IS学園での物語   作:トッポの人

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第35話

 俺が第伍拾戦術を使ったのに合わせて、ボーデヴィッヒが突撃してきた。その両腕に輝くレーザーブレードを展開させて。

 こちらも後ろへ飛びながら、展開した『ヴァーダント』から取り出した太刀を左手に持つと、襲い掛かるレーザーブレードを迎撃。

 

「足手纏いを抱えてとは苦労してるな!」

 

 鍔迫り合いの最中、ボーデヴィッヒがにやりと笑みを浮かべて挑発してきた。一瞬だけ送った視線を見るに、足手纏いとはセシリアの事らしい。

 

 そんな事を言われれば普段ならセシリアも怒っていただろう。だが今日は一味も二味も違った。

 腕の中にいる彼女は俺の鎖骨に頭を預けたまま、ふふんと不敵に笑ったかと思えば、自信たっぷりにこう返す。

 

「あら、ご存知ないのですね。わたくしと春人さんが組めば敵はいないという事を」

『むーてーきー!』

「そうだったのか……!」

 

 いや、俺も知らなかったんですけど……。

 

 明かされた事実に驚きつつ、ボーデヴィッヒの猛攻を凌いでいく。朝から織斑先生とやっていた訓練の成果がこんなところで実を結ぶとは。

 

「しかし――――」

「むっ」

 

 こちらが繰り出した唐竹を右に避ける。そのまま回り込んで、セシリアを抱えている右側へと。

 

「これでもそう言えるか!?」

 

 放たれた突きの軌道はセシリアの背中へ。

 俺の右手は未だに彼女の腰を抱き寄せているし、彼女自身も俺の腰と胸元に手を置いているからどうにか出来るはずもない。かといってそちらに振り返る時間もなかった。

 

「ちっ、盾か!」

「お姫様を守るのには必要だろう?」

「まぁ、春人さんったら」

「「…………」」

 

 だから『ヴァーダント』のバインダーでセシリアごと右側を覆う。これだけくっついていれば何とかカバー出来る。

 

 しかし、やべぇ。今の一言であっちのおひいさん達がめっちゃ怒ってはる。俺の第六感が危険だって訴えてる。どうしよう。

 

『逆に考えるんだ。一人にやったら怒られるって事は、皆にやればセーフだって』

 

 セーフになる自信がないんですがそれは。

 

「今度はわたくしですわね」

 

 ボーデヴィッヒの方へ向き直るついでに、バインダーで振り払うと少し距離が出来た。

 そのままバインダーを折り畳めば、隠れていたセシリアの右手が胸元から離れて銃を象る。

 流し目でターゲットを確認すれば、銃口が明後日の方向へ向いたまま引き金が引かれた。

 

「ばぁんっ」

 

 すると最初の鍔迫り合いの時に切り離されていた『ブルーティアーズ』が引き金に合わせてレーザーを飛ばす。真っ直ぐ、ボーデヴィッヒへ向かって。

 

「気付いてないとでも、何っ!?」

「こちらもご存知ないのですね」

 

 そんなものは最初からお見通しだと回避するボーデヴィッヒへ四本のレーザーが直撃。エネルギーを削り、余裕の表情が驚愕に染まる。

 

「レーザーが、曲がるだと!?」

「わたくし、意外とお転婆ですのよ?」

 

 普通ならあり得ない事に動揺するボーデヴィッヒを差し置いて、セシリアはそう言うと手で象った銃を口に押し当ててウィンク。

 何というか、動作が非常に様になっている。密かに練習とかしてそうだ。

 

「くっ、ならば!!」

「っ!」

 

 ボーデヴィッヒが手を掲げると背筋にぞくりと冷たいものが走った。さっきの動けなくなった時に似ている。

 瞬間、考えるよりも早く身体が後ろへ下がるのを選択。遠くへ、こいつの手が届かない遠くへと。

 

