IS学園での物語 作:トッポの人
随分と聞く事がなかった着信音が携帯から流れる。着信音というかヤクザ映画のワンシーンなんだけどね。
「こ、これは……とぉーう!」
ヘッドスライディングするように携帯のところまで飛び込めば、その途中にあった色んなものがバタバタと地面に落ちたり、机の上に横倒しになったりしている。
でもそんなのこれから声を聞く人物と比べれば大した事じゃない。
この着信音は特別で、私の大大大親友であるちーちゃん専用なのだ。ちーちゃんはこの着信音について物凄い抗議してたけど、分かる人には分かってくれると思うんだけどなぁ。私が知ってるのいっくんと箒ちゃんだけだけど。
《束か。久し振りだな》
「久し振りだね、ちーちゃん! 愛してるぜベイベ!!」
開口一番の言葉で即座に切られちった。ちーちゃんってば照れ屋さんなんだから。いつもこうなんだもん。
慣れた手付きで今度はこちらから電話を掛ける事に。何回かのコール音の後、漸く出てくれた。
《……次にふざけたら二度と掛けないし、出ないぞ》
「はーい。で、どうしたのちーちゃん?」
《あるISコアが突然誰にも反応しなくなった。幾ら調べても分からなくてな……原因は分かるか?》
「んー? コアナンバーは?」
《三八四だ》
「……ちょっと待っててねー」
――――ああ、あの子か。
そのナンバーを聞いて直ぐに分かった。初めて親に逆らったいけない子だ。忘れるはずがない。
念のためにと移動ラボを立ち上げて様子を見てみるが、やはり特に異常はない。
そもそも、仮に何かしら異常があれば直ぐに私に知らせるようになっているから、それがなかったという事は正常という事になる。そう、何処をどう見ても正常だった。正常のまま親に逆らったのだ。
「一応こっちでも調べてみたけど、やっぱり何ともないねー」
《そうか……一応聞くが何か思い当たるのはあるか?》
「そうだねー……」
ちーちゃんからの言葉に言い淀む。原因は何となくだけど分かってる。きっとちーちゃんもだ。それを私は理解出来ないし、したくない。
ただちーちゃんが困ってるのを見過ごす事も出来なかった。だから私は今理解している分を教えるとしよう。
「きっと運命の人に会えたんじゃないかな?」
《運命の人だと?》
「そ、運命の人。コアにだって意識はあるからねー。好き嫌いがあってもおかしくないでしょ?」
子が親の言う事に逆らうのなんて、それくらいしか思いつかない。こんなの初めてだけど、きっとそうだ。自立したと言えば嬉しくもあるが、やはり悲しいものだ。
《ふっ、随分とロマンチックな事を言うんだな》
「何ですとー!? ロマンチストじゃなきゃ宇宙に行きたいなんて言わないよ!」
《くっくっくっ、それもそうだな》
とか言いながらもくつくつと声を殺して笑うちーちゃん。昔はもっと豪快に笑ってたのになぁ。大人になったからなのかな、それとも立場がそうさせているのかな。
変わってしまった親友の声を聞きつつ、今度は私から話を切り出した。
「ねぇ、ちーちゃん」
《……何だ?》
「この世界は楽しい?」
《…………ふぅ》
私の質問にちーちゃんは直ぐには答えなかった。代わりに色んなものが含まれた深い溜め息が聞こえてくる。
《それなりだ》
「……そっか。ちーちゃん、変わったね」
暫くの沈黙の後、ちーちゃんは漸く口を開いた。その答えはある種の決別だったのかもしれない。
《お前も変わったよ。束》
「……だろうね」
自分が造り上げた夢が世界を歪めて、その夢が何をしているのかを知れば変わりたくもなる。
《昔のお前は赤の他人を無視する事はあっても、いきなり危害を加えようとはしなかったからな》
「ぅん? 何の事かな?」
《……お前がそう言うのならそれでいい》
面倒な事を見つけたとでも言いたげにちーちゃんは話を切り上げた。やっぱりちーちゃんにはバレバレだったみたいだね。さすがは束さんの親友だよ。
「ねぇ、何でトランプってジョーカーがあるんだろうね」
《何故いきなりトランプの話をしたんだ》
「だって束さんは現在進行形で不思議の国のアリスの格好しているからね! トランプ兵は付きものでしょ!」
《まだコスプレ紛いの事をしてるのか……》
