IS学園での物語 作:トッポの人
「諦めていた。妥協するしかないと思っていた。だがそこに櫻井春人、お前が現れたんだ」
溢れる喜びを隠そうともせず手を拡げてゆっくり、ゆっくりとこちらに話し掛けながら三号は歩み寄ってきた。その気になれば一足で距離を詰められるだろうに一歩ずつ踏み締めながらやって来る。
「見ていく内に、知っていく内に、もしかしたらという期待とどうせという諦めの二つがごちゃ混ぜになっていた……」
「こんのぉっ!!」
苛立ちを含む声と共にまずは鈴が行動した。震えるほどの恐怖をどうにか抑えて。
浮遊部位の装甲がスライドし、ハイパーセンサーにも見えない砲身が形成され、『衝撃砲』が牙を剥く。
「でも今日、お前と会って分かったよ」
「足も止められないの……!?」
だがそれでも止まらない。絶え間なく砲撃は続き、命中した音はすれど、何事もなかったかのように三号は歩みを続ける。遅くなる事も、早くなる事もなく、ただ一定の速度で。
当然だ。アリーナのシールドを破るビームでさえ、あいつには通用しなかったんだから。もしかしたら何かされてるという意識さえないのかもしれない。
「最高だ……! 諦めなくて正解だった!」
「……逃げろ。あいつの狙いは俺だから二人は大丈夫のはずだ」
織斑と未だ攻撃を続ける鈴に逃げるように促す。織斑先生からの許可は出ているし、俺以外は完全に眼中にないようだから何の問題もなく逃げ切れるはずだ。
俺のその発言に織斑が目の前にハイパーセンサーがあるにも関わらず、態々こちらを向いてきた。
「……一応聞くけど春人はどうすんだ?」
「…………逃げ切れるようなやつだったら良かったんだがな」
リミット解除しても逃げ切れはしない。それに、たとえ逃げても何処までも追ってくるだろう。ひたすら俺を求めて。
かといって戦って勝てるかと言われても勝てる気もしない。押しても引いてもダメな状況だ。
ならばせめて、織斑先生に頼まれた二人を助けるって事くらいはやっておかなくては。
「……心配するな。時間稼ぎくらいは出来る」
右手に『葵・改』を呼び出して構える。一分以内に二機を撃破して、残った一機を少しでも得意な武器で戦うって計画が無駄になったな。
悪いミコト。この負け戦、最後まで付き合ってくれるか?
『ん? まぁ私は春人のパートナーだからいいんだけど、横見てみたら?』
へ?
呑気に考えていたら不意に横に引き寄せられた。三号ではない。あいつはまだ前方をのんびり歩いてきている。では誰か?
「ふざけんなよ……!」
犯人は織斑だった。
これだけ怒りを露にするのは強くなる方法を訊いてきたあの時以来か。いや、顔だけでなく行動にまで出ている時点でそれ以上かもしれない。
「あの時、友達や大切な人を見捨てるのが一番弱い考えだって、それに逆らえって言ったのはお前だろ! 俺にとってお前もその一人なんだよ!!」
「…………織斑」
「見捨てないからな……! 俺は絶対見捨てないからな!!」
言いたい事を言ったからか、掴んでいた手を離すと織斑は三号へと向かっていった。強く握り締めた『雪片』と共に。
すると今度は入れ替わりで鈴が俺のところまで下がってくる。キッと向けられた視線も向けられる言葉もやはり怒りを孕んだもの。
「あんた、次もそんな事言ってみなさい。ひっぱたくわよ」
「……鈴も逃げないのか」
「何言ってんの。当たり前でしょ」
当たり前、か……。
そんな二人からの言葉を噛み締めながら意識を前へと向ければ織斑が三号に肉薄し、刀を振りかぶっていた。
「っらぁ!! なっ!?」
「邪魔だな」
「う、おおっ!?」
気合い一閃、充分な加速と共に振られた一撃はその腕を掴まれる事であっさりと止められると、力任せにやって来た方向へと投げ返された。
「織斑っ!」
「い、いででで! 腕がもげる!」
本当に真っ直ぐこちらへ飛ばされたので俺も織斑の腕を掴むと、これ以上下がらないように無理矢理引き寄せる。
一機の出力で負けるなら、二機でとやってみたが何とか上手くいった。織斑が悲鳴をあげていたが、この際贅沢は言ってられない。
「助かったけどさ、ああいう時って普通抱き止めるもんじゃないか!?」
「……悪いが男を抱き止める趣味はない」
「お、おおお俺だってねぇよ!」
……えっ、うん、えっ。冗談で言ったら何か予想外の反応が返ってきたんだけど。
何でそんなにどもったの? 何でそんなに顔赤いの?
