IS学園での物語 作:トッポの人
天使簪によって浄化されかけた俺だったが、翌日は何も問題なく行動出来ていた。
リアルガチでこの世からセイグッバイしそうな感じだったが、現状然したる問題もない。頑丈な身体で生まれた事に感謝しよう。
天使は本当に汚れた人間を浄化出来るんだな。知らなかったぜ。
『浄化してあげるわ! 神技、エーテルストライク!』
あれ浄化っていうか消滅じゃん。しかも天使じゃないじゃん。女神じゃん。じゃんじゃん?
『神奈川弁じゃん?』
さてさて、俺達がこうしているのも朝から箒を屋上に呼び出していて、ひたすら待つのが退屈だからだ。呼び出した理由は昨日受けた鈴のお願いをどうするかについて。
鈴に返事しなくてはいけないから早めに聞いておきたかったのだ。箒も考える時間が欲しいだろうしね。
そうして暫く空を眺めて待っていると待ち人がやってくる。
「おはよう、朝から呼び出してどうしたんだ?」
「……ああ、おはよう。少し、相談したい事がある」
「相談したい事……?」
俺の言葉に嫌な予感がしたんだろう、少し警戒しながらも箒は話を聞いてくれた。
状況は鈴が圧倒的有利で、ほぼ間違いなく織斑と両想いだという事。その鈴から箒と同じようにバックアップして欲しいとお願いされた事。
どうやら箒も織斑と鈴の関係は察していたようで大してショックは受けていないようだった。誰よりも織斑の近くにいたのだから気付いてて当然か。
「……箒はどうしたらいいと思う?」
「私が嫌だと言ったら、鈴を支援するなと言ったらどうするんだ?」
「……断るかもしれないな」
「そのまま正直に言ってか」
本題である鈴の支援をどうするかについて訊くと、逆に箒から質問された。何とも厳しい目線付きで。箒は美人だから睨むと迫力が凄い。やめてくだしあ。
でもまぁ、普通はそうなるよな。手伝うと言ったのにこれから真逆の事をしようとしているんだから。でも勘違いしてもらっては困るな。
「……それは俺が決めた事だから箒を理由にするつもりはない」
「なら何故私に聞いてきた?」
「……あくまで意見を聞いただけだ。そこからどう答えを出すのかは俺の役目で、出した答えは俺の責任だろう」
まぁ、そもそも箒一人にしか聞くつもりないんだけど。そこは聞かれてないから言うつもりはない。
「そんなの屁理屈ではないか……」
「……嫌いか?」
「私はあまり好きではない」
「……今度からは気を付ける」
おどけるように言うと、箒の不機嫌さを表していたつり上がっている目が申し訳なさそうに下がっていく。
やがて言い辛そうに口を開いた。
「すまない……。苛立ちをぶつけてしまった……」
俯く箒の姿はいつもよりずっと小さく見えた。昨日鈴に対抗してみせたし、今も俺から言われても表面上動揺を見せなかったが、内心ぐちゃぐちゃにかき乱されていたんだろう。
こればっかりは仕方ない。離ればなれになってもずっと好きだった男には好きな人がいたんだ。しかも相手と両想い。荒れるなという方が難しい。
「……気にするな。俺は気にしない」
「私が気にするんだ……幻滅しただろう? これが本当の私だ。自分のために平気で相手を傷付けてしまえる……そんな女なんだ……。一夏と釣り合うはずがない」
俯いたまま震える声で話す箒は普段の凛とした姿からは想像も出来ないくらい、酷く弱々しい。
困ったな。こういう時慰めるのは織斑くんだと思うんですけどね。慣れてないし。ていうか苦手だし。
でもかといって何もしない訳にもいかないだろう。常識的に考えて。
「……俺は箒と会って一ヶ月も経っていない」
「ああ……」
「……だから良く分からないが、お前がそう言うのならそうなんだろう」
「そう、だな……」
『おっと、春人さん? 絶版キックされたいのかな?』
あ、やべぇ。箒さんがドンドン落ち込んでらっしゃる。これはなまらまずい。このままだとミコトちゃんからお説教されちゃう。ていうか絶版キックってなんだ。
「でも好きな人に振り向いて欲しくて一生懸命頑張ってる箒も本当の箒だと思う」
