IS学園での物語   作:トッポの人

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偽りのC/悪いやつとお姫様


第34話

 現在、放課後のアリーナで俺は布仏先輩をオペレーターに装備の試験を行っていた。

 これはラファールを修理してくれた礼としてケーキ以外に何かないかと持ち掛けたところ、手伝ってくれた人達が装備の試験をしてほしいと言われたからだ。

 なんでも、奇抜過ぎて他の人だと断られる事もあるらしい。

 

「春人っ」

「……ん」

 

 呼ばれて声のする方へ振り向けば、観客席にいる簪、セシリア、箒が俺へにこやかに手を振っていた。箒はISを借りれなくて待機しているのだが、あとの二人は休憩中だ。

 たまに微妙な空気になる事があった簪、セシリア、箒の三人だったが、何があったのか今日のお昼から落ち着きを見せている。

 というよりは三人で仲良くしている事が多い。俺を挟んでだが。どうしてこうなった。

 少なくとも箒は一夏に振った方がいいんじゃないか?

 

 《櫻井くん、集中してっ》

 

 余計な事を考えているのがバレたらしく、布仏先輩からお叱りを受けてしまう。

 ただでさえISに触れて二ヶ月程度の素人が慣れてない武装を扱っているのだから当然だろう。

 

「……すみません」

 《いいけど本当に気を付けてね? もし怪我でもされたらお嬢様達が大変だから》

「…………気を付けます」

 

 言われてついこの間、大怪我した時の反応を思い出した。怒られるのはまだしも、泣かれるのだけは何としても避けたい。

 そう考えているとくすくすと笑い声が聞こえてくる。布仏先輩が眉を潜めて視線をその音源である悠木先輩達がいる後方へ。

 

 《……何かしら?》

 《はい、嘘ー》

 《嘘を吐きましたねぇー?》

 

 俺にはさっぱり分からなかったが、悠木先輩達には嘘を吐いていると分かるらしい。画面には映っていないが、あの人達がニヤついているのが目に浮かんだ。

 

 《な、何が嘘なのよ? 私は嘘なんか……》

 

 とは言うものの図星だったようで、布仏先輩の目が泳ぎ始めた。それはあまり事情が分かっていない俺でもこの返しが嘘なのだと分かってしまうほど。

 布仏先輩がどんな嘘を吐いたのか関係ない俺も気になってしまう。

 

 《だって櫻井くん怪我したら虚だって大変になっちゃうじゃない》

「…………俺、ですか?」

 《なっ、何を言って……!》

 

 速報、実は俺も関係あった件について。

 予期せぬ人物の登場に唖然としていると、視界に耳まで赤く染めている布仏先輩が必死に口を動かそうとしている間も攻める手は緩まない。

 

 《そーそー。襲撃された時も大慌てしてたのよー》

 《あんな虚初めて見たんだから。ねぇ?》

 《ゆ、悠木っ!!》

 《きゃー! 虚が怒ったー!》

 《あらら》

 

 一喝すると蜘蛛の子を散らすように悠木先輩達が去っていった。後に残るのは息を荒げる布仏先輩と現在扱っている装備の開発者のみ。

 興奮してまともに話せそうにない布仏先輩に代わり、開発者の藤尾先輩が話し掛けてきた。

 

 《さて、これまでの話を聞いて櫻井くんから何かある?》

「……迷惑掛けないようにします。布仏先輩のためにも」

 《ふぇっ!?》

 《ほっほーう?》

 

 そう返せば変な声を出して更に赤くなる布仏先輩と興味津々にこちらを見てくる藤尾先輩。その表情はにやにやと実に楽しげ。

 

 しかし、布仏先輩も俺と同じで泣かれるのが苦手とはなぁ。思わぬところに同士はいるものだ。

 

『春人くん? 今日は寝る前に反省会をしようか?』

 

 あっ、この口調のミコトちゃんはやべぇ。静かに怒ってる時のやつだ。な、何で?

