IS学園での物語 作:トッポの人
それと今回からローマ数字を使います。
読み方はワンとかツーとか読んでもらえれば。
いよいよクラス対抗戦当日。アリーナの壁に寄り掛かって俺は選手が出てくるのを待っていた。
賑わいを見せるアリーナ。対戦相手は再会したもう一人の幼馴染。盛り上がる観客の前で、これまでの訓練の成果を見せろ。織斑。
『何そのSEEDの次回予告みたいなの』
さ、最近見ちゃったからつい……。でも何か初戦の相手が鈴だって考えるとちょっと悲劇的というか、あいつもツイてないというか。
『じゃあ、試合の組み合わせが発表された時、あんなに一緒だったのにが流れていたに私は花京院の魂を賭けるよ!』
花京院……。
ちなみにクラス対抗戦は四クラスのリーグ形式で行われる。優勝というのはあくまでおまけであって、真の目的はお互いの実力を肌で感じる事だかららしい。
そこで我がクラスの初戦の相手として二組が選ばれたのだった。 いずれは戦うと分かっていても少し急過ぎる展開だ。
「ぜぇ、ぜぇ……見つ、けたぁ!!」
「……ん?」
俺の直ぐ横で大声をあげる誰かに目を向けると肩で息している相川の姿があった。鋭い目付きで俺を睨み付けてくるのは恐ろしいものがある。
うおっ、何この人こわっ。
「……どうした相川」
「どうした、じゃないでしょ!? クラス代表の織斑くんの試合があるのに激励に来ないクラスメイトがいる!? 他の皆は来てるんだよ!?」
『あーあ、だから言ったのに』
「…………いや、それには深い訳が――――」
やばい、何かめっちゃ怒ってる。だってそこに俺が行ったら他の皆様に明らかに迷惑だなって思った訳でですね。
「言い訳はいいから早くこっち来る!!」
「は、はい」
珍しく理由を説明しようとしたものの、遮るように放たれた相川の怒鳴り声には逆らえず、大人しく従う事に。
何か最近こういうの多い気がする。その度に俺は男性が弱くなったんじゃない、ましてやISが出てきたせいでもない。単純に女性が強くなったんだと思うようになった。
「こちら相川! ターゲット確保、今から織斑くんのところに連れていくよ!」
現実逃避していると相川が携帯片手に出来る人みたいに他の誰かに向けて連絡していた。どうも話し方的に携帯を使って複数の誰かと連絡を取り合いながら俺を探していたらしい。
……えっ、何それどういう事なの?
『PⅠ! PⅡ! PⅢ! 何をやっている……!』
ルルーシュくんちゃうで。それPⅣがあかんかった時のやつや。今回成功しとるから大丈夫やで。
そのままぐいぐい引っ張られ、着きましたのはアリーナのピット。我がクラスメイト達がこっちを見るなり一斉に嫌そうな顔をしてくる。いつも通りの光景だ。
言う事言ったら直ぐに退散するから安心して欲しい。
「春人!」
「…………ああ」
名前を呼ぶと、態々ISで覆われた右手を解除して俺と手を合わせようしようとしてくる。
未だ慣れない織斑とのこのやり取り。若干遅れて俺も手を翳せば二人の手が重なり、良い音がピット内に木霊した。
「何処ほっつき歩いてたんだよ?」
「…………いや、まぁ、そこら辺をぶらりとな」
「何だそりゃ。今更散歩するとこでもないだろ」
「……意外と新鮮だったりするものさ」
「そんなもんか?」
言えない。横で物凄い目付きで言うなと睨み付けてくる相川がいるから本当の事なんて言えるはずがない。
のらりくらりと織斑からの追及をかわしていると、俺を探しに行っていた残りのメンバーも帰ってきた。セシリア、箒、布仏の三人だ。
「春人さん! 一体何処にいらしたんですか!?」
「……そこら辺だ」
「はるるーん、はるるん探すのに疲れたからおんぶしてー」
「…………分かった」
追及してくるのにセシリアも加わり、布仏が俺の手を引きおんぶするように催促してくる。とてもカオスな状況が出来上がっていた。
唯一何も言わない箒だが、セシリアの後ろでニコニコと微笑んでいるだけ。ただその目には後でなと恐ろしいメッセージが込められていた。
「さぁさぁ、早く櫻井くんも何か一言!」
「お、良いアドバイス頼むぜ!」
もう時間も迫ってきたところで何か相川から無茶振りが始まった。織斑も何故かノリノリで、期待に満ちた目を向けてくる。
待て待て。俺はそういうの経験ないんだよ。ど、どうすればいいんだ? 教えてミコトちゃん!