「えっ……?」
テンパってやや早口に言った俺の言葉をちゃんと聞いてくれたらしく、漸く見せた箒の顔は目を丸くさせて驚いていた。
確かにさっきのも本当の箒なんだろうけど、なら織斑と一緒に昼食を取りたくて悩んでいたのとか、織斑の傍で笑っていた箒は一体何なのかと。
そんなぽっと出よりも、今までこの目で見てきた方が本物だと思う訳で。
「……お前は気にしすぎだ。そんな事を言ったら鈴だって織斑に酷い事を言っているようだぞ?」
「そ、そうなのか?」
「……鈴自身が言っていた」
まぁ昨日の様子を見るに鈴もその度に自己嫌悪に陥ってるっぽいけど。だからツンデレレベル的にはほぼ互角なんだよね。
「でも……そんな私では一夏とは……」
これだけ言っても箒は踏ん切りがつかないようで、まだ渋っている様子だ。それでも最初の俯いていた時に比べれば遥かにましか。
あと一押しのようだが……仕方ない。あまりこの手は使いたくなかったが。
「……なら大人しく身を引くか? あっさりと」
「むぐっ!?」
「……織斑との関係を諦めるんだな? そんな簡単に」
「むぐぐっ……!!」
余計な一言を交えつつ、淡々と言葉にして確認していくとやはり諦められないのか、沈んでいた表情も負けるものかと引き締まっていく。
「……それなら俺は鈴を応援するだけだ」
「ひ、引かない!」
「……そうか」
『チョロい』
チョロい。
箒から諦めないと宣言を聞けば、随分遠回りをしたが本題へと移る。鈴の協力要請をどうするかだ。
「鈴もお願いしていいか?」
「……いいのか?」
「私は勝負するなら、正々堂々と戦いたい」
「……分かった」
勝っても負けても後腐れなく。そう言っているようにも聞こえた。
放課後のアリーナ。昨日は整備で戦えなかったからと、織斑が俺に勝負を挑んできた。
ちょうど良かったと箒と昨日から参加していたらしい鈴にその役目を押し付けようとしたが、俺の提案は却下。仕方ないので二人には休憩時間に活躍してもらうとしよう。
「すぁあっ!!」
「うおおお!?」
という訳でさっさと休憩時間に入るべく、気合いの掛け声と共に『葵・改』を振り回す。かつてない積極性を見せる俺に織斑はたじたじ。
「な、何でこいつさっきからおんなじ攻撃しかしてこないんだ!? あぶねぇ!?」
今織斑が言ったように、俺はさっきから避けられようが、防がれようが、横凪ぎという全く同じ攻撃しか繰り出していない。
意地でもこれを当ててやるという気迫と気概を見せていた。
『蛮族していくぅ!』
横格だ。とにかく横格で擦れ! 基本的に判定とか強いし! ガンダムハンマーとか理不尽極まりないし! スーパーアーマー? 三発殴ってぶっ壊せ!
「く、くそっ!」
「甘い!!」
ずっと攻められているからか、焦って破れかぶれのような一撃が振り下ろされるが、そんなのに当たってやるほど俺は優しくない。
横に僅かにずれるだけで簡単に避けられてしまう。そして始まる横凪ぎの嵐。当たるまで決して止む事のない嵐が再び織斑に襲い掛かった。
「うおおおっ!!」
蛮族ぅぅぅ!!
『蛮族ぅー!』
ミコトと二人して何か妙に盛り上がっていると漸くその時は来た。
「シッ!」
「しまっ!? ぐぁっ!」
幾度振り続けただろうか。何度目になるか分からない横凪ぎが疎かになった防御をすり抜けて織斑を切り裂いた。
苦悶の声をあげる織斑に続けて与えるべく、今日初めて横凪ぎ以外の攻撃を見せる。
『これはー? ブッパではないー? これはー? 人類が生きるためのー?』
覚醒技煽るのやめろ!
「はぁっ!」
「ぐっ! んのぉ!!」
「ちぃっ!」
そんな煽りを無視して戦い、白式のシールドエネルギーを着実に減らしていく。織斑も負けじと刀を振るってくる。
攻撃は最大の防御であると言わんばかりに攻めまくるが、どうやら相方はご不満らしい。未だに煽ってくる。
『今日の私はー? 阿修羅すらー? 凌駕するー? 存在ー?』
ああ、くそっ! しょうがないからその期待に応えるよ!