 

 《うんうん、期待以上のものは聞けた。さぁさぁ次はその武器の感想を》

「…………そうですね」

 

 上機嫌の藤尾先輩に言われて右手に持っていた武器を一瞥した。

 普通の剣のような持ち手の先にはスパイクが付いた金属の球体。持ち手部分とはワイヤーで繋がっており、相手に投げ放つとワイヤーが延びて、何かに叩き付けると巻き戻るという仕組みだ。

 

「……威力は充分ですが、扱いが難しいです。慣れるのには相当な訓練が必要かと」

 

 これが使われないのは女性には良く思われない奇抜なデザインもそうだが、それ以上に扱いにくさもある。

 止まっている的にでさえ上手く当てられなかったのだ。高速で動くIS相手ともなれば、そう簡単に行くはずがない。

 

 《ああ、やっぱり? でもさぁ――――》

「……ん?」

 

 だがそれは製作者からすれば重々承知の話だったようで。それでももしも使われた場合を想像してか、まるで子供のように瞳をキラキラ輝かせ、興奮が冷めやらぬ声でこう続けた。

 

 《――――相手にぶつけたら、屈辱を与えられそうじゃない!?》

 《えっ》

 

 ――――あっ、やべぇこの人。発想がやべぇ。

 

『び、ビルドはちょっとマッドなところあるから……』

 

 ミコト曰くビルドこと藤尾流子先輩は凄く優秀らしいのだが、たまに色物を作りそれがあまりにもマッドなため、学園に認められていないとの事。

 

 《藤尾……あなた、もう少し普通のものを……》

 《でもこれ凄いでしょ!? 最高でしょ!? てんっさいでしょ!?》

 《そ、そうね》

 

 人に言えた義理じゃないけど、この人やべぇ。布仏先輩もドン引きしてるし。

 

 だが持っているこの名称不定のGNハンマーは置いといて、それ以外は結構俺的には良いものだったりする。

 例えば両腕に装着されている展開式のブレード。普段は折り畳まれているが、この状態でもトンファーのように使えるし、展開して腕部固定式のブレードとしても使える。

 

 まぁ少し大型だけど、どう見てもプロトGNソードなんだよね。全く、良いセンスしてるぜ。あげゃげゃげゃ。

 

『あけゃけゃけゃ』

 《はぁ……試験はこれで以上よ。お疲れ様》

「……いいんですか?」

 

 下らない事を考えていたら、少し疲れた様子の布仏先輩から溜め息と共に告げられる終了の知らせ。

 正直、まだ三つしか試験していない。最初の話では試したいのはいっぱいあるとの事だったが。

 

 《ええ、あまりこっちにばかり時間を取らせたら悪いもの》

「……ありがとうございます」

 《いえいえ、こちらこそ》

 

 通信の向こうでにこやかに応対してくれる姿は先ほど少し疲れた様子なんて微塵も感じさせない。出来る人は隠すのも上手いという事か。

 

 それにしてもこのままでは元の礼を返すどころか、加えて試験に付き合わせてしまったこの人に申し訳ない。何かないものか。

 その時、ふとここに来る前に一夏と話していた事を思い出した。

 

「……布仏先輩、今日の夜は空いてますか?」

 《えっ、な、何?》

 

 突然の質問に布仏先輩の顔が羞恥で赤く染まる。動揺して返事も少しどもり気味だ。

 

 やばい、聞き方がやばい。これは下手すればセクハラで訴えられても仕方ないレベル。早く弁解しなくては。

 

「そ、その、転校生の歓迎会をやるのでそのお誘いです」

 

 一夏が授業中も考えた結果、食堂の一画を借りて転校生二人の歓迎会をする事になっていた。基本的に参加するのは一組だけだが、他にも呼ぶのは自由だ。

 

 《あ、ああ……そういう事ね。大丈夫よ》

「……お待ちしています」

 《ええ、楽しみにしてるからっ》

 

 ちゃんと誤解は解けたようで、布仏先輩は最後に笑顔で言うと通信を終えた。最後に見せた笑顔はあの人にしては珍しく、無邪気なもの。笑った顔は姉妹だからか、布仏によく似ていた。

 

 しまった。企画してるの一夏だから俺に言ってもしょうがないんだけど。一夏に布仏先輩も楽しみにしてるって言っておくか。

 

『それは胸の中に仕舞っておく! それと春人が楽しませる事!』

 

 は、はい。頑張ります。

 

 ミコトから注意を受けている間に、観客席からセシリアがいなくなっていた。恐らく、試験が終わったのを察知してこちらに向かってきているのだろう。俺の事見すぎじゃないか?

