IS学園での物語   作:トッポの人

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猛者が多過ぎて怖いです。


第3話

 何か新しい机を手に意気揚々と教室に戻ったらクラス代表決定戦とかいうのに参加する事になっていた。

 織斑先生がそれはそれは楽しそうに教えてくれたのが印象的で。それに対して俺はただそうですか、と答えるしか出来なかった訳で。正直に言わせて欲しい。

 

 ――――訳が分からないよ。こんなの絶対おかしいよ。

 

 しかも相手はあの代表候補生のオルコットともう一人の男子である織斑とらしい。

 代表候補生と一般男子二人……新手のいじめなのかと疑いたくなる。一般人が専用機持ちの代表候補生に勝てる訳ないだろう、どう考えても。

 恐らく教室を出る前に聞かれた織斑先生の話はこれだったのだろう。適当に返事した結果がこれである。あたしってほんと馬鹿。

 

「うわっ、来た」

「あ、あれが噂の……!」

「目付きこわっ」

 

 さて、食堂に到着したのだがここでも俺は間違った方向で人気らしい。食券買って列に並んだ瞬間、モーゼの如く道が開かれたからだ。

 

 人の顔見てうわっ、とか言うのやめろ。マジで傷付くから。顔の話はやめろって。

 

 出来上がった道をのそのそと歩いていく。一歩進む度に俺に関するよろしくない噂が耳に入ってくるのは気にしない。

 これが横入りだとは分かっているが、俺がいると上手く回らないという事も分かっている。さっさと食事を受け取ってこの場を去るとしよう。

 

「…………」

「…………?」

 

 そうして混んでいる列をスルーして食券をおばちゃんに手渡した時だった。

 何かやたらとジロジロ見られてる。頭の先から足の先まで。おはようからお休みまで。うん、何か違うな。

 

「なんだい、あんた一人で食べるのかい?」

「…………ええ」

 

 唐突に言葉のボディブローがおばちゃんから放たれた。もうなんか、辛い。ひたすらに辛い。俺じゃなければ泣いていた。

 

 違うし。ぼっちじゃないし。ただ孤高なだけだ。孤狼でもいいけど。

 

「そんな元気ないから友達も出来ないんだよ! これ食べて元気出しな!」

「……ありがとうございます」

 

 渡されたのは漫画みたいに盛られた山盛りのご飯と多めの定食。ていうか俺だけお椀じゃなくて丼の時点で色々おかしい。

 いっぱい食べればその分元気になるだろうという寸法のようだ。そんなんで元気になるんだったら苦労はしてないが、この好意はありがたく受け取ろう。

 

「な、なぁ」

 

 辺りを見渡すとすこぶる良さげな場所を発見した。人気が少なく、周囲にも気付かれにくい、なんて素敵なんだ。俺が孤高に生きていくための重要なスポットに違いない。そうと決まればこそこそ作戦です。

 

「あ、あれ? おーい」

 

 僕、櫻井春人。幸せ探して約十六年。あそこで一人ご飯を食べたら幸せだろうなー。

 はぁー……し、あ、わ――――

 

「おーい!」

「……ん?」

「うおぅ!?」

 

 せ?

 

 物凄く近くで騒いでるのがいるから何だろうと振り向けば、やたら狼狽えている男がいた。

 

 織斑一夏、世界で初の男性IS操縦者。更には世界最強である織斑先生の弟との事。そして爽やかイケメン。何だこいつ、主人公要素が多過ぎてどうしていいか分からん。

 

「う、うるさかったのは悪かったけど、そんなに睨まないでくれよ」

「……これは生まれつきだ」

「そ、そうなのか。良かった……」

 

 どうやら振り向いた時に目付きが相当悪かったらしく、怒っていると勘違いしているらしい。

 最早お決まりとなりつつある定番の台詞を言うと織斑は一安心したように強張っていた顔を綻ばせた。

 

「……で、何の用だ」

「ああ、一緒に飯食べようぜ!」

 

 眩しいばかりの笑みと共にサムズアップ。

 やはりイケメンがやると絵になるな。妬ましい、爆発しろ。

 だがいいだろう。俺としても仲良くするのは吝かではない。態々嫌われるなんて事をする気もないからな。

 

「……別に構わない」

「そうかっ! じゃあこっちだ!」

 

