IS学園での物語   作:トッポの人

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長い……。




第18話

 放課後。昼間の約束に加え、クラス対抗戦まであと僅かになった事もあって俺と織斑はアリーナにて近接の戦闘訓練をしていた。

 

 射撃に関してはセシリアが、近接に関しては俺と箒が織斑に協力する事になっている。そしてここにはいないクラスメイトは他のクラス代表の情報収集と大忙し。

 

『皆デザート無料パスに必死だねー』

 

 その通り、僅か一ヶ月も経たない内にクラスがこうして一丸となれている裏にはそんな理由があった。

 甘いもの大好きな女子からしてみれば半年間デザート食べ放題とは、とても甘い魅力的な果実なのだ。

 

 俺としてはそんな夢のパスよりも目の前で咲こうとしている恋の花を優先したい訳で。

 しかし、クラス代表である織斑はもとより、デザートパスが欲しいであろうセシリア、相川、布仏に加えて箒からも手伝ってくれとお願いされたため、ここにいる訳だ。

 

「だぁっ!!」

「……甘いな」

「くそっ!」

 

 さて、そんな事を考えていると織斑の振りかぶった一撃によって現実に戻される。

 身体を半歩横に動く事で避けると耳元で聞こえてくる織斑の悔しそうな声。意図したつもりもないが、毎度ぎりぎりなのが嫌なのだろう。

 

 俺は避け様に右拳を握り締め、がら空きの織斑の顎目掛けて振り上げる。

 

 行くぞ、必殺の――――!!

 

「ジェットアッパァァァッ!!」

「ぐはぁっ!?」

「ただの右のアッパーをまるで必殺技のように!?」

「何で叫ぶ必要があるのだ……」

 

 天高く舞い上がる織斑を尻目に叫んだ俺を見てセシリアと箒は驚きと何処か呆れを含んだ視線を向けてくる。

 

 違う、これはただのアッパーではない。地を這うような低空から繰り出されるアッパーなのだ。断じてただのアッパーではない。

 

『いや、分からないよ……』

 

 まぁ正直な話、言ってる俺もどう違うのか良く分かってないからな。では今度はもう少し違うのをやるとしよう。

 

「も、もう一度だ!」

 

 地上に降りてきた織斑は再度構えると気合い充分にそう叫んだ。

 闘志は充分。やる気も少しも衰えていない。だが、一時間休みなしで戦っていたところにさっきのアッパーが効いたのだろう、足が震えている。

 

「……今ので最後と言っただろう」

「うっ……」

「……それと一度休憩しよう。足が震えてるぞ」

「わ、分かったよ……」

 

 それだけ言えば織斑は直ぐにISを格納し、その場に座り込んで項垂れた。どうやら本当は立っているのも辛かったようだ。

 

 今ので最後と言っていたのはそろそろ箒と交代してあげなくては色々と可哀想だったからだ。あくまで俺の中ではそちらがメインだからな。

 

「……俺は向こうで訓練してくるから後は箒に任せた」

「う、うむっ! 任せておけ!」

「お、おう……」

 

 俯いたまま握り拳を上げて応える織斑。そんなになってでも俺と戦おうとしていたのは純粋に凄い。さすがにもう限界みたいだが。

 そしてそんな織斑に寄り添って、必死に嬉しそうなのを隠している箒。バレてないのが織斑ぐらいなのはお察しだ。

 

 何だあれ、もうカップルじゃん。何で付き合ってないの?

 とりあえずお邪魔虫である俺達は退散するとしよう。

 

「……セシリア、付き合ってくれるか?」

「はいっ」

 

 何故かやたら嬉しそうにしているセシリアを連れて離れたところへ歩いていく途中、隣からくすくすと笑い声が。

 見ればセシリアが口元に手を当てて笑っていた。その表情は実に楽しげだ。

 

「……何だ?」

「ふふっ、恋のキューピットも大変ですのね」

「……そんなんじゃない」

「そんなに謙遜しなくても。とってもお似合いですわ」

 

 慣れない事はするものじゃない。早くあの二人がくっついてくれれば俺もお役ごめんと相成るのだが。

 ちらりと二人の様子を見ればまだまだ恋人となるのは時間が掛かりそうだ。

 