「好きなものは好きだからしょうがないよ。略して好きしょ!」
《何を言っている》
ちょっとふざけると直ぐに冷たい反応が返ってくる。そこだけは昔と変わらなくて内心嬉しかった。でもそれもこれまでになるのかな。
《……ジョーカーがあるから決着が着く。勝負の決め手になるだろう。切り札、とも言うしな》
うん、ごもっとも。大抵のゲームで重要な役割を持ってるよね。一般的にはそれで合ってるんだと思う。でもね、違うんだ。
「私はね、違うんだ」
《ほう?》
「ジョーカーがあるから場が掻き乱される。収まりが悪くなる。だから――――」
そう、だから。
「ジョーカーなんていらない。もっと言えばもう私にはKとQとAだけあればいい」
私の思い描いたシナリオの登場人物にはそれだけで充分。ジョーカーなんて以ての外。存在してはいけないんだ。
《……それだけじゃ何も出来ないぞ》
「その三枚が揃えば何もする気なんてないからね。それでいいんだよ」
《そうか……》
ちーちゃんにしては珍しく気落ちした声が聞こえてくる。私も同じ気持ちだ。もう昔のようには戻れない。いっくんや箒ちゃんとも七月を最後にお別れになるだろう。
「じゃあね、ちーちゃん」
《ああ、じゃあな》
もう会う事を想定しない別れの言葉を送り、電話を切った。次に話す時はどうなっているんだろうか。
「さぁて、と」
嫌な事ばかりの考えを切り上げて私はその足で今の隠れ家にある格納庫へと向かった。
薄暗い格納庫には三機のISが佇んでいる。開発者の私には自分達の出番を今か今かと待ちわびているようにも見えた。
「君はあと三ヶ月で外に出られるからね」
そう言って触れたのは紅に染められたIS、箒ちゃんの誕生日にプレゼントする予定の専用機だ。
「君達は……年内には出られるかな? いっくんと箒ちゃん次第だね」
そしてそこから少し離れたところに置かれた二機。まだ何色にも染められていない二機は私からこの世界へのプレゼントだ。
「プレゼント……そうだ! クリスマスにしよう! きっといっくんと箒ちゃんなら頑張ってくれるよ!」
この最高に皮肉なプレゼントを渡す日も決まれば、後はそこに間に合わせるようにするだけだ。まだまだ先だけど、今年は最高のクリスマスにしよう。
俺が怪我してから一週間が経過した。つまりクラス代表決定戦からそれだけ経った事になるが、未だに俺のISは手元に来ていない。
何でも修理と同時に改修しているらしく、本当に俺にしか扱えない仕様にされているとの事。誰か俺のわくわくを止めてくれ。
「はるるん。こっち、こっちー」
「……分かったから暴れるな」
ちなみに今何をしているのかと言うと、放課後に一緒に来てくれと布仏に言われるがままあっちへふらふら、こっちへふらふら。何故かこいつを背負った状態で。
何処へ行くのか教えてくれないから完全に布仏ナビに従うしかなかった。普通のナビと違って予告ではなく、寸前で右に曲がると教えたり、予定の道を通り過ぎてUターンというのもままある。
それはいいのだが、ナビをする際に暴れるのはやめてほしい。背中に感じる柔らかな感触がゴリゴリと音を立てて俺の精神を削っていくのが分かるのです。
「――――♪」
「何これ、歌……? うわっ」
そして真っ直ぐになると途端に上機嫌で歌い出す。何故かやわらか戦車のテーマを声高らかに。恥ずかしげもなく歌うため、すれ違う人全員から白い目で見られていた。
いや、正確にはその視線は俺に対してだ。クラス代表決定戦であんな戦い方をした俺を怖がっているのだ。
まぁあれは完全にやばいやつだったから仕方ない。織斑先生には勿論、相川にも怒られたし。
「……そういえば布仏は何も言わないのか?」
「んー? 何がー?」
「……セシリアとの試合についてだ」
俺の問い掛けに布仏は歌うのを中断して、いつもの笑顔ではなく真面目な表情でこう言った。
「はるるん」
「……何だ?」
「もうあんな危ない事しちゃダメだよ?」
「……分かってる」
いつになく真面目な表情の布仏は妙な迫力があった。少し怒っているようにも見える。
しかし、俺だって別にやりたくてやった訳じゃない。怖がらせるつもりなんてなかった。