 既に席は確保してあるようで織斑は早足で先へ行くと、満面の笑みを浮かべてこっちに来いと手を振ってくる。大勢いる食堂の中で。

 

 おい、やめろ。変に注目浴びてるだろ。何て事をしてくれたんだ。せっかくのこそこそ作戦が哀れ失敗に。

 とにかく織斑のアレを止めるためにも早く行くとしよう。

 

「さ、座ってくれ」

「……失礼する」

「う、うむ」

 

 織斑が待ち受けるテーブルに着くと俺と織斑以外にももう一人いた。長い黒髪をポニーテールにした少女はそわそわと何処かぎこちない様子でいる。

 

 誰なのかと内心首を傾げているとそれに気付いたのか、織斑がああ、と短く声を漏らした。

 

「こいつは篠ノ之箒。俺の幼馴染なんだ」

「そ、その箒でいい」

「……分かった、俺も春人でいい」

「俺は一夏でいいぞ!」

 

 暗い表情で箒はおそるおそるそう言い、対照的に織斑は底抜けに明るく言ってくる。

 

 天然っぽい織斑は放置しといて、何故にこの箒という少女はこんなにもビクビクしているのだろうか。そんな俺の疑問を解くべく、織斑が代わりに口を開いた。

 

 クエスチョン、何故箒は怯えているのか?

 

「箒、春人は別に怒ってないぞ?」

「えっ、そうなのか? てっきり怒っているものだと」

「…………これは生まれつきだ。気にするな」

 

 アンサー、俺の目付きが悪いから。

 

 くそっ、どうなってんだ。どれだけ悪いんだよ。俺は目で殺せる感じなのか。ランチャーのサーヴァントなのか。でじこなのか。

 それにしても今日だけで同じような言葉何回言われるんだろう。その度に俺の心が抉られていく。私は悲しい。(ポロロン)

 

 まぁ俺の傷心はいつもの事なのでさっさとこの飯を食べるとしよう。

 

「何故春人だけそんなに多いのだ?」

「……サービスらしい」

「へー、食べきれるのか?」

「……出された以上は食べるだけだ」

 

 食事を取ろうとすると二人からの質問攻めに遭う。こいつらからしても俺は珍獣のようだ。

 それはさておき、正直な話こんなに話し掛けられた事ないから食べていいタイミングが分からん。

 

「あー……クラス代表決定戦とかどうするかなぁー」

「全く、何の考えもなしにやるとか言うからだ」

「いや、だって春人がやるって言った手前、俺だけ引き下がる訳には行かないだろ?」

「それはそうだが……」

「…………」

 

 やがて話は自然と一週間後に行われるクラス代表決定戦へと。当事者二人もいればこの話題になっても仕方ないだろう。

 俺は漸く来た食事の時間に今だと頬張る。気分は餌を前にして待てを言われていた犬だ。量も量だし、焦るように箸を進めていく。

 

 しかし、織斑の言葉の通りなら二人はどうも勘違いしているらしい。ただ話聞いてなかっただけなんだけど。そもそもやるって言ってないし。まぁ訂正するのも面倒だから放っておこう。いいか、俺は面倒が嫌いなんだ。

 

「やっぱりやるからには勝ちに行くだろ。な、春人?」

「……ん」

「ふふふ、一夏は変わってないな……」

 

 箒は織斑の言葉を聞くと嬉しそうに微笑む。懐かしむように、少し遠い目をしている彼女の目には在りし日の二人の思い出が見えているのかもしれない。

 

 ていうかさっきから気付いていたけど、箒は織斑の事が好きなようだ。初見の俺が気付いたくらいだから相当分かりやすいのだが、どうにも織斑本人は分かっていない。こいつ、鈍感系主人公か。

 

 二人は幼馴染だと言っていた。更に言うなら、どうにもこの学園で再会したらしい。運命的やん。もう主人公確定やん。こんな美人が幼馴染とかギャルゲーの主人公か。

 いや、もっと言うと女性だらけの学園に入れた時点でエロゲーだな。

 …………そこだけ見れば俺もだった。でも何か俺は違う気がするぜ。ちくせう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに再会した一夏との食事はとても楽しいものだった。今まで一人だった事からすれば誰かと食べる食事はこんなにも美味しいものかと気付かされる。それが想い人なら尚更、という事らしい。