「それでわたくしは一体何を?」

「……確認したい事がある。ターゲットを二つ出してくれ」

「分かりました」

 

 セシリアがISで空間ウィンドウを操作すれば、俺達の前方上空にふよふよとターゲットが二つ浮かび上がる。

 あとは最終確認するだけだ。陽気な感じで聞いてみよう。

 

 へいへい、ミコトちゃん。

 

『Oh、春人キュン。一体全体どうしたんだい?』

 

 なぁに、聞きたい事があってね。教えてくれるかい? マイリトルガール。

 

『しょうがないニャア……いいよ』

 

 リミット解除をすれば『葵・改』での攻撃しか出来ない。他の武器や、素手で殴ろうとすれば強制的に制限が掛けられる……でいいんだよね?

 

『その通り。正確には武器は持った瞬間に、素手は相手に当たりそうになれば、だよ』

 

 ……なぁるほどぉ。良い事聞いたぜ。

 ミコト、十秒だけリミット解除頼む。

 

『? いいよ』

 

 ラファールのリミット解除は一分以内だったら好きなだけ分割出来る。

 こうする事でメンテナンスする負荷も軽く出来るのだ。一分使い切れば意味はないけど。でもその気になればワンセコンドだって可能だ。

 

 《Complete》

「……行くぞ」

 《Start up》

 

 装甲が展開され、起動音と共に全力を出せる状態になれば少し腰を落として右腕を引き絞る。

 

『春人?』

「春人さん、一体何を?」

 

 俺が取った構えを不思議に思ったセシリアとミコトが問い掛けてくる。遠目で織斑達も首を傾げていた。

 確かに現れたターゲットとは距離も離れているからこんなところで構えてもどうしようもない。

 

 でも日々の筋トレに加えて、今の俺にはISのパワーアシストがある。きっと出来るはず。

 

「シェルブリット・バーストォッ!!」

「っ!?」

「「?」」

 

 気合いを入れるために拳を振り抜くと同時に声を出せば、それまで座って呆けていた織斑が勢い良く立ち上がる。

 女子二人は何事かとそちらに目をやるが、直ぐ様こちらへ振り向く事に。

 

 空を切った拳の先、セシリアが出してくれたターゲットが砕け散ったからだ。

 

「「「『えぇ……』」」」

 

 全員が全員、砕け散ったターゲットを見て何とも言えない表情と声を出しているが気にしていられない。

 ターゲットはもう一つあり、かつ時間は五秒を切っている。これ以上は時間を使いたくなかった。メンテナンスのためにも。

 限られた時間で瞬時加速を発動し、いつものように地面を蹴る。これまでよりも更なる速さを手に入れた俺は即座にブレーキ。

 

「ぜやぁっ!!」

 

 そして繰り出したのは右足。放たれた上段蹴りの軌道に沿って大気が裂けた。

 大気を裂いた衝撃波は巨大な牙となって空を飛ぶターゲットに襲い掛かり、獲物を真っ二つに引き裂く。

 

 《Time out》

 

 設定した十秒が終わりを告げるのと二つ目のターゲットが消えるのはほぼ同時だった。

 

 何だ、シェルブリット・バーストも牙こと『Leviathan』もやれば出来るもんだな。

 それにこれなら直接攻撃してないから制限には引っ掛からないらしい。使うつもりもないが、使えると知っておくのは重要だ。

 

「は、春人さん? 今のはその、風を使ったのですか……?」

 

 今起こした事について恐る恐るセシリアが訊ねてくる。

 なるほど、言われてみれば確かに風を使えば同じような事が出来るのかもしれない。使えると知っていればそっちだと思うだろう。

 

「……いや、使ってない」

「そ、そうですか……」

『あー……そういうのも出来るんですね』

 

 もしミコトが目の前にいたとしたら、セシリアのように困った表情で今のを言っている事だろう。そんな気がする。

 それにしても種も仕掛けもない、ただ全力でやっただけなのに何をそんなに驚く必要があるのかと。

 

『種も仕掛けもないからなんですよ……』

 

 えっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、休憩を終えた織斑が今度は箒指導の元で訓練している頃、俺はセシリアの射撃訓練を手伝っていた。

 内容は極めて単純で、三十秒間限定でリミット解除した俺に当てるというもの。

 

「くっ、当たらない……!」

 

 当てられない事に苛立つセシリア。放たれるレーザーを避けて、避けて、避けまくる。無我夢中で、ただひたすらに。

 向こうがイチャイチャしているのに対して、こっちは色気も何もない何とも殺風景なものだった。相手が美少女だというのが唯一の救いか。

 

『まぁそんな美少女に一方的に攻められてるんだけどね』

 

 何その聞く限りドMには堪らない状況。どういう事なの……?