「逃がすか!」

「……これで勘弁してくれ」

「そんなので足りるかぁ!!」

 

 それでも尚、レーザーを掻い潜って追い掛けてくるボーデヴィッヒに持っていた太刀を放り投げる。が、どうやらお気に召さなかったらしい。

 まぁ幾つもある内の一本なんて渡されてもありがたみは少ないか。仕方ない。

 

「バースト!」

「ぬ、ぐっ!?」

 

 拡げていた手を握ると共に太刀が目の前で爆発。ボーデヴィッヒが怯んでその進行を一時的に止める。

 その隙を逃すはずがない。

 

「決める……セシリア!」

 《Are you Ready?》

「はいっ!」

 

 先ほど試しに刀を入れたままの右足を繰り出すべく声を掛けるも、とても元気の良い返事が返ってくるだけ。

 

 違う違う。蹴りをやるからちょっと離れてって意味なんだけど。機械音声も鳴ってるんですけど。

 

『多分見てないから分からないと思うんですけど』

 

 そう来たか! ええい、このまま行くしかねぇ!

 

「すまん!」

「きゃあっ!?」

 《Ready Go!》

「何だ、この音声は?」

「えっ? えっ?」

 

 一言謝ってからセシリアの足を持ち上げてお姫様抱っこ状態に。聞こえてくる音声に困惑気味の二人。その隙にボーデヴィッヒへ瞬時加速も使用して突撃した。

 

『春人! 分かってると思うけど、私達の戦闘スタイルは!?』

 

 技名言ってからぶん殴る!

 

『そのとーりっ!!』

 《Hazard Attack!》

「っ、正面から!? 馬鹿か貴様は!」

「言われなくても分かってる!」

 

 右足で飛び後ろ回し蹴りをすべく、セシリアを抱えたまま振りかぶると、機械音声がその驚異を伝える。

 ボーデヴィッヒも俺達を迎撃すべく、遅れて肩の大口径のカノン砲を向けてきた。だがもう遅い。

 

 俺もミコトに言われて考えに考え抜いた名前を口にした。この右足で斬る、必殺技というべき技を。

 

「ブレード……キィック!!」

『ネーミングセンスぅぅぅ!!』

 《ヤベーイ!!》

「なっ!?」

「えぇ……」

 

 とっておきの名前が飛び出すとミコトの叫びが木霊する中、振りかぶった右足から刀身が出現すると一閃。

 煌めく銀線は放たれた砲弾ごと、ボーデヴィッヒのISが持つ大型のカノン砲を両断した。

 

「やってくれるな……!」

「……もう武装は壊した。ここまでにしよう」

「何っ!?」

 

 他にも武装はあるのは分かっている。だがこれだけやればもう充分だろう。何も本当に相手を倒すまでやる必要はない。整備に関しては素人同然だが、今の時点でも修理するのに相当な時間は掛かるはずだ。

 しかし、そんな簡単には済むはずもなく、ボーデヴィッヒが食い下がる。

 

「こんな負け同然で引き下がれるか!」

 《そこまでにしろ》

「っ!!?」

 

 アリーナに響く凛とした声。それを聞くだけでボーデヴィッヒが蛇に睨まれた蛙のように動かなくなってしまう。

 続いて現れた人物にボーデヴィッヒの判断は間違っていなかったのだと理解した。

 

「全く、連絡があって来てみれば……何をやっている」

「きょ、教官」

「……織斑先生」

「教官ではない。織斑先生と呼べ。それとさっさと降りてこい」

 

 打鉄の刀を携えて現れた織斑先生の指示に従い、アリーナのグラウンドまで降りると三人ともISを格納。

 

「この私闘の当事者は櫻井とオルコット、ボーデヴィッヒで間違いないな?」

「はっ!」

「はい」

「…………はい」

 

 せめてセシリアはと言う前に当人含めた他二人が返事。動揺してしまったため、俺だけ遅れてという形になった。

 

