に浮かばせたセイイチは、渇いた笑みを見せながら、最後に肩をすくめた。
「そうか。では君には更に驚いて貰う事になるな。……セイイチ・ウィリアム研究員。君を
バサバサバサッ。
セイイチが持っていた資料の悉くが床に散らばる。
驚きのあまり、大切に抱えていた資料を落としていたのだ。
「局長! 俺、一生付いて行きます!」
停まっていた思考が始動し始め、セイイチは資料を拾い上げた後に感涙に咽び泣く。
「そうしてくれると嬉しいよ。
さて肝心の要求スペックはこちらだ」
男は手元のリモコンを操作しながら続ける。
「……白兵戦から中距離戦闘に特化した万能型、ですか。
第三世代兵装の草案がないのに第三世代型とか書いてある所とか色々ぶっとんでますが、この第三世代兵装とかは俺任せですか? そうなんですね!?」
目の前に現れた映像に映る、様々な数字を見てセイイチは呆れ半分興奮半分のよくわからないテンションで問う。
「ああ。ここにある要求スペックを備え、尚且つ第三世代兵装を搭載したISならば大歓迎だ」
「いよっしゃあああああぁぁっっ!!」
男の言葉を聞き終わった瞬間に、セイイチは咆哮と共に抱えていた資料を男のデスクに叩きつけた。
「要求スペックを全て凌駕し、第三世代兵装を備えたIS! それなら、ありますよ!」
「……なるほど、君がこの御時世に時代遅れで分厚い紙媒体の資料をいつも後生大事に抱えていたのを不思議に思ってはいたが、ISの開発計画書だったわけだ」
「データにしてると抜かれた時が怖いですからね」
「君が言うと笑えんな」
目を輝かせながら断言したセイイチ。彼の資料を軽く見ながら男は苦笑した。
「……ふむ。この仕様書通りならば性能に文句は無いな。よかろう、早速始めたまえ。
費用に関してはIS開発計画、三期分が承認された。
……この出来なら後二期分は降りるだろうな」
資料を軽く眺めた男は何度か頷いた後にそう答えた。
「で? テストパイロットは? もう決まってるんでしょう? これだけ高い要求スペックなんだ。相当なパイロットでしょう。福音にあのナタリーを付けたんだ。ナタリー並の操縦者となると……コーリング?いやいや流石に国家代表クラスはないか。となると……」
「いや、決まって居ない」
「……?」
セイイチは男の言葉に首を傾げ、次いで腕を組んで唸った。
「ま、まあ任命直後だし? ISも設計図状態だし? 操縦者を集めるのはもう少し後でも良いし、仕方ないですよね」
「いや、残念だが本国は今回の件でIS操縦者を提供しない」
「ふざけてんのかあああぁっっ!!」
デスクをバンバンと力強く叩きながらセイイチは叫んだ。
弱々しい見た目からは思いもよらない暴れっぷりだ。
「残念だが私も、国も本気だ」
「んじゃどうやってテストするんだよ! 俺は実はISに乗れたんだー、なんて展開は無いぞ!?軍属になった三年前にもう試してもちろん乗れませんでしたがー!?」
「ああ、わかっている。……君は、今年の四月からIS学園に行くことになっていたな?」
パイロットの話をしていたのに突然話を変えられ、思わず口ごもったセイイチ。
「え?……ええ、まあ。姉にハイスクールに行けと言われて、今さらハイスクールなんて言っても無駄と返しましたが姉のやつがIS学園なら話は別だろ?とお偉いさんを味方に付けて無理矢理行かされることに」
「うむ。……そして君以外にも男性の入学予定者が居ただろう?」
「……おい、嫌な予感がビンビンするんだが?」
「IS学園にて、男性IS操縦者二人に接触し、我が国に引き入れる。……それが君に与えられるもう一つの任務だ。テストパイロットは男性IS操縦者にさせろ。それが上からの指示でもある。……期待しているぞ?」
「俺に国際問題起こせってかあああああああああああああっっ!!」
◇
四月一日、AM7:37
日本の某所。……うん。某所で良いと思う。だって日本のどこ? と聞かれて答えられる場所じゃないもん。おもに外観的に。
「一体何処だ此処は」
「? 何言ってるんですかチーフ。ジャパンのIS学園ですよ?」
俺のトランクをもって隣に立つ黒人の青年が首を傾げ、「何言ってんのこの人」とでも言うように言う。
「んな事聞いてんじゃねーよパトリック。いつの間に日本はこんな未来的になっちまってんだって聞いてんだ」
USから日本に飛行機で来て、空港からここまでリムジンで送って貰った俺は車内でISのOSを書き上げていたわけなのだが、車から出たら日本とは思えない未来的な建物が目の前に現れた。……遠くに。
海の上に浮かぶように建てられたIS学園は遠くから見ても異彩を放っていた。まるで未来都市か何かだ。
「モノレールであの離れ小島のIS学園まで行くらしいですよチーフ!」
「なんでまたこんな面倒な仕組みにしたんだか」
IS学園に行くには海の上をモノレールで渡るしかない訳だ。……まぁ船とかで渡ろうとすりゃ渡れるんだろうが、それをさせないためでもあるんだろうなぁ。
「IS学園は機密がいっぱい、って感じですか? いいなぁ~、ハッカー冥利に尽きるって奴ですね」
「俺の本業はハッカーじゃねぇ」
「またまたぁ~。気紛れに本国の最重要機密をぶち抜く人が何を言うやら」
「うっせぇ。……って、こんな事話してる余裕もねぇんだった。今七時半過ぎてんだろ?」
左手首に巻いた腕時計を見ると短針が8を越えようとしていた。
「んじゃチーフ。僕はここまでっす。……御武運を!」
「相変わらず大げさだなパトリック。……行ってくる」
敬礼で俺を見送るパトリックにサムズアップで返すと俺はモノレールの発着場へと向かった。
さて……これからどうなることやら。
2020年6月26日に色々修正しました。