 

 そんな事を考えていれば三十秒なんてのはあっという間で。しかし、どうもセシリアは夢中になりすぎて制限時間を忘れているようだ。焦っていると言ってもいい。

 時間切れとなれば俺は一気に無力となってしまう。リミット解除している間にどうにかせねば。

 

『大丈夫、大丈夫。その昔、戦隊もので変身しないでかつ、タイマンで怪人と戦って勝った黒い人とかいたから』

 

 いやいや、俺は大丈夫じゃないから。ていうかそいつ変身する必要ねぇだろ。

 

『あるんだよっ!』

 

 と、まぁその話は置いといて。一応どうにかする案はある。

 要は分かりやすく終わればいい。誰が見ても、夢中になっているセシリアにも分かるような終わりを。

 制限時間まであと数秒、そうとなれば話は早かった。

 

「そこですわっ!」

 

 突如動きを止めて仁王立ちした俺を隙だらけと判断したセシリアがレーザーを放とうとする。

 ついでだ。リミット解除時の攻撃手段は見たから今度は防御の方も見ておこう。

 

 行くぜ。櫻井春人流防御術、究極奥義!

 

『あ、いきなり究極奥義なんだ』

 

 ミコトの突っ込みとセシリアがレーザーを放ったのはほぼ同時だった。

 瞬間、空気が破裂したかのような音がアリーナに響き渡り、離れて訓練していた織斑達も何事かと視線を向ける。

 

「……えっ? えっ?」

『えっ、ちょ』

「……時間切れだ」

 《Time out.Reformation》

「は、はい。いえ、そうではなくて……」

 

 目の前で合掌している俺にセシリアが言葉では表せないが、どういう事かと態度で訊いてくる。

 答えるとラファールが元に戻り、排熱を始めて視覚でも終わった事を告げた。しかし、セシリアが訊きたかったのはこれではないらしい。

 

「……何だ?」

「は、春人さん、今何をしたのですか……?」

 

 まるで信じられないものを見たとでも言いたそうな顔だ。確かに放たれたレーザーを避けていないし、かといってラファールの装甲に弾着したような跡もない。

 俺も今初めてやったし、テレビでもやってるのを見た事もない。といっても原理としてはそんなに難しい話でもないはずなんだが。

 

 もう一度先程した動作、命中するはずだった胸の前で手を合わせてからこう言った。

 

「……光線白羽取り」

「…………はいっ?」

「……光線白羽取りだ」

「…………」

 

 このように、と再び手を合わせると漸く俺が何をしたのか理解したらしく、ぽかんとその小さく可愛らしい口を目一杯広げて驚きを表していた。

 

「……わたくし、少なくとも春人さんには想像力で絶対に勝てないと分かりましたわ」

 

 暫くしてセシリアが言葉を発したかと思えば、口にしたのは謎の敗北宣言。しかも溜め息付きも添えて。

 何か暗に馬鹿にされている気がするのは何故だろう。

 

『春人はウルトラマンか何かなの?』

 

 いや、何処にでもいる一般ピーポーですけど。そんな光の巨人とは何の縁もありません。

 光線白羽取りもとある漫画のとあるニンジャマスターがやっていたのを見て櫻井春人流に組み込んだのだ。

 それに実際は白羽取りというよりも叩き潰しただけ。本当なら掴んでそのまま相手に返す技なんだが、まだまだ完全習得への道のりは遠い。

 

『ちなみに他の防御技は何があるのさ?』

 

 よくぞ聞いてくれた。色々あるが、代表的なのは櫻井春人効いてないとかだな。

 

『ただのやせ我慢じゃん』

 

 名前聞いただけで技の全容分かるとかお前天才かよ……。

 