 

『あっ、今確認するチャンスじゃない?』

 

 確認するとは足で斬る時の警告音だ。結構前から決まっていたようだが、ドタバタしていてそんな暇がなかった。

 

 おう、タイミング的にもちょうどいいから今やるか。どんなもんか俺も知っておきたいからな。

 

『じゃあ、実際にやってみよう!』

 

 言われて俺は右手に『葵・改』を取り出すと刀身を指先で三回叩く。すると刀身だけが量子化した。

 ここが重要だ。二回だと本気モードになるが、三回だと蹴りモードへ移行するのだ。

 

 《Hazard on!》

「お?」

「えっ?」

「ん?」

「っ!!」

「か、簪? 突然立ち上がってどうしたんだ?」

 

 アリーナに響き渡る機械音声は観客席にいた二人だけじゃなく、少し離れた場所にいた一夏とデュノア、鈴からの視線も集める。

 

 これが警告音……なの、か?

 

『ほら、続けて続けて!』

 

 疑問が残る中、その場に腰を落とす。そして柄だけとなった『葵・改』をくるりと半回転させ、蹴りモードによって展開された右足の装甲に差し込む。

 

 《Are you Ready?》

 

 するとまだ続きがあったらしく、再び機械音声が。もう気にしない。

 

「……さっさと終わらせる」

 《Ready Go!  Hazard Attack!》

 

 しかし、俺の思いとは裏腹に更に機械音声は続く。それにしても果たしてこの機械音声は分かりやすいのかと思いつつ、立ち上がっていよいよ上段回し蹴りを放とうとした瞬間。

 

 《ヤベーイ!!》

「「「えぇ……」」」

「……っ!!」

 

 最後の機械音声と共に、それを聞いた全員が唖然としたような声がアリーナに木霊する。ただ一人、興奮している簪を除いて。

 

 えっ、ヤベーイって言った。それまで英語だったのに明らかに日本語でヤベーイって言ったよ。わっかりやすぅい。

 

『むふー。そうでしょ、そうでしょっ』

 

 姿は見えないが、ミコトが腕を組んで得意気な顔しているのが目に浮かぶ。

 

「あんた、今の何よ……」

「……警告音だ」

 

 いつの間にか近くに来ていた鈴が力が抜けたような声で問い掛ける。その原因が警告音なのは言うまでもない。

 

「誰かそういう音声付ける人がいるんだ。」 「こ、個性的だね」

 

 続いてやってきた二人、特にデュノアの顔が引きつっていた。まぁ警告音なんて付けるのも珍しければ、あんな音声が出てくるとも思わないだろう。

 

「ミコトだろ? 確かにあれってやべぇけど、そのまんまはちょっと卑怯だろ」

『カッコいいでしょ?』

「…………相手が理解するのを重視したらしい」

「まぁ分かりやすいけどね……」

「? ミコトってそんな名前の人いたっけ……?」

 

 精一杯意訳すると一夏も鈴もある程度の理解はしてくれた。

 デュノアはミコトという聞き覚えのない名前に、必死に頭を働かせているようだ。これからの事を考えると早く言っておいた方がいいのかもしれない。

 

「おい」

 

 と、その時。上空から冷たい声が降り注いだ。

 見上げればもう一人の転校生が俺達を見下ろしていた。見下ろしているのは単純な位置の話だけじゃなく、代表候補生としての自分の地位からも。

 

「織斑一夏、私と戦え」

 

 えっ、いきなり理由もなく戦いを挑むとか、ボーデヴィッヒはバトルジャンキーか何かなの?

 

「嫌だ。理由がねぇよ」

「貴様にはなくても私にはある。貴様が誘拐などされなければ、教官がモンド・グロッソを二連覇出来たのは容易に想像出来る」

 

 そういえば織斑先生は二回目の世界大会で決勝戦まで行くも結局出ず、不戦敗となっていたがそんな裏があったとは知らなかった。

 当時は何故だと色んな憶測が飛び交ったが、分かってみれば何とも簡単な話だ。一夏を大切にしているあの人らしい。

 

「あんた馬鹿なんじゃない? そんなの一夏じゃなくて、誘拐したやつが悪いに決まってるでしょうが」

「だとしても足を引っ張ったのは事実だ。教官が二連覇出来なかったのもな」

「っ……!」

 

 見るにみかねて鈴が庇うも、一夏本人が迷惑を掛けたと思っているようで、ただ歯を食いしばって耐えている。見ていられなかった。

 

「……やめろ。ボーデヴィッヒ」

「貴様は黙っていろ、二闘流」

「ごふっ!?」

『春人ー!?』

 

 思いがけないカウンターに俺の少ないライフがゴリゴリと音を立てて削られる。

 最近になって付けられた名前の由来は俺が刀だったり、槍だったりをとにかく二つ使うところから来たらしい。

 

「…………何故、それを」

「トラブルがあった時に教官が私ではなく、お前に命令していたからな。お前の事、調べさせてもらった」

 

 何ていらない事調べてんだ、こいつは……!