「では三人ともあとで職員室に来い。詳しい話と処分はそこで決める。異論はあるか?」

「「ありませんっ!」」

「……こちらもありません」

「では解散だ。もう面倒なのは起こすなよ」

 

 最後にそう締めくくり、簡易的な事情聴取は終わった。

 やはり無理していたのもあったのだろう、ボーデヴィッヒはそのまま大人しくアリーナを去っていく。

 

「櫻井、話がある。ちょっと来い」

「……分かりました」

 

 と、思いきや俺だけ織斑先生に呼ばれるはめに。くいっと首だけで来いと伝えてくるジェスチャーがやたらとカッコいい。

 男前な織斑先生に付いていって、皆から少し離れたところまで来ると漸く話が始まった。

 

 

「やれやれ。転校初日からこれとは先が思いやられるな」

「……すみません」

「どうせお前は巻き込まれた側だろう? 色男」

「…………俺は色男ではありませんよ」

「そう思ってるのはお前だけだ」

 

 腕を組んでくつくつと織斑先生は笑う。実に楽しげに。

 最近になってこの人もよく笑うようになった。ただ、その笑うのが主に俺関連なのが少し勘弁して欲しいところ。

 

「さて、話が逸れたな。本題は他でもない、デュノアの事だ」

 

 一頻り笑うとここに呼んだ理由が明かされた。確かに離れた方がいい話題だ。

 

 ちらりと視線をデュノアの方へ向ければ、落ち込んでいる一夏を慰めようと必死に話し掛けていた。その横で鈴がつまらなそうにしている。早くどうにかしないと。

 

「今は大人しくしているみたいだが、何かあったら私に報告しろ」

「…………何でもですか?」

「ああ、些細な事でもいい。今はまだ大きくは動かないだろうからな」

 

 確かに普通に考えれば転校初日に手を出そうとしない。だが一夏は少し違った。

 

「……いえ、午前中に更衣室で仕掛けてました」

「ほう、具体的には?」

「……着替えの時に強引に――――」

「はっ。余程我慢出来なかったと見えるな」

 

 言い終える前に何があったのか分かったらしく、吐き捨てるように呟いた。まるで敵に対するような発言だ。

 

 えぇ……この人、一夏の事大切じゃないの?

 

「本来なら生徒を守るのは私達の仕事なんだが、すまないな」

「……いえ、別に」

 

 そうは言うが、今回みたいに更衣室でやられたりしたらどうしようもないだろう。男性教員がいる訳でもないのだから確認も、監視もしようがない。

 

「私の気が済まないんだ。そうだな……何か考えておこう。楽しみにしておけよ」

「……はい」

 

 だからといって、しょうがないで済まさないのがこの人で。どうにかして俺に礼をするつもりらしい。何とも義理堅い人だ。

 しかし、柔らかい雰囲気もここまで。急に張り詰めた空気を纏った、いつもの織斑先生になった。

 

「ところで……最近お前が一夏と四階から飛び降りしていると聞いたが本当か?」

「…………」

「露骨に目を逸らすな」

 

 だって超怖いんだもん……。

 

「全く、一夏にあまり変な事を教えるな。ただでさえ最近は何処かの誰かに影響されて変な事をするようになったんだぞ」

「……以後、気を付けます」

 

 その何処かの誰かが誰なのかは知らないけど、とりあえず飛び降りるのはやめるようにしときます。

 

『って、思うじゃん?』

 

 いや、もうやらないからね。怒られちゃうから。

 

 そのやり取りを最後に織斑先生は戻っていった。今回の書類作成でこれから忙しくなるらしい。

 

「ごめん……」

「…………何がだ」

 

 とりあえず一夏達の元へ行くと開口一番、一夏から謝罪されてしまった。悔しさを精一杯滲ませた声で。

 

 いや、まじで何の話だ。ニュータイプの会話やめろ。

 

「俺の事で、お前が戦ったから……」

「……その事か」

 