「あの、前から思っていたのですが、急にぼうっとするのは何故ですか?」

「確かに専用機を貰ってからそうだな」

「俺も気になってたんだよ。何かあったのか?」

「……ん」

 

 ミコトと会話をしていれば、それを前から不審に思っていたセシリアといつの間にか近付いてきていた織斑達に何事かと問われた。

 その瞳は俺が見た事もないような何かを秘めてゆらりゆらりと揺れている。

 

 ああ、そういえば言ってなかったな。別に言う必要も、言うつもりもなかったからなんだけど。

 ここまで不思議に思われていたら仕方ない。観念して言うとしよう。

 

「……実は――――」

 

 それから俺はこの場にいる三人に自分はISのコアと話せる事、名前はミコトと言い、ミコトと話しているから周りから見れば呆けている事を説明した。

 説明している間ずっと三人は驚いていたが、それでも説明自体はすんなりと終わりを迎える。

 

 そして、何を言われるのかと思えば。

 

「何だ、そういう事か。心配させんなよ……」

 

 危惧していたような事ではないと分かり、安堵したような笑みで織斑が。

 

「全くだ。心配して損した……なんて言うつもりはないが、早く言えばそれで済む話だったんだぞ」

 

 もっと早くに何で言わなかったのかと、子供を叱りつけるように箒が。

 

「春人さん、今度からはちゃんと話すようにしてくださいっ」

 

 話さなかった事を責めるように、出会った当初のような鋭い目付きで睨み付けセシリアが言う。

 

「……すまない」

 

 何故俺が責められているのかは分からないが、ただ謝るしかなかった。

 心配掛けさせていたみたいだが、織斑達もまさかあんなアホな会話をしているとは夢にも思うまい。そんな二重の意味の申し訳なさでいっぱいだった。

 

『じゃあお詫びにセシリアの手伝いしよ?』

 

 それはいいが、手伝いってセシリアに何をするんだ?

 

『ブルー・ティアーズが直接話したいみたいだから』

 

 ブルー・ティアーズが? 分かった。やってみる。

 

 何とも気軽に他のISと会話してみろと言われたが、実は他のISでも声が聞こえるのはこれまでの授業で気付いていた。

 俺に話し掛けるように何処からともなく声が聞こえたり、ミコトと話をしているような会話も聞こえていた。

 条件はただ触れるだけ。ISの装甲に触れていれば特に意識しなくてもいいらしい。

 

 現在一区切り付いたのもあって全員ISを格納している。早速セシリアに一言断ってからブルー・ティアーズに触るとしよう。

 未だ睨み付けているセシリアの元へ行き、手を伸ばせば簡単に触れられる距離。

 

「……セシリア、触ってもいいか?」

「は、はいっ!?」

「「!?」」

「…………」

『アカン……』

 

 そんな距離で明らかに言葉足らずの発言をしてしまった。説明するのを面倒くさがる悪い癖が出た……にしてもこれは酷い。

 言われて一気に顔が赤くなったのは本人だけじゃなく、近くで見ていた二人もが俺の変態発言に驚き、赤くなっていた。

 

 やばい、これじゃただの変態だ。しかも正面から言う辺り、やたら度胸のある変態だ。直ぐに弁解しなければ……。

 

「あの、その、さすがに人目がありますし、そういうのはふた――――」

「す、すまない、ブルー・ティアーズに触ってもいいか?」

「えっ」

「……ん?」

 

 慌てて弁解するもタイミングが悪かった。人目があるからと断るついでに何かを言おうとするセシリアに俺の弁解が被さる。

 赤い顔で恥ずかしそうにもじもじと魅惑的な身体をくねらせていたが、ピタリと動きが止まってこちらを見た。

 

「……どうぞ……」

 

 何か言いたげだったが、セシリアはすっかり意気消沈し、もう好きにしてくれと言わんばかりの態度。

 

「お前……」

「……言うな」

「はぁ」

 

 それを見て織斑が何かを言い掛けるが、俺が悪いのは分かっている。セシリアがこうなってしまったのも俺のせいだと。

 だから遮ると代わりに箒が額に手を当てて溜め息を吐いてきた。

 

 だからその息の合ったコンビネーションとかカップルかよって。

 

『早くブルー・ティアーズと話してあげてっ』

 

 すみません。全力でやらせてもらいます。

 