 

「そうだ。箒、久し振りに俺に剣道教えてくれないか? 全国でも優勝した腕前、見せてくれよ。春人も一緒にどうだ?」

 

 だが浮かれていた気分も何気ない一言で地に落とされる。

 切っ掛けは食事中の一夏の言葉だった。クラス代表を決める戦いに余程負けたくないのだろう。こいつは昔から負けず嫌いだった。

 

 私の家の道場に入門してきた時も私に負けてられないと良く突っ掛かってきたものだ。何度も勝負した。何度も何度も。

 

「い、一夏……私は、その……その、申し出はありがたいが……」

「? どうしたんだ、箒?」

「いや、その……」

 

 そんな幼馴染の変わらぬ一面を見て喜ぶ一方で私は恐怖していた。

 一夏は何も知らないのだ。全国優勝したという事は知っていた。だから全く知らないのもおかしな話なのだが、それでも何も知らない。

 

 ――――私が暴力で優勝した事を。とてもじゃないが褒められたものではない。

 そんな私が剣を教える。あの真っ直ぐで綺麗だった一夏の剣を汚してしまう。

 恐らく剣道なんてやった事がない無垢な春人も汚してしまう。私の暴力の剣で。

 

 そう思うと怖かった。汚してしまうだけじゃない、私に愛想を尽かされるのではないかと思うと怖かった。想像するだけで震えが止まらない。

 

「わ、私は……」

「箒?」

 

 私は手にしていた箸を置くと、震える手をぎゅっと握り締めた。多くの人を暴力で傷付けた私のこの手は自分が傷付くのを何よりも恐れている。身勝手な人間だ。都合のいい女だ。

 

 その時、ふと春人と目が合った。相変わらず鋭い目付きだが、何処か心配そうに見ているのは私の気のせいではないだろう。

 都合のいい私は無意識の内に心配してくれている春人に助けを求めていたのかもしれない。

 

「……悪いが俺は断る」

「な、何でだよ!? 勝ちたくないのか!?」

 

 私の不安に応えるように安心しろ、と優しく目で語り掛けてくると春人はそう言った。

 それに黙ってないのが一夏だ。女尊男卑を嫌う一夏にとって今の回答は納得行くはずがない。何かをする前から既に女性に屈したと考えたからだ。

 

 でも、本当は違う。春人は私に気を使ってくれたのだ。でなければあの安心しろと言った目は嘘になる。

 

「……やった事もないものをやったとしても付け焼き刃にしかならん」

「う、うぅん……そう言われればそうかぁ」

「……こっちはこっちで勝手にやる。お前は自分の心配だけしてろ」

「分かったよ。じゃあ箒、俺だけでもいいか? 頼むよ、この通り!」

 

 春人は適当な嘘を並べて一夏を納得させると、再度私に頼み込んできた。一夏に頼りにされていると思うと嬉しい反面、やはり恐ろしくもある。

 ちらりとまた春人を見ると再び目が合った。今度はやってみろと言っているようだ。一夏を信じてみろと。

 

「い、一夏……。わ、分かった。お前がそこまで言うのなら……」

「お、おお。サンキューな!」

 

 嬉しそうにしている一夏を見て思わず顔が緩む。そんな私を見て春人は静かに頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一夏……私は、その……その、申し出はありがたいが……」

「? どうしたんだ、箒?」

「いや、その……」

 

 なんと箒は剣道で全国優勝するほどの腕前を持っているとの事。

 今織斑がクラス代表決定戦で勝つために教えてくれと懇願してるところなのだが様子がおかしい。明るい表情から一転、どんよりと曇りだす。

 

「わ、私は……」

「箒?」

 

 箸を置くと震える手を抑え込むように両手で握り締めた。完全に何かに怯えている。織斑も気付いたらしく、首を傾げている。

 その時、ふと箒と視線が交差した。怯えきったその綺麗な瞳は今にも泣きそうにゆらゆらと揺らいでいて。

 

 ――――怯えてる原因どう見ても俺やんけ。

 

 ステイステイ。さっきまで比較的普通に話していたのに何故だ。何のスイッチが入ったんだ。随分ディレイしてやってきたな。このパターンは初めてだ。

 だが安心しろ箒よ。俺の答えは既に決まっている。

 

