IS学園での物語   作:トッポの人

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第23話

 第一試合、織斑と鈴から始まるクラス間の戦いの幕が切って落とされようとしていた。

 鈴のIS、甲龍は小柄な鈴に不釣り合いなマッシブな機体だ。簪やセシリアの話では見た目通り、相当なパワーがあるらしい。ていうか名前的にもう別次元の戦闘力を持ってそうなんだけど。

 

『くそったれ! パワーが貴様ならスピードは俺だ! 一生掛けても追い付けんぞ!』

 

 それ逃げようとしたら直ぐに追い付かれるやつや。お久し振りですからのヒャア! ってやられるやつや。

 でもまぁ、確かに速さで撹乱するしかないと思う。自分の得意な事で勝負を仕掛けるのは間違いじゃない。 それを鈴相手に出来るかどうかは置いといて。

 

 《っ……行くぜ、鈴!》

 《来なさい、一夏!》

 

 ……一応、戦う意志はあるようだ。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているが、それでも切っ先を鈴へと向けている。鈴もそれに応えるように青竜刀を織斑へと向けた。

 

「大丈夫……なのでしょうか?」

「……さぁな」

 

 隣で見ているセシリアも若干不安なようだが、もう織斑にやらせるしかない。ダメだったらその時はその時だ。箒が慰めてやればいい。多分R指定になるから近付かないように注意だ。

 

『一夏が勝ったらどうするの?』

 

 その時は戦いで疲れた鈴を保健室まで連れていかせて……そっから先はこれまたR指定になる。

 

『基本R指定なんだね……』

 

 幾ら織斑が聖人とはいえ、男子高校生だしな。きっと手を出すだろう。

 完璧だ……完璧過ぎるプランに思わずブルッちまうぜ……。

 

「……はるるんのえっちー」

「…………」

「むー」

「「?」」

 

 そんな事を考えていたら背中から批難する声が。油が切れたブリキの玩具のようにぎこちなく首を動かせば、赤くなった頬を膨らませてこちらをじとっと睨む布仏がいた。簪とセシリアからも何事かと見られて非常にいたたまれない。やっぱ一人最高だわ。

 

 《ぜぁぁぁ!!》

 《近付かせる訳ないでしょ!》

 《ぐぁっ!?》

 

 さてさて、試合開始と共に織斑が突撃。一直線に鈴の元へ。しかし甲龍の浮遊部位の装甲が一部スライドしたかと思えば、その進路の途中で何かに当たったかのように織斑が大きく仰け反って止められてしまう。鈴の言葉通りとなった。

 それだけではなく、大型スクリーンに映された織斑のシールドエネルギーが減る。何らかの攻撃を受けたという事だ。

 

「『衝撃砲』……これ程厄介なものとは思いませんでしたわ」

「近接しか出来ない白式ではやっぱり難しい……」

「おりむー頑張れー!」

 

 二人の反応から早速何かしら使ったらしい。

 

「……『衝撃砲』?」

「はい。空間に圧力を掛けて砲身を形成し、その際の余剰で生じる衝撃を砲弾化して撃ち出す第三世代兵器ですわ」

「…………なるほど」

 

 キャンディ良く分からないクル。ミコトちゃん、十文字以内で説明して!

 

『見えない空気砲』

 

 なるほど。弾はおろか、砲身すら見えない空気砲か。でもそれなら射角から外れればいいんじゃないの?

 

『全方位に撃てるんだよ。ほら』

 

 そう言うと真下から攻撃を仕掛けようとする織斑がまた吹き飛んだ。鈴は下を向いてすらいない。本当に全方位撃てるのか。

 

『ハイパーセンサーで大気の乱れとか探ろうとしても分かるのは殆ど撃った後だから、それじゃ避けられない』

「確実に避けようなんてありませんわね。とにかく動いて的を散らすしか……」

「うん、それしかない。分かってたけど強敵」

 

 これから戦う簪も改めて鈴の強さを認識したようだ。セシリアが出した案に同意する。それを踏まえた上で頭の中でシミュレーションしているようだが……。

 

「……そうか? 意外と避けられそうだが」

「「『え?』」」

「はるるん、分かるのー?」

「……まぁ、な。見てろ」

 