 急かされるまま、もう一歩近付いて手を伸ばした。すると何かに気付いたようにセシリアの口から声が漏れる。

 

「あっ、すみません。今すぐ展開を――――」

「……このままでいい」

「えっ」

 

 右手がセシリアの髪に隠された左耳へと向かう。ブルー・ティアーズの待機状態は左耳のイヤーカフスだ。待機状態では試した事はないからそれに触れれば話せるはず。

 

「あっ……春人、さん……」

 

 なるべく優しく髪を耳に掛けると、露になったイヤーカフスに触れる。

 意識を集中させるべく、下を向いて目を閉じればあっさりと声が聞こえてきた。

 

『櫻井様、私の声が聞こえますか?』

 

 聞こえてきたのは若い男性の声だった。と言っても俺よりも年上のような印象を受ける。

 どうやらこれがブルー・ティアーズのコアらしい。

 

 ああ、聞こえる。初めましてだな。知ってるようだけど、俺は櫻井春人だ。

 

『……本当に私達の声が聞こえるのですね』

『どやぁ……』

 

 実際にやってみるまで半信半疑だったのだろう、声に応じてやればあまり口には出さなかったが驚いたようだった。

 何故か誇らしげにしているミコトを放置して、ブルー・ティアーズのコアが自己紹介を始める。

 

『申し遅れました。私はブルー・ティアーズのコアで、セシリアお嬢様の執事をやらせてもらっています』

 

 それにしても何か、あれだな。めっちゃ良い声してるな。人気声優なのか?

 

『櫻井様。私はあくまで、執事ですよ』

 

 意識してなのか、同じ男なのにやたら色気を感じる声でそう言う。密かに俺の中でこのコアの名前が決まった瞬間だった。

 

『早速本題に入らせて頂きます』

 

 そこから始まったのはセシリアとイギリスのIS事情に深く関わる事だった。

 ブルー・ティアーズはそもそも第三世代兵器『ブルー・ティアーズ』のデータ収集が目的の試験機である。

 そしてその最終目的は最大稼働時における偏向射撃。要するにレーザーを自由自在に曲げるとの事。

 

『ですが、お嬢様はその稼働率があまり良くないのです』

 

 精々で三十%前後。それが現在の稼働率で、もっと上げなければ偏向射撃は出来ない。

 これでも最高クラスらしいのだが、未だに偏向射撃のデータを渡してこないセシリアを国が急かしている。

 セシリアも気にして朝練とかしているが上手くいっていないようだ。

 

『そこで櫻井様に私とお嬢様のバイパス役をお願いしたいのです』

 

 俺の役目は声が聞こえるのを生かして二人を繋げる。心が通じれば稼働率も上がるとの事。ISのコア本人がそう言ってるんだからそうなんだろう。

 

 俺は了承するとセシリアにこの事を伝えるべく、目を開ければ何やら不思議な光景が広がっていた。

 

「ん――――」

「っ!?」

 

 俺に釣られてなのか、セシリアもまた顔を赤くして目を閉じている。しかも僅かに顎を上げ、祈るように合わされた両手を胸の前に置いて。

 その姿は何かを待っているようでもあり、何かをせがんでいるようでもある。

 

 ――――ていうかどう見てもキス待ちです。本当にありがとうございました。

 ……いやいやいや、待て待て待て。どうしてこうなった。俺、会話してただけだぞ。

 

『お嬢様の事、宜しくお願い致します』

 

 おい、待て。それはさっきの事か、それとも今起きている事か、どっちだ。

 

『ダメですよ! ミコトちゃんはいきなりそういうの認めませんからね!』

 

 お前は俺の母親か。

 

「え、ま、まじでするのか……!?」

「わ、私も一夏と……」

 

 しないわ。何でそうなるんだよ。

 あと箒は心の声が駄々漏れだぞ。織斑も何で隣にいるのに聞こえないの、おかしくない?