助けた事に後悔はないし、セシリアはもういいと言ってくれたが、その点だけは後悔している。
「私もかんちゃんもすっごく心配したんだからね」
「は?」
「ぅん?」
思わず立ち止まって振り返った俺を、やはり首を傾げて不思議そうにこちらを見てくる。
こいつも簪と一緒で俺の虚を突いてきた。
「……セシリアの事はいいのか?」
「せっしーも危なかったけど、はるるん態とやってた訳じゃないしー。必死だっただけでしょ?」
「……そうだな」
そうだった。この一週間、代表決定戦とか色々あってすっかり忘れていたが何故か布仏は俺の心が読めるんだった。
「それにはるるんは絶対そんな事しないもん」
「……何故そう言い切れる」
「はるるんはそういう人だからー」
そう言う布仏はいつかの木陰の時のように自信に満ちている。何を言っても聞かないだろう。完全に感覚で生きている人間だ。
「……お前、よく変わってるって言われるだろ?」
「うっ……で、でもはるるんの方が変わってるよ?」
「……生憎だが俺は言われた事はない」
「えー、絶対はるるんの方が変わってるよー!」
「……暴れるな」
俺の言い分にまた身体を必死に暴れて抗議する布仏。余程不満だったらしい。
ちょ、悪かったから揺らすな。色々困るからやめろ。そんな切実な俺の願いに対して布仏は――――
「……んー?」
やはり不思議そうに首を傾げるだけだった。
お前は何でこういう時だけ心を読んでくれないの?
下らないやり取りをしながら布仏が指し示した道を進んでいくとアリーナに辿り着いた。
「……ここでいいのか?」
「そうだよー。早く中に入ろっ」
中に入ってみれば、布を被せてある何かを中心に織斑先生と山田先生と……学生か。ネクタイの色から察するに三年生がいる。
「来たか」
「……すみません、遅れました」
「だ、大丈夫ですよ。時間はまだありますから」
腕を組んで短く言う織斑先生の姿は威圧感たっぷり。その気はないんだろうけど、正直怖くてしょうがない。
まぁ山田先生は俺の方を怖がってるみたいだけど。
「本音、こっちに来なさい」
「はーい。はるるん降ろしてー」
「……ん」
幾ら言っても聞いてくれなかった布仏が三年生の言葉にあっさりと従った。降りると布仏は三年生の横に並んで……
「……ん?」
「どうしたの?」
「……何でもない」
並んで漸く気付いたが、何か三年生と布仏がやたら似ている気がする。雰囲気はまるで違うけど。三年生は出来るお姉さんの風格がある。
「ここまで来れば分かるとは思うが、お前の専用機が完成した。言うよりも見せた方が早いだろう」
言い終えると同時に織斑先生は被せていた布を一息で取り払った。
そこにいたのは黒いラファールだが、以前見たのとは大分姿が変わっている。まず全体が一回り、二回りは大きくなり、マッシブになった。そして背部のスラスターがなくなり、代わりに見覚えのあるバインダーに。
ていうかもろヴァーダントのヴァリアブルバインダーじゃねぇか。どういう事なんですか織斑先生。
「これが新しいラファール・リヴァイヴだ。詳しい事は改修の指揮を取った布仏姉に聞け」
「……布仏姉?」
言われて思わず振り向いた。元気良く手を振る布仏とそんな布仏に困った笑みを浮かべる良く似た三年生……つまりそういう事らしい。この二人は姉妹だったのか。どおりで似ている訳だ。
俺が振り向いたのを切っ掛けに、布仏先輩が口を開いた。布仏とそっくりな笑顔で。
「初めまして、今回改修の指揮を取らせて貰いました布仏虚です。いつも妹の本音がお世話になっています」
「……櫻井春人です。こちらこそお世話になってます」
「お世話してまーす」
「本音……はぁ」
何か一気に力が抜けるな……。それがこいつの良いところなんだろうけど。
布仏先輩と一緒にがっくりしたところで態とらしい咳払いが聞こえてきた。織斑先生だ。
「んん!! 挨拶も済んだし、説明に入れ」
「あ、はい。この新しいラファール・リヴァイヴのコンセプトは櫻井くんが使っても大丈夫な機体なの」
「……俺が使っても大丈夫?」
「ええ」
鸚鵡返しで確認してみるもやはり返答は同じ。コンセプトは櫻井春人が使っても大丈夫な機体との事。
……えっ、どういう事なんですかね?