 確かに弾丸も砲身も見えないけど、ほぼ完璧に把握してるっぽい。その証拠として三人に実況する事に。

 

「……撃った。命中する」

 《ぐぅ!》

 

 言葉通り、織斑が仰け反るも直ぐに体勢を立て直して向かっていく。

 

「……今度は避けた」

 《やるじゃない! どんどん行くわよ!》

 

 今度は織斑の僅か右の地面が何かに叩き付けられたように窪んだ。

 

「……? 何だ、いっぱい撃てるのか?」

 

 連射速度と弾の大きさもコントロール出来るらしく、小さな窪みが地面を作っていく。

 回避、回避、命中、回避……その後も的中させていき、もうまぐれなんて言えないレベルの的中率に左右にいる二人は唖然としていた。

 

「す、凄い。何で分かるの?」

「……鈴は感情剥き出しだから分かりやすい」

「か、感情ですか?」

「全然分かんない……」

「……そうか」

『えっ、飛天御剣流でも習ってたの?』

 

 るろ剣のおかげで中学の時に剣道部に入ろうかと思った事はある。結局入らなかったけど。あとヒカルの碁のおかげで碁に目覚めそうになった。やらなかったがな。

 

 鈴は普段から思うがまま、気が向くままに動いている。感情に素直といえばいいのか。動物的……というよりは、反射神経も勘も良いからまるで猫のようだ。

 だからこそなのか、どの攻撃にも殺意じゃないがありったけの闘志が込められている。非常に分かりやすい。

 

『つまり鈴は鈴ちゃんじゃなくて、鈴にゃんだったって事?』

 

 それちょっと良く分かんないですね……。

 

 《一夏! なぁに手ぇ抜いてんのよ!!》

 《何を言って……!》

 

 不可視の攻撃を一切休めずに鈴が吼えた。避けながら反論しようとする織斑を待たずに続ける。

 

 《気付かないとでも思ったの!? 模擬戦の時からずっと、あんたは本気じゃなかった!》

 《くっ!》

 

 熾烈さを増していく攻撃に苦悶の表情を浮かべる織斑。いや、恐らく図星なのだろう。だから言い返せない。

 

 《私は強くなった! もう昔の私じゃない! あんたはどうなのよ!?》

 《俺、は……!》

 《見せなさいよ、あんたの本気!》

 

 ……ここまで言われたらやるしかないぞ、織斑。もしやらなかったら男が廃るぜ。ハッピーエンドの条件は満たしてるしな。存分にやってやれ。

 

『ハッピーエンドの条件って何?』

 

 ハッピーエンドの条件は……ハンサムが勝つ事さ。

 

『ヒュー!!』

 

 そんな事を考えていたら織斑の腹は決まったらしく、それまで見せていた迷いを完全に捨てて鈴と向き合った。

 

 《分かった……本気で行くぞ!》

 《最初からそうしなさいよ!》

 

 改めてお互い向き合い、今度こそ本気の勝負が始まる……その時だった。

 

「えっ!?」

「な、何ですか!?」

「はるるん!」

「……ああ」

『あれは……!』

 

 空から光の柱がステージ中央に降ってきて、アリーナのシールドを突き破った。だが幸い観客も織斑も鈴も無事なようだが、土煙が上がっている中心に何かがいるらしく、二人は視線を外さない。

 

 《I……S……?》

 《鈴!》

 

 次の瞬間、土煙から見せた全身装甲のISが腕を突き出した。そこから出た光の帯が二人を貫こうとするも何とか回避に成功。

 しかし、その光は再びアリーナのシールドを破って空へと消えた。ISに使われているものよりも堅牢なシールドが、である。

 

「「「きゃあああ!!」」」

 

 阿鼻叫喚となる観客席。安全だと思われていた場所は安全ではなくなった。むしろISがない分、下手をすれば織斑達よりも危険だ。ならばこの場から逃げようとするのは当たり前の事で。

 

「あ、開かない!」

「何で、何でよ!?」

 

 しかし、開いていた扉は何故か閉ざされていて一人も逃れられない。叩けど叫べど、重く固い扉は動く気配すらなかった。かなりまずい状況だ。

 

 《専用機持ち、全員聞こえるか!?》

「こちらセシリア・オルコット、聞こえますわ!」

「更識簪、聞こえます」

「……櫻井春人、聞こえています」

 《織斑一夏! 聞こえてます!》

 《凰鈴音も同じく!》

 