「我は渇いたり!」
「っ!?」
突然斬り合いをやめて、刀を両手で持ち、胸の前で構えて何か言い出した俺に織斑も何事かと一瞬動きが止まった。
「EH-Y-YA-YA-YAHAAH-E'YAYAYAAAaaa!!」
「がっ!?」
その隙を逃さず、二度、三度と斬り付けていく。唐竹、横凪ぎ、逆袈裟と。
「我が絶望と羨望と渇望を知れ!!」
最後に大きく振りかぶって縦一閃。勢いそのままに地面まで着地すれば、決着は着いたと右手に持っていた刀を横に振り払うようにして量子化。
そして締めの一言。実はミコトも知っていたようで、二人の声が重なる。
「『咲き乱れよ、悪の華』」
「が、は……!」
やった……やりきったぞ……。引き換えにとても大事なものを失った気がするが。やっぱテンションに身を任せてはいけないんだなって思いました。
早期決着だったがプレッシャーを与えて疲労させるのには成功したようで、地上に降りた織斑は肩で息をしている。
「お、お前……最初と最後のはなんだったんだよ……」
「……さぁな」
「ちくしょう、またそれかよ……」
強いて言えばテンションに身を任せた結果とただのゴリ押しだ。擦って倒したってだけのな。
『グッドファイティン! グゥゥゥッドファイティン!!』
相方もこう言ってくれてるし、成果としては上々だろう。短かったが、その分濃い時間を過ごせたと思いたい。
さてさて、ここからがある意味本番だ。
「……織斑、喉が乾いてないか? 汗も拭きたいだろう?」
「え? ああ、まぁそうだな」
その言葉を聞くと、ちらりと遠くで待ち構えていた箒と鈴に目配せをする。僅かに頷いてタオルと飲み物を取りに行った。
ただその際、気のせいじゃなければ若干鈴が怒っていたような気がしないでもない。心当たりは充分過ぎるほどにあるんだけれども。
謎の答えを突き付けるために二人と別れたセシリアが近寄ってきた。
「春人さん、幾ら何でもやり過ぎです。あれでは鈴さんも怒りますわ」
「……そうだな」
『ご、ごめんね春人』
俺がやった事だ。気にすんな。さて、俺もやる事をしよう。
先の戦闘でエネルギーもほぼ空になった白式の補給もしなくてはいけない。機材を取ってくるべく、俺もこの場から離れようとした時だ。道を塞ぐようにセシリアに手で制された。
「動いたばかりですし、春人さんもお休みください。補給機材でしたらわたくしが取ってきますわ」
「……いや、しかし」
しかし、そもそもそうしたのは俺なのだから俺が取りに行くのは当たり前の事。見ていただけのセシリアが俺の尻拭いをするのはおかしな話だ。
難色を示す俺にセシリアは怒ったような顔で俺に言い聞かせてくる。
「ダメです。取ってくるよりも先に、春人さんは一夏さんにまず言わなくてはいけない事があるのではなくて?」
「…………そうだな」
「では二人でお待ちになっててください。ちゃんと言うんですのよ?」
「……分かってる」
そう言って機材を取りに行こうとするセシリア。
「……セシリア」
「はい?」
つい呼び止めてしまった。後でいいと言われるような気もするが、どうしても今この瞬間に言っておきたかったんだ。
「ありがとう」
「――――それでしたら今度デートにでも誘ってくださいな」
目を見開いて驚いていたみたいだが、直ぐに細めてくすくすと笑うと何とも凄い無茶振りを仕掛けてきた。
「……ぜ、善処する」
「はいっ。期待してます」
そう言うとウィンク一つして、今度こそセシリアは機材を取りに行った。
気付けばこの場に残されたのは男二人だけ。
「……織斑、大丈夫か?」
「まぁ……正直かなりしんどい。やっぱ見栄は張るもんじゃないな」
言うや否やその場に座り込んでしまう。疲労もそうだがダメージも相当らしい。
箒か鈴か、或いはどちらにも大した事ないとカッコ付けたかったようだ。情報が漏れまいと、セシリアの前でもずっと耐えていた。
「……本当にすまなかった」
「別にいいって。何か考えがあってやったんだろ? 春人って言わないからそれが何か分かんないけどさ」
そう付け加えると頭を下げている俺に織斑は無邪気に笑った。
本当に何なんだろう、こいつは。まじで聖人か何かなのか。箒や鈴が惚れるのも分かる気がする。
「それよりもさ、どうすれば春人みたいに強くなれるんだ?」
――――えっ、何言ってんのこいつ。分かりそうだったのに一気に分かんなくなっちゃったよ。
「…………すまない、もう一回言ってくれ」
「どうすればお前みたいに強くなれるんだって」
急に難聴になっちゃう病気かと思ったら耳は健康そのもの。ただ打ち所が悪かったらしく、織斑の頭がおかしくなっているようだ。
あれだろ、所謂ギャグ補正的なやつで俺は勝ってるだけで、それを抜かれると途端に弱くなるやつだ。
ゲットバッカーズの二人だってあれだけ強いのにヤのつく職業の人達には絶対勝てないからな。似たようなものだろ。
『いや、でもこれ一夏引き下がりそうにないよ』
しょうがない、また筋トレの話をするしかないか。強くなるにはまず筋肉からだ。
『筋トレはセシリアと清香が言いふらしてるみたいだから知ってるよ』
えぇ……? あれってそんなに言いふらすような話か?