 何をかと訊けば、やはり言い辛そうにその理由を口にした。

 

 なるほど、俺がボーデヴィッヒと戦った事を言ってるらしい。こいつといい、箒といい、気にしすぎだ。

 

「……別にお前は悪くないだろう。俺が売って、ボーデヴィッヒが買っただけだ」

「でもさ……」

 

 切っ掛けは一夏かもしれないが、結局は俺とボーデヴィッヒの問題だ。言い方は悪いが、一夏はもう関係ない。

 

 でもダメだ。織斑一夏という男も頑固だ。変に義理を通そうとする。そんな義務はないのに。

 

「……デュノア」

「何?」

「……向こうで俺の訓練に付き合ってくれないか?」

「えっ、いいの?」

 

 ちらりと一夏を見やってからデュノアは訊ねてきた。落ち込んでいる一夏を一人にしていいのか不安に思っているようだ。

 でもこっちも何も考えてない訳じゃない。

 

「…………鈴に任せよう」

「っ!?」

「鈴に? ふーん、へー……」

 

 俺が幾ら言っても無意味だ。なのでここは箒と鈴に慰めてもらうとしよう。落ち込んでいる主人公を慰めるのはヒロインの役目ってね。まずは近くにいる鈴からだ。

 俺がそう言うとやたらと焦っている鈴を見て、デュノアも何となく察したらしい。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 さすがにいきなり二人きりは焦るのか、鈴が詰め寄ってくる。

 

「……頑張れ。でないと箒に慰める役持ってかれるぞ」

「えっ、ああ……そうね」

 

 何で冷静になったんだ。そこは焦るところじゃないのか。

 

 さて、どちらにせよ影ながら箒を応援しているからここらで鈴も応援しないと釣り合いが取れない。

 

「……一つ、あいつの元気が出る作戦をやる」

「えっ、そんなのあるの?」

「……プライベートチャンネルで話そう」

 

 一夏は勿論、他の誰にも聞かれないようにプライベートチャンネルで概要を話す。こういうのは明かされた時に楽しかったりするものだ。

 

 作戦といってもそこまで大それたものではない。これまでの動作にただアクセントを付けるだけ。

 

 《……という事だ》

 《何かそれ……凄く馬鹿っぽくない?》

 

 概要を伝えた鈴の率直な感想だった。ころころ変わる表情でもそれを伝えてくる。

 

 《……大丈夫だ。これは鈴の活発なイメージを最大限活用したものだ》

 《それはいいけど……あんた、無表情でダブルサムズアップするのやめなさいよ》

 《…………すまない》

 

 すまない、そればっかりはどうしようもない。

 

 《ま、せっかく考えてくれたんだしやってみるわ》

 《……頑張れよ》

 《言われなくても》

 

 それを最後にプライベートチャンネルを閉じると、俺とセシリアとデュノアは二人から離れた。あとは遠目から二人の動向を見守るのみ。

 

「ほら、いつまでもしょぼくれてないでさっきの続きやるわよ」

「ああ……」

 

 言われて一夏はデュノアから借りていたライフルを構えた。しかし、やはり直ぐに気持ちを切り替えられるほど器用ではないらしく、酷く散漫なものだ。

 その証拠に先ほどまでは何回か捉えていたのに今は全く的に当てられていない。

 

「全然当たらないじゃない」

「うっ……ご、ごめん」

「ごちゃごちゃ余計な事考えてるからいけないのよ。私が手本見せるからちゃんと見ときなさい」

 

 そんな様子を見兼ねて鈴が遂に動き出した。作戦を実行するつもりらしい。見ているだけなのに思わず手に力が入る。

 

「い、行くわよ……」

「お、おう……?」

『わくわく、わくわく』

 

 緊張している鈴に一夏も何かおかしいと気付いたらしく、訝しんでその様子を見守る。

 

「ど……」

「ど?」

 