 珍しく焦ってる様子の織斑先生からISを通じて通信が入る。代表候補生は有事の際への対処方法も訓練されているらしく、ただの学生よりも遥かに頼りになるとの事。

 

 《避難状況は?》

「扉がロックされているらしく、開く気配がありません」

 《ちっ、直ぐに解除させる! 織斑達も部隊を行かせるから避難しろ!》

 《ダメだ、俺達がいなくなったらこいつが何するか分からない! それに――――》

 

 織斑の言う通りだ。あのISは今でこそISを展開している織斑達を狙っているが、いなくなったら誰を狙うか分からない。部隊がどれくらいで来るか分からないが、下げるべきではないだろう。

 

 《それに今の俺の弱い考えは、逃げられない皆を置いて俺だけ逃げる事だ! そうだろ、春人!?》

「…………ふっ」

 

 ――――待って、何で俺に聞いてきたの? ていうかそんな聞き方したら、まるで俺が何かしたみたいになるじゃん。

 

『まぁ、実際春人が教えた事ですしおすし』

 

 くそっ、変な事教えなければ良かった。

 

 《へへ、だったらそれに逆らわなくちゃな!》

 《一夏……》

「春人さん……」

「春人……」

 

 噴き出した吐息のような笑いを織斑は合ってると勘違いしたらしく、ノリノリで戦いへ。

 それを見て戦いの最中だというのに鈴がトゥンクしてる。織斑が男の子してるから無理もないが、何故簪とセシリアもトゥンクしてるの? しかも俺の名前呟いて。ふっしか言ってないけど。

 

 《ま、待て、一夏! くそっ、急いでロックを解除させろ!》

 《は、はい!》

 

 向かっていく弟を見て、織斑先生の焦りが更に増す。普段は呼ばない名前で呼んでいるのが良い証拠だ。

 

「織斑先生、ISを展開して扉を破壊すれば……」

 《ダメだ。あいつがISに反応している以上、そこで展開すればお前達もターゲットになる可能性がある》

 《同じ理由で部分展開もダメです!》

 

 確かにあの全身装甲は織斑と鈴に夢中なようだが、ターゲットはあの二人だけという事はないだろう。ISを展開すればこちらも対象になり、他の生徒に危害が及ぶ可能性がある。

 

「他に逃げ道は?」

 《……ない。ロックを解除されるのを待つしかない》

「……すまない、少し退いてくれ」

「ノックしてもしもーし」

 

 扉の周りにいた女子を掻き分けてたどり着いたが、ノックして確認するが中々重厚な扉だ。爆弾を使えば壊せるかもしれないが、それではあのISに狙われる可能性もある。

 

「……織斑先生、後で謝ります。布仏、降りろ」

「うん!」

 

 あれ、いつもは全然言っても聞いてくれないのに何で素直に降りたの?

 

 《櫻井くん?》

 《おい、櫻井。何を――――》

『春人? どうやって避難させるの?』

 

 ISも、爆弾も使わず、他に逃げ道もないので正面から堂々とこの扉をどうにかして開ける……そんな方法でだ。

 

 まぁ簡単に言えばゴリ押しだな。俺の得意な分野だ。任せろ。

 

「……離れてろ」

 

 左右の扉に手を掛ければ一息で全開まで持っていった。その際、各部から破壊音が聞こえてきたのは気のせいと思いたい。

 

「「「《――――》」」」

『わぁお……』

 

 振り返れば唖然としている女子達を尻目にあのISを確認。こちらには目を向けていない事から今の程度ならセーフのようだ。

 

「……開いたぞ」

 

 背後に広がった逃げ道を指で差して言えば、その一言が切っ掛けとなり、雪崩のように逃げ込む女子達。

 

「押さないでください! 焦らないでくださいませ!」

 《でかした櫻井! そのまま次も頼む! オルコットはこの場で避難誘導! 更識、布仏は櫻井に付いていき、別箇所で避難誘導だ!》

「「了解!」」

「りょーかーい!」

「……了解」

 

 雪崩から何とか脱出して一息つく間もなく、また別の近くの扉を開けに行こうとした時だった。

 