 

「……セシリア、行けるな?」

「お、お願いします!」

 

 声を掛けると二人揃ってISを展開。

 誤解を解くのとセシリアをトリップ状態から目を覚まさせるのにかなりの時間を要し、更には状況説明と、気付けばアリーナの使用時間を終えようとしている。

 これが今日最初で最後のチャレンジとなった。

 

「……肩、触るぞ」

「はいっ!」

 

 一言断ってからセシリアの右肩に手を置けば、またブルー・ティアーズの声が聞こえてくる。

 

『ダメです。もっとお嬢様にくっついて頂かないと』

 

 そう言うイケボの持ち主からのダメ出しに嫌な予感を感じつつ、俺は問い掛けた。

 正直、聞かなきゃ良かったとしか言い様がない。

 

 ……具体的にはどのくらいまでやればいい?

 

『こう、ガバッと後ろから抱き締めてください』

『抱き締めて! 銀河の果てまで!』

 

 うるさいよ! 久し振りに聞いたよ、その台詞!

 ていうか何でだよ!? そこまでする必要ないだろ!?

 

『あるんです。どうかお願い致します』

 

 くっ……! せ、セシリアが拒否したらやらないからな!

 

 お願いと言われると弱い。どうしても断り切れないのだ。

 しかし、当のセシリアが嫌がれば話は別となる。普通に考えて後ろから抱き締めていいかと訊かれて、はい。と答えるのは限りなくゼロだ。代償として俺がやはり変態になる事だが、まぁ安いものとしよう。

 

『君は知るだろう――――』

 

 デスポエムが聞こえる気がするが無視。

 

「……セシリア、相談がある」

「何ですか?」

「……より効率的にやるために後ろから抱き締めろと言われているのだが――――」

「素晴らしいですっ! 是非そうしましょう!!」

「…………そうか」

 

 セシリア。君のやる気スイッチが今の言葉の何処で入ったのか分からない。

 

 嬉しそうに返事をするセシリアに思わず変な声が出そうになった。

 何で嬉しそうなのかは分からないが、本人がそれでやろうと言っている手前やるしかない。

 

「…………失礼する」

「は、春人さんっ」

「……集中しろ」

「はいっ!」

 

 腕のところだけ装甲を解除すれば、セシリアの細い腰を後ろから抱き締める。

 するとセシリアも一瞬緊張して身を固くするが、直ぐにそれもなくなり、そのまま身を委ねてきた。

 

 ていうか何で俺はこんな美少女を抱き締める事になっているんだろう。意味分かんない。

 もうさっさとやって、さっさと終わらせよう。ラファールのメンテも明日に回そう。そして寝る。それだけだ。

 

『まずは――――』

 

 ブルー・ティアーズが言っている事をそのままセシリアへ。恥ずかしさに赤くなりながらもちゃんと説明を聞いている。

 全部言い終えたところで実際に『ブルー・ティアーズ』を飛ばし、実戦テスト。

 縦横無尽に飛び回るビットに指令を与えるため、セシリアは空中に浮かぶターゲットへ向けてゆっくりと人差し指を向け――――。

 

「ばーん」

 

 口で言うと、四つのビット全てから一斉にレーザーが放たれる。与えられた命令に従って。

 四本のレーザー全てが複雑な軌道を描き、正面から撃ったのに上下左右からターゲットを撃ち抜く結果となった。

 

「や、やりましたっ! やりましたわ、春人さん!!」

「…………ああ、おめでとう」

「ありがとうございますっ!!」

 

 誰が見ても文句なしの成功にぴょんこぴょんこと跳ねながら俺に抱き着いて喜ぶセシリア。それに俺の精神がゴリゴリと音を立てて削られていく。

 そして、そこへとどめがやってきた。

 

「春人さん、お願いがあるのですが……」

「……何だ?」

 

 抱き着いたままだからか、少し言い辛そうにしている。正直、もう離れて欲しいし、嫌な予感がするから聞きたくない。

 しかし、お願いという言葉には抗えなかった。

 

「明日から毎日、今のをお願いしたいのですが如何でしょうか!?」

「…………毎日、やるのか?」

「はいっ!」

 

 嘘だと言ってよ、バーニィ……。

 

「……ああ、いいぞ」

「はいっ! では明日からよろしくお願いします!」

 

 興奮冷めやらぬ様子のセシリアに何とか了承の返事をすると、まるで華が咲いたような笑顔が見られた。

 お先は真っ暗だが、まぁ良いもの見れたという事にしよう。それにしても疲れた……。

 

 




これで一日終了です。

次回は鈴ちゃんです。
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