『どうやら
嘘だろ承太郎……。
「ほら、アホやってないでさっさと構えなさい!」
「お、おう!」
「……ああ」
鈴に諭されて、俺を中心に左右を織斑と鈴が固める陣形を取る。狙われてるのが俺だからどちらからもサポートしやすいようにとの考えだろう。
三人揃って武器を構えると、何をした訳でもないのに三号の足が初めて止まった。
「ふんっ。向かってくる気か」
「はっ! あんたも春人と同じで寝惚けた事言うのね」
「五月蝿い女だ。たしかその機体……中国だったな。それと――――」
まずは鈴を指差し、その後ゆっくりと織斑の方へ動かすと途端に様子が変わった。
「――――ちっ、雑魚か」
「何をぅ!?」
「……落ち着け、織斑」
「あんなやっすい挑発に乗らないでよ?」
「む、むぐぐぐ……!」
まるで歌うように語りかけていたのに、織斑を見た瞬間一気に不機嫌になった。その憂さを晴らすように向けられた悪態は何とも安いもの。あからさまな挑発だった。
まぁ言われた本人は引っ掛かりそうになったけど。
織斑にだけやたら敵対心を向けている? さっき突撃して邪魔をしたからか?
いや、それなら鈴も攻撃して邪魔してたから鈴にもそうなるはず。だが鈴に対しては気にしてないようだ。二人は何が違う?
「お前らに構ってる暇はないんだよ。用があるのは櫻井春人だけだ。中国と雑魚は失せろ」
「悪いけど、敵の言う事を素直に聞くほど良い子じゃないのよね」
「右に同じく! あと織斑一夏だ!」
「言っても分からない馬鹿の相手がこんなにも面倒だとはな……」
俺が思考に耽っている間、三人で盛り上がっていく。考えを纏めるにはちょうど良い時間稼ぎだったが、次の言葉で強制的に意識を戻された。
「仕方ない。もう少し分かりやすく教えてやる。実演も踏まえて……なっ!」
『来るっ!』
「っ!!」
瞬間、ぞくりと背筋に走った寒気に従って自然と身体は動こうとしていた。目には土煙をあげてこちらへ近付く三号が映るが間に合わない。
「ぐあっ!!」
「「……えっ?」」
悲鳴を聞いて二人が思わず顔を向けると、そこには俺の代わりに三号が拳を振り抜いたままの姿。
俺はと言うと三号が振り抜いた拳によって後方へと吹き飛ばされていた。
「? 何だ、反応が鈍いな。お前なら制限があってもちゃんと防御出来るはずだろ?」
「ちっ……!」
「まぁいい。その内慣れる」
織斑と鈴の二人に挟まれているというのに三号は気にせず俺へと話し掛けてくる。
分かってはいたが、どうやら俺はやたら買い被られてるらしい。勘弁してくれ。こっちは震えてそれどころではないというのに。
「中国と雑魚」
「「っ!!」」
今度は一切顔を向けず、横にいる二人へ話し掛ける。顔はおろか、意識さえ向けていない。ただ二人へ言葉を放っているようだった。
「今の見えたか? 見えたとしても反応出来なかっただろ。櫻井春人はちゃんと見えていたし、反応もしていたぞ?」
二人は何も返さない。それを肯定と受け取った三号は再び歩を進める。真っ直ぐ俺へと向かって。
「これだけやっても分からない可能性もあるからはっきりと言ってやる」
そうして漸く二人へ意識を向けた。
「向かってくるなら殺す。邪魔をするなら殺す。分かったらとっとと失せろ」
強烈な殺意と共に。
先ほどまで二人とも抑え込んでいたはずの恐怖が震えという形で再度噴出した。
こうなれば誰だって逃げたいと思う。目の前に人を容易く殺せるような存在がいるんだから無理もない。
「きゃあああ!?」
「っつう!!」
「織斑、鈴!」
「馬鹿共が」
だがそれでも二人は立ち向かった。背を向けた三号へと。結果は掴んだ『双天牙月』を鈴ごと振り回して織斑諸とも迎撃されたが。
迎撃した二人を三号は不思議なものを見るように話始めた。
「頭だけでなく、目と耳も悪いのか? 俺が何をやったのか分からなかったのか?」
「うるせぇな……! 嫌ってほど分かってるよ……!」
「なら何故向かってきた」
刀を杖代わりに立ち上がりながら織斑は決して目を逸らさず、その訳を口にした。
「お前の狙いは春人かもしれないけど、それだけで終わらせるって保証はねぇだろ……!」
「……っ!」