「櫻井くん、ありがとう!」

「うん、本当にありがとう!」

「…………ああ」

 

 やっぱり何度言われても慣れないものだな。素っ気ない返事をして次の場所へと向かう。

 

 《織斑、凰、聞こえるか!? 櫻井達が他の生徒を避難させている! それまで持ちこたえろ!》

 《了解!》

 《了解! やるじゃん!》

 

 そうして三ヶ所目の扉を開いた時だった。何かが空から降ってきて、俺の目の前に立ちはだかる。織斑達が相手しているISと同型のようだった。

 

 あらやだ。

 

 《レーダーに反応! もう一機!?》

 《隠れていたのか……!》

 

 通信越しに先生方の焦った声が聞こえてくる。いや、あの、そのもう一機が目の前にいるんですが……。

 

『っ、春人!!』

「っ!」

 

 頭に振り下ろされた拳をガードすると、踏ん張る両足がコンクリートを砕いた。

 それに目もくれずに始まるラッシュ。右、左、右と順序良くガードの上から叩き付けてくる。

 

 痛いです! やめてください、死んでしまいます!

 

『えぇ……ISが殴ってるのに痛いで済んじゃうの……?』

 

 何か良く分からんが、こいつが手加減してくれてるからだろうな。相当なSだぞこいつ。多分打たれ弱いけど。ガラスの剣と一緒だ。一回だけだけど朱雀を一撃で倒せるやつだ。

 

『何の話?』

 

 ゲームの話だよ!

 

「春人!」

「春人さん!」

「……早くしろ」

「「っ!!」」

 

 このISの猛攻を防いでいると近くで避難誘導していた簪と誘導を終えてこちらに来ていたセシリアが呼んでいる。二人とも声的に焦っているようだ。

 正直な話、ここで援軍はありがたい。ISも使えないが、それでも三人寄ればなんとやら。人が増えれば色々思い付く事もあるかもしれない。早くたしゅけて。

 

「分かった……! 直ぐに戻るから!」

「それまでどうかご無事で!」

「…………ん?」

 

 そう言うと再び避難誘導を始めるべく、何処かへ行く二人。

 

 あれ、お二人さんってば何処行くのさ……。おいおいおい、全然分かってないぞ!? 普通に考えてこのままだと無事じゃなくなるから!

 

「――――!!」

 

 こっちの戸惑いなんてお構いなしにISは左拳を振りかぶる。これまでにない大振りはラッシュでは埒が開かないと判断したからか、威力重視に切り換えてきた。

 

 うおおお、こんちくしょう! 根性勝負じゃあああ!!

 

「シッ!!」

 

 それを見てやられるだけだった俺も初めて攻めに転じた。繰り出される左拳目掛けて、右肘を叩き込む。

 すると哀れにも左拳は砕けてしまい、指とかの破片が辺りに飛び散った。

 

『え、え?』

「――――」

 

 まるであり得ないものでも見ているかのようにISはじっと壊れた左手を見つめていた。目の前にいる俺の事などすっかり忘れているらしい。

 

「……本当ならやられた分やり返すところなんだが……」

 

 右手を閉じたり、開いたりして感触を確かめながら話す。聞いているかどうかは分からないが不意討ちなんてしたくないからな。

 

「……これでも一応フェミニストなんだ。だから一発だけにしておく。ただし――――」

 

 ISを使ってるって事は、全身装甲で分からないがこいつは女性なんだろう。男だったら同じ回数殴ってたけど。

 右手を固く握り締め、半身後ろに下げると続きを口にした。

 

「一撃だ」

「――――!!」

 

 ちゃんと俺の話を聞いていたらしく、慌てて両手を交差させてガード。その上から関係ないとばかりに右拳をぶつけて振り抜くと、派手にぶっ飛んでいく。

 進行方向にある観客席を壊していくも、まだ止まらない。終わりである壁に激突する寸前でまた新たに現れたISに受け止められて漸く止まった。

 

 ……えっ。三機目? 嘘ですやん。ていうか大袈裟だな。わざと後ろに飛んでただけだろうに。

 

『いや、あの……あれ本気……』

 《新たにもう一機出現!》

 《……櫻井!!》

「……はい」

 

 何か余計なものを出してしまった感が半端じゃない。これ以上怒られないよう、通信越しに聞こえる織斑先生の怒号に大人しく従うとしよう。

 

 《ISの展開を許可する! その二機を撃破し、織斑達の援護に向かえ!》

 

 …………えっ、何だって? 急に難聴になる病気が出てきて良く聞こえなかったな……もう一回言ってくれ。

 

『ISの展開を許可する! その二機を撃破し、織斑達の援護に向かえ! だって』

 

 えっ、俺の相方は?