「オルコットとの試合、一撃で装甲が砕けただろう? あれはお前の動きにISが耐えられなかった結果だ」
なるほど、あの七夜の体術擬きはISではやっちゃダメだったのか。そんな技を出来るとかさすが七夜さんだ。俺に厨二を教えてくれた師匠の一人なだけはある。
「……なるほど」
「そこでリミッターとしてパワーアシストを使って櫻井くんの身体能力を増幅じゃなく、抑える事にしたのよ」
「えっ」
「「えっ?」」
「ん?」
「んー?」
思わず出た言葉に布仏先輩まで釣られる。正確にはこの場にいた全員が釣られた。予想外過ぎるアプローチを掛けられたのだから仕方ない。
何故動きの話をしていたのに俺の力を抑える方向へ?
「勿論、条件を満たせばリミッター解除も出来るから」
「……その方法は?」
「一つは織斑先生が許可する事。もう一つは櫻井くんの判断で出来るんだけど、それは動かしながら説明するわね」
「……了解」
どうやら俺の意志で解除するには幾つかの条件をクリアしなければならないらしい。
それの説明を受けるためにもこの新しいラファールを纏うとしよう。そうしてラファールに触れた瞬間だった。
『伊達明、リターン』
「――――」
『久し振りだね、春人!』
謎の台詞と共に聞こえてくる幼女の声。実に一週間振りの事だった。初めて聞いた時と変わらず、幼女は元気一杯だ。
な、何でだ。あれから全く幻聴なんて聞こえなかったのに何で今になって……。
『前から言おうと思ってたんだけど、私幻聴じゃないよ?』
幻聴ではないと。では伊達さんは一体何なのかという話になる訳で。
『ISコアです。あと伊達さんじゃないです』
言われて思い出した。授業で山田先生がISコアには意識があると言っていたのを。そのおかげで乗れば乗るほど操縦者を理解していき、性能を引き出していくとか。
ていうか何故伊達明と名乗ったし。
『ちなみに私達の声が届いたのって、春人が初めてなんだよ』
えっ、そうなのか。
「さ、櫻井くん? どうしたんですか?」
「何をしている? 早くしろ」
「……すみません」
コアとの話に夢中になっていたら織斑先生に急かされた。山田先生にも心配されてる辺り、結構な時間が経っていたようだ。
これ以上急かされないためにもさっさとしよう。
「普通に動かしてますね……」
「どうやら七割抑えて、更に重りを付けて漸く普通の操縦者と同じくらいみたいです……」
「そうか」
「はるるん凄ーい」
早速新しいラファールを纏って慣熟訓練するも、前の時と違い身体が重くてしょうがない。地面を蹴っても遅いし、刀を全力で振っても何も出ない。
『いや、それ普通だからね』
えっ、俺普通に出せましたけど?
『あー……これ困ったやつだ』
そうだな。これは困ったやつだ。どうしたものかね。
この新しいラファールが俺専用というのは嬉しいが、この状況は頭を悩ませるものでしかない。幼女も一緒に頭を悩ませてくれている。
それにしても幼女も新しいラファールってのも呼びにくい。ラファールはラファールで良いとして、幼女ってのはな。何か良いのはないのか。
『私の名前? 名前はないけど、コアナンバーは三八四だよ』
それはただの数字だ。他にはないのか?
『うーん……ないから春人が名付けてよ』
まさかの返答だった。確かに名前がないなら名付けるしかないのだが、その大役に俺が抜擢された訳で。
待て待て、俺はネーミングセンスがないというかやばいがいいのか?
『春人が付けてくれる事に意味があるから!』
分からんが、そういうものか。少しでも良い名前を付けるようにしなければ。
うんうんと頭を悩ませ、ない知恵を絞り、思考を巡らせて約五分。頭に閃きが。
ミコト。命と書いてミコトだ。命を大切にして欲しいという願いを込めて付けたんだが、どうでしゃっろ?