「ほう」
「だったら逃げるより、三人で持ちこたえて増援が来るのを待った方がよっぽど現実的だ……!」
織斑の言葉にはっとした。三号も感心したかのように眺める。
言われてみればその通りだ。こいつが俺をどうにかして大人しく帰る保証なんて何処にもない。こいつへの恐怖心でどうにかしていたようだ。
「そんなつもりは欠片もなかったが……なるほど、俺に勝てるかどうかは別として一理ある。どうやら馬鹿ではないらしい」
「――――へへっ。つってもこの理由は本当に今さっき思い付いたもんだけどな」
「は?」
「あ?」
俺と三号の間抜けな声が重なる。
「足りねぇよ……! 俺に春人を置いて逃げさせたいなら、そんな理由じゃ全っ然っ! 足りねぇんだよ!」
「――――前言撤回。やっぱりお前は馬鹿だ」
そうかもしれないな。俺もそう思う。
「二人とも下がれ!!」
「っ! あいよ!」
「オッケー!」
『私の出番!』
「ん?」
だがその馬鹿のおかげでこうして反撃出来る機会を得られたのは事実だ。このチャンス、無駄にはしない。
言葉と共に目配せすると、織斑は僅かに頷き鈴を伴ってその場を離れる。同時に展開した『ヴァーダント』から上空へ一斉に三十二本全ての太刀を射出した。
ミコト、同時複数制御だ。やれるな!?
『お任せ!』
「風に乗りて歩むものよ!」
「これは……たしか更識楯無に使ったものか」
風に乗った太刀は三号を包囲してから突貫。周囲全てを刃で埋め尽くされても微動だにせず、ただぼんやりと眺めている。
余裕だな……直ぐに焦らせてやるよ!
「受けろ、大花火!!」
翳した左手と言葉に従い、全ての太刀が爆破。一本だけでもやり過ぎと思えるような爆発が三十二回も起きた。でもこいつに関してはやり過ぎとは思えない。
「ははっ! 遠慮なくやったな!」
爆炎の中から笑い声と共に三号が現れた。相変わらずダメージなんてありそうにもない。変わったところなんて土埃で少し汚れたぐらいだ。
『解析終了。予想通りだね』
そうだな。外れてほしかったもんだが。やっぱり俺ではダメらしい。
でも……。
「でぃぃぃやぁぁぁっ!!」
「何っ!?」
でも織斑ならどうだ?
爆炎に紛れて雄叫びと共に織斑が『零落白夜』を発動させて突撃。
これだけ派手に爆発させたのも織斑という本命を誤魔化すため。確かにあれで倒せたらという考えもなかった訳じゃないが、保険は掛けておくものだ。
「ふんっ!!」
「がはっ!?」
だが、三号が勢い良く突き出した右手から衝撃波で織斑が撃ち落とされた。いつかの夜に試しにやったシェルブリット・バーストと似たようなものか。
「一夏、大丈夫!?」
「げほっ、ごほっ! わ、わりぃ、せっかくのチャンスだってのに……!」
「……いいや、ナイスだ」
「へっ?」
駆け寄った俺の言葉に気の抜けた声で返事をする織斑。どういう事かと訊ねる前にやって来た銃弾とレーザーの音に掻き消された。
「お待たせしました! 皆さんご無事ですか!?」
「あれで最後……!」
「最後に相当厄介なのが残ったみたいねぇ。一切効いてないみたいだし」
そこへ更に避難誘導していたセシリアと簪に加えて、更識会長もやって来た。
代表候補生三人に、国家代表一人。そこに俺と織斑が加わってその全員が専用機持ち。
「イギリスに日本の。そして更識楯無もか」
「あら、私だけ名前で呼ぶだなんて……もしかして私のファン?」
「一応覚えているだけだ」
「残念。ならおねーさんの本気で虜にしてあげるわ」
「はっ、期待はしないでおくが……やってみせろ」
たった一機を相手に過剰とも言える戦力と相対しているにも関わらず、三号の余裕は揺るがない。更識会長と軽口を叩いているところからも余裕かありありと見える。
簡単に言って、この状況でも勝てる自信があるからだろう。
しかし、何となくだがこちらも勝ち筋は見えた。とても細くて、少しでも間違えたら消えてしまいそうなものだがそれでも確かに見えたんだ。
だがその前に……。
「……ちっ」
震える手を一瞥し、舌打ち一つ。まずはこの恐怖をどうにかしなければならない。
次で無人機襲来ラストにします。
年内に投稿したいですね。