 

「二闘流、お前が何を言おうと起こった事実は変わらない」

「…………そうだな。織斑先生にとって世界大会優勝より一夏が大切だっただけだ」

「……何?」

「春人……?」

 

 ボーデヴィッヒの言葉が一々俺の胸に突き刺さるが、今度は逆にボーデヴィッヒが面白くなさそうに眉をほんの少しだけ動かした。

 

「……大切なものは、大切にするのが当たり前だ。別におかしい話じゃない」

「それは捨てるべき弱さだ。私が目指すあの人には必要ない」

 

 なるほど、ボーデヴィッヒは世界最強である織斑先生が好きなのか。確かに一夏が関わると弱くなる一面もある。

 でもそれこそがあの人の強さだ。こいつはそれが分かっていない。

 

「……捨てるかどうかは織斑先生が判断する事だ。だが俺は捨てなくていいと思う」

「何故だ?」

「……さぁ、何故だろうな」

「織斑一夏が、弱者が弱さではないというのか……? そんなはずは……」

 

 余程理解し難い事なのか、ぶつぶつと小さく呟く。

 

「あら? 皆さんどうされたのですか?」

 

 そこへ何も知らないセシリアがグラウンドに入ったのを見た瞬間、ボーデヴィッヒの口がにやりと醜く歪んだ。

 片方だけ覗かせる眼光が物語る。

 

 獲物を見つけたと――――。

 

「なら弱者(それ)が弱さではないと私に証明して見せろ!!」

「「「っ!!」」」

「えっ?」

 

 突然砲口を向けられて唖然とするセシリア。瞬時に状況を理解して逃げろなんて言っても分かるはずがない。

 

「っ、ちぃっ!!」

「このっ!!」

「ふっ!」

「はははっ! そんな攻撃が私に通じると思ったか!」

 

 慌てて風を纏わせた槍を投擲するもあっさり片手で掴まれた。続けて鈴とデュノアが衝撃砲とライフルで攻撃するも見えない何かに阻まれてしまう。

 だがこれで僅かながら時間稼ぎにはなった。その間に急ぎセシリアの元へ。

 

「消えろ!」

「きゃっ!?」

「ぐっ!?」

 

 辿り着いて腕の中に引き寄せたと同時に覆うように展開した『ヴァーダント』に着弾。

 轟音と衝撃がISを通して伝わる中、身体に異変が起きる。自分の身体なのにセシリアを抱きしめたまま動かせない。

 

「な、んだ……!?」

「くっくっく、どうだ? まんまと網に引っ掛かった気分は?」

 

 言葉と共に笑みを深めるボーデヴィッヒの姿を見て確信した。この異変はこいつの仕業であると。

 しかし、これはまずい。

 

「あの、春人さん……?」

 

 何がまずいって今もセシリアを抱きしめたままなのがまずい。完全にセクハラです本当にありがとうございました。

 それにしても遠くにいる簪と箒を見るのが怖いのは何故だろう。

 

「セシリア……動けるならここから離れてくれないか?」

「は、春人さんは?」

「すまない……ボーデヴィッヒのせいで動けそうにない……!」

「……」

 

 えっ、何で考えてるの? ここ考える場面じゃないよ?

 

 と、必死に態とではないと状況を説明するとセシリアは何故か動かずにその場で考え始めた。

 漸く口を開いたかと思えば――――

 

「わ、わたくしも動けませんわー」

 

 ――――酷い棒読みで衝撃の事実を明かしてきた。

 ハイパーセンサーに映る観客席にいる二人が立ち上がったのが見えたのは気のせいだと思いたい。

 

「そ、そうなのか?」

「ええ、ええ、そうなんです。これはラウラさんのせいですわ。ですからこうしているのは仕方ないのです」

 

 後方でボーデヴィッヒが狙いを定めている緊急事態が拡がっているにも関わらず落ち着いているように見える。

 内心頭を傾げているとこの事態にもう一人疑問に感じている人がいた。

 

「む、何故セシリア・オルコットも動けないのだ?」

「「「えっ」」」

 

 この事態の張本人であるボーデヴィッヒだった。

 再度立ち向かおうとした一夏や鈴、デュノアの足が停止。ボーデヴィッヒに向けられていた視線がこちらへと。

 

「私の停止結界はIS相手では一機を止めるので精一杯なのだが」

「……らしいが」

「え、えっと……それは……」

 

 二人掛かりの問い掛けにセシリアの伏せがちの目が露骨に泳ぎ始める。

 

「き、きっと、こうして二機が重なっているせいでしょう。接触しているISも影響されるみたいですわ」

「むぅ、そうなのか……。確かに二機が接触した状態での実験はやった事がないな。あとで報告せねば」

「……そうだったのか」

『ピュアッピュアやぞ』

 

 どうしようもないというのは分かった。しかし、直ぐ背後でいつ撃たれるか分からないのはどうにかしたいところ。

 

『ミコトちゃんにお任せっ!』

 

 えっ、どうすんの?