『ミコト……うん、私は今日からミコトだよ! 改めてよろしくね、春人!』
ああ、喜んで貰えて何よりだ。これからよろしくな、ミコト。
「よし、次は飛んでみろ」
「……了解」
バインダーを翼のように広げてから羽ばたかせて空へと舞い上がる。ラファールのウィングスラスターがなくなったのは少なからずショックがあったが、これはこれで良いのかもしれない。
『――――♪』
久し振りの空に気分が高揚しているのは俺だけじゃないらしい。ミコトも飛んだ瞬間から歌を歌い始めた。初めて聴く曲だが、悪くない。それをBGMにこの空を飛び回っていた。
『これcyclone effectって名曲なんすよ』
知らね。ていうか前から思ってたけど何で歌うんだ?
『それはね……あっ、ちょっと待って。んん!! あ、あー……よし』
問い掛けると何故か咳払いをして喉の調子を確かめ始める。先ほどから聞いていた声と比べれば精一杯の低音……何か嫌な予感がしてならない。
『――――ミカの目が聞いてくるんだ。次はどうする。次はどの曲を入れればいい。次はどんな歌で俺をワクワクさせてくれるんだ……ってな。あの目だけは……裏切れねぇ』
「…………ふぅ」
《あ、危ない!》
嫌な予感が見事的中してしまった。意識が遠退いて落下を始めるも、山田先生が声を掛けてくれたので事なきを得た。下手をすれば地面と熱烈なキスをしていただろう。
何やってんだミカァァァ!!
『てへぺろー』
《櫻井、大丈夫か?》
「……問題ありません」
ふざけようとしたら即座に織斑先生から通信が入る。本能が逆らってはいけないという指令を出しているからダメでもはいと言ってしまう。
『春人、もう一回『葵・改』呼び出して』
何だそれ。『葵』じゃないのか。
『春人専用の武器になってて、リミッター解除のキーになってるんだよ』
そうだったのか。では早速。
飛ぶ前に呼び出した『葵・改』を再度呼び出してみる。光の粒子が集まって刀を形成し、光を放つと右手に刀が。
しかし、改という割りには見たところ以前と何も変わっていない。
『刀身を指先で突っついてみるよろし』
ミコトに言われるがまま、指先で二回叩くと再び光を放ち、刀身だけが綺麗さっぱりとなくなった。残るは柄の部分のみ。
……僕の刀がない!? 何で、どうして!?
『でゃははは! やってみるもんだなぁ! えぇ、おい!』
カズマさん!
『……で、また刀身があるイメージしてみて』
あ、はい。
今度はこの状態で刀身があるイメージしろとの事。刀身を消してからあるイメージをしろとはこれ如何に。
と、先ほどまで刀身があった部分からレーザーが放たれ、それが刀の形を成していく。
『これが『葵・改』の機能。簡単に言うと実体剣の代わりにレーザーブレードを形成。春人の戦う意志によって、その威力を上下させる』
か、カッコいいタルー!!
詳しく説明してくれ!
『春人の戦う意志が強ければ強いほど弱くなって、弱くなるほど強くなる』
えぇ……? 普通逆じゃね?
『仕方ないね。で、この状態で初めて春人の意志でリミッター解除出来るよ』
この説明が本当だとすれば機体のリミッターを解除しても今度は武装の方に制限が掛かる。なんてこったい。
『実はもう一個あるけど、千冬が呼んでるからもう行った方がいいよ』
《一度降りてこい》
「……了解しました」
素直に降りると衝撃的な言葉が飛び出した。
「これから模擬戦を始める。行けるな?」
「…………はい」
慣熟訓練はもう終わりなのか。全然動かしてないんですけど。しかし、逆らえないので泣く泣く了承。
「よし、では特別ゲストだ。来い」
織斑先生がインカムで指令を送れば、アリーナの入場が開き、そこから水色の機体が飛び出した。俺のラファールとは違い、かなりスッキリした機体だ。
それが近くに降り立ち、操縦者が俺を睨み付けて来た。
「よくも簪ちゃんを……!」
水色の髪を外側に跳ねさせた女子は厳しい視線と言葉を向けてくる。並大抵の怒りじゃない事は読み取れた。
簪? 俺が簪に何かしたのか?
ボツネタ
今回登場のミコトちゃんは元々いませんでした。
代わりにISにやたら愛されるという設定がありました。