『んー。鈴は一緒に訓練してこっちの手の内分かってるから気を付けろーとか?』
「……鈴にはこっちの手の内が分かって――――」
「それはこのセシリア・オルコットが言いましたわ!」
ミコトが言っていた事をそのまま言おうとしたら、セシリアが既に伝えていたらしい。
それにしてもその胸に手を当てて誇らしげにするポーズとか取る必要あったんだろうか。
『なら近接戦における心構えでも』
「……近接戦は――――」
「近接戦の心構えなら私が教えておいたぞ」
今度は腕を組んで得意気に頷いている箒が言っていたようだ。再び遮られてしまう。
仕方ない、ありきたりだがこの言葉を送るとしよう。
「……頑張――――」
「頑張れーなら皆言ったよー?」
「…………そうか」
「櫻井くん、遅れたから罰ゲームで同じ事言っちゃダメだからね」
「……むぅ」
背負っていた布仏からも遮られ、万策尽きた状態となった。集まったクラスメイトも布仏の言葉に頷いていた。
皆が言ってるなら俺もそれでいいじゃんと思うが、相川曰く来なかった罰ゲームとの事。何とも厳しい罰ゲームだ。
『ありゃりゃ、罰ゲームなら春人が考えないとダメだね』
ぐぬぬぬ……! 厄介な罰ゲームを考えたな……!
そして遂にはミコトの協力も得られなくなってしまった。ここからは俺のソロプレイとなる。いつもと変わんなかった。
「……織斑、一回しか言わないぞ」
「おう!」
「……これは勝負における一つの真理だ」
「うおお、何か凄いの聞けそうだな!」
『おお? 何々?』
「勝負の真理って何だろう……?」
「分かんない……」
俺が言う度に織斑だけじゃなく、ミコトや周りにいたクラスメイトまでもが謎の期待を寄せてくる。ひそひそと話している声がここまで聞こえてきていた。
や、やめろ。腹が痛くなってくる……! 偉そうな事言ったけど、まじで大した事ないから! くっそ、早く言ってこの場を去ろう……。
「…………いいか、良く聞け」
「…………」
織斑が静かに頷くと妙な緊張感で急に静かになった。誰もが俺の言葉を聞き逃さないようにしている。ゴクリと誰かの喉を鳴らす音が響いてからそれは遂に発せられた。
「……勝てば、負けない」
「「「…………えっ?」」」
『ぷっ、く、くくく……!』
「勝てば……負けない……?」
「おー」
神妙な顔で俺の言葉を繰り返す織斑と感嘆の声をあげる布仏を除く全員の時が止まる。一瞬静かになったところにミコトの必死に堪える声が良く聞こえた。
聞き間違いかと思っていたのか、俺を見てから繰り返す織斑を見て、もう一度全員が一斉に視線を向けてくる。一体お前は何を言っているんだと。
すまない、もうそれしか思い付かなかったんだ。本当にすまない……。
「ん、んん? は、春人? 何を言っているのだ?」
「その、すみません。春人さんが何を仰ってるのか、わたくしも良く分からなくて……」
「えっ、ちょ、櫻井くん?」
箒やセシリア、相川までもが困惑する中で、顎に手を当ててぶつぶつと小声でずっと繰り返していた織斑が何かに気付いたように顔をあげた。
「確かに……! 勝てば負けない……!」
「「「えぇ……?」」」
「勝てば負けなーいっ!」
何か二人には通じたらしい。呆れている皆を他所にキラキラした目で織斑は言い直し、布仏も右腕を上げてそれに続く。
いや、この変な団体作ったの俺なんだけど、何なんだこれ。どうしてこうなった。
「よっしゃ、盛り上がったついでに何かテンション上がる曲でも教えてくれよ」
「……Kir Royalか、BGMだがAttack the systemでも聴いてろ」
「おお、早速聴いてみる!」
「……じゃあな。頑張れよ」
「おう!」
曲名を聞くと早速携帯を弄って調べ始めた。片方は今言ったように歌ではなく、BGMだが盛り上がるのには変わらない。少なくとも俺は盛り上がる。
さて残り時間も僅かなのでそのやり取りを最後に箒を残して全員がピットから退出した。幼馴染の特権を生かしたとも言える作戦だ。
心の中で箒をひっそりと応援しつつ、この場を去ろうとした時。
「はるるん、何処行くのー?」
「っ!?」
背中から発生したのほほんとした声に呆気なく捕まってしまう。しまった、布仏を背負っていたのをすっかり忘れていた。慣れって恐ろしい。
「あら、春人さん? どちらへ行こうと?」
「…………いや、その」
セシリアもにこやかにして問い掛けるのだが何故だろう、とても恐ろしく感じるのは。
「櫻井くん、正座!」
「は、はい」
言われるがままに布仏を背負った状態で正座。いつでも降りれるのに何でこいつは離れないんだろう?