 鈴の一挙一動を見逃さないでいる一夏は躊躇って出た一言を鸚鵡のように繰り返す。

 そしてその時は来た。

 

「どかーん! どかーん!」

「――――」

 

 衝撃砲が放たれる度に聞こえてくる鈴の無邪気な掛け声。やると自ら言ったものの、やはり恥ずかしいらしく、頬を薄く染めていた。

 だがそれは少し見える輝く白い八重歯と合わさり、鈴の可愛らしさを一層際立てる。

 

 鈴の輝かしい姿を一夏は横で真顔になって見つめていた。声も出さずに、口を噤んで呆然と。

 

『完全にドラ・ザ・キッドやないですか』

 

 だって衝撃砲の話を聞いた時、それしか思い付かなかったんだもんよ。

 しかし、効果は高いはずなんだが……何故一夏は黙っているのか。

 

 と、思っていたら事態が急変した。突如白式が消えるように格納されて、その場に一夏が倒れ込んでしまったのだ。心臓を手で抑えるようにして。

 

「一夏!」

「一夏さん!?」

「えっ、一夏!?」

 

 一緒になって眺めていたセシリアとデュノアも倒れた一夏を心配して駆け寄る。

 

「ちょ、一夏!? 大丈夫!?」

「待って……待ってくれ……! ホント無理……! しんどい……!」

「えっ、えっ!? 何が!?」

『大変! このままだと一夏が尊さを抱いて溺死しちゃう!』

 

 くそ、しまった! 一夏には刺激が強すぎたか!

 

 慌てて一夏を保健室に連れていく事になり、結局その後の訓練も中止と相成った。

 それと鈴には違う作戦を与える事になった。もう少しマイルドなやつをね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、皆行くぞー! 乾杯!」

「「「かんぱーいっ!!」」」

『うぇーい!』

 

 夕食後、一夏の挨拶を皮切りに食堂の一画を借りて転校生二人の歓迎会が開かれた。一時は生死の境をさ迷っていたが無事復活出来たようだ。

 ちなみに二人と言ったが、ボーデヴィッヒは来ていない。きっぱりと断られてしまった。せっかく頑張って誘ったのに。

 

「……ふぅ」

 

 俺はと言うと、せっかくお呼ばれされたのだが、こういうのは初めてのため一人静かに隅っこで壁に寄り掛かっていた。偵察中と言ってもいい。

 

『私、盛り上げるためにいけないボーダーライン踊ります!』

 

 ああ、何か騒がしい時があると思ったらその練習してたのか。

 

『そうなのです! こんな事もあろうかと、衣装も用意してるのです! バッチリなのです!』

 

 でもミコトちゃん実体ないじゃないですか。

 

『ちくしょう! 私にボディがないからちくしょう!』

 

 そんな時、騒ぐミコト以外に俺の携帯が着信を伝えるべく鳴り響いた。

 

「……ん?」

 

 ここ最近は来なかった束さんかと思いきや、見知らぬ電話番号。俺の電話番号が色んな人に出回っている気がする。騒いでいる場から少し離れて電話に出る事に。

 

「……もしもし」

 《もしもし、こちらは櫻井春人の携帯でしょうか?》

 

 聞こえてきたのは少女の声。俺のダメ絶対音感が発動しない辺り、初対面らしい。

 それにしても何故フルネームなのかが気にかかる。

 

「……そうですが、あなたは?」

 《申し遅れました。私は束様の付き人をさせてもらっている、クロエ・クロニクルというものです。以後、お見知り置きを》

「……これはご丁寧にどうも」

 

 何とも丁寧な挨拶に電話越しだというのに頭を下げてしまった。

 聞けば束さんの付き人との事だが、あの人くらいになれば付き人の一人や二人なんておかしい話じゃない。

 そんな人から電話とは、もしや束さんに何かあったのだろうか?

 

 《今回はあなたに対して苦情の電話をさせてもらいました》

「…………苦情?」

 

 えぇ……初対面の人に苦情って何でぇ……?