いつかセシリアに話した筋トレの話が広まっている事に困惑していると、織斑は手を合わせてきた。
「頼む。強くなりたいんだ、俺も強く……」
「…………分かった。教える」
「おお、サンキュー!」
『えっ、そんな簡単に言っちゃっていいの?』
私に良い考えがある。数々の漫画やアニメを見てきたこの私に不可能はないと思いたい。
『願望じゃんよ……』
まぁ、それは置いといてだ。こんなに必死に頼み込まれたら断れないよ。
ISを格納して俺も地面に座り込むと強くなるための方法を話す。とっておきの方法を。
「……まずはその場で一番弱い考えを思い浮かべろ」
「弱い考え?」
「……一番楽な考えだ」
聞き慣れない言葉に織斑は鸚鵡のように繰り返す。簡単に補足説明するとまた新しい疑問が浮かびあがったのか、首は傾げたままだ。
「普通こういう時って困難な方とか辛い事を考えるような気がするんだけど……」
「……人間、辛い事を考えようとすると限度があるが、楽な事なら限度なんてないからな」
「あー……まぁ、何となく分かるけどさ」
多少は心当たりがあるんだろう、短く声を漏らすも、それでも何故そんな事をと納得はしていないようだった。まずは一度やらせてみよう。
「……目を瞑って言われた事を想像してみろ」
「? 分かった」
言われた通り目を瞑る織斑。不思議そうにしているところへ、恐らくこいつが嫌がるであろう状況を伝えていく。
「……友達でも大切な人でもいい、今お前の目の前にはそいつがいる」
「お、おう」
……何でこいつ想像しただけで恥ずかしそうにしてるんだ。鈴が来てから途端に童貞臭くなったな。
『と、童貞が申しております』
うっせ。俺の場合は態とだ。俺はこのまま魔法使いになるんだよ。世界の法則塗り替えてやんぜ。
と、下らないやり取りもそこそこに、赤い顔で照れている織斑に気付かないふりして話を進める。
「……そいつが他の誰かにいじめられているとしよう」
「っ……!」
「……あくまでこれは想像だ。その時の織斑にとって一番楽な考えは、弱い考えはなんだ?」
いじめられていると聞いてそれまでの浮かれていた雰囲気ががらりと変わる。
怒り、不快、嫌悪。そんなごちゃ混ぜの感情を必死に抑えて、問い掛けた答えを吐き捨てた。想像するだけでも、口にするのも嫌なんだとこれでもかというほどに態度で伝えて。
「そいつを……見捨てる事だ……っ」
「……ああ、そうだな。俺もそれが正解だと思う」
『えっ、春人笑って……』
不思議なもので、心底嫌そうにしている織斑を見て何だか嬉しかった。織斑のこの反応は想像していた通りなんだが、それが嬉しかったんだ。
別に人が嫌がるのが好きな訳じゃない。そんな歪んだ性癖は持っていない。
「……なら、あとは簡単だ。その弱い考えに逆らえばいい」
「逆らう……?」
そこまで話すと漸く織斑はゆっくり目を開けて、どういう事か訊ねるようにこちらを見てきた。
「……何があっても、誰が相手でも、どんな困難な状況でも弱い考えに逆らえ」
「そうすれば強くなれるのか?」
「……きっとな」
「いや、そこ曖昧なのかよ」
「……俺に保証されても嬉しくないだろう?」
ジト目で睨んでくるのに対してそう返すと織斑は屈託のない笑みを浮かべた。
「そんな事ないって。もう少し自信持ってくれよ、師匠」
「…………誰が師匠だ」
「あははは、やっぱダメか」
勘弁してくれ、俺にそんなのは似合わない。ていうか鈴もセシリアもそうだが、そもそも俺に相談するのが間違ってるんだ。いい加減誰か気付いてくれ。
最近出来た新しい悩みに頭をフル回転させて考えていれば、織斑がさっきとは別の事を訊ねてきた。
「そういや春人って中学の時とか何して遊んでたんだ?」
「……基本的にインドア系だ」