そんな疑問などお構いなしと皆の前で始まる今回来なかった事へのお説教はなんとも言えないものがあった。
「あれ? 櫻井くんってさ……」
「うん、もしかして……」
「薄々勘づいてたけど……」
「「「ヘタレ?」」」
『遂にバレてしまったか』
おう、待てい。別にヘタレじゃないわい。
いかん……周りから聞こえてくる俺の評価がクール(笑)、不良、不思議属性に更にヘタレが追加されそうになってる。ここはそうではないのだと、ガツンと言う必要があるな。
「……と、何か言う事ある?」
一通り言い終えたのか、腕を組んでふんぞり返る相川がここぞとばかりに訪ねてきた。
まさに千載一遇、俺がヘタレではないと証明するこのチャンスを逃す手はない。
両手を地につけ、頭を下げると声高らかに叫んだ。
「本当にすみませんでしたっ!」
「えっ。な、何ですか?」
「いや、うん。いいんだけど……何でそんな勢い良く謝ってるの?」
所謂土下座での俺の発言に戸惑いを見せるセシリアと相川。俺がガツンと言ってやった結果だろう。
『顧客が求めてたガツンとは違うんだよなぁ……』
知ってたけど、止められなかった。反省も後悔もしている。
二人のお説教が終わったので試合を見ようと観客席側へ移動。相川は友達と見ると約束していたらしく、観客席に到着するなり別れた。その入れ替わりで簪と合流したという訳だ。
「……簪は準備しなくていいのか?」
「準備は出来てるから直前までここにいたい」
「…………そうか」
「むむむ……!」
合流するなり繋がれた手を僅かに握って離れたくないと伝えてくる。それに更に横でセシリアが唸って不満を表していた。いや、手を繋ぐのもそうだが、それでセシリアが不機嫌になるのは何故だ。
ちなみに簪は自らの専用機である未完成の打鉄弐式で出るらしい。未完成と言っても、布仏先輩を初めとした先輩達の協力もあって八割、九割は出来ているそうだ。微力ながら俺も協力させて貰ったが正直いらなかったと思う。
出来ていないのも荷電粒子砲だけで、それ以外は問題なく動かせるとの事。荷電粒子砲が使えない分も打鉄に標準搭載されている『焔備』とかいうアサルトライフルで補うとか。未完成だからと侮ると痛い目を見るのは間違いない。
「……これから始まる試合、三人はどう見る?」
「単純に一夏さんが接近出来るかが問題かと」
「うん……データを見た限りでは鈴の甲龍に近付くのは至難」
「おりむーはやれば出来る子だから大丈夫ー」
聞いといて何だが布仏はとりあえず置いといて……二人とも同じ意見のようだ。織斑の白式は何はともあれ近付かなくては話にならないブレオンだ。俺のラファールよりも酷い。
対して鈴の甲龍は近距離重視らしいのだが、中距離も充分対応出来る機体。弾幕を張って近付けなくさせるのも出来るし、牽制しつつ近距離に持ち込むのも出来る。鈴も一撃必殺の『零落白夜』があると知っているから無理に近接戦には持ち込もうとしないだろう。初戦にしては色んな意味で強敵だった。
『ていうか三組の人可哀想だね』
それな。代表候補生らしいけど、そもそも織斑以外代表候補生だし、もっと言うと三組以外専用機持ちだからな……。持ち前の技術で戦うしかないとか泣けるぜ。
『でも普段の半分のパワーしかないけど、そのISと相性が最高に良いのと持ち前の技術で凄く強いとか好きでしょ?』
何だよその設定。普段の半分のパワーってのが気になるけど、すっごい好き。
好きなんだけど、そもそもISと操縦者に相性とかってあるのか?