 

『さっき投げた槍にまだ風が残ってるでしょ? あれを使うのです』

 

 見てみるとボーデヴィッヒが未だに持っている槍は不可視のままだ。しかし、あれだけの風でどうにか出来る相手じゃないはず。

 

『この停止結界はハマれば凄いんだけど、集中力が大切なの。一瞬でも集中乱されると解除されるんだよ』

 

 おお、なるほど。じゃあ頼むぜ!

 

『任せて! ……ふぅ』

 

 こちらも集中力が必要なのか、少し間を置いて深呼吸。

 

『――――櫻井ミコトが風に問う。答えよ、其は何ぞ』

 

 あっ、違った。ただ決め声出すだけだったわ。

 

「っ!? 何だ、視界が!?」

 

 その言葉を紡いだ瞬間、槍に纏っていた風がボーデヴィッヒを覆い尽くし、その姿を隠してしまう。風王結界の全身バージョンだ。

 攻撃されても余裕を見せていたが、突然視界を奪われればさすがのボーデヴィッヒも動揺してしまうようだ。動かなかった身体が動かせるように。

 

 ていうかいつから櫻井の名字を?

 

『最初からだよ!』

 

 とりあえずセシリアを抱えたまま、その場を逃れると風が解けたボーデヴィッヒと睨み合い。俺がお望みみたいだ。

 

「小癪な……!」

「……セシリア、離れてろ」

「……嫌です」

 

 えぇ、動けるようになったのに何で!?

 

 と、動揺しているこちらを差し置いてセシリアの瞳は揺るがず、真っ直ぐ俺を見ていた。

 

「約束しました。あなたの傍にいると」

「……またさっきみたいな怖い目に遭うぞ?」

「あなたが傍にいてくださるのなら、わたくしに怖いものなどありません」

 

 そんな約束した覚えないんだけど……。ま、まぁいいか。

 

『お久し振りです。櫻井様』

 

 幾ら言っても離れそうにないセシリアに触れているとイケボの執事こと、セバスチャンの声。

 

 おお、久し振りだな。いきなりどうした?

 

『はい、お嬢様が最高の状態になるためにお願いがありまして……』

 

 待って、めっちゃ嫌な予感がする。

 

 そしてその予感は当たっていた。全くもって俺的には解せないが、とにかくやってみる事に。

 

「…………セシリア、すまん」

 

 一言謝ってから右腕の装甲だけ部分的に解除すると、素手でセシリアの細い腰を抱き寄せた。女性の柔らかさがこれでもかと触覚を刺激させる。

 

「は、春人さん!? これは一体……!?」

「……ブルー・ティアーズ曰く、これが一番良いらしい。嫌なら――――」

 

 嫌ならやめると言う前にセシリアも両腕の装甲を部分解除し、俺の胸板にそっと置いてしなだれ掛かってきた。

 

「これで行きましょう!」

「…………そうか」

 

 セシリア、相変わらず君のやる気スイッチが何処にあるのか分からないよ。

 

「二人纏めてか? いいぞ、私を今までの代表候補生と同じと思うなよ」

 

 こちらが二人で挑もうとしているのにも関わらず、ボーデヴィッヒの余裕は崩れない。

 実際僅かな攻防だったが、俺と鈴とデュノアの三人での攻撃も防いでいた。言うだけの事はある。

 だがそれでも。

 

「……大した事はないな」

「言ってくれるな。なら私の実力、その身に刻み付けてやろう!」

 

 そこまで言えば今度は今回相方となったセシリアへ。

 

「……機動と近接は任せろ」

「射撃はお任せください!」

「……分かった。第伍拾戦術」

 《Dual up!》

 

 役割を簡単に話してから、左手でポーズを取って半分までリミット解除。機械音声が戦闘開始の合図となった。

 

 それにしても……何で俺は美少女を抱き寄せた状態で代表候補生と戦おうとしているんだろう?

 

 




本来はない台詞の組み合わせですが、とりあえずヤベーイって言わせたかった。

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