ラノベとか漫画とか読んだり、アニメ見てたり、ゲームとかですけど。あとはガンプラ作ったりとか。最近はアニメと漫画しか見てない。
「へー……あっ、カードゲームやってたか? 遊戯王とか」
「……遊戯王なら俺も持ってる」
「お! じゃあ今度家から持ってくるからやろうぜ!」
『おお! 良かったね春人』
「…………それは別にいいが、さっきから何だ?」
『えぇ……?』
さっきから織斑が何をしたいのか分からない。さすがに遊ぼうと誘っているのは分かるが、何故相手が俺なのかとか色々ある。
「いや、何かずっとドタバタしてて、春人と遊んだ事なかったからさ」
「……箒とか鈴がいるだろう」
「俺は春人と遊びたいんだよ。もっと春人の事知りたいしな」
即答だった。何故か織斑の中で箒や鈴よりも俺の方が優先順位が高いらしい。
ここまで来ると何か裏があるのではと思いたくなってくる。
「……それだけか?」
「? おう」
「…………本当に珍しいやつだ」
「そうか? 友達と遊びたいとか、友達の事もっと知りたいとか普通だろ?」
おう、その孤高である俺に突き刺さる台詞やめろ。そんなん知らんがな。
「一夏ぁー!」
「……来たか。まぁ対抗戦終わったらな」
「おう! 約束な!」
とりあえずクラス対抗戦が終わったら織斑と遊ぶと約束したタイミングで箒と鈴が帰って来た。
そのまま織斑の元へ向かうのかと思えば、二人の邪魔しては悪いと織斑から離れた俺の元へ。あれ?
「あんた、ふざけてないでもう少し加減を覚えなさいよ!」
「『す、すみません』」
織斑に聞こえないように小声だったが、それでも鈴の怒声に身を竦めてしまう。
一頻り怒ったあと、今度こそ鈴はタオルを持って織斑の元へと。そして何故かまだ何も言わない箒さんがここに残っている。
「……織斑のところに行かないのか?」
「今は鈴が行っているからな」
二人に協力する時に決めた、お互いがお互いのアピールタイムの邪魔をしないという不可侵条約は守られているようだ。鈴の後に箒が行くらしい。
「それよりも一夏には謝ったのか?」
「……はい、謝りました」
「むぅ……」
鈴に怒られていた影響か、地面に正座している俺に箒はいつものトーンで訊いてきた。
正直怒っているかどうか分かりにくい。下を向いているせいで表情も見えないから余計だ。しかし、それも直ぐに箒の方へ向ける事になる。
「……っ?」
「ふふっ、驚いたか? こっちを見て話さないからだぞ」
「???」
前屈みになって俺の頬へ冷たい飲み物を押し当てた箒は悪戯が成功したと楽しげ。とても怒っているように見えない。
訳が分からず、そのまま素直に聞いてしまった。
「……怒ってないのか?」
「私の代わりに鈴が言ってくれたからな。また言うのも可哀想な話だろう。それにちゃんと謝ったんだろう? ならそれでいいではないか」
そう言って手渡してきたのは俺の分の飲み物。それを受け取ると箒は更に続ける。空いた手で優しく俺の頭を撫でながら。
「春人にもそういう一面があっただけだ。お前の良いところは私も、一夏も、セシリアも分かっているから安心しろ。鈴もこれから分かるさ」
だから安心しろと、言葉にはしてないが何度も何度も頭を撫でて伝えてくる。優しさが身に染みた。
「……そうか。ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
お礼を言われたのが嬉しかったのか、微笑んでそう返す箒はまだ撫でている手を止めない。
「…………箒?」
「ん? 何だ?」
「……いや」
呼び掛けても逆に不思議そうにされてしまった。どうなっているんだ。
結局、鈴と交代するまでこれは続いていた。何が楽しいのやら終始嬉しそうに、楽しそうにして。