 

 《束様はあなたと電話した後は長時間部屋の隅で体育座りしていじけています》

「…………はぁ」

 《いいですか? もっと束様を大切にしてください》

「…………大切にしないとどうなるんですか?」

 《そうですね……》

 

 意地悪な訳ではない。言ってくるのに対して色々聞きたい事はあったが、ふと嫌な予感が走り、それに従って疑問を口にしただけだ。

 電話の向こうでクロニクルさんは暫く黙ると口を開く。

 

 《恐らく世界を滅ぼすかと》

「えっ」

 

 待って、責任重大過ぎてどうしていいか分かんない……。

 

 《冗談です。ですが、たまにはあなたから電話してください。束様は何よりも喜ぶでしょう》

 

 喜んだ姿を想像してかクロニクルさんの声が暖かいものになる。

 ああ、この人は束さんをとても大切に思っているんだな。俺で良ければその思いに応えたい。

 

「……分かりました」

 《はい。では宜しくお願いします》

 

 クロニクルさんとの電話を切るとすかさず今度は束さんに電話。

 

 《は、はるくん!?》

「……こんばんわ、束さん」

 《うん……うんっ! こんばんわっ!》

 

 たったワンコールで応対した束さんの声はとても落ち込んでいると感じさせない、とても元気なものだった。話がちゃうやんけ。

 

 《は、はるくんから電話なんて珍しいね。どうしたの?》

「…………その」

 

 どうしよう。えっ、まじでどうしよう。他に理由なんて考えてなかったよ。

 きっとクロニクルさんが言ったからとかは言ってはいけないんだよな。どうすればいいんだ。

 

 《もしかして束さんの声が聞きたくなっちゃった!? もー、しょうがないなぁ――――》

「…………何で分かったんですか?」

 《はる、くん……は? へ……?》

 

 言い淀んでいた俺に提供してくれた理由をそのまま使うと、何故か束さんの言葉は失速していった。冗談とはいえ、本人が言ってきた展開のはずなのに。

 

「……元気そうで良かったです」

 《は、あ、う……》

「…………束さん?」

 

 やがて消え入りそうになる束さんへ呼び掛けると息を吹き返したように電話越しに叫んだ。

 

 《は、はるくんの女誑し!》

 

 何でやねん。

 

 とにもかくにも、元気そうな束さんと久し振りに会話する事に。基本的に聞き手で、俺から話す事はなかったが、束さんはとても楽しげにしていた。

 

 《あっ、はるくん。今日来た男女には気を付けてね》

『あっ、言っちゃった』

「……デュノアですか?」

 

 会話も終えようかと言う時だった。束さんが変な事を言い出してきた。察するにデュノアの事らしい。そしてミコトも知っているようだ。

 

 《うん。私もちゃんと見てるから! じゃあね!》

「…………お休みなさい」

 

 どういう事か聞く前に切られてしまった。

 ちらりと見ると今もデュノアはクラスメイトに囲まれて和気あいあいとしている。側にいる一夏と共に。

 鈴推しのホモ予備軍が近くにいる事以外は別段異常はない。至って平和な光景だ。

 

 うん。全然分からん。ミコトちゃん、教えて!

 

『いいけど、これは結構驚くかもしれないよ。だから……』

 

 だから、前置きもあってそれに続く言葉に固唾を飲んでいると、

 

『だからもし驚いたら『まじかよ、こいつは伝説級だぜ』って言ってね』

 

 身構えて損したと思わせる台詞が飛び出した。

 

 えっ、何でリアクション固定してきたの。

 ま、まぁいいや。にしても甘いぜミコトちゃん。俺がそんな簡単に驚くなんて――――

 

『デュノアは女の子だよ』

 

 ――――まじかよ、こいつは伝説級だぜ。

 




投稿した今日から三日間、TwitterでR指定のお話についてアンケート取ります。

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