『あるよ。それが私達の成長の早さに関わってくるし』
そこでふと授業で山田先生が言っていた事を思い出した。へーとか、ふーんとか、ミコトがやたら興味津々にしていたから覚えている。
ISとは時間に応じて操縦者を理解していき、性能を上げていく。その先にあるのが
『まぁ、間違ってはないよ。時間を掛ければいつかは第二次移行はする。でも移行するタイミングはまちまちで、むしろ第二次移行なんてしない方が多いくらいだよ』
そういえば山田先生も第二次移行した機体はとても珍しく、研究対象になるとも言っていた。それだけ珍しいんだろう。
で、それに至るのにISと操縦者の相性が関係してるって事か?
『まぁね。正確には、時間×相性×想いの強さで決まるんだよ』
何だその公式は。
『まぁ説明するよ。時間はそのまんま、私達とどれだけ一緒にいたか。で、相性が結構厄介で操縦者とコアのやりたい事が合致してないと良くならない』
なるほど、つまりコアは近接戦が好きなのに操縦者のせいで射撃をやらされてると悪くなるって事か。
『
聞いてみれば極々当たり前の話だった。簡単に言えば自分の趣味と合う人とは仲良くなれて、合わない人とは仲良くなれないってだけ。
それにしてもやっぱり聞いてみて正解だった。フィンドールキャリアスさんはとっても物知りなんや。
ちなみに俺とミコトちゃんの相性はどうなの? 俺は勝手に悪くはないと思ってるんだけど。
『最高やで。他の人とは赤い炎になるのに、春人となら青い炎になるくらい凄いんやで』
何で炎で例えたの……? 凄く分かりにくい……。ていうかミコトのやりたい事とか分かってないんだけど。
『――――春人が春人らしくいてくれればそれでいいよ。それが私は大好きだから』
う、うん? 俺らしくって……良く分からんが今のままでいいのか?
『イエス、イエース!』
んー、そっか。なら最後の想いの強さってのは何だ?
『これもそのままかな。操縦者が何をしたいのかっていう想いが強ければ、私達もその人の事をより早く理解出来るから』
ふーん、ちなみに俺はどうなんだ?
『結構強い方だけど、身近にもっと凄い人いるからなぁ……』
身近でもっと凄い人。そう言われると我がクラスの担任であらさせられる織斑先生が真っ先に浮かび上がる。ISに乗る上で知らぬものはいない代表格だ。
いや、そりゃまぁ織斑先生には敵わんよな。むしろ世界最強とただの学生を比べないで欲しい。
『ふっふっふっー、実はねー……おっと』
と、呆ける時間が長かったためか左右から腕を引っ張られて強制的に会話を中断させられる。
「春人、どうしたの?」
「……ミコトとISの事で話していた」
「ISの事で……ですか?」
「……ああ。まぁ気にするな」
既に簪や布仏にもミコトの事は話してあったため、特には言われない。
一部だけでは今更過ぎて不審に思われるのも仕方ないだろう。ただ授業で習ったのと比べるとあまりにも新事実が多いため、変に混乱させないためにも言わない方がいいと考えたのだ。
「天気悪いね……」
「てるてる坊主吊るしてたのにー」
「雨が降らないといいのですが……」
「……そうだな」
誤魔化すように視線を空へと向ければ分厚い雲が空を覆っている。今にも降りだしそうな雰囲気の空は何故か嫌な予感がした。