 

『いないですねぇ』

 

 おかしくね? 何で一人で二体相手して、しかも二人の援護に行くのさ。普通逆じゃね? 俺援護される側だろ。

 

 《頼む……! 凰を、一夏を助けてやってくれ……! 更識はまだ動けないし、お前しかいないんだ……! 頼む……頼む!》

 

 言い淀んでいると、初めて聞く弱々しい織斑先生の声が聞こえた。

 震える声を必死に押し殺して懇願する姿は世界最強なんて堅物ではなく、何処にでもいる、たった一人の弟を心配する姉としての織斑先生。

 

『春人、どうするの?』

 

 決まってんだろ。

 

「……了解。目の前の二機を撃破後、織斑達の加勢に向かいます」

『だよね!』

 《っ!! あ、ああ!》

 

 あんな事を言われて断るなんて出来そうにもない。受ける以外の選択肢なんてなかった。

 了承の返事をすれば、途端に明るくなる織斑先生とまるで分かっていたかのように嬉しそうに言うミコト。

 

 《よし、山田先生は織斑と凰のサポートを!》

 《了解です!》

 《安全最優先でお願いします!》

 

 早速ラファールを展開して敵IS二機と向き合うとそんな会話が。

 

 あれ、俺にはサポート付いてくれないの?

 

 《櫻井には私が付く。これは時間との勝負だ。一気にケリを着けるぞ!》

「……了解」

 

 と思いきやとんでもなく強力なサポートが付く事に。これが百人力ってやつか。頼もしい限りだ。

 

 《春人!》

「……箒か」

 

 その時、織斑先生との通信に箒が割り込んできた。中々怖いもの知らずな事をする。織斑先生との付き合いなんて俺よりも遥かに長いだろうに。

 

 《ちゃんと無事で帰ってくるんだぞ!》

「……分かってる。織斑と鈴はちゃんと無事に帰す」

 《春人もだ! お前も無事で帰ってくるんだぞ! いいな!?》

「…………善処する」

 

 曖昧な返事をして箒との通信が終わった。

 態々そんな事を言うために通信してくるとは……この学園には本当に珍しいやつが多い。

 

 そして入れ替わりでまた織斑先生と話すが何処か様子がおかしい。先ほどとは別の、これまた見た事もない織斑先生だった。

 

 《……わ、私からも一つ言わせてくれ》

「……何ですか?」

 《な、何だ……その……》

 

 やはりおかしい。モゴモゴと口を動かしてらしくない。どうかしたんだろうか。

 

 《その……あ、ありがとう……》

「――――えっ」

 

 ――――何かツンデレきた。

 

 照れたように消え入るような声で頬を赤くしながら言うのは破壊力抜群の一言。普段のこの人を知っている分、より凄まじいものがあった。思わず固まってしまった俺を誰が責められようか。

 

 《っ、時間がない。さっさとやるぞ!!》

 

 柄にもない事を言ったと自覚しているのか織斑先生は大声で誤魔化した。

 

 《ミッション開始! 所属不明機三機を撃破する!》

 

 矢継ぎ早に放たれた言葉は先ほどの予期せぬ事態で緩んだ気を引き締めるには充分過ぎるもの。

 

 《まずは目の前の二機からだ。セオリー通り、弱っている方から確実に数を減らせ!》

「……了解」

 

 量子格納領域から槍を二本取り出すと左手の槍を敵ISへと向けた。

 

「……すまない、さっきの一発だけは嘘になった。降参すれば――――」

 

 俺の言葉は最後まで続かなかった。二機ともがこちらへ突進してきたからだ。

 向こうの戦う意志は消えていない。ならばこちらも戦うまで。

 

「……超VIP待遇だ。さっきのやつ、ありったけ打ち込んでやる」

 

 負けられないんだ。なるべく気を付けるが、多少の怪我は覚悟してくれ。


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