「……悪いが断る」

「な、何でだよ!? 勝ちたくないのか!?」

 

 俺の答えに納得出来ない織斑は両手をテーブルに叩き付け、勢い良く立ち上がった。

 するとただでさえ注目を浴びていた俺達に更なる視線の雨が降り注ぐ。

 

 おい、こら、やめろください。織斑のせいで変に注目浴びてて、辛いのが痛いになってるんだよ。こちとらダメージ負ってんだよ。

 

「……やった事もないものをやったとしても付け焼き刃にしかならん」

「う、うぅん……そう言われればそうかぁ」

 

 俺の言葉に一理あると思ったらしく、織斑はあっさりと引き下がる。この一週間でどうにか剣を振れるようにしろと言うのが無理な話を分かってくれたみたいだ。

 

 もっと言うと二人きりにしてやるからさっさとお前らくっ付けよという意味合いが含まれているのだが、鈍感の織斑には分かるまい。

 

「……こっちはこっちで勝手にやる。お前は自分の心配だけしてろ」

「分かったよ。じゃあ箒、俺だけでもいいか? 頼むよ、この通り!」

 

 頭を下げる織斑に対し、箒は再び俺の方を見た。まるで良いのかと聞いてきているような箒の瞳。その瞳をじっと見て俺も答えた。

 

 ええんやで。存分にイチャイチャしなさい。あとで爆発させるけど。

 

「い、一夏……。わ、分かった。お前がそこまで言うのなら……」

「お、おお。サンキューな!」

 

 笑顔を浮かべる織斑に釣られて箒も頬が緩んでいる。何とも微笑ましい。

 そして妬ましい。俺以外の唯一の男子がリア充とか何やねんそれ。こんだけ分かりやすいのに気付いてないの織斑だけだからね。百円渡すから殴らせて欲しい。

 

「……一足先に失礼する」

「えぇ!? もう食べたのか!?」

「あ、あれだけの量をか……」

 

 目の前で繰り広げられる幼馴染の会話を適当に聞き流し、さっさと完食させた俺。驚く織斑と箒を残して食堂を後にした。

 

 向かう先は人目に付きにくい外の木陰。そこで横になると空を見上げる。

 綺麗な青空、ぽつりぽつりと浮かぶ白い雲。俺の大好きなこの光景はいつ見ても飽きさせない。

 

「はるるん、お外でお昼寝するのー?」

「……そうだな」

 

 木陰の下で横になっている俺に布仏はすぐ傍まで近寄り、こちらを見下ろしてくる。名前は授業で先生達が言ってるので覚えた。

 木漏れ日の中でゆったりと微笑む彼女はそのまま近くに腰を下ろそうとしている。どうやらここに居座るつもりらしい。

 

「……汚れるからこれでも敷け」

「わぷっ」

 

 上半身だけ起こすと制服の上着を布仏に投げるも、上手く取れなかったために頭から制服の上着を被ってしまう。

 

「えへへ。ありがとう、はるるん」

「……ん」

 

 そんな事をされてもやはり笑顔の布仏。言われた通りに俺の上着を地面に敷くとそこに体育座り。抱えた膝に頭を乗せてじっと俺を見ている。

 

「…………何だ?」

 

 布仏、貴様見ているな!

 

「何で教室で寝ないのー?」

「……俺がいたら皆に悪いだろう」

「んー、そっか」

 

 俺が教室にいたら他の皆が警戒して休めない事くらい分かる。だったらいないほうがいいだろう。それと俺もこっちの方が楽ってのもあるし。

 

 答えると間延びした声で納得したと言う布仏だったが、未だ俺を見続けている。

 

「……今度は何だ?」

「はるるんは優しいね」

 

 唐突に言われたその言葉はからかっている感じでもなく、やたらと自信に満ちたものだった。

 

 優しいってそんなん言われたの初めてだし、よく分からんな。別にそんなつもりもなかったしな。

 

「……知らん」

「大丈夫だよ。今は皆怖がってるけど、すぐにはるるんが優しい人だって分かるよ」

 

 えぇー、本当にござるかぁ?

 それにしても布仏はストレートに感情をぶつけてくる。聞いてるこっちが恥ずかしい。

 


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